世界6位の排出国、脱炭素化を推進(インドネシア)
石炭火力から脱却へ

2026年3月25日

インドネシアは、世界6位の温室効果ガス排出国だ。石炭火力への高い依存を背景に、世界有数の温室効果ガス(GHG)排出国になっている。いきおい、脱炭素への対応が重要課題になる。政府はカーボンニュートラルの2050年達成を掲げ、エネルギー転換を加速する方針だ。

本稿では、移行燃料としての天然ガスや水素・アンモニアの活用、再生可能エネルギー(再エネ)導入拡大に向けた動きを整理する。あわせて、脱炭素化に向けた課題と今後の展望を概観する。

脱炭素目標を10年前倒し、2050年達成へ

世界資源研究所(WRI)が発表した2022年時点のデータによると、インドネシアは温室効果ガス排出量で世界第6位になっている(表1参照)。排出大国として、脱炭素の取り組み強化(石炭火力発電の段階的な廃止など)を進めている。

これは、国際社会が求めることでもある。プラボウォ・スビアント大統領は2024年11月、G20リオデジャネイロ・サミットで、脱炭素化に向けた方針を国際社会に向けて発信した。具体的には、バイオ燃料の利用拡大や、石炭火力発電から再エネへ段階的に転換していく取り組みを通じて、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を示した。この目標は、ジョコ・ウィドド前大統領が2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で表明した「2060年までのカーボンニュートラル」目標を10年早めるものだ。従来より一段と野心的な目標になる。

表1:2022年におけるGHG排出量トップ10ヵ国 注:MtCO2eとは、二酸化炭素(CO2)の排出量を炭素換算して、Mt(メガトン=100万トン)単位で表したもの。
No 国名 排出量(MtCO2e)
1 中国 12,851.84
2 米国 5,670.87
3 インド 3,805.03
4 ロシア 1,886.05
5 ブラジル 1,597.22
6 インドネシア 1,543.17
7 日本 1,068.05
8 イラン 990.34
9 サウジアラビア 793.61
10 カナダ 760.62

注:MtCO2eとは、二酸化炭素(CO2)の排出量を炭素換算して、Mt(メガトン=100万トン)単位で表したもの。
出所:世界資源研究所(WRI)のデータからジェトロ作成

電源構成と石炭火力発電所の早期退役への取り組み

国際エネルギー機関(IEA)によると、インドネシアの発電量は2023年、約433テラワット時(TWh)。2000年の約93TWhから、4.5倍以上に増加した(図1参照)。

電源としては、中でも石炭の役割が大きい。その産出量は、世界有数だ(2024年時点で約8.3億トン)。また2023年時点で、発電量全体の約7割を占めた(図2参照)。

図1:インドネシアの発電量推移
2000年は93 TWh、2001年は101 TWh、2002年は108 TWh、2003年は113 TWh、2004年は120 TWh、2005年は128 TWh、2006年は133 TWh、2007年は142 TWh、2008年は149 TWh、2009年は157 TWh、2010年は177 TWh、2011年は191 TWh、2012年は207 TWh、2013年は224 TWh、2014年は238 TWh、2015年は247 TWh、2016年は 262 TWh、2017年は275 TWh、2018年は309 TWh、2019年は326 TWh、2020年は331 TWh、2021年は359 TWh、2022年は397 TWh、2023年は433 TWh。

注:1TWh(テラワットアワー)=1,000GWh。
出所:IEAデータからジェトロ作成

図2:インドネシアの発電量に占める電源割合
2000年は36%、2001年は37%、2002年は40%、2003年は41%、2004年は40%、2005年は41%、2006年は44%、2007年は45%、2008年は41%、2009年は42%、2010年は43%、2011年は46%、2012年は53%、2013年は53%、2014年は54%、2015年は58%、2016年は57%、2017年は61%、2018年は60%、2019年は63%、2020年は67%、2021年は67%、2022年は68%、2023年は69%。

出所:IEAデータからジェトロ作成

こうした中、インドネシア政府は2022年9月13日に大統領令2022年第112号を公布。(1)再エネによる電力供給の加速と、(2)新規石炭火力発電所の建設を原則として禁止する方針を示した。

また、2022年11月のG20バリ・サミットには、議長国として臨んだ。この場で、国際パートナーグループ(日本、EUなどを含む)と「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を締結。インドネシアの脱炭素化に向け、公的・民間合わせて総額200億ドルの資金を投入することで合意した。

加えて2025年4月15日には、エネルギー鉱物資源大臣規則2025年第10号を公布。電力部門のエネルギー転換ロードマップを定め、その中に石炭火力発電所の早期退役の考慮事項・手続きなどを位置づけた。

移行燃料の拡大を

再エネの移行に向けた橋渡し燃料として、天然ガスの活用にも注目が集まる。

2025年5月には、電力供給事業計画(RUPTL)を公表。RUPTLによると、2034年までに新設予定の発電容量69.5GWのうち、天然ガスが10.3GWになる。つまり、全体の14.8%を占める見込みになる(図3参照)。

図3:新規発電所の電源割合見込み
水力は16.8%、太陽光は24.6%、地熱は7.5%、風力は10.4%、石炭は9.1%、天然ガスは14.8%、電力貯槽は14.7%、原子力は0.7%、その他は1.4%。

出所:RUPTLからジェトロ作成

ここで、天然ガス火力発電所の主な事例を挙げておく。まず既存施設としては、ジャワ1 LNG火力発電所がある。PT Jawa Satu Power(発電事業者)が2024年、ジャワ島で商業運転を開始した。そのほか、新規LNG火力発電プロジェクトも注目材料だ。PLN EPI(国営電力会社PLNの子会社)が主導して、総額15億ドル規模の資金を投じる。

天然ガスだけではない。加えて、水素やアンモニアのエネルギー利用拡大も進める見通しだ。

エネルギー鉱物資源省は2025年4月、水素・アンモニアに関するロードマップを発表した。第1段階(2025~2034年)では、制度・規制などの整備や発電所でのアンモニア混焼の導入を進める。第2段階(2035~2045年)で、アンモニア火力発電と水素混焼発電の実用化を図る。さらに第3段階(2046~2060年)で、都市ガス網の100%水素化、水素専焼ガスタービン発電、アンモニア専焼火力発電の拡大を目指す構えだ。

再エネのポテンシャルと拡大に向けた取り組み

インドネシアが有する再エネのポテンシャルは、3,687GWに達するという。またRUPTLによると、2034年までに増設予定の発電容量69.5GWのうち、再エネが42.6GW。全体の61%を占める計画になっている。 ここで、再エネ利用を進める具体的な取り組みを確認していく。

  • 地熱発電
    この分野ではまず、サルーラ地熱発電所がある。総発電容量は330MW。日本からも、INPEX、伊藤忠商事、九州電力が参画している。
    そのほか、イジェン地熱発電所などがある。メドコパワーインドネシア(地場の独立系発電事業者)とオーマット・テクノロジーズ(米国系企業)が参画し、2025年2月に商業運転を開始した。
  • 太陽光発電
    PLN Indonesia Power(地場の発電事業者)とACWA Power(サウジアラビア系)が、西ジャワ州のサグリンダムで、浮体式太陽光発電プロジェクトに取り組んでいる。出力は、60メガワット(MW)規模。2026年下半期にも商業運転できる見込みだ。
    なお、本プロジェクトは先述したJETPの案件に当たる。その関係で、DEG(ドイツの開発金融機関)、プロパルコ(フランスの開発金融機関)、スタンダードチャータード銀行(英国系)が、総額 6,000万ドルの資金提供を公表している。
  • バイオ燃料
    当地は、パーム油の生産量で世界最大を誇る。そこでこれに由来するバイオ燃料の利用を積極的に進めている。
    例えば2006年には、B01政策(ディーゼル燃料に、バイオディーゼルを1%混合すること)を導入した、その後、混合割合を段階的に引き上げ。2025年にはB40を導入している。

脱炭素化に向け、さまざまな課題

ここまでみたとおり、インドネシアでは、脱炭素化に向けて各種政策や取り組みを進めている。一方、依然として構造的な課題も多い。とりわけ、石炭火力発電所の廃止が難題になっている。その背景には、石炭固有の問題だけでなく、代替電源が抱えるコスト・制度・地理的要因の制約が重層的に絡み合っている。

第1に、代替燃料の高コストだ。石炭に代わって有力な天然ガス、アンモニア、水素はいずれも、この共通課題を抱えている。

PLNの統計データで比較可能なガス火力についてみると、その発電コストは2024年、2,455ルピア/キロワット時(kWh)。石炭火力(941ルピア/kWh)の約2.6倍に達する(表2)。また、設備利用率が30%前後にとどまるのも問題だ。つまり、投資を回収しにくい構造が続いていることになる(表3)。

アンモニアや水素についても事情は同様だ。まず、石炭火力の低炭素化策として検討中のアンモニア混焼では、20%混焼に移行するだけで、燃料コストが倍増する可能性の指摘がある。また、老朽化した石炭火力で本格導入するには、燃焼設備を含めて大規模な改造が必要になる。水素も同様であり、製造コストや輸送・貯蔵コストが高く、実用化には依然として大きなハードルがある。

表2:電源別発電単価(2024年)
電源 Rp/kWh 石炭比
石炭 941 100%
ガス 2,455 261%
ガス蒸気 1,193 127%
ディーゼル 5,514 586%
水力 468 50%
地熱 1,311 139%
太陽光 15,769 1,676%

出所:Statistics PLN 2024からジェトロ作成

表3:PLNの電源別ユニット数、発電容量、発電量(2024年) 注1:水力は、PLTA、PLTM、PLTMHの合計。 注2:ガスは、PLTG、PLTGU、PLTMGの合計。 注3:設備利用率は、Statistics PLN 2024記載の計算方法に基づき、「年間発電量÷  (発電容量×8,760時間)」の計算式で算出。
電源 ユニット数 発電容量
(MW)
発電量
(GWh)
設備利用率
石炭 137 21,027 116,622 63.3%
ガス 345 18,058 48,904 30.9%
ディーゼル 5,154 3,426 3,375 11.2%
水力 256 3,709 11,477 35.3%
地熱 18 579 4,231 83.4%
太陽光 312 34 14 4.7%
風力 2 0 0 0.0%
バイオマス 2 1 0 0.2%
合計 6,226 46,833 184,622 45.0%

注1:水力は、PLTA、PLTM、PLTMHの合計。
注2:ガスは、PLTG、PLTGU、PLTMGの合計。
注3:設備利用率は、Statistics PLN 2024記載の計算方法に基づき、「年間発電量÷  (発電容量×8,760時間)」の計算式で算出。
出所:Statistics PLN 2024からジェトロ作成

本来なら高いポテンシャルを持つはずの再エネが、当地で十分に普及しないのはなぜか。その一因は、政府の国内供給義務(DMO)政策にある。DMOにより、石炭供給事業者は国内で採掘した石炭のうち25%を国内供給しなければならない。特にPLN(国営電力会社)向けには、1トン当たり70米ドルの上限価格を設定している。つまり、石炭の燃料費を安く保っていることになる。その結果、再エネコストが相対的に高く見えてしまう。

さらに、再エネの立地が需要地のジャワ島から離れがちなことも障壁となっている。これは、送電線網の制約を生じ、当該電力を需要地に十分送れない弊害につながる。特に水力は最も安価な電源なのにもかかわらず、設備利用率が約35%と、低くなっている(表3参照)。

第3に、テイク・オア・ペイ条項の存在がある。PLNと独立系発電事業者(IPP)との間では、電力購入契約(PPA)に当該条項を盛り込んできた。その結果、PLNは石炭火力を所有するIPPに対し、実需の有無にかかわらず契約電力容量分の電力料金を支払わなければならない。この仕組みが、石炭火力発電の稼働を事実上保証している。

これを反映するかのように、PLNは2025年5月、今後10年間は石炭火力発電所を早期退役しない方針を示した(2025年5月14日発信「CNBCインドネシア」)。また、同年12月には、チレボン1石炭火力発電所(ジャワ島)の早期退役を撤回している(2025年12月5日付「アンタラ」通信社)。

脱炭素化の実現には、包括的な取り組みを段階的に進めることが必要だ。具体的には、(1)石炭価格の歪み是正、(2)高コスト代替燃料(ガス、アンモニア、水素など)に対する明確な戦略と着実な実行、(3)再エネ普及に向けた送電線網の整備、(4)PPA契約の改革などが課題になる。これらの着実な実行で、石炭依存からの脱却が現実的な選択肢として浮上するだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。企画部地方創生推進課(現、国内事務所運営課)、ナイロビ事務所、ジェトロ山梨、企画部企画課を経て、2025年10月からジャカルタ事務所で調査員として勤務。