在米企業に罰則伴う報告義務、中小の大半が2024年内期限の見込み
2024年11月5日
米国では、企業を通じた国家安全保障を脅かす違法活動を取り締まる連邦レベルのルールが、企業透明化法(CTA)として、2021年1月1日に制定された。2024年1月1日にはCTAに基づいて、企業などの実質的所有者などを特定するための、報告要件が定義され、情報開示を義務付ける実質的所有者情報(Beneficial Owner Information: BOI)の報告に関する規則(BOI Reporting Requirements)が発効した。金融機関や政府団体、大企業などは報告義務が免除される一方で、米国内の多くの中小企業や有限会社(LLC)には、2025年1月1日までの報告が義務付けられる見込みで、違反の場合は罰則が科される。在米企業は自社の報告義務の有無を確認することが急務となっている。本レポートでは、BOI報告が求められる背景と、誰がどのような報告をいつまでにしなければならないか、順守しなかった場合の罰則について解説する。
BOI報告が求められる背景
米国政府と連邦議会は、ペーパーカンパニーや不透明な企業の所有権構造を通じて不正に得た収益の隠蔽(いんぺい)や資金洗浄、テロ資金提供を企む不正行為者の活動を阻む必要性を認識していた。その対策の一環として、議会の超党派議員の起案により、CTAが2021年1月1日に制定された。
CTA制定後、「会社」「実質的所有者」「会社申請者」を特定するための情報開示と報告要件を義務付けるため、BOI報告要件に関する規則が2024年1月1日に発効した〔連邦規則集(CFR)第31章1010に含まれる380項参照〕。これにより、対象となる企業は米国財務省の金融犯罪取り締まりネットワーク局(FinCEN)に規則で定められた情報を登録する必要がある。
提出されたBOI情報は公開されず、国家安全保障や諜報(ちょうほう)、法執行活動を行う連邦機関、州・地方・部族の法執行機関、財務省幹部、米連邦機関に申請をした外国の法執行機関、顧客デューディリジェンスを行う金融機関や連邦規制当局・機関など、規則で認められた者のみがアクセスできる。
BOI報告の実務
報告に関する実務の大枠は、図1の流れになっている。以下、順に解説する。

出所:CFR第31章1010.380項 BOI報告要件に関する規則に基づきジェトロ作成
(1)報告が必要か否か
BOI報告義務の対象となる会社は「米国内報告会社」と「外国報告会社」に分類される。前者は、企業、LLC、あるいは米国の州またはインディアン部族の法律に従って州務長官か類似の機関に書類を提出して設立された機関・団体(以下、事業体)となる。後者は、外国の法律に基づいて設立され、米国の州または部族管轄領域で事業登録をした企業、LLC、その他の事業体と定義されている。「23の免除業種」に当てはまれば、BOI報告は免除される(参考1参照)。免除業種に当たる事業体は、金融関連の業者や政府関連の団体、大企業など、別の法令に基づいて連邦政府に法人情報を提供する義務がある事業体で、既に政府機関に対してBOIに相当する情報を開示しているため、対象外となる。このため、それらに該当しないほとんどの米国内の中小企業やLLCが報告義務の対象になると考えられる。
参考1:23の免除業種
- 証券発行業者(Securities reporting issuer)
- 政府関連の庁・局・公社・公共事業団体(Governmental authority)
- 銀行
- 信用組合
- 預金機関持ち株会社(Depository institution holding company)
- マネーサービス業者
- 証券ブローカーまたはディーラー
- 証券取引所または清算機関
- そのほかの取引所法登録事業体(Other exchange act registered entity)
- 投資会社または投資アドバイザー
- ベンチャーキャピタルファンドアドバイザー
- 保険会社
- 州が認可した保険販売業者(State-licensed insurance producer)
- 商品取引所法登録事業体(Commodity exchange act registered entity)
- 会計事務所
- 公共事業体(Public utility)
- 為替・清算・支払いなど金融市場の多面的取引に対応するシステム業者(Financial market utility)
- 共同資金からの出資・拠出で投資を行い、収益を分配する業者(Pooled investment vehicle)
- 免税事業体(Tax-exempt entity)
- 免税事業体を支援する業者(Entity assisting a tax-exempt entity)
- 大規模事業会社(Large operating company)
- 特定免除事業体の子会社(Subsidiary of certain exempt entities)
- 非活動事業体(Inactive entity)
出所:CFR第31章1010.380項 BOI報告要件に関する規則に基づきジェトロ作成
(2)求められる報告と期限
自社がBOI報告義務の対象だと判明した場合、報告には初回、更新、訂正の3回のタイミングがある。
(a)初回報告
初回報告の期限は、設立時期、あるいは免除業種に該当しなくなった場合に応じて、それぞれ図2の4パターンで規定されている。初回報告は必ず行わなければならず、設立時期によって報告期限が異なる。2024年内に会社を設立した場合は、既に報告期限が過ぎている可能性があり、これに該当する場合は対応を急ぐ必要がある〔図2(2)の場合〕。
図2:初回報告の期限

出所:CFR第31章1010.380項 BOI報告要件に関する規則に基づきジェトロ作成
初回報告の必要情報は参考2の(A)(B)両方と設定されている。
参考2:初回報告の必要情報
(A)報告会社についての情報
- 正式名称
- 取引上の名称、あるいは商号
- 完全な住所
- 報告会社が米国内に主たる事務所を有する場合はその所在地
- その他の場合は事業を行っている米国内の主要拠点の所在地
- 設立された州・部族あるいは外国の管轄地域
外国報告会社は、最初に登録した州あるいは部族の管轄区域 - 内国歳入庁(IRS)の納税者識別番号(TIN)
雇用主識別番号(EIN)含む
外国報告会社でTINが発行されていない場合は、外国の管轄区域で発行された納税者識別番号、および、その管轄区域の名称
(B)実質的所有者と会社申請者(2人まで登録可)についての情報
- 正式氏名
- 生年月日
- 完全な現住所
- 会社申請者が、申請者としてのビジネスの過程で事業体を設立または登録する場合は、そのビジネス上の住所、あるいは
- その他の場合は個人の居住地の住所
- 次のいずれかの期限が切れていない本人確認書類の固有識別番号・発行管轄区域・画像
- 米国政府が発行したパスポート
- 州・地方自治体またはインディアン部族が個人を識別するために発行した身分証明書
- 州が発行した運転免許証
- i~iiiのいずれも所持しない場合は、外国政府が発行したパスポート
出所:CFR第31章1010.380項 BOI報告要件に関する規則に基づきジェトロ作成
おおむね、企業に関する一般的な情報が求められているが、実質的所有者とは、報告会社に対して直接的または間接的に実質的な支配権を有する、または当該会社の持ち分権の25%以上を保有・支配する個人と定義されている。実質的な支配権について、規則では、報告会社の幹部の場合や、幹部や過半数の取締役の任命・解任権限を有する場合などの具体例が示されている。
BOI報告はいずれも、セキュリティーが確保されたFinCENの公式ウェブサイト上で行う。料金はかからない。サイトでの登録を行う会社申請者には、実質的所有者以外でも、従業員や第三者のサービス提供者でもなることが可能だ。報告を完了した事業体には受領証が発行される。
なお、BOI報告の実務をサポートするFinCENからのQ&A集やガイダンス動画が英語で次のとおり公表されている。項目別に整理されており、必要に応じて参照することができる。
(b)更新報告
報告会社またはその実質的所有者について、提出済みの必要情報に変更が生じた場合、変更が生じた日より30歴日以内に更新報告を行う必要がある。報告会社が免除業種に該当することになった場合も、必要情報の変更として更新報告が必要となる。なお、会社申請者について変更が生じた場合は、更新報告は不要だ。
(c)訂正報告
初回あるいは更新報告で、提出時に不正確で、現在も不正確のままとなっている情報がある場合、報告会社は、不正確と認識した日、あるいは不正確な理由を知った日から30歴日以内に訂正報告を行う必要がある。なお、前述の更新報告とは異なり、会社の申請者についての必要情報が不正確な場合は訂正報告が必要となる。
(3)報告義務違反の罰則
規則に基づいたBOI報告をFinCENに提出しなかった場合、または虚偽、不正、最新かつ完全でない報告を行った場合、民事罰では1日当たり500ドル、最大1万ドルの罰金、刑事罰では最長で2年の懲役のいずれか、または両方が科される。なお、不正確な報告書が提出された日から90日以内に訂正報告書が提出された場合は、セーフハーバーとして罰則の対象にならない。
終わりに
以上、BOI報告が求められる背景、報告が必要な会社かどうかの判断の仕方、該当する場合はいつまでにどのような対応をFinCENのウェブサイト上で行わなければならないかを解説した。報告違反には罰則があるため、該当が想定される企業は早めに対応することを推奨する。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課
本井 秀樹(もとい ひでき) - メーカーで、エジプト、モロッコ、セネガル、カナリア諸島向けテレビ・ビデオの営業ののち、PC用モニターのグローバル事業計画、商品企画を歴任。海外駐在は、英国・テルフォード市で1993~99年モニター工場、米国には1999~2002年にロサンゼルスとメキシコ・メヒカリ市にあったモニター工場にて、いずれも事業計画業務で経験。 2024年6月から現職。