上院での多数派を目指す民主党の戦い
米国2026年中間選挙(1)

2025年11月18日

米国連邦議会上院では、2025年11月上旬時点で、共和党が民主党をわずかな議席差で上回っている(共和党:53議席、民主党:47議席)。2026年中間選挙で民主党が多数派になるには、保有する改選議席の13議席を維持した上で、共和党が保有する改選22議席(特別選挙2議席を含む)のうち4議席を獲得する必要がある。共和党が保有する改選議席の多くは、共和党優勢あるいは当選確実と予想されており、民主党が多数派となる道のりは険しいとみられる(表1、2参照)。

本稿の選挙予想は、クック・ポリティカル・レポート(CPR)の2025年10月14日付予想に基づく。

接戦が予想される4州

2026年の上院選挙で接戦が予想されるのは、ジョージア、メーン、ミシガン、ノースカロライナの4州だ。ジョージア州、ミシガン州は民主党現職が保有する議席で、ノースカロライナ州の共和党現職はトランプ氏との対立から立候補を断念することになった(表3、4参照)。

ジョージア州

2024年の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が激戦を制したジョージア州では、民主党の現職ジョン・オソフ氏が中間選挙で厳しい戦いに直面する。

共和党では、期待されていたブライアン・ケンプ州知事の立候補は実現しなかった。主要候補とみられるのは、2025年5月に立候補を表明した同州連邦下院議員のバディ・カーター氏だ。同氏は自身を「MAGA(注1)の戦士」と称して、トランプ政権の取り組みに尽力するとしている。

一方、2025年7月に立候補を表明した同じく同州連邦下院議員のマイク・コリンズ氏は、運送会社コリンズ・トラッキングの創業者兼最高経営責任者(CEO)で、2022年に初当選した。同氏は、X(旧ツイッター)で不法移民に関する過激な投稿により、一時的にアカウントを停止されたことがある。同氏は自身を「MAGAの働き者」と称している。

2025年9月の世論調査(注2)では、上院選を想定したオソフ氏とコリンズ氏の対戦では38%の同率で拮抗(きっこう)、オソフ氏とカーター氏との対戦では、オソフ氏(40%)がカーター氏(37%)をやや上回る状況で、いずれにせよ激戦が予想される。

表1:共和党が上院議席を占める州(2025年11月現在)
項目 州 名 共和党が占める議席数
2000年以来、大統領選挙で共和党候補者が勝利した20州 アラバマ、アラスカ、アーカンソー、アイダホ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピー、ミズーリ、モンタナ、ネブラスカ、ノースダコタ、オクラホマ、サウスカロライナ、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ユタ、ウェストバージニア、ワイオミング(各2議席) 40
2016年以降、大統領選挙でトランプ氏が勝利した5州 フロリダ、インディアナ、アイオワ、ノースカロライナ、オハイオ(各2議席) 10
激戦州 ペンシルベニア、ウィスコンシン(各1議席) 2
その他 メーン(1議席) 1

注:2026年に改選されないのは、インディアナ、ミズーリ、ノースダコタ、ペンシルベニア、ユタ、ウィスコンシンの6州。
出所:バージニア大学センター・フォー・ポリティクス、CNN、連邦上院議会

メーン州

メーン州の共和党現職スーザン・コリンズ氏は、第1次トランプ政権でトランプ氏が弾劾された時に、有罪票を投じた共和党上院議員の1人だ。

民主党では、候補として有望視されていたジャネット・ミルズ知事が2025年10月に立候補を表明した。同氏は、州知事としてトランプ氏に立ち向かってきたが、次は上院議員として医療、クリーンエネルギーなどの分野で州民に進歩をもたらすため戦うとしている。これを受けて、選挙予想格付けは(共和党にとって)「やや優勢」から「接戦」となり、民主党にとって可能性が広がった。

ミシガン州

2024年大統領選挙の激戦州だったミシガン州では、現職の民主党ゲーリー・ピーターズ氏が不出馬を表明した。民主党の立候補者は、州議会上院議員のマロリー・マクモロー氏、元ウェイン郡保健局長のアブドゥル・エルサイード氏、ヘイリー・スティーブンス連邦下院議員の3人だ。党内では、予備選挙での混戦を避けるため候補者の集約が必要とみられている。

米国で最も多くのアラブ系住民が居住するミシガン州では、イスラエルとガザの紛争が予備選の主要争点になると予想される。

共和党は、マイク・ロジャース元連邦下院議員が立候補している。トランプ氏は2025年7月に、ロジャース氏への支持を表明した。

ノースカロライナ州

ノースカロライナ州現職の共和党トム・ティリス上院議員は2026会計年度(2025年10月~2026年9月)予算案(「大きく美しい1つの法案」)のメディケイド(低所得者向けの公的医療保険)削減を巡りトランプ氏と対立したことを受けて、2025年6月に2026年の再選を目指さないと表明した。共和党全国委員会(RNC)委員長のマイケル・ワトリ―氏が7月に立候補を表明し、トランプ氏はすかさずワトリ―氏への支持を表明した。

民主党からはロイ・クーパー元知事が同年7月に立候補を表明し、選挙予想格付けは(共和党にとって)「やや優勢」から「接戦」に変更された。

知名度ではクーパー氏が上回るが、ワトリ―氏の知名度の低さは、逆に良いイメージを作り出せれば可能性が広がるともみられる。

表2:民主党が上院議席を占める州(2025年11月現在)
項目 州 名 民主党が占める議席数
2024年大統領選挙でハリス氏が勝利した州 カリフォルニア、コロラド、コネティカット、デラウェア、ハワイ、イリノイ、メリーランド、マサチューセッツ、ミネソタ、ニューハンプシャ―、ニュージャージー、ニューメキシコ、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、バージニア、ワシントン、バーモント(各2議席) メーン(1議席) 37
激戦州 アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ(各2議席) ペンシルベニア、ウィスコンシン(各1議席) 10

注1:2026年に改選されないのは、アリゾナ、カリフォルニア、コネティカット、ハワイ、メリーランド、ネバダ、ニューヨーク、ペンシルベニア、バーモント、ワシントン、ウィスコンシンの11州。
注2:バーモント州の2議席のうち1議席は無所属。メーン州の議席は無所属。
出所:CNN、連邦上院議会

ベテラン議員引退のニューハンプシャ―州

ニューハンプシャー州では、2009年から上院議員を務めてきた現職で民主党のジーン・シャヒーン氏が立候補しないことを表明した。同党からは、クリス・パパス連邦下院議員が2025年4月に立候補を表明した。

共和党では、スコット・ブラウン元連邦上院議員〔マサチューセッツ(MA)州選出〕が同年6月に立候補を表明した。同氏は第1次トランプ政権で、ニュージーランド大使、サモア大使を務めた経験がある。クリス・スヌヌ前知事の兄のジョン・スヌヌ氏(元連邦上院議員)も10月に立候補を表明した。スヌヌ氏はトランプ氏を批判してきたこともあり、共和党予備選で無党派層の支持を得られたとしても、MAGAの支持基盤との折り合いをつけるのが難しいともみられる。

表3:2026年中間選挙で改選となる上院の民主党保有議席
州名 現職議員 CPRの選挙予想格付け(10月14日) 2024年大統領選挙の勝者
コロラド ジョン・ヒッケンルーパー氏 確実 ハリス氏
デラウェア クリストファー・クーンズ氏 確実 ハリス氏
ジョージア ジョン・オソフ氏 接戦 トランプ氏
イリノイ ディック・ダービン氏* 確実 ハリス氏
マサチューセッツ エド・マーキー氏 確実 ハリス氏
ミシガン ゲーリー・ピーターズ氏* 接戦 トランプ氏
ミネソタ ティナ・スミス氏* かなり優勢 ハリス氏
ニューハンプシャ― ジーン・シャヒーン氏* やや優勢 ハリス氏
ニュージャージー コーリー・ブッカー氏 確実 ハリス氏
ニューメキシコ ベン・レイ・ルーハン氏 確実 ハリス氏
オレゴン ジェフ・マークリー氏 確実 ハリス氏
ロードアイランド ジャック・リード氏 確実 ハリス氏
バージニア マーク・ワーナー氏 確実 ハリス氏

注1:*は2026年中間選挙に立候補しない現職議員。
注2:選挙予想格付けは民主党にとっての優劣で、(当選)確実、かなり優勢、やや優勢、接戦の順となる。
出所:各種報道、クック・ポリティカル・レポート(CPR)

共和党保守派候補者の動向が注目されるテキサス州

テキサス州現職の共和党ジョン・コーニン上院議員は5期目の当選を目指す。共和党で保守派の支持を集める州司法長官のケン・パクストン氏が2025年4月に立候補を表明した。共和党内では、もし保守派のパクストン氏が予備選を勝ち抜けば、本選では苦戦するとみられ、それによって、共和党が獲得を目指す先述のジョージア州とミシガン州の本選用の選挙資金がテキサス州の本選に奪われることを懸念しているという。また、ウェズリー・ハント同州下院議員が10月に立候補を表明した。

共和党の予備選(注3)を想定した世論調査(注4)では、パクストン氏(34%)とコーニン氏(33%)の支持が拮抗し、ハント氏は11%だった。

民主党では、元連邦下院議員のコリン・オルレッド氏が同年7月に、ジェームス・タラリコ州下院議員が9月に立候補を表明した。

タラリコ氏は、テキサス州の政治における共和党の巨額献金者の影響力を強く批判しており、億万長者は「私たちを分断させている」と主張し、米国民は反撃する民主党を求めていると述べている。さらに、ジャスミン・クロケット連邦下院議員も立候補の可能性があるという。

連載の(2)では、分断が続く米国の状況や中間選挙を展望する。

表4:2026年中間選挙で改選となる上院の共和党保有議席(〇は表明あり、―はデータなし)
州名 現職議員 CPRの選挙予想格付け(10月14日) トランプ氏が支持を表明した候補者 2024年大統領選挙の勝者
アラバマ トミー・ターバビル氏* 確実 トランプ氏
アラスカ ダン・サリバン氏 確実 トランプ氏
アーカンソー トム・コットン氏 確実 トランプ氏
フロリダ アシュレー・ムーディー氏 確実 トランプ氏
アイダホ ジム・リッシュ氏 確実 トランプ氏
アイオワ ジョニ・アーンスト氏* かなり優勢 トランプ氏
カンザス ロジャー・マーシャル氏 確実 トランプ氏
ケンタッキー ミッチ・マコネル氏* 確実 トランプ氏
ルイジアナ ビル・キャシディ氏 確実 トランプ氏
メーン スーザン・コリンズ氏 接戦 ハリス氏
ミシシッピー シンディ・ハイド・スミス氏 確実 トランプ氏
モンタナ スティーブ・デーンズ氏 確実 トランプ氏
ネブラスカ ピート・リケッツ氏 確実 トランプ氏
ノースカロライナ トム・ティリス氏* 接戦 トランプ氏
オハイオ ジョン・ハステッド氏 やや優勢 トランプ氏
オクラホマ マークウェイン・マリン氏 確実 トランプ氏
サウスカロライナ リンゼー・グラハム氏 確実 トランプ氏
サウスダコタ マイク・ラウンズ氏 確実 トランプ氏
テネシー ビル・ハガティ氏 確実 トランプ氏
テキサス ジョン・コーニン氏 かなり優勢 トランプ氏
ウェストバージニア シェリー・ムーア・カピート氏 確実 トランプ氏
ワイオミング シンシア・ラミス氏 確実 トランプ氏

注1:*印は2026年中間選挙に立候補しない現職議員。
注2:選挙予想格付けは共和党にとっての優劣で、(当選)確実、かなり優勢、やや優勢、接戦の順となる。
注3:フロリダ州はマルコ・ルビオ氏(国務長官)、オハイオ州はJ.D.バンス氏(副大統領)がトランプ政権に閣僚入りした後の任期2年間に対する特別選挙。
注4:トランプ氏の支持は、アイオワ州ではアシュレー・ヒンソン氏、ノースカロライナ州ではマイケル・ワトリ―氏に対するもの。
出所:各種報道、クック・ポリティカル・レポート(CPR)、バロットペディア


注1:
「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」の略称で、トランプ氏の選挙キャンペーンのスローガン。
注2:
カンタス・インサイツが2025年9月9~12日に、ジョージア州の登録有権者624人を対象に実施。
注3:
各党において、2026年11月の本選に向けて候補者を選出する予備選挙が事前に実施される。
注4:
テキサス南部大学ホビー公共政策大学院が2025年9月19日~10月1日にテキサス州の成人1,650人を対象に実施した。

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執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。