WIIW春季経済予測、中・東欧は消費主導の景気回復

2024年5月15日

ウィーン比較経済研究所(WIIW)は4月24日、中・東欧と西バルカン諸国の春季経済予測を発表した(WIIWウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。本稿では、同経済予測およびWIIWの記者会見に基づき、中・東欧、西バルカン、ロシア、ウクライナ、および中・東欧と経済関係を持つオーストリアの経済状況について分析する。

厳しい国際情勢にもかかわらず、対象各国の経済は2024年に堅調に伸びるという見通しだ(表参照)。冬季経済予測(2024年2月8日付ビジネス短信参照)と比べて、多くの国の予測が上方修正された。主な要因として、インフレ率の低下により実質賃金が上昇し、個人消費が成長の主な原動力になっていることが挙げられる。新型コロナ禍で後退した投資(設備投資、外国直接投資)も緩やかに回復しつつある。

表:中・東欧、西バルカン諸国、ロシア、ウクライナの経済見通し(単位:%)(△はマイナス値)
国・地域名 実質GDP成長率 消費者物価指数上昇率 失業率 経常収支(対GDP比)
2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年
ブルガリア 3.9 1.8 2.0 2.5 3.0 13.0 8.6 4.0 3.0 3.0 4.3 4.3 4.2 4.1 4.0 △ 1.4 △ 0.3 △ 0.2 △ 0.6 △ 0.9
チェコ 2.4 △ 0.3 1.2 2.5 2.7 14.8 12.0 2.0 2.2 2.2 2.2 2.6 3.0 2.6 2.6 △ 4.9 0.4 0.4 0.8 1.4
エストニア △ 0.5 △ 3.0 0.4 3.0 3.6 19.4 9.1 3.5 2.8 2.4 5.6 6.4 7.5 6.2 5.6 △ 3.2 △ 2.1 △ 2.0 △ 1.7 △ 1.8
クロアチア 6.3 2.8 2.9 2.7 3.0 10.7 8.4 3.5 2.9 2.5 7.0 6.1 6.1 6.0 6.0 △ 2.8 1.1 0.2 1.0 1.3
ハンガリー 4.6 △ 0.9 1.9 2.4 2.9 15.3 17.0 5.2 4.0 3.5 3.6 4.1 4.0 3.8 3.5 △ 8.4 0.2 0.0 0.2 0.4
リトアニア 2.4 △ 0.3 1.5 2.2 2.6 18.9 8.7 1.5 2.3 2.5 6.0 6.8 6.5 6.3 6.0 △ 5.5 1.9 2.2 2.8 2.5
ラトビア 3.0 △ 0.3 1.6 2.5 2.7 17.2 9.1 1.4 2.2 2.7 6.9 6.5 6.3 6.0 5.8 △ 4.8 △ 4.0 △ 3.1 △ 4.6 △ 5.7
ポーランド 5.3 0.2 3.1 3.4 3.3 13.2 10.9 4.5 3.5 2.8 2.9 2.8 2.8 3.0 3.1 △ 2.4 1.6 0.5 △ 1.2 △ 1.0
ルーマニア 4.1 2.1 3.0 3.3 3.8 12.0 9.7 5.8 4.0 3.5 5.6 5.6 5.5 5.4 5.2 △ 9.2 △ 7.0 △ 6.5 △ 6.0 △ 6.0
スロベニア 2.5 1.6 2.5 2.6 2.6 9.3 7.2 3.3 2.4 2.2 4.0 3.7 3.7 3.6 3.6 △ 1.0 4.5 5.1 4.5 3.8
スロバキア 1.8 1.1 1.6 2.2 2.6 12.1 11.0 2.2 3.4 3.4 6.1 5.8 5.8 5.6 5.4 △ 7.3 △ 1.6 △ 1.3 △ 0.9 △ 1.1
中・東欧EU加盟国(11カ国) 4.2 0.6 2.5 3.0 3.2 13.5 11.0 4.1 3.3 2.9 4.0 4.1 4.1 4.0 4.0 △ 4.8 △ 0.4 △ 0.7 △ 1.2 △ 1.1
ユーロ圏(20カ国) 3.4 0.4 0.6 1.6 1.6 8.4 5.4 2.5 2.2 2.0 6.8 6.5 6.7 6.6 6.6 1.3 1.8 3.2 3.2 3.1
EU27カ国 3.4 0.4 0.8 1.8 1.8 9.2 6.4 2.7 2.4 2.2 6.2 5.7 5.9 5.8 5.8 1.2 1.8 3.2 3.2 3.1
アルバニア 4.9 3.4 3.6 3.7 3.4 6.7 4.8 3.0 2.5 2.4 10.9 10.7 10.4 10.0 9.7 △ 5.9 △ 0.9 △ 1.4 △ 1.3 △ 1.4
ボスニア・ヘルツェゴビナ 4.2 1.7 2.5 2.9 3.4 14.0 6.1 2.8 2.5 2.0 15.4 13.2 12.9 12.7 12.4 △ 4.3 △ 2.8 △ 3.6 △ 3.1 △ 3.0
モンテネグロ 6.4 6.0 4.2 3.7 3.5 13.0 8.6 4.5 3.0 2.5 14.7 13.1 11.0 10.0 9.0 △ 12.9 △ 11.4 △ 10.7 △ 10.6 △ 10.4
北マケドニア 2.2 1.0 2.2 2.6 3.0 14.2 9.4 3.5 3.0 2.5 14.4 13.1 12.5 11.8 11.0 △ 6.1 0.7 △ 0.8 △ 1.9 △ 2.4
セルビア 2.5 2.5 3.0 3.3 3.5 11.9 12.1 4.5 3.5 2.8 9.4 9.5 9.0 8.5 8.0 △ 6.9 △ 2.6 △ 2.7 △ 2.9 △ 2.9
コソボ 4.3 3.3 3.5 3.7 3.6 11.6 4.9 3.5 2.5 2.2 12.5 12.4 12.3 12.0 11.5 △ 10.3 △ 7.6 △ 8.6 △ 8.7 △ 8.5
西バルカン(6カ国) 3.4 2.6 3.0 3.2 3.4 11.8 9.0 3.8 3.0 2.5 11.7 11.1 10.8 10.0 9.8 △ 6.7 △ 2.8 △ 3.2 △ 3.3 △ 3.3
ロシア △ 1.2 3.6 2.8 2.5 2.3 13.8 5.9 7.2 4.5 3.7 4.0 3.2 2.9 2.9 2.9 10.5 2.5 3.3 3.2 3.0
ウクライナ △ 28.8 5.3 3.2 4.2 4.6 20.2 12.9 8.0 6.0 6.0 25.0 20.0 15.0 10.0 9.0 4.9 △ 5.2 △ 4.3 △ 4.7 △ 6.4

注:2022~2023年は確定値、2024~2026年は予測(太字部分)。
出所:ウィーン比較経済研究所(WIIW)の春季経済予測(2024年4月10日)

中・東欧EU加盟11カ国の2024年の実質GDP成長率予測は2.5%で、ユーロ圏20カ国の0.6%を大幅に上回る。2025年にはその差が小さくなるが(それぞれ3.0%、1.6%)、2004年のEUの東方拡大から20周年となる2024年も経済水準におけるユーロ圏平均への接近が続く。ビシェグラード4カ国(注1)は2024年に平均2.0%、2025年には2.6%の経済成長が見込まれている。EU復興基金からの補助金と融資に支えられ、ルーマニア(2024年3.0%)とクロアチア(同2.9%)の伸びが著しい。西バルカン6カ国の2024年の経済成長率予測も3.0%と拡大する。

今回の予測は楽観的とはいえ、下方リスクも多い。WIIWのリチャード・グリーベソン副所長は、(1)ドナルド・トランプ氏が米国大統領選挙に当選した場合の、欧州の安全保障情勢の不安定化、(2)中東戦争によるエネルギー価格の上昇とインフレ、(3)ドイツ経済の回復の遅れ、(4)実質金利の高止まりによる金融・不動産部門の問題、の4点を挙げた。その他、逼迫した労働市場も成長を抑える。

ロシアは戦争を続ける経済力があり、ウクライナは西側の支援に依存

西側の制裁にもかかわらず、ロシア経済は2023年に軍需産業への投資により3.6%成長と拡大した。WIIWによると、同国のGDP成長率は、2024年に2.8%、2025年には2.5%とやや減速する見通しだ。しかし、石油輸出の収入が大幅に減少しても、中期的にウクライナ戦争のための資金調達は確保できるとみられている。

ウクライナ経済についてはこれまで、ロシアの侵攻に対して驚くべき回復力を発揮したと評価。西側の経済・軍事支援と農産物輸出を原動力に、同国の2023年のGDP成長率は5.3%となった。2024年のGDP成長率は3.2%と見込まれているが、ロシアによる空爆の激化で主要企業やエネルギー・インフラも被害を受けるため、対空ミサイル防衛能力の向上は、経済が機能する上で極めて重要である。結局のところ、西側による適時で十分な軍事面、資金面での支援の有無次第である、とWIIWのウクライナ担当のエコノミスト、オルガ・ピンドュク氏は指摘している。

現在の地政学的状況により経済的な不確実要素が多い中、WIIWは次の動向を予測している。

(1)
ロシアと従来どおりのビジネス関係に戻ることは不可能である。
(2)
今後の投資計画においてニアショアリング(注2)またはフレンドショアリング(注3)がより大きな役割を果たす。
(3)
ウクライナ復興が開始すると、中・南・東欧にも新たなビジネスチャンスが発生する。
(4)
EU拡大が本格化すれば、オーストリアは最大の利益を受ける国の1つになる。

WIIWは、中・東欧の経済動向のオーストリア経済に与える影響についても指摘。同地域の経済成長がEU全体の成長を上回るため、オーストリア企業の中・東欧との緊密な貿易・投資関係がオーストリアの成長を支えるとしている。オーストリアの2023年の貿易相手国上位20位には、中・南・東欧地域から8カ国が入っている。オーストリアから中・南・東欧への輸出は2023年に1.6%減となったが、西バルカン6カ国への輸出は7%拡大した。2023年に発表されたオーストリアの同地域への直接投資件数では、隣国のクロアチア(9件、注4)とハンガリー(7件)が多く、チェコ、ポーランド、ルーマニアがそれぞれ5件と続いた。


注1:
チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア。
注2:
投資においては、製造拠点を隣国(オーストリアの場合、チェコ、ハンガリー、スロバキア、クロアチアなど)に移動・拡大させること。
注3:
投資においては、製造拠点を何らか関係の深い国に移動・拡大させる(オーストリアの場合、国内に出身者が多いトルコなど)こと。
注4:
WIIWへのヒアリングによると、オーストリアからの投資案件の業種は、金融、運輸、不動産、再生可能エネルギー、観光などが多い。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。