自然電力、タイの太陽光発電需要をつかむ

2025年11月19日

自然・インターナショナル(タイランド)は、日本で再生可能エネルギー(以下、再エネ)の開発から供給まで、一貫したサービスを提供する「自然電力」のタイ現地法人だ。タイの太陽光発電市場における同社の取り組みについて、同社マネジングディレクターの一柳直也氏に話を聞いた。また、日頃の業務や同社で勤務することについて、同社テクニカルマネジャーのティーララット・スワンシチョン氏と同社テクニカルアソシエイトのピムラパス・ピリヤフォカノン氏にも伺った(取材日:2025年7月2日)。


同社のスワンシチョン氏(左端)、一柳氏(中央)、ピリヤフォカノン氏(右端)(ジェトロ撮影)

日本での経験を生かしてタイで事業展開

自然電力は太陽光や風力などの再生可能エネルギー分野において、発電設備の建設・保守を担う関連会社や日本国内外の子会社を通じ、発電から設備建設・供給・運用まで一貫したサービスを提供している。

2020年には、タイで同社にとって初のプロジェクトとなる工業団地の屋根置き太陽光パネルを完工させるほか、2021年に駐在員事務所を開設した。また、2022年には現地法人「自然・インターナショナル(タイランド)」を設立し、主に新しいプロジェクトの開発業務に注力している。一方、太陽光パネルの設置工事やメンテナンスなどは、現地パートナー企業と連携している。ジョイントベンチャー形式でSPC(特別目的会社)を設立し、SPCが事業を担う。

発電事業者が抱える送電網の課題を解決

質問:
タイにおける太陽光発電の位置付けは?
答え:
タイの電力開発計画(PDP:Power Development Plan)(注1)の草案(2024版)によると、同国は、2037年までに発電量全体に占める再エネの割合を50%にしようとしている。同草案は、現在、政府で起草中だが、これは当社にとって追い風となっている。近年、ASEAN各国では、海外からのデータセンター投資の誘致合戦となっている。多くの電力を消費するデータセンターの運営者からは、再エネの供給拡大を要望する声が挙がっており、国営電力会社が持つ送電線の利用を再エネ発電事業者に解禁する動きがタイを含む周辺国でみられる(2021年8月12日付ビジネス短信参照)。
質問:
事業実施の際、地域政府への許認可やその他障害はあるか?
答え:
タイは太陽光発電に活用可能な事業用地が多い。しかし、送電網が民間の発電事業者に開放されていなかったので、太陽光で発電した電力を利用者に送電できないという課題があった。そのため、これまではソーラーファーム(大規模太陽光発電所)の建設ではなく、工業団地内の工場の屋根に太陽光パネルを設置する形で発電プロジェクトが進められてきた。一方、発電事業者が太陽光発電設備を設置し、その電力を契約企業へ供給するPPA(Power Purchase Agreement)(注2)に関する法改正が、早ければ今年中に発表される見通しだ。これにより、発電事業者が送電網を利用できないという従来の制約が解消される見込みだ。
質問:
タイでビジネスをしていく上で、その他の課題は?
答え:
課題はいくつか挙げられる。
まず、価格面では、物価水準に比べて電力料金が高いことだ。また、電力料金は企業規模に関わらず一律で設定されており、中小企業にとって負担が大きい。次に、事業面の課題として、先述のとおり、民間の発電事業者が送電網を利用できない制約がある。今後の法改正により解消が見込まれているものの依然として事業展開上の障壁となっている。また、電力の大規模購入や、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)における入札の選考基準が外国企業にとって理解しにくい点もある。さらに、今後の電力開発計画を把握する上で重要な最新の電源開発計画(PDP)が現時点で発表されていないことも不透明要因だ。
加えて、外資系企業はタイで土地の所有権を持つことができないため、当社は現地パートナーとの合弁事業によって事業展開を進める必要がある。

「顧客との価値観の共有」で差別化を目指す

質問:
貴社の競合企業は?他社と差別化している部分は何か?
答え:
当社の競合企業は多い。比較的参入しやすい業種で、把握している限りでもタイには約20社の日本企業が進出している。競合には、大手電力会社やガス会社、石油会社、総合商社などが競合となる。その中で、当社の強みは「実績」と「スピード感」「顧客との価値観の共有」で、これらの点を通じて、他社と差別化している。
まず、「実績」の面では、当社は日本において大手IT企業のデータセンター向けに再エネを供給した実績があり、この経験がタイでも顧客からの信頼につながっている。また、「スピード感」の面では、現地顧客のニーズに寄り添うようにしている。この点、日本企業、特に大手企業では慎重に意思決定を行う傾向がみられるが、当社は顧客の要望に応じて迅速に案件をスピーディーに進めるよう努めている。最後に、「顧客との価値観の共有」では、特に、欧米系の大手企業が重視するサステナビリティーへの姿勢を理解し、特に「生物多様性」や「環境保護」を配慮した事業運営を行っている。特にクリーンなエネルギーを供給するだけでなく、環境保護と両立する必要もある。そのため、電力開発だけではなく、顧客が重視する多様な価値観を理解し、適切に応えていけるよう心掛けている。
質問:
パートナー企業に求める条件とは?
答え:
「実行力」と「実績」「タイにおけるネットワーク」だ。タイのエネルギー開発分野において、当社のような外資系企業が参入するのは、決して容易ではない。プロジェクトを進めるには、タイ政府との交渉に的確に対応していく必要がある。政府と強いパイプを持つ、タイの財閥系企業などと組んでいく必要がある。

ソーラーファームは日本での知見を活かせる

質問:
貴社内での今後の取り組みの方向性は?
答え:
タイ国内に豊富に存在する事業用地を活用し、太陽光パネルを設置するソーラーファーム事業の展開を計画している。工場の屋根上に設置する方式と比べて、ソーラーファームでは大きな発電量を見込める。また日本において当社はソーラーファームを主力事業として展開しており、その知見を活かしていけると考えている。

広い事業用地でのソーラーファームの例(自然電力タイランド提供)
さらに、自然電力グループ全体としては、単なる再生可能エネルギーのディベロッパーではなく、社会課題のソリューション・プロバイダーを目指している。日本国内での発電所建設は、その一環で、加えて営農型太陽光発電(注3)の推進、データセンターの開発・運営への投資、さらにグリーン・トランスフォーメーション(GX)に関心を持つ起業家育成など、脱炭素社会の実現に向けた包括的なサービスプロバイダーになろうとしている。

柔軟かつ親しみやすい雰囲気で人を育てる

質問:
貴社の社員や人材育成の特徴は。
答え:
当社は、タイ人に限らず、外国人材を多く採用し、非常にインターナショナルな雰囲気の職場だ。またエネルギー分野での専門的なバックグラウンドを有する人材が多い。社員に対しては、OJTを通じた研修を手厚く行っており、さまざまなトレーニング・ワークショップにもオンラインで参加できるようにし、社員の学びの機会を重視している。
質問:
スワンシチョン氏とピリヤフォカノン氏は日頃どのような業務を行っているのか。また、貴社もしくは日系企業で勤務することについて、どのように感じているのか。
答え:
(スワンシチョン氏)3年半前に入社した。当社が掲げる「We take action for the blue planet.(青い地球を未来につなぐ)」という理念に共感している。マレーシアやインドネシアなど他国の事業にも携わっていて、EPC(注4)業者の管理を担当している。日本企業でありながら、タイの文化や働き方にも配慮した柔軟な社風や、社員同士が友人のように接することができる雰囲気を気に入っている。就職先の企業に求める条件として、給与水準は重要であるものの絶対条件ではなく、各社の歴史や企業の強み、環境に貢献する事業を行っているかを重要視している。
(ピリヤフォカノン氏)1年前に入社した。現在、再エネに関わるエンジニアリング業務を担当し、主に技術面でサポートしている。入社したきっかけは、自身と企業が一緒に成長できると感じた点、当社が国際的な企業である点の2点だ。また、同僚との関係が良好で、気さくにコミュニケーションを取りながら業務を進められる点が気に入っている。今後、高品質の技術サービス提供が可能な人材となり、マネジャークラスになることを目指し、日々の業務に従事している。

注1:
タイの電力開発計画(PDP:Power Development Plan)は、タイのエネルギー計画(NEP)の一部で、15〜20年先を見据えた長期的な電力供給・発電のマスタープラン。通常1〜2年ごとに見直され、国家エネルギー政策委員会(NEPC)の承認が必要となっている。
注2:
PPA(Power Purchase Agreement)とは、電力購入契約を指す。具体的には、発電事業者(売り手)と電力を使用する事業者や電力会社(買い手)との間で結ばれる、電力の売買に関する長期契約。
注3:
東急不動産と自然電力が、営農型太陽光発電事業の新会社を設立し、その第1号案件として帯広畜産大学と国内最大規模の垂直式太陽光発電による電力供給などの契約を締結した。
注4:
EPCとは、エンジニアリング(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)の頭文字をとった略称。
執筆者紹介
ジェトロ海外ビジネスサポートセンターお客様サポート課
矢田 琴子(やた ことこ)
2024年、ジェトロ入構。企画部海外事務所運営課を経て現職。