セゾン・インターナショナル、金融包摂を商機に(シンガポール)

2025年8月14日

クレディセゾン(本社:日本)は国際統括を置くシンガポールを拠点に、インドやブラジルなどの新興国で地場のフィンテック企業との提携を通じて、中小零細企業や個人事業主向けに融資事業を展開している。スマートフォンの普及やデジタルインフラの整備が進む新興国で、金融機関が従来、対象としてこなかった顧客に金融サービスを提供する「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン、注1)」を商機とみている。海外事業を展開するセゾン・インターナショナル(本社:シンガポール)CEOを兼務するクレディセゾンの森航介取締役兼専務執行役員にインタビューした(インタビュー日:2025年7月22日)。


セゾン・インターナショナルの森航介CEO(クレディセゾン提供)

海外事業展開、グラブとの提携が転機に

質問:
2014年、シンガポールに進出し、その後2022年に国際統括拠点となった経緯は。
答え:
2013年に本社内に海外事業部が設立され、最初の海外進出先として東南アジアを選んだ。日本のリテールクレジットのノウハウを持ち込める余地があると考えた。初期段階では、事業開発拠点として柔軟な体制で事業機会を模索する目的でスタートした。その後、ベトナムやインドネシアでの事業展開、(シンガポールの配車サービスなどを展開する)グラブとの合弁事業(JV)や、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の設立など複数の事業へと拡大した。これらを全て統括するために、2022年に持ち株会社として再構成した。海外事業をシンガポールからドライブする意図を明確化するため、社名をセゾン・インターナショナルに変え、国際統括会社となった。
質問:
国際統括拠点として、シンガポールのメリットは何か。
答え:
我々は研究開発(R&D)機能を保有しているわけでも、大量の雇用を創出しているわけでもないため、国際統括会社に与えられる税制上の優遇メリットは限定的だ。海外事業部門を2013年に初めて設立した当社にとって、本社から海外事業を全て支えるのは難しかった。シンガポールでは、国際統括業務を支える人材が確保しやすい。また、日本との時差が少なく、意思決定のスピードが早い点が利点だ。
質問:
グラブとの合弁事業はどのように始まったか。その成果は。
答え:
2017年末、グラブが東南アジアにおいて当時としてはいち早く、プラットフォーマー企業(注2)といわれるようになった。グラブがデジタルレンディング事業を開始する際、幸運にも資本業務提携が実現した。2018年から事業を開始して、結果としてシンガポール、フィリピン、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアの合計6カ国で展開した。グラブの運転手や加盟店、消費者に対して、グラブのデータを用いて組込型金融(エンベデッド・ファイナンス、注3)を提供する形でサービスを構築した。リテールクレジットの専門人材を集め、一からベンチャー企業を、スピード感を持って立ち上げ、これまでにない方法で融資を提供した経験が、その後のインド事業立ち上げにつながった。

地場フィンテックとの提携で、インドやブラジルの事業拡大

質問:
グラブとの提携が、クレディセゾンのインド子会社キセツ・セゾン・ファイナンスの2019年からの事業展開に与えた影響は。
答え:
グラブとの提携は、既に顧客を持った会社と提携して、「B2B2C」(注4)の形で市場参入するモデルを確立する上での示唆となった。プラットフォーマーであるグラブと組むことで、最終顧客に直接アプローチせずとも、サービス提供と事業拡大ができるようになった。ノンバンクとしての実績と資金力を持つクレディセゾンが、現地で起業家精神を持つ人材を集めて、スピード感を持って事業を立ち上げるといった方式を、インドでも応用することで、迅速に事業を拡大できた。
質問:
インドで2020年度に単年黒字化し急成長できた理由は。
答え:
我々は最終顧客向けに融資を行うフィンテック企業に対し、「B2B」の立ち位置から資金を提供することで、まずは低リスク、低リターンの領域から参入した。また、インドはフィンテックのエコシステムが非常に大きく、提携先を分散できる。
実際に、(現地のフィンテック企業)約100社と提携して様々な形で資金を提供している。事業開始から数カ月後に新型コロナが流行し、ロックダウンとなり大変だったものの、ほぼ損失がなかった。ある意味、新型コロナだったからこそ、デジタルインフラが真価を発揮できた局面ではあったと思う。
質問:
インドで今後は消費者(B2C)向けにもサービスを拡大するとのことだが、今後の計画は。
答え:
当初から、自社で行う「B2C」は最終的な目標であり、「B2B2C」はそのための参入戦略だった。現地に根差し、持続的に成長するノンバンクを構築するには、B2Cは欠かせない。現在、オペレーションや回収などに必要な条件が整い、自社ブランドによるクレジット提供を拡大していくフェーズにある。
質問:
2024年2月に、みずほ銀行によるキセツ・セゾンへの出資を受け入れた理由は。
答え:
インドは世界最大の人口を有し、経済成長が期待できる市場だ。インド事業を拡大するには、長期的にコミットする株主の存在が必要だと判断した。また、クレディセゾンのようなノンバンクがインドで銀行ライセンスを取得するには高いハードルがある。中長期的に、銀行ライセンスとノンバンクとの組み合わせによる提携事業の可能性も視野に入れた結果、出資を受け入れた。
質問:
インドの次の進出先として、2023年からブラジルに進出した理由は。
答え:
当社のような事業において、地域的なシナジーはほぼ存在しない。東南アジアは国ごとに、法体系、言語、民族、インフラ、規制が異なる。インドでの事業が成長した背景には、規制当局である中央銀行の統制が非常に強く、規制が先進的で、デジタル公共インフラ(DPI)が整備されていたことがあった。また、様々な資本と人材が集積し、自然とフィンテックやスタートアップの成長が促進されるようなエコシステムの存在が、ポイントだった。これらの点において、インドと同様の要件が整っていたのがブラジルだった。すでにB2B2Cモデルで事業を立ち上げ、順調だ。将来的なB2C展開を見据え、準備を進めている段階にある。

電子インフラの整備で、顧客開拓が加速

質問:
クレディセゾンは2026年度までの中期計画で、グローバル事業単独で200億円の利益達成の目標を掲げているが、インドとブラジルがその中核になるのか。
答え:
現時点ではインドへの進出のタイミングが早かったため、インドの比重が大きい。ブラジルと同時に、メキシコでも事業を開始している。このほか、シンガポールでのコーポレートベンチャーキャピタル事業や、ベトナムでのリテールファイナンス合弁事業を含めた合計になる。ただし、今一番力強いのはインドで、その次にブラジルが続くと考えている。
質問:
従来、銀行が融資の対象としない企業や個人など向けに融資を行う金融包摂に取り組む理由は。
答え:
クレディセゾンは日本において、初めて主婦層に大々的にクレジットカードを発行した企業である。家計に一定の責任を持つ女性が来店した際にクレジットカードを提供し、限度額が当初は低くとも、徐々に上げていく方式を採用した。日本での金融包摂を実践してきた自社の独自性に、新興国での事業展開を通じて改めて気付いた。
新興国では、GDPや雇用の過半数を占めるのは中小零細企業や個人事業主だが、従来の銀行はリスクや収益性の観点から彼らを融資対象にしてこなかった。一方、スマートフォンやデジタル決済インフラの普及により、彼らに電子的にリーチすることが容易になった。電子的な手段による顧客開拓によって、オペレーションのコストとリスクを大幅に下げられるようにもなった。これは現代版のマイクロファイナンスであり、クレディセゾンにとっての大義であると考える。

注1:
金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)は、これまで金融サービスにアクセスが難しかった個人や零細企業などが、広くサービスにアクセスできるようにする取り組みを指す。
注2:
プラットフォーマー企業とは、企業や個人がインターネット上でビジネスを展開する際にその基盤となるサービスを提供する、アマゾンや楽天のよう企業を指す。
注3:
組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)とは、非金融事業者が提供するサービスに金融サービスを組み込んで、利用者が金融サービスを利用しやすくする仕組み。
注4:
「B2B2C」は、ビジネス(企業、B)と消費者(C)との間に別の企業が入り、サービスの取引を仲介するビジネスモデルを指す。企業間の取引と、企業対消費者の取引の両方の要素を組み合せている。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。