椅子製造に挑戦する日系企業(ウズベキスタン)
「日本品質」へのこだわり

2025年11月18日

ノーリツイスは、愛知県弥富市に本社を置くオフィス家具メーカーだ。ウズベキスタン・タシケント近郊に100%出資子会社のACES JAPANを設立し、工場を構える〔ACES JAPANウェブサイト参照(ロシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。「日本品質」「メード・イン・ウズベキスタン」をモットーに、高品質の椅子を製造している。当地では数少ない日系の製造企業である。

現地法人社長のイスロムジョン・イサコフ氏は、名古屋大学で修士課程を修了後、日本企業で勤務した後にノーリツイスに就職。2023年5月からACES JAPANを率いている。イサコフ氏に、ウズベキスタンで商品製造に取り組む日系企業としての経験を聞いた(2025年10月23日)。

質問:
ACES JAPANの事業内容は。
答え:
2022年7月、資本金103万ドルで設立。2023年4月からウズベキスタンでノーリツイスのオフィス用椅子を輸入販売、2025年9月から同国での製造を開始した。正社員は7人。うち、3人が製造担当、4人が営業担当だ。
現時点では部品の多くを日本から輸入し、ウズベキスタンで組み立てている。生産工程はa)部品の溶接、b)塗装、c)座面の縫製・組み立て、という流れ。b)の塗装だけは、外部の協力会社に外注している。
手始めに本社から輸入した完成品を販売し、当地で売れる商品を選別した。その後、当地での製造を開始したかたちだ。当社の椅子は、主にオフィスや大学、病院などに販売している。

ACES JAPAN・イサコフ社長(ジェトロ撮影)
質問:
ウズベキスタンへの展開を決めた理由は。
答え:
3つある。(1)ウズベキスタンでは、人口が年間およそ100万人増えている、(2)同国のオフィス家具は、輸入に頼っている、(3)同国からカザフスタン、キルギスなど、ほかの中央アジアの国に輸出できると考えた、ことだ。
特に(2)については、現地生産すると「メード・イン・ウズベキスタン」として、国内ですでに流通している中国製と差別化しやすいと考えた。現在、ビジネスセンターや外資系企業のオフィス、私立大学が増えていることも、ビジネスチャンスと考えている。
質問:
ウズベキスタンでの製造開始にあたって大変だったことは。
答え:
日本からの溶接機械の輸入だ。
現地機材と比べて耐用年数が長い点(ただし、高価)と、トラブルの際に同機器を使用する本社と連携できる点が魅力で、パナソニックの最新機材を導入した。しかし、ウズベキスタンへの輸入の際、規制対応が大変だった。2025年3月末に機械が同国に到着したものの、輸入通関の諸手続きがすべて終わるまでに半年かかった。とくに適合証明書の発行については、品目コードによって担当機関が変わる。まず該当する品目コード、次に証明書発行機関を突き止めるだけで長時間かかった。

工場内の様子(ジェトロ撮影)
質問:
会社として力を入れている取り組みはあるか。
答え:
当地で工業規格を普及する課題に取り組んでいる。
ウズベキスタンでは、国際標準化機構(ISO: International Organization for Standardization)をはじめに、さまざまな国の工業規格を翻訳し導入している。しかし、オフィス家具に関しては輸入時に十分、試験できていない。そのため当社では、オフィス家具の試験場を当地に作ることを目標に、技術規制庁でのプレゼンなどしている。
将来的には、ウズベキスタン政府やウズベキスタン家具協会と連携し、しっかりと試験できる体制を整備したい。そうすることで、顧客が「合格した製品」「不合格製品」を明確に区別できる仕組みを構築したいと考えている。
質問:
現地協力会社との関係で大変だったことは。
答え:
「日本品質」について理解を得ることだ。現在、骨組みの塗装はタシケント市内の工業団地に入居する協力会社に依頼している。しかし、完成品の不良品率は当初、60%近くに及んだ。非常に高く、改善に苦労した。
手始めに、塗装されたパーツを1個ずつ協力会社と一緒に確認し、成功物だけを梱包(こんぽう)するように指示した。次に、梱包の際は布で保護するように依頼した。経験がないと断られたが繰り返し「日本品質」の考えを説明することでようやく理解を得た。
今でも「報・連・相」がない。そのため、毎回まめに連絡をいれ、不良品がないかなど、確認している。

普段見えない座面裏の縫製にも細心の注意を払う(ジェトロ撮影)
質問:
部品の現地調達率を上げるつもりはあるか。
答え:
ある。現状、座面のウレタン以外の全部品を日本から調達している。しかし将来的には、日本製と同等の品質をもつパイプや樹脂部品を現地調達したい。これにより、製造コストの削減やサプライチェーンの効率化につながると期待している。
質問:
現地で、従業員をどう育成し、どう技術指導しているか。
答え:
ウズベキスタン人の工場長は、ノーリツイス本社で採用。本社工場で3年間勤務して習得した製造方式を、ウズベキスタンで指揮している。残り2人の製造担当者にも、日本で1カ月間の研修を実施する予定だ。
将来的には、従業員全員に日本で研修を実施し、日本式で人材を育成していきたい。

ウズベキスタン家具展示会(2025年9月)に出展(ACES JAPAN提供)
質問:
ウズベキスタンでの製造を検討する日本企業にアドバイスを。
答え:
当地進出を果たす上では、人材が要になる。事業を通じて、日系企業として一緒に仕事をする人材を育てることが大切と実感した。
ウズベキスタンで一緒に働く人材を育てるには、時間も費用もかかる。そのため、ウズベキスタン人を採用する際は、まず日本で人材を育成し、事業を理解してもらった上で、当地で従事してもらうことをお勧めする。また、ウズベク側パートナーとの懸け橋になり、しかも日本語が話せる当地人材がいると心強い。
執筆者紹介
ジェトロ・タシケント事務所
竹内アイシェギュル(たけうち あいしぇぎゅる)
2023年、ジェトロ入構。本部ビジネス展開課にて国内外での投資フォーラム運営、モンゴル事業などを担当。2025年7月から現職。ウズベキスタンを中心とした中央アジア地域の事業運営や調査を担当。