ランニングブームと差別化戦略でチリでの成長を加速するアシックス

2025年10月6日

2017年にチリに進出したスポーツ用品メーカーのアシックス。近年の好調な業績を背景に、直営店の店舗数を2023年の4店舗から現在の9店舗まで拡大させており今後も拡大を検討している。同社の取り組みについて、アシックス・チリを統括するシニア・マネージャーのレオナルド・ゴンサレス氏にこの成功の要因と南米における今後の展開について話を聞いた(インタビュー実施日:2025年8月26日)。

質問:
チリにおける貴社の成功要因は。
答え:
1つの大きな要因は、ランニングをする人が増加していること。ランニング人口の増加は、コロナ禍で人々が健康とウェルビーイングの重要さに気づいたことが背景にある。また、人々は運動がメンタルウェルビーイングを実現する上でも重要であることを理解した。こうした背景から、ランニングは気軽で身近な、社会に受け入れられるスポーツとしての地位を確立した。加えて、当社がランニングイベントやレースへの投資を拡大していることも、ランニング人口が増え、当社商品への関心が高まる好循環が生まれる要因となっている。
質問:
チリではどのような特徴を打ち出しているか。
答え:
当社の強みは、高品質と技術力を重視する日本ブランドであることだ。また、アシックスのコア製品がランニングシューズであるため、さまざまなタイプのランナーに合わせた機能性の高いシューズを提供していることも特徴だ。日本発祥であること、技術力があること、そしてランニング製品への注力という組み合わせが、他のグローバルブランドとの差別化要因となっている。
質問:
貴社の主な客層は。
答え:
男女比としては、約6割が女性で約4割が男性だ。チリの他のスポーツブランドでは顧客の女性比率は約3割程度であるため、女性比率が大きいというのはアシックスの特異な点といえる。年代別では、約4割が30~39歳、約3割が40~49歳、約2割が20~29歳となっているため、30~40代が重要な顧客層となっている。
質問:
商品はどのように調達しているのか。
答え:
チリで販売している商品は、東南アジアなどの工場から輸入している。チリは東南アジアを含む多くの国と貿易協定を締結しているため、輸入の際は協定を活用し、関税が低減されている。
質問:
実店舗とEコマースの売上比率はどの程度か。
答え:
消費者との直接取引(Direct To Consumer:DTC)では約7割が実店舗、残りの約3割がEコマースでの売り上げだ。チリでの当社の知名度はまだあまり高くないため、実店舗での売上比率が高い傾向がある。売り上げ拡大にあたっては、より顧客に近いスポーツ用品チェーンのスパルタ(Sparta)や大手ショッピングモールのファラベラ(Falabella)などとも協力してプロモーションを実施している。これにより、チリ全土でより幅広い顧客層にリーチし、購買意欲を高めている。
質問:
新規顧客獲得にあたってはどのような取り組みをしているか。
答え:
各種イベントを開催して、新規顧客獲得に努めている。8月3日にはサンティアゴでアシックス・ゴールデン・ランというランニングイベントを開催し、約4,000人が参加した。2025年内にあと6つのランニングイベントを開催予定で、それぞれ2,000~4,000人が参加予定だ。これらのイベントは、ランニングというスポーツの普及活動であるだけでなく、ランニングをはじめる人々にとって、アシックスというブランドをより身近なものにしている。
質問:
チリの消費者はスポーツシューズを買う際に、どのような点を重視しているのか。
答え:
自社で調査したところ、着用時の快適さが最も重要視されていることがわかった。次いでブランド、デザイン性が重要とみられている。デザイン面でチリ人に好まれるポイントは、赤やオレンジ、紫など鮮やかな色であることが挙げられる。この点では、アシックスの製品は歴史的に非常に美しいデザインで知られている。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ)
2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。