中央アジアのデジタル拠点を目指して(カザフスタン)
政府が改革主導

2026年1月22日

カザフスタンは、石油・天然ガスなどのエネルギー資源、鉱物資源に恵まれ、2024年の1人当たりGDPは1万4,005ドル(世界銀行)の高中所得国だ。エネルギーに頼らない産業の多角化が長年の課題になっている。

そこで、同国政府は近年、デジタル化に注力している。政府は、2017年に「デジタル・カザフスタン」プログラムを承認。以来、経済の主要分野でデジタル化、ICTインフラの整備、電子政府サービス、テックスタートアップ支援の環境整備などに力を入れてきた。現在は2029年までにGDPを4,500億ドルに倍増させることを目標にし、そのドライバーとしてデジタル戦略に注力。資源依存の経済から脱し中央アジアにおけるデジタル拠点としての地位を確立することをめざしている。

本レポートでは、政府のデジタル戦略とIT産業の発展状況を中心にカザフスタンのデジタル化の現状を追う。

ITサービス、輸出と国内市場ともに成長

カザフスタンの情報通信関連サービス輸出額は、2021年にウズベキスタンを上回り、中央アジア5カ国の中でトップになった。2021年の1億9,200万ドルから2024年には8億8,100万ドルへと、3年間で約4.5倍に成長した。

一方、1人当たりの所得がカザフスタンと同水準で日本のITアウトソーシング先の1つでもあるマレーシアの2024年の同輸出額は46億2,400万ドル。同国と比べると、カザフスタンの規模はまだ小さい。

図1:中央アジア各国の情報通信関連サービス輸出額(2011~2024年)
カザフスタンは2021年以降急増し2024年881。ウズベキスタンは2016年を底に上昇し2024年620。キルギスは2024年364と急伸。タジキスタンは通期で小さい値、2024年2。

注:トルクメニスタンのデータは不掲載。
出所:WTOのデータを基にジェトロ作成

他方で、国内需要の観点に目を向けると別の側面も浮かび上がる。

図2のグラフを見ると、2024年のカザフスタンのITサービス提供額約1兆7,435億2,000万テンゲ(4,881億9,000万円、1テンゲ=0.28円)のうち、国外向けの提供額は17.4%に過ぎない。提供額の77.9%を国内法人が占めている状況だ。

ウズベキスタンでは、2023年上半期のITパーク入居企業によるサービス提供額が5.4兆スム(4億5,000万ドル、1ドル=1万2,000スム)。そのうち、輸出は1億4,530万ドルで、約30%を占める。こうしてみると、(1)カザフスタンは国内産業が発達し、ITサービスの国内需要が十分にあること、(2)その需要が順調に伸長していること、を読み取れる。

図2:受益者別カザフスタンのITサービス提供額
2021~2024年のカザフスタンITサービス提供額(単位1,000億テンゲ)。総額は6.46→9.46→13.85→17.44と増加。受益者の割合は、国内法人が89.1%→82.1%→76.5%→77.9%で最大、国外は6.0%→13.9%→18.8%→17.4%と拡大後やや縮小。国内個人は5.0%→4.0%→4.7%→4.7%と、5%前後で安定。

注:グラフ上の数値は受益者別のシェア。
出所:カザフスタン統計庁のデータを基にジェトロ作成

カザフスタン国内のITサービスでは、イノベーションも起きている。例えば、カスピ(地場の有力フィンテック企業:オンライン決済、EC、デジタルバンキングなどのサービスを提供)は2025年12月、新しい決済システムのサービスを導入した。同システムは、スマートフォンやカードに代えて、手のひらを使って認証できるといった特長を有する。

民間部門の市場伸長とともに、デジタル化により市民の生活も変化しつつある。

デジタル本部が政府改革を推進

カザフスタン政府は、公共部門のデジタル化を急いでいる。2025年8月に「デジタル本部」を立ち上げた。同本部は、カシムジョマルト・トカエフ大統領の教書演説により設立された。運営は、オルジャス・ベクテノフ首相が主導する。公共サービスのデジタル化、IT産業・人工知能(AI)の発展、地域のインターネット接続強化を通して、デジタル改革推進に役割を果たしている。10月20日の首相公式発表によると、デジタル本部は政府機関による独自アプリ開発を禁止。行政サービスは「eGov」と国家メッセンジャー「Aitu」に集約する方針を示した。

国家AI戦略の下、施策展開

AIの活用は、世界的に進んでいる。この動きに対し、カザフスタンもAIの利活用の枠組み整備を急ぐ。具体的には、「2024~2029年のAI開発構想」の下、政府はAIエコシステム発展の基礎になる枠組み作りに注力している。

例えば、トカエフ大統領は11月17日、共和国法「人工知能について」に署名した。この法律により、AIシステムの所有者と保有者に、一定の義務(リスク管理、安全性・信頼性の確保、ユーザー支援)を課す。また、AIを用いて生成した商品・成果物・サービスに「AI利用」と表示することも義務付けた。そのほか、データ保護、セキュリティー原則など、AIシステム運用に関して基本原則を定め、ガイドラインを整備しつつある。

加えてAIの開発拠点化も目指す。10月には、中央アジア最大のIT展示会「デジタル・ブリッジ2025」を開催した。この展示会で、トカエフ大統領が国際AIセンター「Alem.ai」の設立を発表した。AI分野の人材を育成し、研究開発(R&D)や国際連携の拠点にしていく方針を示した。さらに、第2のスーパーコンピュータ・クラスターの設置計画を発表した。

こうして、高度なIT分野で、存在感を高めることを狙っている。

アスタナ・ハブがスタートアップ支援

政府はIT分野のスタートアップ企業支援にも乗り出している。

政府によるITスタートアップ支援機関「アスタナ・ハブ」(2019年9月19日付ビジネス短信参照)は、スタートアップ文化を醸成し、ハイテクプロジェクトを支援する活動を通じて、同国経済の強化を図っている。現在、登録企業は1,832社、うち465社が外資企業だ。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアからの企業流入が増加している。アスタナ・ハブの大きな魅力の1つは、入居企業に対する税制優遇措置だ。法人税、付加価値税、従業員の所得税などが、2028年末まで一律免除になる。ただし、入居企業は会費として、収益の1%をアスタナ・ハブに支払う必要がある。2019年~2024年のアスタナ・ハブ登録企業によるIT産業での収益合計は約29億ドル。政府は現在、当該施設で2029年までに100万人にAIスキル教育を施す方針を示している。


アスタナ・ハブが入居する建物群。球形建築がAlem.aiの建物(ジェトロ撮影)

インフラ普及が進む一方、5G整備は途上

国際電気通信連合(ITU)のデータによると、カザフスタンの世帯インターネット普及率(2024年)は97.1%。CIS諸国では、ウズベキスタンとほぼ同率で、最高水準だ。その一方、都市部と農村部の間でインターネット接続に格差が生じている。

政府は、国家プロジェクトとして100%のインターネット普及率と100Mbps超の速度を目指している。その一環として、農村部への光ファイバー網敷設に約6億7,000万ドルの投資を予定している。そのほか、2027年までに4万キロメートルの高速道路に4Gアクセスを整備する。

5Gについては、カザフテレコム(同国最大の通信事業者)が基地局の設置を進めている。「アスタナ・タイムズ」(2025年4月19日)によると、同社は2025年4月、3,000局を設置した。ちなみに日本では、2023年度末までに約26万局を設置済み。こうしてみると、同国での5G敷設はまだ途上にある。もっとも、カザフスタンは世界9位の国土面積を擁しながら、人口がアスタナ、アルマトイ、シムケントに集中している事情もある。

サイバーセキュリティーが課題

デジタル化の進展に伴い、サイバーセキュリティー面でのリスクも生じている。

デジタルメディア「タイムズ・オブ・セントラルアジア」(2025年5月2日)によると、カザフスタンでは2025年に入って、情報セキュリティー関連のインシデント(個人情報の流出など)が急増している。脅威に迅速に対応できるIT人材育成、企業による高度なソリューション導入、市民のデジタルリテラシー教育が求められている。

AIはじめITの高度化、そして伸長するIT市場の中でサイバーセキュリティーは今後の課題だ。こうした課題は、日本企業にとってビジネスチャンスになる可能性がある。

執筆者紹介
ジェトロ・タシケント事務所
竹内アイシェギュル(たけうち あいしぇぎゅる)
2023年、ジェトロ入構。本部ビジネス展開課にて国内外での投資フォーラム運営、モンゴル事業などを担当。2025年7月から現職。ウズベキスタンを中心とした中央アジア地域の事業運営や調査を担当。