先行PBビジネスにみる戦略
インフレ下の米国でPBが進化(後編)
2025年4月10日
米国では現在、プライベートブランド(PB)が変化とともに成長を遂げている。 インフレが進行する中、消費者が安価な商品を求める動きが顕著で、PB商品の需要が高まっている。またPBはもはや、単にナショナルブランド(NB)の代替品というだけでない。小売店などが味覚や素材にこだわることでより魅力的に商品展開し、消費者の信頼感が高まっている。
前編「PBが有名ブランド上回る成長」に続き、後編では、PB市場で先行する大手小売業者の取り組みを紹介。今後ビジネスを展開する上での戦略などを考察する。
米国でPB商品構成比が高いのは
米国調査会社ヌメレーターが実施した調査によると、米国の大手小売企業でPB商品の構成比が最も高いのは、アルディだ。同社は、ドイツ発祥のディスカウントスーパーで、販売している総商品数のうちPBが76%を占める。2位のトレーダー・ジョーズ(食料品チェーン、本社:カリフォルニア州モンロビア)と並んで、当該構成比が圧倒的だ(図1参照)。

出所:ヌメレーター
アルディは、1976年に米国市場に参入した。以来、手頃な価格で高品質な商品を提供する企業理念を消費者が支持。米国でのプレゼンスを徐々に高めてきた。
特に近年は、インフレの長期化で食料品価格の高騰が続いている。その中で、低価格商品を強みに、米国で最も成長を遂げているディスカウントストアの1つとして台頭。品質に妥協せずに低価格を貫くことで、節約志向の高い買い物客を引き付けている。現時点で、全米38州に2,400店舗を展開している。2028年末までには、全米800店舗で新規出店または店舗改装。総店舗数が30%増になる予定だ。その結果として、同社史上最速の成長を目指している。
アルディ:低価格を追求した独自戦略
まず、アルディの成功には、有名ブランドの代替品を安価で取りそろえている強みがある。同社の店舗には、大手ブランドの商品に似せてコストを抑えた商品を置く(「デュープ品」と呼ばれる)。消費者はNB同等の品質を擁する商品をより低価格で入手できることになる。インフレが進む米国で、特に大きな反響を呼んでいる。
例えば、米大手食品会社ゼネラル・ミルズの朝食用シリアル「シナモン・トースト・クランチ」は1箱4.41ドルする。それに対し、アルディではほぼ同等品が2.79ドル。NBの通常価格より37%も安い。もちろん、販売価格は商品によって異なる。とは言え、アルディの食品価格設定は主要スーパーマーケットより約25%安いのが通例だ。また、自社食料品には「保証は2倍(Twice as Nice Guarantee)」制度を打ち出す。顧客が商品に何らかの不満を感じた場合、返金だけでなく代替品を提案するという。
低価格戦略を実施できる背景には、伝統的な米国のスーパーマーケットと対照的なビジネス戦略にある。例えば、効率的な店舗運営を追求するため、ローコストオペレーションを徹底している。具体的には、次のような取り組みを見て取れる。
- 何千もの商品を取りそろえるのではなく、より絞って品ぞろえしている。
米国では、従来型スーパーマーケットで約4万品目、ウォルマートの大型店舗(スーパーセンター)に至っては10万品目以上を取り扱うのが通常だ。
これに対し、アルディでは約1,400品目に厳選。その中で重点的に提供するのが、PB商品ということになる。 - 売り場面積も通常、ウォルマートなどの競合店よりも小規模なことが多い。店舗当たりの平均面積は約1万2,000平方フィート(約1,100平方メートル)程度にとどまる。
商品の種類を厳選することで、物流、保管、人員削減を図り、これを販売費用に反映させて低価格を実現している。 - 競合の店舗では、カートを回収するランナー、レジ係、棚に品出しする店員など、従業員に明確な役割分担があるのが通例だ。
これに対しアルディの従業員は、あらゆる機能をこなせるよう業務横断的(cross)トレーニングを受けている。 - 同社の店舗では、従業員が棚に商品を1つ1つ積み重ねない。そうした時間を節約するため、出荷時の段ボール箱のまま陳列している。
全体の店舗運営の効率性の向上やコスト削減を図るための工夫も、多様だ。例えば、次のような取り組みがある。 - 同社は、ショッピングカートのシステムに、レンタル式を採用している。すなわち、買い物客はデポジット(保証金)を支払う必要がある。そのため、カートのコイン投入機に25セント硬貨を差し入れると、チェーンでつながっているカートが外れる。使い終わると、前のカートのチェーンを差込口に入れることで硬貨が返金される仕組みだ。
レンタル式にすることで、カートを回収するために余分なスタッフを雇う必要がなくなる。結果的に人件費を圧縮するメリットが生じることになる。 - レジの処理スピードを上げる工夫もある。具体的には、販売商品のバーコードを(1)大型化するか、(2)マルチバーコード(複数面に印刷)にするか、している。これにより、レジ係は商品のバーコードを探す時間をかけず、商品を素早くスキャンすることができる。
- 精算後、レジ係は商品を袋詰めしない。買い物客が自身でバッグに詰めることで、レジでの滞在時間を削減するためだ。
PBごとの世帯浸透率でみると
ここで、個別のPBブランドに視点を移してみる。世帯浸透率(注)の最上位5つは、ウォルマート(米小売り最大手)の展開するブランドが占めた。いずれも、60%を超える家庭が購入。圧倒的な存在感を放っている(図2参照)。

注1:世帯浸透率とは、一度でもウォルマートのPB商品を購入したことのある消費者がいる世帯の割合のこと。
注2:この図では、2024年12月31日までの1年間の実績を反映。
注3:( )内は、当該PBブランドを擁する小売企業。
出所:ヌメレーター
ウォルマートのPB商品取り組みの歴史は長い。初めて自社ブランドを導入したのは、1983年だった(高品質なペットフードを扱う「オル・ロイ」)。以来、新たなブランドを次々に展開し、現在は約20カテゴリーで315以上のブランドを取り扱う。商品数も2万9,000点以上に上る。これらが、ウォルマートのビジネス戦略上、重要な役割を果たしている。
その中でも「グレートバリュー」は、ウォルマートの代表的なPBと言える。このブランドは1993年、低価格を追求したために立ち上げた。米国での世帯浸透率が86%と、同社PB商品の中で最も人気が高い。
同社のダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)は2020年の決算発表で、次のとおり述べた(米小売り専門紙「ストアブランズ」2020年2月18日)。
- 当社は安価志向のブランドを売り込みたいと考えている。PBの改善も続け、当社全体の売上高を上回るペースで成長している。
- (当社の上位)18ブランドをあわせると、米国内で年間10億ドル以上、売り上げるのが通例だ。また、当社最大のPB「グレートバリュー」は、全世界で累計270億ドル以上の売上高を誇る。
ウォルマートにとってPBへの取り組みは価格戦略と、顧客ロイヤルティーの確保の両面で、不可欠になっている。このほか、ヘルスケアや美容製品に特化した「イクエート(Equate)」、オフィス・学用品を扱う「ペン+ギア(Pen + Gear)」、家具やキッチン用品などを扱う「メインステイズ(Mainstays)」、子供服に特化した「ワンダー・ネーション(Wonder Nation)」など、カテゴリー展開が広範囲にわたる。
ウォルマート:過去20年間で最大規模の高品質食品ブランド発表
また、ウォルマートは2024年4月、食品用に新PB「ベターグッズ(bettergoods)」を立ち上げた。次の点から、同社のPB戦略上、重要な進化を示すと言えそうだ。
まず、同社にとって過去20年間で最大規模の自社食品ブランドの立ち上げになる。また、ウォルマートによると、ベターグッズは「ワンランク上の食体験」を求める買い物客に売り込むものだ。また、同社でクリエーティブデザイン担当副社長を務めるデビッド・ハートマン氏は、次の点を指摘した。
- より高級で、鮮明・カラフルな新しいブランドアイデンティティーを打ち出した。競合他社と同等の外観や対外的メッセージを備えたていると言えるのではないか。目下、「主要なNBと同じくらい魅力的な」ブランドを生み出すことが目標になっている。
- ベターグッズというブランド名自体から、「比較」を連想することになる。「商品がより味わい深く高品質で、『あなたにより良い』原材料で作っているという概念を届ける」ことを意図した。
- シンプルなデザインの「グレートバリュー」とは、異質のパッケージになる。ベターグッズでは、「今」の日用品のトレンドに合わせ、よりプレミアム感のあるデザインを実現するために、多様な色を使ってデザインした。
ベターグッズでは、約300品目を取り扱う。大半は、商品価格を5ドル未満に設定した。このPBについて、同社は次の通り説明している。
- 手頃な価格ながら、味、風味、バラエティーに富む。
- これまでにない新鮮な料理体験を提供するため、ウォルマートの商品開発チームが世界中のサプライヤーと協力し、高品質でトレンドを先取りした食材や風味を厳選した。
- 商品は、(1)革新的なレシピや高級食材、食のトレンドを先取りしたメニューにフォーカスした「カリナリー(料理)体験」、(2)植物由来の原料を使った「プラントベース」、(3)グルテンフリーや着色料無添加などのさまざまな食生活需要に対応した「メード・ウィズアウト(不使用)」の3カテゴリーに分類。冷凍食品や乳製品、スナック、飲料など、幅広い商品を取り扱う。
ウォルマートで上級副社長(PBおよび食品・消耗品部門担当)を務めるスコット・モリス氏は「顧客は今日、自身が購入するPBに高い期待を寄せている。食事体験が全体的に向上するよう、手頃な価格で高品質な製品を求めているわけだ。ベターグッズの立ち上げにより、このような顧客ニーズに有意義なかたちで応えることができるようになる」と述べている(注1)。
ターゲット:低価格重視の新ブランドで新規顧客獲得を狙う
ターゲット(米国小売り大手)も、PB市場で先行する小売企業として広く知られる。同社はPB戦略に力を入れ、45以上の自社ブランドを幅広いカテゴリー(食料品や家庭用品、衣料品、電化製品など)で展開。年間300億ドル以上の売り上げに貢献している。ここでは特に、(1)グッド&ギャザー、(2)ディールワーシーの2ブランドに注目してみる。
- グッド&ギャザー
立ち上げたのは、2019年。現在、年間40億ドル近い売り上げを記録している。
同社の食品・飲料PBとして目下、最大規模だ。このブランドで展開する商品は乳製品や農産物をはじめ、既製パスタ、精肉など。いずれも、人工甘味料や着色料などを使用せず、自然素材で作る。安全かつ高品質な商品を2,500点超、取りそろえている。半数以上が5ドル未満と、安価な価格設定になる。 - ディールワーシー(dealworthy)
2024年2月、新たに立ち上げ。生活必需品(食料品や日用品など)の価格高騰が続く中、「低価格」に重点を置いた。ブランド名称は、購入する上で価値を感じるお買い得感を意味する。
日用雑貨や美容製品、衣料品など、約400品目を取り扱う。最低価格が1ドルから始まり、大半の商品が10ドル未満。ターゲットの品ぞろえで最安値の価格帯だ。一部の電子機器は、同社で販売する他ブランドより50%も安いという。
ターゲットのリック・ゴメス執行副社長(食品・日用品・美容担当最高責任者)は「われわれは、消費者にとって価値が最優先事項ということを認識している。当社独自の『ブランドの約束』に裏打ちされたディールワーシーは、既存客にアピールするだけでない。さらに多くの新規顧客開拓につなげていく」と述べた(注2)。
このような考えに立ち、自社ブランド企画や商品拡充を強化。同時に、これを長期的なビジネス戦略の柱として位置付けている。例えば2025年3月に発表した成長戦略(今後5年間を見越したもの)でも、PBブランドのイノベーション促進を掲げた。 今後は米国料理界のアカデミー賞「ジェームズ・ビアード賞」受賞シェフのアン・キム氏を皮切りに、著名シェフとの新たな「グッド&ギャザー」のコラボシリーズを展開する。そのほか、同社の既存PB「アップ&アップ」「グッド&ギャザー」「フェーバリット・デー」では、新たな食品・飲料を600点以上、企画していく予定だ。
PBは、企業にとって新たな商機
ここまでみてきたとおりPBの成長は、各企業の積極的な商品開発投資や商品ラインアップの拡充などが寄与した結果といえるだろう。そこには、消費者の節約志向と高品質商品に対する需要に応えようとする取り組みがあった。
各社に共通するのは、低価格と品質の両立を実現しながら、他社との差別化を確立してきたことだ。実際、そのことで消費者の支持を獲得しつつある。
欧州のPB市場は、すでに成熟しつつある。片や、米国はまだ拡大の余地がある。消費者の嗜好(しこう)の変化から、企業にとって新たな商機を見いだすチャンスになるとみても良さそうだ。
インフレ下の米国でPBが進化
- PBが有名ブランド上回る成長
- 先行PBビジネスにみる戦略

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部 リード・リサーチャー
樫葉 さくら(かしば さくら) - 2014年、英翻訳会社勤務を経て、ジェトロ入構。現在はニューヨークでのスタートアップ動向や米国の小売市場などをウォッチ。