2024年の新車販売は前年比9.2%増、過去最高水準に(モロッコ)

2025年7月3日

モロッコ自動車輸入者協会(AIVAM)によると、2024年のモロッコの新車販売台数(乗用車と小型商用車の合計)は前年比9.2%増の17万6,401台だった。過去最高を記録した2018年の17万7,357台とほぼ同じ水準まで回復した。AIVAMは回復の背景として、不確実な環境にもかかわらず予想を上回った経済成長や、好調な観光業に牽引された短期レンタル分野の影響などを挙げた。

販売台数1位のダチアは前年比16.3%増、2位ルノーも5.1%増

AIVAMによると、2024年に最も売れた乗用車ブランドは前年同様、ダチアで、前年比16.3%増の3万9,331台だった。2位以下は前年同様、ルノーの2万3,697台(5.1%増)、現代の1万1,898台(14.3%減)、プジョーの1万517台(12.5%減)と続いた。トヨタが上位10社から脱落した一方、前年に続いて7位を維持したシトロエンが28.9%増の7,634台となった(表1参照)。AIVAMは、2024年はサプライチェーンの正常化に伴い、全体的に業績が拡大したと指摘している。特に、好調な観光業に牽引された短期レンタル分野の好調さに伴い、レンタカーは前年に比べて13%増加し、市場の35%を占めた。

表1:2024年のモロッコの乗用車(新車)販売台数 (単位:台数、%)(△はマイナス値、-は値なし)
2023年
順位
2024年
順位
メカー・ブランド 2023年
販売台数
2024年
販売台数
前年比 2024年
シェア
1 1 ダチア  33,830 39,331 16.3 25.0
2 2 ルノー  22,553 23,697 5.1 15.1
3 3 現代 13,884 11,898 △ 14.3 7.6
4 4 プジョー  12,026 10,517 △ 12.5 6.7
5 5 フォルクスワーゲン  8,699 10,336 18.8 6.6
6 6 オペル 7,308 8,054 10.2 5.1
7 7 シトロエン 5,923 7,634 28.9 4.9
8 8 起亜  5,328 5,259 △ 1.3 3.3
10 9 アウディ 4,432 4,663 5.2 3.0
11 10 フィアット 4,069 4,614 13.4 2.9
その他  27,240 31,136 14.3 19.8
合計  145,292 157,139 8.2 100

出所:AIVAMの統計を基にジェトロ作成

2024年の小型商用車の販売台数1位はルノーで4,651台(前年比19.2%増)、2位はフォードの2,547台(31.8%増)、3位はフィアットの2,146台(15.4%増)だった。前年2位だった中国の東風小康汽車(DFSK)が1,968台(22.1%減)の4位に後退した一方、インドのタタが734台を販売し、5ランク上昇の9位となった。小型商用車全体の売り上げは前年比18.8%増加した(表2参照)。AIVAMは、観光輸送部門で未払い金の清算が進み、人員輸送が拡大したことが成長を押し上げたとしている。

2024年のプレミアム市場(注)の乗用車販売に占める割合は10.6%で、1万6,606台(前年比6.9%増)だった。同市場は引き続き堅調な伸びを示した。ブランド別では、ドイツのアウディ、BMW、メルセデス・ベンツのトップ3は前年から変わりなく、首位のアウディが4,663台(同5.2%増)、2位のBMWが4,452台(27.1%増)、3位のメルセデス・ベンツが3,033台(14.2%増)と拡大した。それ以外では、7位のポルシェが前年比48.4%増、11位のレクサスが9.1%増と堅調な伸びをみせた。

モロッコの自動車市場で圧倒的に支持されているのはディーゼル車だ。販売割合をみると、ディーゼル車は80.5%(2020年比10ポイント減)、ハイブリッド車(HEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)を含むガソリン車は18.8%(同9.9ポイント増)、電気自動車(EV)は0.6%だった。EV、HEVおよびPHEVを合計した新エネルギー自動車(NEV)の2024年の販売実績は前年比53.6%増の1万1,134台(うちEVは463台から1,125台へと2.4倍)に拡大し、NEVは市場シェア全体の6.3%に達したが、EUの58%に比べると小さなシェアにとどまっている。2023年の13メーカー、27モデルから、2024年は18メーカー、40モデルに増加した。EVの売り上げトップ3は、ダチア、BYD、ボルボだ。このほか、HEVはトヨタ、現代、ルノー、PHEVはBYD、ランドローバー、BMWの順となっている。

表2:2024年のモロッコの小型商用車(新車)販売台数 (単位:台数、%)(△はマイナス値、-は値なし)
2023年
順位
2024年
順位
メーカー・ブランド 2023年
販売台数
2024年
販売台数
前年比 2024年
シェア
1 1 ルノー 3,902 4,651 19.2 24.1
3 2 フォード 1,932 2,547 31.8 13.2
4 3 フィアット 1,860 2,146 15.4 11.1
2 4 DFSK 2,525 1,968 △ 22.1 10.2
5 5 トヨタ 1,643 1,863 13.4 9.7
6 6 三菱 1,358 1,529 12.6 7.9
7 7 現代 1,094 1,189 8.7 6.2
10 8 メルセデス 490 772 57.6 4.0
14 9 タタ 0 734 3.8
9 10 プジョー 504 692 37.3 3.6
その他  904 1,171 29.5 6.1
合計 16,212 19,262 18.8 100.0

出所:AIVAMの統計を基にジェトロ作成

自動車生産は4.4%増、ルノーは過去最高更新

国際自動車工業連合会(OICA)によると、2024年のモロッコの自動車生産台数は前年から4.4%増の55万9,645台(乗用車52万4,467台、小型商用車3万5,178台)だった。新型コロナウイルス禍による減産から増産軌道に回復した前年からもさらに拡大した。

タンジェとカサブランカの工場でダチアブランドなどを生産するルノー・グループの2024年のモロッコでの生産台数は前年比8.1%増の41万3,614台と、過去最高を更新した。工場別にみると、タンジェ工場で9%増の31万2,381台、カサブランカ工場で7%増の10万1,233台だった。タンジェ工場では2024年、モロッコ初のHEVのダチア「ジョガー」の生産も開始した。ルノー・グループが生産する約9割は輸出向けで、同グループは生産・物流拠点としてのモロッコの機能を一層強化している。モロッコで生産した車両は欧州、アフリカ、中南米など89カ国に輸出されており、中でもダチア「サンデロ」は欧州の乗用車市場で圧倒的なシェアを誇り、2017年以降、継続的な成長をみせている。同グループは、モロッコ自動車産業のエコシステム発展を推進しており、同国のサプライヤーとの連携拡大により、現地生産率は65.5%、現地調達による収益は20億6,000万ユーロに達している。2016年以降、現地パートナーの数は26社から88社へと大幅に増加し、同国の自動車産業の経済効果を高めている。同グループは現地調達率を2030年までに80%に引き上げることを目指しており、2025年には新たなエンジニアリングセンター「ルノー・テクノロジー・モロッコ」も開設する計画だ。

ステランティスは販売網拡大

ステランティス(旧PSA)はモロッコでプジョーのコンパクトSUV(スポーツ用多目的車)「208」、シトロエンの小型EV「アミ」、その姉妹車のオペル「ロックスe」、フィアット「ティポリーノ」を生産する。生産台数は公表されていないが、3,800人以上が雇用されるケニトラ工場は20万台の生産能力を誇り、生産量の約半分はフランス向けとされる。ステランティスは2024年7月、モロッコ国内販売店で王族系財閥グループ企業アル・マダの子会社ソプリアムを買収すると発表した。これにより、同グループは、プジョー、シトロエン、DSオートモービルズの各ブランドに加え、グループ以外のブランド(フィアット、アバルト、ジープ、アルファロメオ)についても、自社の販売網を通じてモロッコでの輸入・販売拡大を図っている。

現在、モロッコにおけるステランティスの多様なプレゼンスは、広範な販売網や、カサブランカでのモビリティーソリューションに特化した初のアフリカ・テクニカル・センター(ATC)の設立などによって実証されている。ケニトラ工場の持続的な成長も見込まれており、同工場の生産能力は2027年までに倍増し、40万台に達する予定だ。2030年までには年間生産能力を100万台、現地生産比率を90%以上に引き上げることを目指している。


注:
プレミアム市場:アルファロメオ、アウディ、BMW、DS、ジャガー、ジープ、ランドローバー、レクサス、メルセデス・ベンツ、ミニ、ポルシェ、ボルボ。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
和泉 浩之(いずみ ひろゆき)
1999年、ジェトロ入構。本部(東京)では、海外調査部、農林水産食品部などに所属。2014年から2年間、農林水産省食料産業専門官。国内ではジェトロ三重、ジェトロ北海道、海外ではジェトロ・ブリュッセル事務所での勤務を経て、2025年3月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
ファティマザハラ・ベルビシュ
2017年からジェトロ・ラバト事務所に勤務。経済・産業・市場調査、商談会業務などを担当。