万博跡地にスタートアップのエコシステム形成へ

(カザフスタン)

タシケント発

2019年09月19日

産業の多角化を進めるカザフスタンは、積極的にIT分野でのスタートアップ(新規事業)振興を進めている。その中心が首都ヌルスルタンにある「アスタナ・ハブ」だ。2018年11月に実質オープンし、約10カ月が経過した。現在のスタートアップの支援状況と、カザフスタンのスタートアップの現状について、「アスタナ・ハブ」執行役員のアディレット・ヌルゴジン氏に話を聞いた(9月10日)。

(問)「アスタナ・ハブ」の機能、特徴、入居するスタートアップの数などは。

(答)「アスタナ・ハブ」は、カザフスタン政府による経済・社会政策「デジタル・カザフスタン」に明記されたイノベーション分野の振興を行う機関。デジタル社会の基礎となるIT分野で、スタートアップを中心としたエコシステムを創設することが目的だ。「アスタナ・ハブ」はヌルスルタン市内の旧アスタナ万博(2017年)会場に所在している。敷地内には「アスタナ国際金融センター(AIFC)」、9月10日にスタートした「IT大学」、環境分野での国際協力を推進する「国際グリーンテクノロジー・投資センター」などがあり、エコシステムを形成する要素がそろう。カザフスタンの地方都市でもスタートアップ支援機関が増えつつあり、積極的に連携をとることで、「アスタナ・ハブ」に認められている税制優遇(注)を地方のスタートアップにも適用できるようにしたい。2年程度でエコシステムと「アスタナ・ハブ」のスタートアップの統一窓口的な機能を作り上げていきたい。

写真 アスタナ万博跡地は新産業創出に向けた機関が入居(ジェトロ撮影)

アスタナ万博跡地は新産業創出に向けた機関が入居(ジェトロ撮影)

(問)稼働開始から10カ月が経過した。入居するスタートアップの現状は。

(答)「アスタナ・ハブ」で提供する支援プログラムは、a.アクセラレーター(3カ月)、b.インキュベーター(12カ月)の2つ。現在の各プログラムに登録しているスタートアップはa.30社、b.100社。「アスタナ・ハブ」には150人が同時に利用できるコワーキングスペースがある。プレゼンテーションや商談スペースでは頻繁にイベントが開催されており、2019年だけで既に400イベントが開催され、1万2,000人が参加している。投資家とスタートアップをつなぐ「デモ・デー」を複数回開催しており、毎回15人から20人の投資家が参加する。10月には大規模な「インベスト・デー」の開催を予定している。開所以来、既に10億テンゲ(約2億8,000万円、1テンゲ=約0.28円)の資金を集めた。近隣諸国、ユーラシア経済連合(EEU)加盟国などのITパークなどとも積極的に交流し(2019年8月14日記事参照)、米国やドバイ、シンガポール、ヘルシンキなどでのピッチイベントやロードショーにカザフスタンのスタートアップを連れ、積極的に参加している。

写真 施設にはノキア、華為技術(ファーウェイ)などが入居、無料オフィスの対価としてスタートアップを支援(ジェトロ撮影)

施設にはノキア、華為技術(ファーウェイ)などが入居、無料オフィスの対価としてスタートアップを支援(ジェトロ撮影)

(問)今後の課題、日本との連携の可能性について。

(答)カザフスタンの課題は大きく3つある。a.スタートアップの数自体がまだ少ないこと、b.ベンチャー投資への理解がまだ十分でないこと、c.ITの知識自体が足りないことだ。現在、若者へのスタートアップに対する認識教育、ITプログラミング教育を開始している。「アスタナ・ハブ」によるスタートアップ振興の原点は国内の社会問題の解決で、必ずしも100%最新の技術である必要はない。日本の支援制度や経験にも関心がある。将来的に交流の機会があれば検討したい。

写真 ヌルゴジン氏(本人提供)

ヌルゴジン氏(本人提供)

(注)認定企業は付加価値税や個人所得税、法人税などが最大5年間免除される。外国人技術者を雇用する場合、簡易ビザ手続きが適用される。

(高橋淳)

(カザフスタン)

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