世界を目指す吉野機械製作所(日本)
千葉発の板金機械メーカーの挑戦
2025年11月11日
千葉県千葉市を拠点に、板金工作機械を設計・製造する吉野機械製作所
。同社は、油圧を一切使用せず、サーボモーター駆動で板幅6メートルの大型規格の板金加工が可能なプレス機械を主力製品とする。モーター駆動のプレス機械は海外でも増えているが、同社の機械は、世界最大規模の板金加工が可能な点が特徴だ。
同社の海外展開に向けた取り組みや姿勢、国際競争環境下における経営戦略について、吉野友章代表取締役兼最高経営責任者(CEO)に聞いた(取材日:2025年8月27日)。

技術革新と海外展開を両輪に挑戦
吉野機械製作所は、技術革新と海外展開の両輪による成長を目指している。主力最新製品は「YSP-R」と呼ばれる板金の自動曲げシステム(プレスブレーキ)だ。電動化により、従来の油圧駆動式プレスブレーキと比較して、消費電力が4分の1に削減できるほか、稼働時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから脱炭素化にも貢献できる。また、図面データを取り込むことで、加工工程を自動で最適化することができる。それにより、一般的に3、4日かけて作業内容や動作を機械に手動で設定する作業の手間が省けると同時に、ミクロン単位での加工や複雑な形状の加工が可能になる。
自社での開発だけでなく、外部機関と連携による製品改良や業務効率化にも力を入れている。例えば、東京大学発のベンチャー企業とともに、機械の動作データや操作履歴を人工知能(AI)に学習させ、異常の兆候やメンテナンス方法を対話形式で提案する支援システムを共同開発。機械の保守作業の効率化や故障予防に活用している。
同社は、海外展開にも積極的だ。ジェトロの「『新輸出大国コンソーシアム』専門家(パートナー)による海外展開ハンズオン支援」を通して、欧州への販路拡大に着手している。また、「FABTECH Chicago 2025」(北米最大の金属形成・加工組立・溶接・仕上げ加工イベント)や、「METALEX」〔ASEAN最大級の工作機械・金属加工技術関連展示会/タイ・バンコクで開催〕に出展参加するなど、精力的に販路先の拡大を図っている。

付加価値・人材・世界への挑戦―成長を支える3つの視点
同社は中小企業として、主に3つの視点から工夫している。狙いは、限られたリソースの中で、最大限の成果を得るところにある。
- 付加価値の創造:
現在、低コストで類似機械を製造・販売する海外の競合企業が増えている。事実、ベトナムや中国の企業が、同様の製品を安価で販売している。価格勝負では太刀打ちできないと、吉野氏は語る。
そのような中、「選んでもらえる」企業であり続けるために、付加価値の創造に努めている。具体的には、板金工作機械のオーダーメイド生産に対応し、発注元の依頼やニーズに応えることで同社製品を選んでもらえるよう、付加価値を高めている。大半の大手企業は、量産できるよう特定の規格に準じて製造機械を開発・設計する。一方で同社は大手企業が着手しないオーダーメイド生産に注力し、企業価値を高めている。発注元の依頼やニーズを正確に捉えるためには、失敗を重ねながら、さまざまな規格の機械の設計・開発・製造を繰り返すことが大事という。 - 働きやすさを支える企業の取り組み:
同業界で継続的にニーズを捉えながら成長を遂げるためには、国際競争の中で多少の無理をしてでも仕事を受けたり、時にはリスクを伴って判断する必要がある。その結果、従業員への負担も少なからず発生してしまう。
もっとも、同社では社員の働きやすさを最も重視している。実際に、吉野氏の就任前、赤字業績に伴い、長時間労働が常態化し、若手人材の離職が発生した時代があった。そこで吉野氏は全ての部署で現場目線から社内・業務環境の課題を見つけ、改善に着手した。給与制度を見直し、一部のベテラン社員の待遇を変更することで、若手へも報酬として再配分する仕組みを築いた。
さらに、社員の会社への貢献意欲を図るため、エンゲージメント調査を実施している(注)。業務や社内環境に関して、社員から不満の声が寄せられたこともあった。吉野氏は「不満を聞くのはショック」としつつ、「社員に無理させず、社員をいたわるための機会」として前向きに捉えている。社員の声を踏まえ、飲み会やビンゴ大会、バーベキューなどを開催し、社員との積極的なコミュニケーションを図っている。その結果、社員同士および社長と社員の間で情が生まれ、自然とお互いを助け合う関係ができている。
企業の成長を支えるのは人材だ。社員の声が社長や経営層に届くという環境を築き、社員の心理的安全性と信頼を確保するよう取り組んでいる。 - 将来を見据え、世界に挑戦:
日本の中堅・中小企業にとって、海外展開を目指すのは決して容易でない。吉野氏は「日本の人口減少やそれに伴う市場縮小など、企業がコントロールできない側面がある。そのことを認識すると、(企業が)成長するための方法は世界へ出ることと自ずと考えるようになる」と、海外市場への挑戦の理由を話す。
さらに「世界のことを日本の中で学ぶには無理がある。世界に出ることで当初の計画を大きく変えざるを得ないこともあるにせよ、その変化が良い変化である可能性も十分にある。学びも多い」と語る。
吉野氏とのインタビューを通して、変化を前向きに捉え、その変化を受け入れる同社の柔軟な姿勢がみえた。

- 注:
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同社は、中小企業基盤整備機構が提供するサービス(成長加速化トータルサポート・成長企業伴走支援の一環「人材定着・開発簡易診断事業」
)を活用して、エンゲージメント調査を実施。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部調査企画課
椎名 佑介(しいな ゆうすけ) - 2020年、ジェトロ入構。対日投資部・対日投資課、対日投資部・外国企業支援課、イノベーション部ビジネスデベロップメント課、仙台事務所を経て、2025年から現職。




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