MNH、成長する海外代替コーヒー市場に「玄米デカフェ」で挑戦(日本)

2025年9月18日

国際コーヒー機関(ICO、注1)によると、コーヒー豆の市場価格は高騰しており、2025年2月には月次平均価格が過去最高値の1ポンド(約0.45キログラム)当たり3.54ドルを記録した。前年同月比で約89%の上昇だ。「コーヒーの2050年問題」(注2)への懸念が高まる中、気候変動や労働力不足などを要因としたコーヒー豆の生産減少が市場価格にも影響し始めている。この問題の解決策となり得る代替コーヒー市場は、2024年に27億ドルを超えており、2031年には53億ドルに達するとの予測もある。

MNH外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:東京都調布市)は、玄米を原料にした代替コーヒー「玄米デカフェ」を武器に、海外展開に取り組んでいる。同社の小澤尚弘取締役社長に聞いた(取材日:2025年8月13日)。


同社取締役社長・小澤尚弘氏(同社提供)
質問:
御社の概要は。
答え:
会社名である「(M)みんなで・(N)日本を・(H)ハッピーに」をコンセプトに、「玄米デカフェ」などを開発・製造・販売している。「玄米デカフェ」は、山形県庄内の工場で玄米を焙煎(ばいせん)して製造したもので、玄米の甘さと香ばしさを感じる当社オリジナル商品だ。カフェインを含まないため、幅広い顧客層をターゲットとしている。これまで、米どころ山形県産を中心に、コシヒカリ、つや姫など21種類の国産米を使った商品をリリースしており、全国の道の駅、ポップアップストア、百貨店の催事、自社の電子商取引サイト(ECサイト)などで販売している。

「玄米デカフェ」(同社提供)
質問:
海外展開のきっかけは。
答え:
同じく米由来の当社菓子「ゾンビスナック」を東京インターナショナル・ギフト・ショーに出展したところ、商社から声をかけられて海外を意識した。ただ、原材料に使っていたステビア、赤色102などの着色料が海外の食品添加物に関するポジティブリスト(使用が認可された物質のリスト)では規制対象となっており、当時ジェトロ本部にあったビジネスライブラリーを訪れて、輸出に即した製品にするため勉強を重ね、添加物を変えるなどして改良した。2018年4月にシンガポールの食品展示会FHA(フード・アンド・ホテル・アジア)にチャレンジ出展、「ゾンビスナック」と「玄米デカフェ」を持って行ったところ、「玄米デカフェ」に注目が集まった。試飲した海外の人から「コーヒーとしか思えない」とよい反応があったので、輸出主力商品に「玄米デカフェ」を据えることにした。同商品の原材料は米のみのため、「ゾンビスナック」で頭を悩ませたポジティブリストを気にする必要もなく、シンプルであることへの評価も高かった。また商品が小さいため、単価に対して輸送コストが安いので輸出に向いていたことも理由だ。
質問:
輸出に向け、取り組んだことは。
答え:
まず、2018年に「玄米デカフェ」の国内商標を登録し、その後、山形の工場で米国食品医薬品局(FDA)の認証を取得した。国内でFOODEXやジャパン・インターナショナル・シーフードショー、ジェトロの食品輸出商談会などに参加し、展示会と商談会の経験を積んだ。そのうえで2022年に、ジェトロがアマゾンと連携し実施しているJAPAN STOREプログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注3)に申し込み、米国向けに販売を開始した。米国はスターバックスやブルーボトルコーヒーの創業の地で、コーヒー文化の発信地であることから受け入れてもらえるのではないかと思ったが、あまり反響がよくなかった。そのため、他の対象国を探る必要が出てきた。そこで、ジェトロの日本産食品サンプルショールーム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注4)を利用し、香港、バンコク、シンガポールなどで商品を置かせてもらった。香港では販売予定があり、今年(2025年)はポップアップ出店の可能性も出てきている。同地は喫茶店文化のある地域なので、「玄米デカフェ」も根付いていけばと思っている。また香港経由で、中国本土への販売も視野に入ってきた。
質問:
現状は。
答え:
昨今「代替コーヒー」が話題となり、シアトルのアトモコーヒー(Atomo Coffee、注5)が、サントリーホールディングスの出資を受けて日本に進出するなど、新しい風が吹き始めた。当社も、日本スペシャルティコーヒー協会が主催する、コーヒーに特化した展示会SCAJ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどに出展し、「Coffee Alternative」や「Beanless Coffee」として商品を紹介したところ、欧州からの引き合いが多かった。欧州では従来からハーブティーなどのノンカフェイン飲料やチコリの根の代替コーヒーが生活に根付いていることもあり、健康的な代替飲料として当社商品に関心を寄せてくれた。また今年4月には、「Rice Coffee」の国内商標を登録した上で、FHAに再出展した。引き合いはシンガポールのみならず、マレーシア、ベトナム、インドネシアなど。既にサンプル100袋を有償でシンガポールに送ったほか、マレーシアでは販売が開始している。「代替コーヒーであること」が追い風になっており、現在は各国の商標手続きのほかHACCP(国際的な食品安全規格)への対応整備などを進めている。

展示会出展時の様子(同社提供)
質問:
今後の取り組みの方向性は。
答え:
ワンドリップではなく、新たな形状での輸出を検討中だ。現地視察の際、スーパーマーケットに足を運びコーヒー棚を研究した。東南アジアでは、コーヒーもティーバッグのような形状で売られており、お湯につけるタイプが多かった。展示会や商談で日本のワンドリップについて海外バイヤーに聞いたところ、使い勝手に抵抗はないと言われたものの、今後はより現地に根付くようティーバッグやペットボトル入り、インスタントなどの製品を開発中だ。また新商品「玄米エスプレッソ」も既に国内で商標権を取得し、カフェ向けに販売予定がある。今後は同商品の輸出も視野に、引き続き海外展示会に出展していきたい。そのほか、2030年開催予定のリヤド万博(サウジアラビア)では、日本館で「玄米デカフェ」を提供したいという夢を抱いている。中東にはコーヒーを振る舞う文化があり、もてなしや敬意、友情の象徴だと聞いている。ぜひ、国籍や宗教にとらわれず多くの人が楽しむことのできる「玄米デカフェ」を、さらに広めたい。

注1:
国際コーヒー協定ICA(International Coffee Agreement)の運営・管理を目的とした機構。世界のコーヒー市場に関する統計の整備など、様々な課題について協議を行っている。
注2:
地球温暖化などの気候変動の影響を受け、将来的にコーヒーの栽培・収穫量が大幅に減少するとされる問題。
注3:
日本企業の販路開拓支援のために米国や英国のアマゾンに設けている専用越境EC(電子商取引)サイト。共同でプロモーション、マーケティングを行うサービス。採択された参加事業者は出品・販売にかかるサポートを得られる。
注4:
海外の主要都市や周辺都市に、日本産食品の商品サンプルを展示・保管管理するショールームなどを設置し、海外バイヤーに随時商品を紹介することで、現地バイヤーとのオンライン商談を実施するジェトロのサービス。
注5:
代替コーヒーを製造・提供する米国のスタートアップ。コーヒー豆不使用で、スーパーフードや農業廃棄物であるデーツの種、ヒマワリの種、レモンの皮などをアップサイクルした原料を使用していることから注目を集めた。2025年8月に日本初店舗を渋谷区にオープン。
執筆者紹介
ジェトロ調査部調査企画課
樋口 彩乃(ひぐち あやの)
映画会社、海外航空会社を経て、2016年ジェトロ入構。
ビジネス展開支援部新興国進出支援課、サービス産業部ヘルスケア産業課、広報課を経て、2025年4月から現職。