マキラドーラ企業への新たな税務恩典を発表−福利厚生費などの損金算入幅が拡大−

(メキシコ)

中南米課

2014年01月07日

政府は2013年12月26日、「輸出向け製造業・マキラドーラ・サービス業に税務恩典を与える政令」を官報公示し、部品・原材料や機械設備などを外国居住者の所有として保税委託加工を行うマキラドーラ企業に対する新たな税務恩典を発表した。2013年秋に行われた税制改正に基づきマキラドーラ企業への従来の恩典が廃止されたため、輸出加工業の国際競争力が低下するとの懸念が高まっていた。今回の恩典はこの懸念に応えたかたちとなる。

<2013年秋の税制改正で従来の恩典は廃止>
今回の政令で税務恩典が与えられるのは、輸出向け製造業・マキラドーラ・サービス業振興プログラム(IMMEX)を活用している企業のうち、2013年12月11日付官報で公布された新所得税法の第181条が定める「マキラドーラオペレーション」を行う企業(以降、マキラ法人)だ。マキラドーラオペレーションとは、委託加工契約(マキラ契約)を結んだ外国居住者(一般的には親会社)から部品・原材料を支給され、製品の所有権も外国居住者が持つかたちで自らは委託加工のみを行い、委託加工のマージンを外国居住者に請求する業態。IMMEXプログラムを活用していても、一時輸入した部品・原材料を自らの所有とし、製品の所有権も自社が持つ形態で操業を行っているIMMEX企業は今回の税務恩典の対象外となる。

マキラドーラオペレーションでは外国居住者の所有権の下で生産活動が行われるが、所得税法第181条に基づき、国内に設立されたマキラ法人は外国居住者の恒久的施設(PE)とは見なされない。しかし、通常、外国居住者とマキラ法人の間の取引は関連会社間の取引であるため、移転価格税制の観点からも課税所得に一定の算出基準を持たせる必要がある。そのため、マキラ法人の委託加工マージン(課税所得)には、新所得税法第182条に規定される通称「セーフハーバー」か、連邦税通則法(CFF)第34−A条に基づく事前確認制度(APA)を用いて国税庁(SAT)との間で事前に合意された課税所得を適用しなければならない。

セーフハーバーとは、マキラドーラオペレーションに用いられる総資産(棚卸資産や固定資産)の6.9%か、メキシコ側の操業コストの6.5%のどちらか高い方をマキラ法人の課税所得として見なす方法のこと。

従来、マキラ法人には、2003年10月30日付官報公示政令に基づく税務恩典が与えられていたため、セーフハーバーなどの課税所得に2013年秋の税制改正で廃止された企業単一税(IETU)の税率17.5%が課税されていた。通常の法人税率の30%より低い税率だったため、実際に支払う法人税額は一般の企業より少なくなっていた(2011年10月18日記事参照)

しかし、2013年秋の税制改正でIETU自体が廃止され、マキラ法人に対する税務恩典も消滅した(2013年11月20日記事参照)

<個人所得税非課税部分の人件費の47%相当額を追加控除>
今回の税務恩典は、マキラ法人の課税所得(セーフハーバー、もしくはAPAで合意された額)から追加で費用控除を認めるというもの。控除額は、「マキラドーラオペレーションのために支払われたものであり、個人所得税の非課税報酬となっている人件費を2で割った額から、3%分を控除した額」(政令第1条I項)と規定されている。

人件費のうち、個人所得税の非課税報酬となっているのは、福利厚生費(残業代、貯蓄基金、食費補助、労働者利益分配金など。それぞれ一定の上限あり)や社会保険負担金などだ。マキラ法人はこれらの人件費の47%相当額を、セーフハーバーなどから追加で控除できることになる。

この47%という数字は、2013年秋の税制改正において個人所得税で非課税扱いとなっている人件費(報酬)の損金算入が認められなくなった割合だ。従来、福利厚生費や社会保険負担金は、一定の条件を満たせば全額損金算入することが可能だったが、税制改正により、個人所得税で非課税となっている報酬については損金算入が53%までに制限されることとなった(2013年11月20日記事参照)。つまり、今回の恩典は、マキラ法人については従来どおり100%まで当該人件費が損金算入できることを意味する。ただし、マキラ法人の課税所得は、委託加工収入から人件費などの経費を差し引くかたちで算出するのではなく、セーフハーバーなどを適用して計算するため、人件費の損金算入拡大が納税負担額に与える影響は一般の企業とは異なる。

<外国居住者と国内IMMEX企業間取引のキャッシュフロー負担を軽減>
今回の政令により導入された税務恩典はもう1つある。2013年秋の税制改正の影響を緩和するためのものだ。税制改正で付加価値税(IVA)法第9条IX項が改正され、2014年以降は、従来非課税だった外国居住者と国内IMMEX企業間の取引にIVAが課税されるようになる。この影響を緩和するのが狙いだ。

外国居住者は、マキラ法人を介してメキシコ国内にある商品を他の外国居住者や国内IMMEX企業に販売できる。例えば、外国居住者Aは、マキラ法人A’に委託加工させた中間製品を、外国居住者Bのマキラ法人B’を介して外国居住者Bに販売することが可能だ。この場合、外国居住者間の取引となるため、IVAは非課税だ(図1参照)。

図1マキラドーラ制度を利用した外国居住者間の取引

しかし、外国居住者Aがマキラ法人A’を介して国内IMMEX企業Xに中間製品を販売した場合、物流上・通関実務上はIMMEX企業間の商品の移転であっても、2014年1月以降はIVAが課税される(図2参照)。

図2外国居住者とIMMEX国内法人の取引

IVAは通常、商品価格の16%を売り手が買い手から回収し、自らが部材調達や光熱費で支払ったIVAを控除してSATに納める。しかし、外国居住者が売り手の場合、メキシコにおける納税者登録番号(RFC)がないため、SATに納税することができない。この場合、買い手であるメキシコ企業が国内でSATに源泉納税することになる。仕入れの際に支払ったIVAは売り上げの際に回収したIVAから控除できるが、源泉納税の場合はIVAの月次申告時に支払うため、IVA法第5条IV項に基づき、源泉納税した翌月以降に控除できる。ただし、支払ったIVAの方が回収したIVAよりも多い場合は、SATに対して翌月以降に還付請求することになる。

今回公布された政令の第3条は、外国居住者が国内IMMEX企業に商品を販売した際、国内IMMEX企業が源泉納税するIVAについて、当該源泉納税額と同額の税務クレジットを与え、当月のIVA月次納税額から控除することを可能にする。つまり、当該源泉税の申告は行うが、同額の税額控除が適用できるので、実質的な支払いは発生しない。これにより、IVA法第9条IX項改正による国内IMMEX企業へのキャッシュフロー負担(金利負担など)を軽減する効果がある。

なお、当該恩典は原則として2014年のみ有効で、2015年以降はSATに認定された企業にのみ税額控除が認められる(政令附則2条)。2015年以降は、2013年秋の税制改正に基づき、IMMEXプログラムなど一時輸入プログラムを用いて海外から部材や機械設備を一時輸入した場合でもIVAは原則支払うこととなる(2013年11月20日記事参照)が、SATに認定された企業については、改正IVA法第28−A条に基づき、同額の税額控除が認められるため、実質的にIVAは支払わなくてよい。

今回の政令公布により、2015年以降のIMMEX企業の一時輸入品に関するIVAの取り扱いが統一され、SATに認定された企業については、海外からの一時輸入であっても、国内における外国居住者所有の部材の購入であっても、IVAは実質的に支払わなくてもよいことになる。ただし、SATの認定基準については2013年12月末時点で明確になっておらず、2014年中に細則などで明らかにされるものとみられる。

<機械設備の外国居住者所有要件を明確化>
今回公示された政令では上記2つの恩典に加え、マキラドーラオペレーションを行う要件の1つである外国居住者による機械設備保有要件の明確化が定められている。新所得税法第181条第IV項はマキラドーラオペレーションの要件の1つとして、オペレーションに供する機械設備の30%以上がマキラ契約を締結している外国企業の所有でなければならないと定めているが、一方で2010年12月24日に改定されたIMMEX政令の第33条III項は、2009年12月31日の時点で同政令に基づいて認可されたプログラムによって操業していた企業で、旧所得税法の条件に従って義務を履行している場合には、機械設備の保有要件は適用されないと規定している。

法律と政令で矛盾する内容となっているため、今回の政令では、2009年末時点で旧所得税法上のマキラドーラオペレーションの要件を満たしていた企業は、2年以内(2015年12月末まで)に外国居住者が機械設備の30%以上を所有するという条件を達成しなければならないと定めた(政令第2条)。法的信頼性を高めることが目的(政令前文)としている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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