進出30年迎える広東イオン、変化する消費市場と注目分野(中国)
2025年9月10日
日本で幅広い店舗網を展開する国内最大級の流通グループのイオンは、アジアを中心に海外展開を進めている。中国広東省には1996年に進出し、2025年7月現在、同省広州市を中心に、省内に42店舗〔総合スーパーマーケット(GMS)とスーパーマーケット(SM)〕を展開している。地域に根ざした店舗運営を通じて、着実に店舗数を拡大し続けており、2026年で同省進出30周年を迎える。 ジェトロは2025年7月23日、広東永旺(イオン)天河城商業・永旺華南商業の杜若政彦総経理に、同社(以下、広東イオン)による広東省での事業戦略や、消費動向、今後の事業展開の展望などについて話を聞いた。

- 質問:
- 広東省での展開状況は。
- 答え:
- 広東省全体では、広州市と仏山市を中心に計42店舗を出店している(2025年7月時点)。年内には江門市にも1店舗の開業を予定しており、これにより、グレーターベイエリア(粤港澳大湾区)を構成する珠江デルタ9市を網羅する(注1)。
- 質問:
- 特に力を入れている商品やサービスは。
- 答え:
- 「初出店」「新商品」「地域振興」というキーワードを重視し、戦略的に取り組んでいる。「初出店」は、当社店舗がまだ存在しない新たなエリアに初めて出店することを指しており、地域の潜在的なニーズを早く捉えることを重視している。「新商品」「地域振興」では、例えば、地域経済の活性化などを目的に省政府が中国西北エリアを産地とするプルーンの販売促進を打ち出したことを受け、当社もその地域振興の流れをいち早く取り入れ、当該商品を販売して人気を得た。
- また、売り場づくりでは、店舗ごとにすしや果物などを核としたコーナーを設け、日常生活からギフト需要まで幅広く対応できる店舗を設計している。「品質」「おいしさ」「高鮮度」を軸に、確かな価値を持つ商品を提供し続けることを基本方針としている。
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イオン東方宝泰店のすし売り場(ジェトロ撮影) - 質問:
- 華南地域の消費志向で、華東地域や中部地域と異なる点や特徴的な点は。
- 答え:
- 広東省の消費者層は、中国全体と比べて若い印象がある。好奇心旺盛で、新しいモノやサービスを好む傾向がみられる。新商品が売り場に並ぶとすぐに注目が集まり、人が集まっている様子に反応して、さらに人が集まる。また、一般消費者として商品や体験を発信する個人のインフルエンサーが多く、新しい商品やサービスの情報をSNS上で積極的に発信している。
- 食の嗜好(しこう)については、例えば、広東省の消費者は鶏肉の品種や部位に対するこだわりが強く、素材の鮮度を重視する傾向も強い。広東省内でも、食文化に一定の地域差がある。東莞市や中山市、仏山市、仏山市内の順徳区などでは、それぞれ好まれるメニューが異なり、さらに、外来人口が非常に多い都市として知られる深セン市は、味の好みがまた少し異なる。こうした地域特性を踏まえ、店舗の品ぞろえや売り場構成を最適化している。
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イオン東方宝泰店の総菜コーナー
(ジェトロ撮影)
イオン東方宝泰店の精肉売り場
(ジェトロ撮影) - 質問:
- 広東イオンのリアル店舗はどういった消費者層をターゲットにしているか。
- 答え:
- 当社の主要顧客はファミリー層だが、地域ごとに顧客の特性が異なるため、店舗ごとにターゲットとなる顧客像(ペルソナ)を描いている。年齢層や所得、ライフスタイル、さらに店舗の立地(交通アクセス、店舗周辺の居住人口)なども考慮して、出店先を決定したり、店舗ごとの品ぞろえを細かく調整したりしている。立地については、駐車場のキャパシティーや地下鉄のアクセス、マンションの販売状況なども重要な判断材料となる。
- 質問:
- 以前に比べて消費スタイルの変化はみられるか。
- 答え:
- かつては大型スーパーマーケットが主流だったが、現在は体験重視やコスパ重視の消費スタイルへと急速に変化している。日本では段階的に進んでいる変化が中国ではスマートフォンの普及のように、一気に進む印象がある。当社もキャッチアップするだけでなく、先行者となって優位性を築く必要があると考えている。
- また、(新型)コロナ(ウイルス禍)後には、まとめ買いが減り、必要なものをこまめに購入するスタイルが増えている。当社のプライベートブランドは同類品より10~20%安価な価格設定にしているため、節約志向が高まる現在の市場環境は販売拡大の好機と捉えている。
- 質問:
- 世界最大のEC市場の中国では、朴朴超市(注2)や淘宝などのECプラットフォームで食品や日用品を購入する消費者が多い。貴社のECプラットフォーム・サービスの取り組みは。
- 答え:
- 当社では、自社プラットフォーム(永旺到家)と、外部プラットフォーム〔美団や京東(注3)〕を併用する戦略を展開している。自社プラットフォームでは、リアル店舗の会員情報も利用しながら、会員に人気の高い商品の情報を発信している。一方、外部プラットフォームは商品検索や価格比較の目的で利用する顧客が多く、用途に応じて使い分けているようだ。当社はオンラインの自社プラットフォームからリアル店舗への送客にも力を入れており、具体的には、火曜市や感謝祭などリアル店舗でのイベントをオンラインでも展開し、イベント情報を通じて来店を促すほか、会員情報を活用して人気商品の情報を発信することで、店舗での購買行動につなげている。今後もリアル店舗を主軸に据えつつ、オンラインを活用する方針だ。
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広東イオンのECプラットフォーム「永旺到家」(ジェトロ撮影) - 質問:
- 同業他社との競争状況は。
- 答え:
- 同業他社との関係については、どちらかというと、競争相手というよりも、仲間意識を持っている。切磋琢磨(せっさたくま)しながら、良いものがあれば学んでいき、同じ方向を向いて業界全体を盛り上げ、成長させていきたい。また、日系コンビニエンスストアの商品の配置方法や、限られた面積の有効活用といった店舗運営の工夫は非常に参考になる。当社としては、先進的な事例を積極的に学び、一歩ずつ改善を重ねていく姿勢を大切にしている。
- 質問:
- 広州市内の一部店舗は、従来の「イオン」ではなく、「イオンスタイル」として再オープンすると発表されている。新たな店舗の特徴や狙いは。
- 答え:
- 「イオンスタイル」は既に日本や香港で展開しているが、中国大陸では新しいモデルだ。「食」にさらに力を入れており、食料品を中心に暮らしに欠かせない商品や、独自性のある商品を取りそろえている。リアル店舗ならではの買い物の楽しさを提供することで、五感に訴えることを特徴とする「とがった」お店を目指している。広東イオンは次の新しい30年に向けて進化する。
- 質問:
- 最近、深セン市や珠海市では、香港とマカオからの「北上消費」(注4)が話題になっているが、貴社ビジネスへの影響は。
- 答え:
- 「北上消費」も見られるが、週末に買い物旅行というよりは、マカオと香港の方が珠海市や中山市などに居住し、日常的に店舗を利用している印象を受ける。特に深セン市と中山市を結ぶ通路「深中通道」(注5)の開通により、広域での人の往来がさらに活発になっている。当社では、これらの地域の店舗の品ぞろえやサービス内容を消費者のニーズに対応できるように、柔軟に調整している。
- 質問:
- 中国では不動産市況の低迷が続く中で、以前より出店コストが抑えられる面もあるのか。
- 答え:
- 物件のオーナーが提示する賃貸年数や賃料などの契約条件が緩和され、新規物件の契約による出店がしやすくなっている面があると感じる。当社は物件の面積や立地に応じて、大型・中型・小型と店舗種別を使い分けた柔軟展開が可能なことから、多様な出店機会を確保しやすいことも強みだ。
- 質問:
- 今後、華南地域での業務展開や地域展開の計画は。
- 答え:
- 今後5年間は、広州市などを中心に、地域特性を踏まえながら、5,000平方メートル規模のSM店舗を10~20店舗展開していきたい。特に過去に出店実績があり、イオンのファンが所在するエリアでは、高い成果が期待できる。
- 高齢化が進む中で、日常の買い物ニーズに対応する新たな店舗形態として、日本で展開されている小型スーパーの可能性にも注目している。これは、コンビニに生鮮食品を加えた形態で、自宅から徒歩圏内で手軽に利用できることから、高齢者だけでなく、共働きファミリー世代にも支持されており、ビジネスとしての裾野が広がっている。
- また、衣料品分野も、特に子どもや高齢者向けの機能性衣料は、他社が手薄な領域で、今後の成長分野として注目している。
- 2026年には、広東省でのビジネス開始から30周年を迎える。これまで、現地の皆さまに支えられながら、順調に事業を拡大してきた。今後は、これまでの歩みを礎に、時代や消費者ニーズの変化に柔軟に対応しながら、さらなる店舗数の拡大とサービスの進化を目指したい。
- 注1:
- 粤港澳大湾区は、香港特別行政区、マカオ特別行政区、珠江デルタ9市(広州市、東莞市、深セン市、恵州市、仏山市、中山市、珠海市、江門市、肇慶市)で構成される地域。広東イオンは2025年7月時点で、広州市に19店舗、仏山市に10店舗、中山市に3店舗、深セン市に3店舗、恵州市に2店舗、東莞市に1店舗、珠海市に3店舗、肇慶市に1店舗を展開している。
- 注2:
- 朴朴超市は即時配送型オンラインスーパーで、生鮮食品や日用品を注文後30分以内に配送するサービスを提供する。
- 注3:
- 美団は中国のフードデリバリーアプリ大手。京東は大手ECサイトの運営企業。
- 注4:
- 香港居住者が買い物目的で中国本土を訪れて消費すること。中国本土との往来再開後、安価な買い物やレジャーなどの消費活動の選択肢が豊富な深セン市に日帰りで遊びに行く者が増加している(2024年6月17日付ビジネス短信参照)。
- 注5:
- 「深中通道」は、広東・香港・マカオグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)の珠江河口の東西両岸(注1)を結ぶ戦略的通路で、国家の交通網の中で重要な地位を持つとされる。2024年6月30日に開通した(2024年7月8日付ビジネス短信参照)。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・広州事務所 経済分析・企業支援部 部長
西村 京子(にしむら きょうこ) - メーカー、商社勤務を経て、2021年4月、ジェトロ入構。海外展開支援部で機械環境・日用品関連の日本企業の販路開拓支援に従事し、2023年11月からジェトロ・広州事務所に駐在。2025年1月から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・広州事務所
汪 涵芷(オウ カンシ) - 2016年からジェトロ・広州事務所にて勤務。