多様性を捉え、ブランドストーリーのPRを
マレーシア化粧品市場(1)

2025年3月19日

マレーシアでは、情報化社会の進展により、メイクアップやスキンケアに関する知識が浸透し、化粧を楽しむ人が増えつつある。また、民族ごとに異なる美意識が市場に多様性をもたらしている。新型コロナ禍を経て、急速に成長を遂げるマレーシアの化粧品市場について、売り手と買い手双方へのインタビューからトレンドを探る。前編では、売り手であるマレーシアの化粧品メーカーや小売店などの業界関係者へのインタビューから見えた、現地消費者の美容・メイクアップ習慣や近年のトレンドを紹介する。

マレー系はメイクアップ、中華系は素肌のケアを重視

マレーシアの消費トレンドをつかむ上で、多民族国家であることは見逃せない前提条件となる。国民の約6割を占めるマレー系と2割弱を占める中華系では、美容・メイクアップ習慣や購入トレンドに違いがある。

マレー系は頭からヒジャブを被り、肌の露出がない服装を身に着けるため、メイクアップにおいて顔が唯一の表現部位となる。そのため、アイメイクやリップを中心としたポイントメイクを重視する傾向にある。化粧の濃さのレベルには個人差があるものの、地肌の色と合う濃いメイクが主流である。メイクはTPO(時、場所、場合)に応じて異なるが、イベントなどでの外出時は特にしっかりとメイクを行うという声が化粧品メーカー各社から聞かれた。一方で、1日5回の礼拝時にはメイクを落とす必要があり、日の出前と夜の礼拝を除けば、1日に最大3回のメイク直しをする計算となる。頻繁にメイクを落とす必要がある一方、暑くて汗をかきやすい気候のため、化粧品メーカーA社では、長持ちを訴求した化粧品やメイクキープスプレーが売れ筋だという。

マレー系では、スキンケア商品への需要も高まっている。以前は化粧下地なしでメイクをする人も見られたが、SNSを通じてメイクアップに関する知識が普及し、化粧下地が肌への負担軽減やメイクの長持ちの観点から重要であるという認識が高まった。

中華系では、健康的でナチュラルな素肌が好まれる。そのため、日常の生活や仕事においてはメイクをしないが、パーティや特別な場では軽めのメイクを取り入れる傾向がある。メイクアップの場面は限られる一方、内からきれいにする考え方が根付いているため、スキンケアを重視する。

スキンケアに関しては、マレーシアが車社会であることから、エアコンによる乾燥が起こりやすい。このため、従来から需要が高い美白に加えて、保湿への関心も高まっていると、マレーシアで日本商品の販売やマーケティング支援を行う、ふぁん・じゃぱんの五木田貴浩氏は指摘する。また、日差しが強いため、シミ予防のビタミンC誘導体配合の保湿クリーム、UVケア商品は民族に関係なく共通して人気が高い。また、スキンケア商品ではつけ心地も重視されており、べたっとした商品よりも、さらっとした商品の方が好まれる傾向にある。

競争が激化する化粧品市場、韓国系に加え中国系ブランドの参入も

マレーシアの化粧品市場への参入は、2000年代前半には欧米ブランドが主流だったが、昨今はブランド国籍が多様化している。日本ブランドもスキンケアを中心に市場で地位を築いており、ビオレ、ハトムギ化粧水などが人気を集めている。また、資生堂、コーセー、カネボウ化粧品、マンダムなどの化粧品メーカーはマレーシアに販売拠点を置き、メイクアップも含めて、それぞれの商品ラインナップを展開している。


ドン・ドン・ドンキのハトムギ化粧水売り場(ジェトロ撮影)

これらの日本の化粧品は百貨店やショッピングモール、ドラッグストアなどで販売されている。特にマレーシアでは、ドラッグストア事業に日本企業も参入している。「アインズ&トルペ」は2022年5月にマレーシアへ進出し、2024年12月時点で4店舗に拡大した。スギホールディングスも現地薬局チェーンのアルプロ・ファーマシー・グループと合弁でドラッグストア「スギ・アルプロ薬局」を展開している。


「アインズ&トルぺ」の店舗の様子(ジェトロ撮影)

外国籍ブランドの中でも存在感が高いのが韓国ブランドで、コロナ禍前から現在にかけて、様々なブランドが入れ替わり流入している。GuardianやWatsonsといったドラッグストアでは、韓国ブランドの化粧品を販売するK-Beautyコーナーも設けられている。韓国ブランドは、広告やテストマーケティングを徹底的に行い、ブランドの認知度向上を図っているとみられる。ある韓国ブランドの例では、第1段階でショッピングモールに出店し、消費者へのブランド認知度や知名度を高めた後に、コスト負担の大きい実店舗からEC(電子商取引)へ販売チャンネルを移行している。また、特にマレー系消費者を中心に「どのブランドを使うか」よりも「誰が使っているか」を重視する傾向がある中、K-POPアイドルやインフルエンサーを活用した、SNSでのプロモーションを強化する韓国ブランドのPR戦略が効果を発揮している。英語パッケージの採用やローカル市場向けの価格設定を行い、現地のニーズにも柔軟に対応している。

コロナ禍後のトレンドとして、中国ブランドや、TikTokショップのようなSNSを活用しながら販売を行う新興ブランドの台頭も挙げられた。特に、中国ブランドは現地市場で人気となっている韓国ブランドの商品の特徴を取り込みつつ、手頃な価格で化粧品をEC販売しているという。また、中国企業が東南アジア向けブランドを開発するケース(生産は中国)も見られ、よく売れているブランドの代表例としてSkintificがある。

多様化する購買行動、ブランドストーリーの訴求が重要

消費者の購買行動に関しては、カスタマージャーニー(商品の認知から購買行動に至るまでのプロセス)が多様化していると花王マレーシアの西巻明氏は指摘する。 そのような中で、製品そのもののPRだけでなく、売り方にも工夫が必要だとする声が化粧品メーカーおよび小売店のいずれからも聞かれた。

業界関係者からは、マレーシア特有の点として、民族によって情報収集のツールや方法が異なるとの指摘がある。SNSが主な情報収集源である点は共通しているが、年代や民族によってSNSの使用特性が異なるため、ターゲット層に合わせた情報発信が重要になる。民族の違いとして例えば、中華系は、小紅書(RED)、中国版TikTokの抖音(Douyin)、WeChatなど、中国圏でよく利用されているSNSから情報収集している。一方、マレー系は、InstagramやTikTok、Facebookなどがメインとなる。また、マレー系には、文章を入れない分かりやすい動画が好まれるが、中華系は自分に便益がある商品を求めるため、徹底的に商品紹介の説明を入れることが効果的である。当然、フォローされるインフルエンサーも民族ごとに異なる。

SNSの使い方において民族の差異はあるが、特に中華系を中心に、マレー語、中国語、英語と多言語を理解するため、あらゆる国の最新トレンドがSNSを通じて入手できる環境にあることはマレーシアならではの特徴である。

首都圏の消費者の囲い込みが第一歩、ECも重要な販売ツール

マレーシアの消費市場への参入に当たっては、首都圏での出店・販売による認知度向上が第一歩だ、と業界関係者らは口をそろえる。ここで、マレーシアの消費市場を概観する。マレーシアの人口は3,406万人(2024年8月時点)で、地域別では首都クアラルンプールおよびスランゴール州に全人口の3割弱にあたる943万人が集中している(表参照)。クアラルンプール首都圏では1カ月あたりの家計消費支出が平均6,770~7,823リンギ(約24万~28万円、1リンギ=約35円)と、全国平均と比べて高い。

国内の人口構成を見ると、年齢の中央値は30.9歳と若く、高齢化が部分的に進みつつあるものの、生産年齢人口(15~64歳)はクアラルンプール首都圏を中心に7割を超えている。

表:マレーシアの家計消費支出および人口
国・州・都市名 家計消費支出
(1カ月あたりの平均、リンギ)
人口(1,000人) 0-14歳(%) 15-64歳(%) 65歳
以上(%)
年齢中央値(歳)
マレーシア 5,150 34,058.8 22.2% 70.1% 7.7% 30.9
階層レベル2の項目クアラルンプール 7,823 2,067.5 17.4% 75.9% 6.7% 35.3
階層レベル2の項目スランゴール州 6,770 7,363.4 20.9% 71.0% 8.1% 33.3
階層レベル2の項目マラッカ州 5,707 1,047.1 22.3% 70.9% 6.8% 30.5
階層レベル2の項目ジョホール州 5,342 4,186.3 21.8% 70.8% 7.4% 30.6
階層レベル2の項目ペナン州 5,322 1,800.4 18.7% 73.3% 8.0% 33.2
階層レベル2の項目トレンガヌ州 4,796 1,232.1 27.9% 66.0% 6.1% 27.1
階層レベル2の項目ヌグリ・スンビラン州 4,678 1,240.1 23.8% 68.6% 7.6% 30.9
階層レベル2の項目パハン州 4,107 1,668.2 23.9% 69.3% 6.8% 29.7
階層レベル2の項目サラワク州 3,915 2,518.1 20.1% 71.2% 8.7% 32.3
階層レベル2の項目ペラ州 3,903 2,569.6 21.2% 68.9% 9.9% 31.8
階層レベル2の項目クダ州 3,765 2,217.5 24.1% 66.8% 9.1% 29.3
階層レベル2の項目クランタン州 3,505 1,888.5 28.3% 64.7% 7.0% 25.6
階層レベル2の項目サバ州 3,342 3,742.2 23.8% 70.0% 6.2% 27.4

注1:家計消費支出は2022年、人口は2024年8月時点。
注2:人口規模が100万人以上の州・都市を抜粋した。
出所:マレーシア統計局のデータを基にジェトロ作成

また、首都圏において、実店舗での販売を想定すると、出店地域の特性を入念に検討することが重要である。とりわけ首都圏には多数ショッピングモールがあるが、地域ごとに特徴があるため、商品のターゲット層が集まるエリアでの出店が望ましい。例えば、中心部のブキッ・ビンタンにあるモールであれば一般的に、観光客の割合が高い。一方で、ミッドバレー周辺は家族連れを中心とした地元民、隣接するスランゴール州スバンジャヤ周辺は大学が集積しているため学生を中心に若年層が多いなど、地域ごとに特色がみられる。

他方、ShopeeやLazadaといったECサイトは、首都圏だけでなく地方の消費者にもリーチする上で重要なツールとなる。マレーシア統計局によると、世帯によるインターネット・アクセス率は2023年時点で96.4%、地方でも89.8%にのぼる。同時にスマートフォンが利用できる世帯も97.6%で、地方でも94.1%と多くの国民がインターネットおよびスマホを利用できる環境にある。コロナ禍に急速に普及したECは、コロナ禍後もある程度定着し、重要な生活インフラの1つとして役割を果たしている。

日本製への品質イメージは安定も、消費者に響くストーリーが重要

一般的に、マレーシア国内では日本製品の品質は高いと認知されているが、近年は中国製品なども品質が良くなってきており、「メード・イン・ジャパンだけでは勝てない」と指摘する(化粧品メーカーA社)。消費者にとっては、品質の差が縮まっており、良い意味で商品の選択肢が増えている。そうした中で、日本製品を選択してもらうためには、品質だけでなく、ブランドのコンセプトやストーリーを明確に打ち出し、消費者のブランドロイヤリティを高める工夫が求められる。

また、日本から商品を輸出して現地で販売する場合は、現地の輸入代理店や販売店などとの協力が欠かせない。その場合、プロモーションを現地に任せるのではなく、自ら売り込んでいく姿勢が重要になる。

マレーシア化粧品市場

  1. 多様性を捉え、ブランドストーリーのPRを
  2. 消費者に聞くスキンケア・メイク事情
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課(2015~2018年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(2018~2019年)を経て現職
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
近藤 皐平(こんどう こうへい)
2018年、TOKAIコミュニケーションズ入社。
2024年からジェトロに出向。