ダブルイレブン商戦から見た中国消費市場の今
AIの活用や情緒消費が活発に

2026年1月28日

中国では、経済の成長鈍化が続いている中、人々の将来への不安が高まっている。このような状況下で、高額商品の購入を控え、コストパフォーマンスを重視し、計画的な消費を心がける「理性消費」の風潮が広がっている(2025年1月10日付地域・分析レポート参照)。一方で、国内消費市場では、小売業者の間でプロモーションやディスカウントを多く利用して顧客を奪い合う過当競争が生じている。本稿では、中国最大のECイベント「双十一」(以下、ダブルイレブン)商戦(注1)の販売促進活動の結果から、直近の消費トレンドを分析する。

ダブルイレブン商戦によるEC売上拡大効果が弱まる傾向

中国国内の小売市場の成長鈍化が続いている。2025年1~9月期の社会消費品小売総額の伸び率は、前年同期比4.5%にとどまった。将来への不安から、高額商品の購入を控え、収入を貯蓄に回す割合を増やす保守的な消費行動が強まっている。中国人民銀行が四半期ごとに都市部の預金者を対象に実施した調査によると、7~9月期に「さらに多く消費したい」と回答した割合は全体の19.2%で、4~6月期比4.1ポイント低下した。また、「今後3カ月以内に消費支出を増やしたい」と回答した割合のうち(注2)、項目選択で「高額商品」と回答した割合が18.7%と、4~6月期比で2.4ポイント低下した。

政府は消費者マインドの改善と消費意欲の喚起を目的に、耐久消費財の買い替え補助金政策や税制優遇策など一連の消費促進策を講じた(2025年1月16日付ビジネス短信参照)。2025年の補助金対象は、自動車や一部の家電に加え、電子レンジや炊飯器などの生活家電、携帯電話などのデジタル製品、住宅リフォーム資材まで拡大された。

同政策の影響か、EC販売データ調査会社の星図数拠(Syntun)によると、2025年のダブルイレブン期間における総合ECプラットフォーム、クイックリテール、コミュニティー団体購入を合わせた流通取引総額は、前年同期比14.2%増の1兆6,950億元(約37兆2,900億円、1元=約22円)に達した(注3)。総合ECプラットフォームの流通取引総額に占める商品カテゴリ別の売上シェアでは、家電製品、スマホ・デジタル製品、アパレルが上位3位を占め、家具・建材は4.0%から5.9%へ拡大した(表1参照)。

表1:総合ECプラットフォームにおける流通取引額トップ10の商品カテゴリ別シェア(単位:%)注:2024年のデータは総合ECプラットフォームとライブコマースプラットフォームを合わせた流通取引総額を基数にシェアを算出した。
順位 カテゴリ 2025年 2024年(注)
1 家電製品 16.5 16.3
2 スマホ・デジタル製品 14.6 14.4
3 アパレル 14.0 14.1
4 化粧品 8.2 8.2
5 靴・かばん 6.5 6.5
6 家具・建材 5.9 4.0
7 食品・飲料 5.7 5.4
8 パソコン・オフィス用品 4.4 5.3
9 ベビー・玩具 3.8 3.7
10 スポーツ・アウトドア 3.6 3.6

注:2024年のデータは総合ECプラットフォームとライブコマースプラットフォームを合わせた流通取引総額を基数にシェアを算出した。
出所:星図数拠(Syntun)の発表を基にジェトロ作成

2025年のダブルイレブン商戦では、総合ECプラットフォーム各社が消費財の買い替え推進政策を活用しつつ、プロモーションやディスカウントを多用して顧客獲得競争を激化させた。中国国家統計局の発表によると、2025年1~11月期のインターネット小売額(注4)は前年同期比9.1%増となった。うち、実物商品のインターネット小売額は5.7%増で、伸び率は前年同期(6.8%増)を1.1ポイント下回った。

ダブルイレブンの期間が前年より長かったにもかかわらず、同期間の流通取引総額が前年同期比14.2%増にとどまったことから、インターネット小売額の拡大効果は前年を下回ったとの声もあがっている。国内ECシンクタンクの専門家である網経社電子商務研究センター所長の曹磊氏は次のように分析した。「今年は理性的な消費がトレンドとなっていることから、ますます多くの消費者がダブルイレブンを日常の大規模セールと変わらないと認識している。消費者はより理性的になり、『必要に応じて購入する』ことが『値下げ時の大量購入』に取って代わっている」(「網経社」11月12日)。

クイックリテールが急速に普及している

新型コロナ禍以降、人々の在宅時間が増え、「即時小売」(クイックリテール)と呼ばれるオンラインで非接触型の買い物サービスの利用が拡大している。飲食店のデリバリーサービスに加え、生鮮食品、日用品、医薬品など生活全般にわたる商品の実店舗からの宅配サービスの利用が広がっている。総合ECプラットフォームでは注文から配達まで通常1~2日を要するのに対し、クイックリテールでは最短30分以内で配送される。

商務部研究院電子商取引研究所が2025年11月25日に発表した「即時小売業界発展報告(2025)」によると、2024年の中国におけるクイックリテールの市場規模は7,810億元に達し、前年比で20.2%増加し、伸び幅は同期間のインターネット小売額全体の成長率を13.0ポイント上回った。

2025年に入り、生活サービス大手の美団傘下の「美団閃購」、京東グループ傘下の「京東秒送」、アリババグループ傘下の「淘宝閃購」の3社間の競争が激化している。京東は最初に「100億元補助金キャンペーン」を開始し、全ユーザーを対象に最大20元のデリバリー割引クーポンを配布した(「快科技」4月11日)。美団閃購は配達員の社会保険の加入を段階的に進めるほか、インテリジェント配車システム(注5)を強化して配送サービスの品質向上を試みた。「淘宝閃購」は、4月30日に淘宝アプリに導入され、消費者に対し飲食、日用品、電子製品、衣類など複数のカテゴリ商品に対する即時配送サービスを始めた。

3社間の競争はダブルイレブン期間中も継続した。各社は送料無料キャンペーンを実施するほか、取り扱い品目を拡大し、消費者に向けてより豊富で迅速なショッピング体験を提供した。ダブルイレブン期間中、「淘宝閃購」を利用した天猫ブランドのクイックリテールにおける1日平均注文数は、9月に比べて198%増加した。「美団閃購」は、10月31日~11月11日のセール期間における成約額と注文者数がともに過去最高となった(「第一財経」12月15日)。星図数拠によると、ダブルイレブン期間中のクイックリテールプラットフォームの流通取引総額は670億元に達し、前年同期比で約2.4倍となった。

既出の「即時小売業界発展報告(2025)」は第三者機関の調査などを基に若年層が即時小売の主要な顧客層であると分析している。上記のようなEC大手による戦略的なてこ入れの効果を受け、若い世代を中心に、買い物の「速さ」と「即時満足」を強く求める消費習慣が徐々に定着しているとみられる。


「美団閃購」の配達員(ジェトロ撮影)

「淘宝閃購」の配達員(ジェトロ撮影)

販促キャンペーンにAI技術を全面導入

2025年のダブルイレブンは、人工知能(AI)の本格的な活用が特徴として挙げられる(2025年11月25日付ビジネス短信参照)。各プラットフォームは複数のAI応用ツールを相次いで導入し、サプライチェーン、事業者、消費者の全プロセスにおけるスマート化を実現した。淘宝は「AI検索」「AI推薦」などのツールを提供し、ユーザーがあいまいな表現で商品を検索した場合でも、10秒以内に目当ての商品を提案することを可能にした。京東はAIアバター「JoyStreamer」を活用し、4万を超えるブランドの商品をライブ配信サービスで紹介したほか、AIロボットを活用して物流配送の効率化を実現している(「新華網」11月11日)。

AI技術の導入は、大規模プロモーションの効果向上につながり、消費者体験の最適化を実現している。Just So Soul研究所が発表した「2025 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」(注6)によると、約7割の若者がダブルイレブン商戦におけるAIツールのパフォーマンスを評価している。応用シーン別に見ると、AIによるスマートカスタマーサービス(30.0%)が最も人気で、次いでAIによるパーソナライズレコメンデーション(28.7%)、AIショッピングアシスタント(25.9%)が続く(表2参照)。満足度においても高い評価を得ており、調査対象の36.5%が「非常に満足しており、ショッピング体験が向上した」と回答し、32.6%が「比較的満足しているが改善の余地がある」としている。

表2:今年のダブルイレブンで体験したAIサービス
順位 理由 回答率(%)
1 AIによるスマートカスタマーサービス(迅速に問題を解決) 30.0
2 AIによるパーソナライズレコメンデーション 28.7
3 AIによるショッピングアシスタント(適切な商品を推薦) 25.9
4 生成AIによる商品展示と説明 23.0
5 AIアバターによるライブ配信 18.4
6 利用したことがない 32.2
7 その他 0.4

出所:Just So Soul研究所「2025 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」

AI技術はショッピングのあらゆる段階に深く浸透し、消費者はより便利でスマートな生活体験を追求できるようになった。

精神的満足や癒しを得るための「情緒消費」がより活発に

2024年から、「情緒消費」と呼ばれる、仕事や日常生活のストレス解消、喜びや自己満足といった感情的ニーズを満たす消費行動が流行している(2025年1月10日付地域・分析レポート参照)。2025年のダブルイレブンでは、若年層を中心に「情緒消費」がより活発化した。

既出の「2025 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」によると、2025年のZ世代のダブルイレブン参加率は93.1%で、2024年の90.6%から2.5ポイント上昇したという。また、Z世代の「情緒消費」の上位5分野は、「旅行関連消費」(36.9%)が首位で、次いで「会員制オンラインサービス」(33.1%)、「ゲーム課金」(31.6%)、「文創(文化クリエーティブ商品)・デザイナーズトイ」(31.3%)、「コンサート、ライブハウス、トークショー、芝居などのエンターテインメント関連」(31.0%)の順となった(表3参照)。2025年の調査では、2024年にはランク外だった「会員制オンラインサービス」の利用率が第2位にランクインした。

表3:Z世代の「情緒消費」の上位5つの分野(ーは値なし)
順位 項目 2025年
回答率 (%)
2024年
回答率 (%)
1 旅行関連(エアチケット、ホテル、旅行ツアーの予約)、アウトドア活動、ハイキング等 36.9 42.3
2 会員制などのオンラインサービス 33.1
3 ゲーム課金 31.6 38.9
4 文創(文化クリエイティブ商品)・デザイナーズトイ 31.3 27.7
5 コンサート、ライブハウス、トークショー、芝居などのエンターテインメント関係 31.0 29.6

出所:Just So Soul研究所「2025 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」

また、「昨年(2024年)と比較して、今年(2025年)のダブルイレブンでの出費はどのように変化するか」という質問に対し「昨年より増やす予定」と回答した割合は38.6%で、前年の35.5%から3.1ポイント上昇した。出費を増やしたい分野は次のとおりだ(表4参照)。衣料品、化粧品、家庭用品、3C製品(PC・通信機器・家電)などの主力カテゴリに加え、21.4%の人が「書籍・映像・音楽・知識有料講座などの文化関連消費」と回答した。さらに、「二次元およびその周辺グッズ、趣味関連商品」(14.8%)や、「コンサートチケット、旅行商品、リアル店舗での団体購入などのオフライン体験・エンターテインメントサービス」(14.0%)も、若者の重要な消費選択肢に含まれる。

表4:Z世代がダブルイレブン商戦で「出費を増やしたい」分野
順位 項目 回答率(%)
1 衣料品 45.7
2 家庭用品 40.8
3 化粧品 31.9
4 食品飲料 31.5
5 3C製品(PC・通信機器・家電) 27.9
6 書籍・映像・音楽・知識有料講座などの文化関連 21.4
7 家電製品 20.7
8 二次元およびその周辺グッズ、趣味関連商品 14.8
9 コンサートチケット、旅行商品、リアル店舗での団体購入などオフライン体験・エンターテインメントサービス 14.0
10 健康食品・フィットネス関連製品 13.6
11 ペット及びペット関連商品 13.4
12 会員などのオンラインサービス 13.0
13 ベビー・マタニティ商品 10.1
14 その他 1.9

出所:Just So Soul研究所「2025 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」

オンラインとオフライン双方で「文化消費」が活発

同報告書によると、Z世代はエンターテインメント、自己成長、体験型イベントの分野で積極的に支出する傾向を示している。

前述の表4に示された「書籍・映像・音楽・知識有料講座などの文化関連消費」や「会員制オンラインサービス」は、オンラインにおける「文化消費」の代表例だ。近年、抖音(Douyin)や快手(Kuaishou)に代表されるショート動画などのオンライン配信コンテンツが急速に普及している。スマートフォンで音楽番組や「ミニショートドラマ」を視聴するユーザーが増加。さらに、教育・職場・健康分野を対象とする知識講座などのコンテンツは、会員制モデルによる有料化が進展している。2024年中国の「オンライン視聴覚サービス」のユーザー数は10億9,100万人、うち「ミニショートドラマ」のユーザー数は6億6,200万人に達し、ネットユーザーにおける割合が59.7%となった(注7)

オフラインでは、旅行、コンサート、アニメ・漫画展等の体験型の「文化消費」も活発だ。上海市青少年研究センターは、若者の文化消費の新たな特徴を次のように分析している。若者は「悦己(自分を喜ばせる)」を象徴する芸能人やエンターテインメントに感情移入し、没入することで自己満足を得る。また、「圏層(コミュニティー)」を象徴する「二次元」の仮想世界で自身のアイデンティティーを構築する。さらに、文化施設や博物館を通じた体験型消費により、深みのある文化体験に強い関心を示している。

2025年には、各地で頻繁に文化・観光関連の促進イベントが開催されていた。上海市政府は7月から10月にかけて、「上海の夏」をテーマにした消費促進策を実施。アニメ・漫画・ゲーム関連の大規模見本市や、ナイトエコノミー(ビジネス・観光・文化・スポーツ・飲食を組み合わせたイベント)、コンサート、公演、国際的影響力のあるスポーツ試合など、計300を超えるイベントが開催された。ほかにもオンラインでイベントの入場券や消費クーポンの抽選キャンペーンを行い、劇場やコンサートの半券を持参した来場者には飲食店で割引を受けられるサービスを試験運用するなど、オンラインとオフラインの融合を通じて消費市場の活性化を促進した。上海市統計局によると、2025年8月の社会消費財小売総額は前年同期比13.0%増、商品の小売額は15.1%増となった。飲食業収入について、10月には前年同期比2.1%増となり、2025年に入って初めて単月でプラス成長となった。

消費市場の激しい変化に応じて速やかな対応が求められる

本稿では、ダブルイレブン商戦の販売促進活動の結果を基に、「理性消費」「即時小売」「AIの本格利用」「情緒消費」「文化消費」の動向を分析した。現在の中国の消費者はより理性的になり、商品のコストパフォーマンスを重視する傾向が強まっている。さらに、買い物の「速さ」やAIによる利便性など、サービス体験も重視するようになった。政府の消費振興策と流通企業の販促施策の後押しを受け、若年層を中心に「情緒消費」「文化消費」の需要拡大や、体験消費のオンラインとオフラインの融合など、消費需要の多様化と細分化が急速に進展している。

このように、中国の消費市場では急激な変化が生じている。今後は、国内消費市場の成長鈍化を打開するため、消費振興策が一層強化される見込みであり、競合企業間の競争も一層激化するだろう。

日系企業が中国市場でマーケティングを展開するにあたっては、政府の政策動向を把握し、消費者動向の変化を的確に捉え、新たな価値創出を意識して迅速に対応することが求められる。そのためには、経営判断のスピードアップと、現地人材の確保がより重要となるだろう。


注1:
中国の一大ECセールイベント。ダブルイレブンは11月11日を指す。アリババが2009年に「ネットショッピングを楽しむ日」として始めた。 本文に戻る
注2:
2025年7~9月期において、「今後3カ月以内に消費支出を増やしたい」と回答した割合のうち、何に支出したいかを選択する項目として、旅行(31.6%)、教育(31.5%)、医療保健(26.1%)、社交・文化・エンターテインメント(21.9%)、高額商品(18.7%)が挙げられた。 本文に戻る
注3:
2025年の調査対象は20以上のECプラットフォームで、合計で2,000以上の商品カテゴリ、9万種類以上のブランド、2,000万点以上の商品が含まれる。総合ECプラットフォームの代表例としては、天猫(Tmall)、京東(JD.com)、拼多多(PDD)、抖音(TikTok)、快手(Kuaishou)が挙げられる。クイックリテールの代表例は美団閃購、淘宝閃購、京東秒送。コミュニティー団体購入は、コミュニティーの住民が共同で、割引価格で購入するサービス。代表例として多多買菜、興盛優選がある。観測期間は2025年10月7日~11月11日で、2024年は10月14日~11月11日だった。 本文に戻る
注4:
インターネット上の小売額は、累月の数値のみが公表されている。 本文に戻る
注5:
インテリジェント配車システムはビッグデータに基づき、注文の分配、配送経路の最適化、自動運転技術を統合し、効率的かつ正確な即時配送サービスの実現を目的としている。 本文に戻る
注6:
Just So Soul研究所は、Z世代をターゲットとしたSNSアプリ「Soul」を運営する上海任意門科技が設立した研究所。SNSのビッグデータを基に若者の行動特性や意向について分析・研究する。同研究所は、2025年にSoulのユーザー2,770人に調査を実施し、「2025 Z世代ダブルイレブン消費行動レポート」を公表した。なお、過去には2021年、2023年、2024年にも同様の調査を実施した。 本文に戻る
注7:
中国インターネット情報センター(CNNIC)が2025年3月に発表した「中国インターネット視聴覚サービス発展研究報告書2025」による。「オンライン視聴・視覚サービス」とは、インターネットを通じて映像・音声番組を制作、編集、統合してから内容を提供すること、および他者が番組をアップロード・伝播する関連活動を提供することを指す。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
王 艶(おう えん)
日系コンサルティング会社で16年にわたり勤務し、日系企業中国法人向けに様々な支援サービスを提供。2019年から現職。