米国食品市場のトレンドを探る
Expo West 2025の動向とトレンド
2025年7月7日
米国カリフォルニア州アナハイムで2025年3月4~7日に開催された「ナチュラル・プロダクツ・エキスポ・ウェスト(Natural Products Expo West)」(以下、Expo West)は、米国の小売市場における製品のトレンドや、スタートアップによる新しいナチュラル製品の発表の場として、2025年も大きな注目を集めた。本稿では、Expo West 2025の動向と注目を集めていた製品を通じて、米国マーケットのトレンドと状況を探る。
食品展示会としては米国最大級
主催者によると、2025年3月のExpo Westでは、カナダ、韓国、メキシコなどの123カ国から、3,000以上のブランドが製品を出展し、来場者は6万4,000人を超えた。出展者の約30%は初出展であり、来場者の約3分の2はバイヤーだったという。表のとおり、来場者・出展者数はパンデミック前の水準には及ばないものの、2023年以降、安定的に推移している。米国における食品の展示会では、2025年1月にラスベガスで行われたウィンター・ファンシー・フードショー(Winter Fancy Food Show)(注1)の来場者数は1万2,000、出展者数は1,100、2024年6月のニューヨークのサマー・ファンシー・フードショー(Summer Fancy Food Show)の来場登録数は2万9,000、出展者数は2,400以上であり、Expo Westは来場者数・出展者数ともに米国において最大規模といえる。
項目 | 2018年 | 2019年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
---|---|---|---|---|---|---|
来場者数 | 85,000 | 86,000+ | 57,000+ | 65,000+ | 65,000+ | 64,000+ |
出展者数 | 3,521 | 3,600+ | 2,700+ | 3,000+ | 3,300+ | 3,000+ |
注1:2020年は新型コロナウィルスにより中止、2021年はオンライン開催のため来場者数・出展者数は非公開。
注2:表中の「+」は以上を示す。
出所:Expo West

食品・飲料以外の分野の最先端製品やトレンドも展示
Expo Westの特徴は、食品・飲料にとどまらず、サプリメント、パーソナルケア、ライフスタイルなどさまざまなカテゴリーにおける最先端製品やトレンドを展示していることだ。さらに、マーケットリーダー企業、インフルエンサーやスタートアップなどによる講演やセッションが毎日行われているほか、ウェルネスをテーマにしたネットワーキングなど多様なイベントが行われていることで、他のイベントとは一線を画す存在となっている。
3,000以上の出展者のなかでバイヤーの目に留まるには、目立つ仕組みが必要である。自社の商品イメージをわかりやすく訴求するブースデザインの工夫に加え、事前のプレスリリースやSNSでの情報発信などを行っている企業が多かった。D2C(Direct to Consumer)のEコマースを主な販路とする企業のなかには、ショッピングバッグやキャップなどのノベルティを配布し、ブースに人を集めている企業もあった。
ウェルネス飲料、機能性&代替食品などが拡大する一方、インターナショナルフレーバーに注目集まる
(1)ウェルネス飲料の多様化
機能性飲料、ノンアルコール、発酵飲料など多様なウェルネス飲料(注2)がみられ、飲料のみで140以上のブースが出展した。そのなかでも、多くの人を集めていたのは、エブリデイ・ドーズ(Everyday Dose)だ。2021年創業の同社は、機能性キノコ、コラーゲン、ヌートロピクスと言われる認知機能向上成分を組み合わせたマッシュルームコーヒーを展開。コーヒーのような味わいで、カフェイン・クラッシュなどの反応を抑えつつ、集中力、免疫、腸と肌の健康をサポートすることをコンセプトとしている。

(ジェトロ撮影)

また、調査会社のイーマーケターによると、米国で2024年に大きく拡大したノンアルコール分野も出展が目立った。2022年創業のスタートアップであるベスト・デイ・ブリューイング(Best Day Brewing)は、ノンアルコールビールを提案するブランドだ。通常のクラフトビール同様に醸造したのち、低温でアルコールを除去するため、風味や香りが保持されるという。原料は全て自然素材を使い、Non-GMO(非遺伝子組み換え)、ヴィーガン対応により製造されている。
さらに、腸内健康飲料を販売するブルーム・ニュートリション(Bloom Nutrition)は、プロバイオティクス(注3)を配合した健康志向の機能性ソーダ飲料「ブルームポップ」を発表。低カロリーかつ1缶(355ミリリットル)当たり糖質は4グラム以下で、ラズベリーレモンなどのフレーバーが楽しめる商品を、2025年9月にウォルマートなど大手小売店で販売開始するとし、注目を集めていた。
(2)機能性スナックの進化
機能性をうたったスナックも出展が目立った。モッシュ(Mosh)は、脳の健康をサポートするバータイプのスナックでExpo Westに初出展し、新たなフレーバーをPRした。同社の商品は、脳の健康に効果があると言われるコグニジン、ライオンズメイン、アシュワガンダ、オメガ3、ビタミンB12・D3などを含んでいることが大きな特徴だ。さらに、購入した商品の一部がアルツハイマー病の研究資金に寄付されることをうたっている。
スナック類においても、プロテインを含む商品の出展が目立った。カナダのスタートアップであるプラント・アップ(Plant Up)は、1袋当たり約13グラムのプロテインを含むボール状のスナックを開発、カナダ政府からの補助金をベースに事業を開始し、米国内での販売を目指している、と語った。バイヤーからの反応も良く、セールス担当者は「米国での販売に向けて準備を進めており、1袋当たり4.99ドルが目標の販売価格だ」と述べた。

(3)多様な代替食・プラントベースフード
肉、魚、バター、牛乳、ヨーグルト、卵など動物性食品の代替食やアレルギー食材の代替食は67社が出展した。ココナッツミルクを使ったヨーグルト、麦のファイバーから抽出したミルク、コーンベースのミルク、コーンフリーをうたったライスポップコーン、グルテンフリーに加えて穀物を一切使わないパンなど、幅広いカテゴリーで提案されていた。
エシカルでサステナブルなココナッツを活用したココナッツウォーターを販売するサンフランシスコのハームレス・ハーベスト(Harmless Harvest)は、新たにココナッツの果肉を利用したヨーグルトを発表。同社のココナッツウォーターはすでに消費者に支持されており、来場者の関心を集めていた。
また、米国の代替ミルク市場は、アーモンドミルク、オーツミルクが牽引しているなか、亜麻仁(アマニ)油から抽出したミルクやコーンから抽出したミルクなども出展された。マイズリー(Maïzly)は、世界初のコーンベースの食用ミルクを発表した。現在はオンラインでの販売が中心で、今後、全米に販売を広げる意向だ。

(4)インターナショナルフレーバーにも注目
Expo West 2025では、外国企業も多く出展していた。米国とカナダを除き、中国、韓国、タイ、インド、イタリア、トルコ、ブラジルからの出展が目立った。日本からは17社が出展し、日系企業ではマルコメ、ひかり味噌、森永(乳業の米国法人)、オタフクソース、KIMINOなどが参加していた。さらにシンガポール、インドネシア、インドなどは国別のパビリオンを出展していた。 インターナショナルフレーバーに注目が集まる背景には、TikTokなどのSNSやソーシャルコマースの定着により、Z世代(注4)を中心に、他国の料理や食材にこれまで以上に注目が集まりやすくなっていることが挙げられる。例えば、抹茶、チーズトッポギ、ドバイチョコレートなどはTikTokで大きな反響を呼んだ。さらに、味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)、コチュジャンなどはスナックでも取り入れられることが多くなり、インターナショナルな味が、「エギゾチック」から、抵抗なく手に取りやすい「コンフォート」に移行しつつある。米国大手流通のホールフーズ(Whole foods)や米国小売りチェーンなどに多く販路を有する大手ディストリビューターのケーヒー(KeHE)などが発表した2025年のトレンド(注5)にも、「インターナショナル」の味がトレンドとして挙がった。 2018年に台湾で創業したキャプテン・ダニー(Captain Danny)は、ライスポップコーンを米国で販売するため、Expo Westに初めて出展した。台湾では3年以上、日本でもカルディコーヒーファームなどで2025年から取り扱われている。Expo Westへの出展を決めた理由として、新しい商品やアイデアを受け入れてくれる素地があり、多くの米国系大手スーパーマーケットのバイヤーが来場していたことを挙げた。コーンフリー、ノンフライ、グルテンフリーを訴求したパッケージは、日本企業の参考になるだろう。

Expo West 2025では、機能性や健康を軸とした商品の進化に加え、代替食品やプラントベース、そして国際的な味覚の広がりといった多様なトレンドが確認された。特に、消費者に訴求可能な科学的根拠を伴った商品が注目を集めており、消費者の選択基準がより高度化していることがうかがえる。また、「インターナショナルフレーバー」の台頭は、米国市場が食文化の多様性や異文化体験を積極的に受け入れる段階にあることを示している。これは、海外ブランドにとっては大きな商機であるといえる。米国市場においては、商品の差別化に加え、現地のライフスタイルや価値観に即したマーケティング戦略が一層重要となる。日本企業にとっては、こうした展示会を通じて市場ニーズを的確に把握し、現地バイヤーやディストリビューター、ブローカーなどとの連携を深めることが、市場展開の鍵となるだろう。
なお、次回のExpo Westは2026年3月3~6日、同じアナハイムで開催される予定(イベント情報参照)。ジェトロは「ジャパンパビリオン」を設置し、日本産農林水産物・食品の魅力を国際的にアピールするとともに、北米市場全体への新規参入・販路拡大を目指す日本企業などを支援する予定だ。
- 注1:
- 2026年はサンディエゴで、2027年はサンフランシスコでウィンターファンシーフェア(Winter fancy faire)として実施の予定。
- 注2:
- 健康をより広義に総合的に捉えた概念で、1960年代に米国のハルバート・ダン博士が「輝くように生き生きしている状態」と提唱した定義。
- 注3:
- 十分量を摂取したときに宿主に有益な効果を与える生きた微生物。
- 注4:
- 一般的に、1990年代中盤から2010年代前半にかけて生まれた世代。
- 注5:
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Whole foods:2024年10月16日付Whole foodsニュースリリース参照
。
KeHE:2025 KeHE Macro Trends参照。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる) - 民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。