認可経済事業者(AEO)制度を12年から導入−既存「認定企業」は移行が必要−

(メキシコ)

メキシコ発

2011年12月26日

国税庁(SAT)は12月15日、税関総局が認めた企業に対し、通関円滑化の恩典を与える新認定企業スキーム(NEEC)を2012年から導入すると発表した。現行の認定企業制度のように輸入額の大きさは問われないため、中小企業でも認可されるが、税務、通関、安全性の3分野でのコンプライアンスが認可条件となる。現行の認定企業が享受している恩恵の一部は今後NEEC認可企業専用となるため、認定企業が既存の恩恵を今後も維持するには、NEECによる認可に移行する必要がある。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<米国のC−TPATなど他国のAEO制度がモデル>
NEECは、米国の「C−TPAT(テロ行為防止のための税関・産業界パートナーシップ)」などをモデルとした認可経済事業者(AEO)制度で、08年に試験的プロジェクトとして考案した「安全な通商のための同盟(ACS)」(2008年7月9日記事参照)を本格的な制度として発足させたものだ。

SATのアルフレド・グティエレス長官は12月15日の記者会見で、「徴税」と「貿易円滑化」に加えて、国際的に現代の税関の大きな課題となっている「国の安全確保」の観点を考慮してNEECを導入したと語った。世界税関機構(WCO)の「フレームワーク・オブ・スタンダード(国際貿易の安全確保および円滑化のための基準の枠組み)」に準拠したAEO制度だとしている。

NEECの認可を受けた企業は、a.専用通関レーンの利用、b.通関手続きの円滑化、c.行政手続きの簡素化・円滑化、d.時間外通関・優先通関、e.開梱(かいこん)検査を伴わない機器(X線やガンマ線利用機器)を用いた貨物検査、などの恩典が与えられる。具体的な恩典については、11年12月15日付官報で公示された大蔵公債省決議により改定された「2011年の貿易に関する一般規則」の第3.8.7〜3.8.12則に規定されている。

<3分野のコンプライアンス、11項目の安全管理を義務付け>
NEECの認可を受けるためには、税務、通関、物流セキュリティーの3つの分野でコンプライアンスの徹底が認められなければならない。5年間の貿易事業実績が必要で、その期間の納税義務の履行や適正な通関手続きの履行が検査されるとともに、物流の安全性に関して以下の11項目のチェック項目をクリアする必要がある。

(1)サプライヤーチェーンにおける安全対策
(2)関連施設の安全性と安全対策
(3)関連施設へのアクセス管理
(4)取引相手の安全性・信頼性確保
(5)製造・流通プロセスにおける安全性
(6)通関手続きの適正な履行と管理
(7)輸送手段・コンテナの安全性
(8)従業員の安全性
(9)情報・書類の安全性
(10)物流セキュリティーに関する研修プログラム
(11)事故の管理と調査

この11のチェック項目については、申請者が「企業プロフィール」と呼ばれるフォーマット(添付資料参照)に各項目別の自己評価を記載し、所定のNEEC判定申請書に電子媒体で別添するかたちで、SAT税関総局の国際課(ACAI)に提出する必要がある。

企業プロフィールは合計48ページに及び、企業自らが記入したものをACAIがチェックし、必要に応じて裏付け資料を求めるとともに、現場査察も行う。ACAIは申請受理から原則として100営業日以内にNEECとして認可するかどうか判定する。ACAIの判定を受けた企業は、30営業日以内に税関総局の税関規則課(ACRA)に対して、年間登録料を納めた上でNEEC認可企業として正式な登録認可を申請する。ACRAは申請受理後、原則40営業日以内に認可登録を行う。認可の有効期間は1年間で、有効期限の1ヵ月前までに更新申請を行う。

<既存の認定企業の恩典を削減>
現行の税関法体系では、輸入額が3億ペソ(保税加工プログラムIMMEX登録企業は2億ペソ、1ペソ=約5.6円)を超える企業に対し、米国との陸路国境にある専用レーンでの通関をはじめ、さまざまな通関手続きの円滑化を図る認定企業制度(税関法100−A・B条)を導入している(2005年5月16日記事参照)

この制度は、原則として輸入額が大きい企業を信頼に値する企業と認定し、要件を満たす企業の税務と通関実務でのコンプライアンスが確認されれば、認定企業の登録が行われていた。今回のNEECによる企業認可は、税務と通関実務に加え、物流セキュリティーでのコンプライアンスを求める点が異なる。

SATのグティエレス長官は、従来の認定企業制度は貿易オペレーションの大きさを主な認定要件としており、中小企業を排除する制度だったと指摘。NEECは貿易額が小さくても物流セキュリティーが確保されている企業であれば認可を得られる制度だとし、中小企業でも利用可能な制度だと強調している。しかし、11のチェック項目について48ページにも及ぶ「企業プロフィール」を作成し、当局による書類審査や現場視察をクリアすることが実際に中小企業に可能かどうかは疑問だ。

SAT税関総局は現行認定企業制度を、将来的にNEECに完全移行させることを視野に入れている。12月15日付官報で公示された「2011年の貿易に関する一般規則の第4次改定」で、A〜Kまで11種類ある既存の認定企業登録要件(第3.8.1則)のうち4要件(C、I、J、K)を廃止し、3要件(E、G、H)については第3.8.1則で新たに「L」に分類したNEECの中の特別形態に変更した。これにより、E(IMMEX統括企業、注)、G(航空機産業)、H(特別な保税在庫管理データベースを導入した大企業)の要件で認定企業に登録された企業は、現行認可の有効期限までにNEEC認可を受ける必要がある。

また、NEECではない既存の認定企業の恩典は、今後は大きく減らされることになる。NEECに与えられる恩典は、実際はすべて既存の認定企業に与えられていたもので、今後それらの恩典をNEECに限定することで既存の認定企業からNEECへの移行を図り、物流セキュリティーを確保する狙いがあると思われる。

「11年の貿易に関する一般規則の第4次改定」で行われた認定企業に対する恩典の変更点を分析すると、既存の恩典が大きく削除されている一方、削除された恩典がNEEC専用として新たに規定されていることが分かる(表1、2参照)。

表111年の貿易に関する一般規則の改定による認定企業の恩典の変化
表2「認定企業」の既存恩典の扱い

<既存認可の期限切れまでにNEEC取得を>
既存の「認定企業」制度は今後も継続するが、NEECによる認定を受けないと今まで享受できた恩典が受けられなくなる。例えば、「専用通関レーンの利用」恩典がNEEC専用になるため、米国〜メキシコ間の陸路国境をまたいだオペレーションを行う輸出加工保税(マキラドーラ)企業に対して大きな影響が出ると思われる。

今後、既存の認定企業登録だけでは享受できなくなる代表的恩典としては、(1)専用通関レーン(Expres)の利用、(2)輸入申告書の部分的修正、(3)申告漏れや未申告の指摘を受けた際の修正申告、(4)滞留期限切れの一時輸入貨物の自主合法化、(5)V5オペレーションの実施、などが挙げられる。

(1)については、米国税関でC−TPAT認可を受けた企業が使える「FAST」レーンのメキシコ版である「Expres」レーンの利用可能企業は、今後はNEECの認可を受けた認定企業だけになる。(2)については、既存の認定企業は輸入申告書のデータの一部を税務当局による税務調査が入る前であれば修正できたが、原産国や輸入数量データの修正は今後NEEC認定企業でないとできなくなる。

(3)については、修正漏れや未申告を貨物検査や税務調査などで指摘された場合、認定企業であれば修正申告を出せば罰金を軽減することができたが、今後はNEECの認可が必要になる。(4)についても、IMMEX企業が一時輸入した部材が18ヵ月などの滞留期限切れになった場合、認定企業であれば輸入ステータスの変更手続きで罰金が軽減できたが、今後はNEEC認可企業だけに許されることになる。

(5)の「V5オペレーション」とは、外国企業から部材の無償支給を受け、当該部材や加工後の製品の所有権を持たないかたちで委託加工だけを行うIMMEX企業が製造した製品を、国内の第三者(購入者)にメキシコ国内で引き渡す際、通関手続き上はIMMEX企業が外国企業に製品を再輸出し、国内購入者(第三者)が外国居住者から製品を確定輸入したかたちにするオペレーションだ。IMMEX企業にとっては一時輸入した部材の輸入ステータスを変更する必要がなく、外国企業にとっては委託加工後の製品の所有権を国内IMMEX企業に移すことなく国内第三者に販売できるというメリットがある。このオペレーションもNEEC認可を受けた企業だけに認められる。

なお、既存の認定企業の恩典の中には、一部NEECに移行されることなく今回の改定で完全に削減された恩典もあるが、それらは現時点で既に実質的な意味合いを持たないものが多いため、影響は小さいと思われる。

一方、部材の一時輸入滞留期限(原則18ヵ月)の36ヵ月への延長や、HS72類の鋼材を一時輸入した際の滞留期間短縮(18ヵ月→9ヵ月)の適用除外、サービスIMMEX形態でも認定企業なら鋼材を扱えるという恩典(2011年1月11日記事4月6日記事参照)については、既存の認定企業制度で継続される。従って、一時輸入滞留期間の延長や鋼材を扱う目的だけのために認定企業登録するのであれば、NEEC認可でなくてもよいことになる。

NEEC導入に伴う認定企業制度の改定は12年1月2日から実施される。現時点で既存の認定企業認可を得ている企業については、当該認可の有効期限までは従来の恩典が継続される(「2011年の貿易に関する一般規則第4次改定決議」第7条)。現行認可の有効期限が過ぎてしまうと「EXPRES専用通関レーン」が使えなくなるなどの影響が出るため、従来の恩典の継続利用を望む企業は、早期にNEEC認可取得に着手する必要がある。

(注)同一の保税加工(IMMEX)プログラムの下に、1つの認定企業の製造オペレーションと1または複数の被統括企業の製造オペレーションが統括される形態。主に資本関係のあるグループ企業が1つのプログラム登録でIMMEXオペレーションを行う際に活用される。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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