持続可能な日本産水産物の魅力をニューヨークから世界へ発信
WOKUNIの海外展開戦略
2026年1月7日
近年、日本産水産物の品質の高さは海外でも評価され、輸出額は増加傾向にある。一方で、水産物は漁獲量が減少していることから、さらなる輸出拡大には持続可能な漁業が不可欠だ。また 日本産食品の輸出拡大を目指すうえでは、外食産業の海外進出も重視されている。農林水産省の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略
(952KB)(2025年5月)」でも、食品産業の海外展開などにより日本食・食文化の理解促進を図り、海外の日本食ファンを増やすことを通じて、輸出拡大との相乗効果を発揮すると言及されている。
とらふぐ料理専門店「とらふぐ亭」などの飲食店を首都圏中心に展開する東京一番フーズ
(本社:東京都豊島区)は、水産物の養殖、加工・物流・外販から飲食店経営までを一貫して手掛けている。同社は2017年、米国・ニューヨークに和食シーフードレストラン「WOKUNI(うおくに)」1号店を開店させ、ニューヨークを拠点に日本食文化の発信や、持続可能な日本産水産物のイメージ向上に注力してきた。2026年2月に同市内に2号店をオープンする予定の同社に、海外進出の取り組みや今後の展望を聞いた(取材日:2025年10月15日)。
増加傾向にある日本の水産物輸出
2024年の日本からの水産物の輸出額(水産調整品を含む)は3,609億円(前年比7.5%減)で、農林水産物・食品の輸出額全体(1兆5,071億円)の2割強を占める(図1参照)。2023年8月の東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水放出による輸入規制の影響もあり、中国や香港向けの水産物輸出が減少した一方、代替先となる他の国・地域への輸出は増加した。
出所:農林水産省および財務省貿易統計からジェトロ作成
輸出額(水産調整品を含む)を国・地域別でみると、1位の香港(883億円、構成比24.5%)、2位の米国(741億円、20.5%)、3位の台湾(351億円、9.7%)で輸出額全体の過半を占める。4位以下もベトナム(9.4%)、タイ(8.6%)、韓国(7.8%)、シンガポール(2.5%)と続き、米国とアジア諸国・地域で輸出額の9割以上を占める(図2参照)。
出所:農林水産省および財務省貿易統計からジェトロ作成
品目別の内訳では、ホタテ貝(生鮮など)が695億円(構成比19.3%)で水産物全体の5分の1近くを占めた(図3参照)。2位以下はブリ(414億円、11.5%)、真珠(天然・養殖、412億円、11.4%)、カツオ・マグロ類(201億円、5.6%)、ホタテ貝(調整)(177億円、4.9%)が続いた。
出所:農林水産省および財務省貿易統計からジェトロ作成
減少する国内漁獲量、持続可能な取り組みが必要に
水産物(ブリ、タイ、ホタテ貝・ホタテ貝加工品、カキ・カキ加工品など)は、前述の農林水産省の輸出拡大実行戦略でも輸出重点品目に選定されている。一方で、輸出拡大に向けては日本国内の漁獲量減少が課題となっており、種苗の確保、漁場の拡⼤などを通じて、各品目で安定供給に向けた生産体制の構築が必要とされる。
農林水産省「令和6年漁業・養殖業生産統計
」の2013~2023年までの10年間の推移を見ると、2013年時点で477万3,695トンだった総生産量は、2023年には382万9,822トンと約100万トン減少している(図4参照)。
出所:農林水産省 漁業・養殖業生産統計からジェトロ作成
こうした状況を受け、水産庁は2020年に「資源管理の推進のための新たなロードマップ」を策定し、数量管理を基本とする改正漁業法に基づく資源管理の取り組みを実施してきた。今後は2030年度に、漁獲量を444万トンまで回復させることを目標としている(「水産をめぐる事情
(6.5MB)」(2025年10月)。
持続可能性のトレンドは国内に限らない。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも、14番目の目標として「海の資源を守り、大切に使おう
」が掲げられ、「海のエコラベル」とも呼ばれるMSC認証などの水産品の認証制度も欧州を中心に広まっている(注)。
国内の状況や世界的なトレンドを背景に、日本の水産事業者も持続可能な漁業への転換を迫られている。
世界のトレンド発信基地、ニューヨーク市に進出
ここからは、前述の漁業を巡る環境を背景とした、東京一番フーズの理念や海外展開について掘り下げる。同社では2011年から、自社での養殖や加工・物流・販売を含めた水産業の6次産業化に取り組んできた。同社の岩成和子専務は「持続可能でない事業はやる意味がない」と話し、サステナビリティを最重要視する。
海外展開のきっかけは、2013年に水産企業と連携し、水産業の6次産業化の一環として、養殖魚の米国進出に取り組んだことだった。当時は輸出には至らず、日本国内での販売にとどまったが、「外食店舗を展開する会社として、海外に店舗を出すことで、日本食や日本の水産物の情報発信や輸出拡大に貢献できるのではないか。いわば日本の水産物の『道の駅』をつくることになる」と考え、自社店舗の海外展開についても社内で検討を始めた。
その後、2016年ごろからジェトロなどの支援を受けつつ、海外展開の準備を本格化させた。海外市場へ出店するのであれば、世界のトレンドの発信基地である米国・ニューヨーク市とすることが最善と判断。2017年に1号店となるWOKUNIをニューヨーク市内マンハッタンのマーリー・ヒル(Murray Hill)に出店した。周辺には、グランド・セントラル駅や国連本部があり、オフィスや飲食店、住宅が並び、観光客のみならずさまざまなニューヨーカーが行き交うエリアだ。

出店にあたっては、ビザ取得や賃貸物件契約、現地での人材雇用、保険契約などの課題があったが、現地駐在員とともに乗り越えた。2020年からの新型コロナウィルスの影響で外食産業全体が大打撃を受けたものの、その後の売り上げは順調に推移している。一部の富裕層や年代・国籍、観光客、現地駐在員など特定の客層をメインターゲットにはせず、リーズナブルな価格帯で寿司(すし)・和食・シーフードと幅広いメニューを提供し、中間層を中心に幅広い客層を取り込む戦略としたことが成功の要因の1つだという。そうすることで、コロナ禍や経済不況などの外的要因によるリスクを分散しつつ、さまざまな顧客層に支持される店舗として認知されるに至った。
ツナオークションなどを開催、日本産水産物の認知を向上
ニューヨーク進出後、現地店舗では持続可能な日本の漁業や安心、安全な日本の水産物のイメージ、日本の食文化を積極的に発信してきた。自社で養殖した本マグロのみならず、日本のサステナブル志向の養殖業者と連携して、WOKUNIで「オリーブハマチ」や「みかんぶり」を提供し、日本の養殖魚の輸出に向けたテストマーケティングの場としている。週2回、日本から直送することで、多くのニューヨークの人々に新鮮な日本の水産物を楽しんでもらうことを実現した。また、店舗で提供されるメニューのみならず、寿司や刺し身などの水産物調理品を店頭でも物販するなど、日本産水産物の市場拡大に幅広く貢献している。
象徴的な取り組みが、毎月WOKUNIの店舗で定期的に行われる本マグロの解体イベントだ。現地では「ツナオークション(TUNA AUCTION ENTERTAINMENT)
」として親しまれ、自社グループの養殖場で育てた本マグロの希少部位(目玉、脳天、ほほ肉など)のオークションが人気を集める。スマートフォンのアプリを通じて競りに参加できる双方向型のイベントにすることで、エンターテインメントとして、現地のニューヨーカーたちに楽しんでもらえるように工夫されている。同時に、サステナブルな育成環境や、魚の部位を余すことなく食べる魚食文化を説明することで、日本の水産物への関心や理解を深め、消費拡大につながる機会ともしている。こうした魚の産地情報まで追跡できる透明性の高さや、ツナオークションの取り組みが評価され、2023年には現地大手レストランサイトに「全米で最もサステナブルなレストラン13選」の1つに選出された。
岩成専務は「このツナオークションのようにエンターテインメント性があるイベントを通じて日本食文化の伝え方や表現を現地になじませ、自社のサステナビリティへの取り組みを理解してもらうことが重要」とその意義を説明する。

(同社提供)

(同社提供)
2店舗目の開業で日本の食文化の魅力を世界に発信
2017年の1号店開店から9年目を迎え、同社は「日本の漁業はサステナブル、透明性が高いというイメージが浸透してきており、日本で獲れた水産物や、日本の漁業への信頼を持ってもらえていると思う」と手応えもつかんできた。2026年2月には、ニューヨーク市内マンハッタンのヘラルド・スクエア近く、ブロードウェイ通り沿いにWOKUNI2号店をオープンさせる。周辺には、エンパイア・ステート・ビルなどの観光名所や百貨店メーシーズ(Macy's)などの小売店、飲食店などが立ち並び、世界中から人々が集まる活気のあるエリアだ。
2号店は、1号店の約1.3倍の90坪(約300平方メートル)弱の広さとなる。日本の職人の目利きにより、魚の部位ごとに最適な調理法で無駄なくアラカルトメニューを提供するほか、昼夜ともに集客性を高めて食材の回転率を上げ、鮮度とおいしさを保つことや、ツナオークションのようなWOKUNIならではのエンタメ性の高いイベントでさらなる認知度の向上を目指す。
岩成専務は「日本の水産業界でもサステナビリティについて考え、訴求していくという流れになってきている。海を守るためにどんな取り組みをしているのか説明できるようになることが日本の水産業にも必要」と語る。外食産業の海外展開を足掛かりに、持続可能な日本産水産物のブランディングや、日本の食文化の魅力がさらに世界に広まることが期待される。
- 注:
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天然魚を対象とする持続可能な漁業で獲られた水産物を認証する、英国の海洋管理協議会(MSC)の「MSC認証」「MEL認証」のほか、養殖魚を対象とする「ASC認証」「AEL認証」などがある。主に欧州の大手小売りとの商談などで認証取得が求められることがある。詳細は水産庁「水産エコラベルの推進について
」、ジェトロ「水産物の輸入規制、輸入手続き(EU)」を参照のこと。
- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや) - 2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
熊谷 佐和子(くまがい さわこ) - 2024年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。




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