広告を通じたプロモーションがマレーシアEC市場拡大を後押し

2024年3月27日

マレーシアの電子商取引(EC)市場は、新型コロナ禍後も、消費者が利便性を実感したことで、需要が盛り上がり、2025年は2023年比で約20%の成長を見込む。マレーシアで存在感の大きなECプラットフォームは「Shopee(ショッピー)」と「Lazada(ラザダ)」だ。EC市場拡大の要因として、広告ビジネスの展開がカギを握る。大きなイベントに合わせたプロモーションは集客の拡大につながるものの、マレーシアの民族性に配慮した展開も求められる。

EC市場は2桁成長が期待

ASEANのEC市場は急速に成長している。主要6カ国(インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール)では、人口増加とデジタル化の促進により市場が拡大している。グーグルとシンガポールの政府系投資会社のテマセク・ホールディングス、米国ベイン・アンド・カンパニーが2023年11月に発表した主要6カ国のデジタル経済市場に関する調査は、2023年の同地域におけるEC市場の規模が前年比6%増の1,390億ドル〔流通取引総額(GMV)基準〕になるとの見通しを発表した。2023年以降2025年までの期間に年平均で16%成長し、2025年の同市場規模は1,860億ドルと見込む。

マレーシアのEC市場は2023年に130億ドルと前年から4%減少した(図参照)。報告書は、マレーシアが新型コロナからの回復で、ショッピングモールを利用する顧客が回復する一方、消費者は、生活の利便性を引き上げるツールとなるECの利用が習慣付いた、とする。2025年は2023年比で約20%の成長を見込み、160億ドルになると予測した。

図:ASEAN主要国のEC市場の実績と今後の予測
ASEAN主要国のEC市場の流通取引総額の推移について、2021~2023年、そして予測値としての2025年の規模を示している。マレーシアの規模は、2021年から2023年は130億ドル、2025年は160億ドルが見込まれている。

出所: "e-Conomy SEA"(Google, Temasek, and Bain & Company)から作成

マレーシアのEC市場が成長する要因としては主に人口増、そして消費者行動のデジタル化が挙げられる。国連が発表したマレーシアの人口動態予測によると、2030年の総人口は3,653万人と2023年の3,413万人から7.1%増加すると予測されている。また、マレーシア通信マルチメディア委員会(MCMC)が実施した「インターネット利用調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.9MB)」では、インターネットの利用者は、2022年において調査対象者全体の92.7%を占め、EC市場のさらなる拡大に向けた素地は整っている。

ショッピーの存在感が大きいマレーシアEC市場

マレーシアのEC市場を牽引するサイトはどこか。表1は、アクセス解析サイトAhrefsを用いて、2023年9月1日~2023年9月30日のデータを基に、マレーシアの調査会社Bridge International Asiaが作成した主要ECサイトのアクセス動向である。ここでは、マレーシアで大型連休がなく、データの変動が比較的安定的な9月を例に取り上げている。本表からはマレーシアのEC市場では、訪問者数や各媒体フォロワー数など総合的な観点からは、「Shopee(ショッピー)」と「Lazada(ラザダ)」の存在感が大きいことがわかる。

表1:マレーシア主要ECサイトのアクセス動向(単位:人)
順位 ECサイト名 月間訪問者数
(検索)(注1)
月間訪問者数
(広告)(注2)
Youtube
フォロワー数
Facebook
フォロワー数
Instagram
フォロワー数
1 Shopee 5,185,376 674,354 281,000 26,080,000 1,000,000
2 Carousell 2,437,868 7 11,700 3,400,000 216,000
3 Lazada 2,350,347 125,123 195,000 31,740,000 746,000
4 Mudah 1,743,542 43,102 435,000 2,530,000 218,000
5 Zalora 422,139 36,539 2,410 7,890,000 442,000
6 PG Mall 211,179 564 212 71,000 35,600
7 eBay 186,234 N/A 327 410,000 4,174
8 Lelong 4,542 N/A 1,300 390,000 8,333
9 Qoo10 3,440 N/A N/A 260,000 N/A
10 PrestoMall 3,089 N/A 43,600 735 107,000

注1:月間訪問者数(検索):Googleなどの検索エンジンからウェブサイトへの月間推定訪問者数。
注2:月間訪問者数(広告):検索連動型広告からの月間推定訪問者数。
注3:Ahrefsにて計測できない、各社アカウントのフォロワー数が確認できない数値はN/Aと記載。
出所:AhrefsからBridge International Asia作成

最近のマレーシアにおけるEC市場の特徴として、モバイルユーザーが拡大する中で、ショッピーやラザダなどECプラットフォーム各社はモバイル端末用アプリに、ライブストリーム機能の提供および拡張に力を入れている点を指摘できる。例えば、ラザダはモバイルアプリ内で「LazLive」、ショッピーは「Shopee Live」を提供し、デザイナーやブランドとコラボレーションし、ファッションショーを配信するなど新たな取り組みを進めている。

各サイトに消費者を引きつけるツールは、機能の拡張だけでなく、各社が関心を寄せる手段として、広告が挙げられる。各ECサイトでは、消費・購入が活発となる年間の行事ごとに広告を展開する傾向がある。当レポートでは9月を大型連休のない「通常期」と位置付ける。その上で、マレーシアの各民族にとって、重要なイベントとなる、11月(2023年)のヒンドゥー教の正月に該当する「ディパバリ期」と通常期を比較することで、マレーシアにおける広告展開の特徴を以下に分析する。

大型イベントの際のプロモーションは誘客に効果

マレーシアでは一般的に、EC販売におけるプロモーション広告として、代表的な3つのパターンがある。1つ目は、年間を通じて展開されている会員登録を促す標準的な広告。2つ目に、マレーシアでは一般的とされる各月20日近辺など給料日に合わせてプロモーションを打つ広告。長期連休がなく、キャンペーンが打ちにくい時期でも強い訴求を出せるため、本手法は広く利用されている。3つ目に、何らかのイベントに対応したプロモーションがある。こうした3つめのパターンとしてのイベントでは、どのような広告が展開されるのか。効果と合わせて、実際の状況を報告する。

ヒンドゥー教徒にとって、1年で最も重要な祭典がディパバリである。光の祭典ともいわれるだけあり、マレーシアではインド人街を中心に、きらびやかな装飾を街中で見ることができる(写真参照)。この時期に合わせ、各ショッピングモールの装飾が華やかになり、プロモーションも盛んになる。次の表は2023年11月1日~2023年11月30日のデータを基に作成した主要ECサイトのアクセス動向になる。


ショッピングモールにおけるディパバリ装飾(ジェトロ撮影)
表2:ディパバリ期のECサイト別訪問者数(単位:人、%)
順位
11月
順位
9月
ECサイト名 月間訪問者数
(検索)※1
9月比※3 月間訪問者数
(広告)※2
9月比※3
1 1 Shopee 5,294,508 102% 1,121,780 166%
2 3 Lazada 2,484,844 106% 174,951 140%
3 2 Carousell 2,386,050 98% N/A N/A
4 4 Mudah 1,729,122 99% 50,805 118%
5 5 Zalora 386,327 92% 42,949 118%

注1:月間訪問者数(検索):Googleなどの検索エンジンからウェブサイトへの月間推定訪問者数。
注2:月間訪問者数(広告):検索連動型広告からの月間推定訪問者数。
注3:9月を通常期としているため、9月比を記載。
注4:Ahrefsにて計測できない、各社アカウントのフォロワー数が確認できない数値はN/Aと記載。
出所:AhrefsからBridge International Asia作成

表2からは、ショッピーの広告経由の訪問者数が112万1,780件、9月比166%と大きく数字を伸ばしていることが分かる。11月に通常比で多くの広告を配信したためとみられる。同社は、中国で始まったネット通販を楽しむ独身の日に当たる11月11日にセールを実施し、90%オフのバウチャー、15日間の返品保証、返金保証の充実など、キャンペーンの内容を充実させたことが奏功した(2023年11月8日付Star紙)。ディパバリという大型催事と11月11日の時期が重なったことが需要を押し上げている。同様に、ラザダの広告経由の月間訪問者数は17万4,951人、9月比140%と、広告の効果が如実に表れた。

各ECサイトにおいて、11月に展開されている広告例として、下記の3つの広告が挙げられる。第1に、11月11日とディパバリを合わせた広告だ。これは送料無料や割引クーポン施策などと合わせて打ち出されることが多い。第2に、ディパバリを訴求する広告。「光の祭典」のイメージに合わせたバナーデザインを用いた広告が多く見られた。最後に、11月11日セールを訴求する広告。マレーシアでは10月10日や12月12日など、並びの良い日付に合わせたセールやキャンペーンが広く実施されている。

マレーシアの特性を取り入れた広告展開がカギ

ECサイト各社は、ディパバリのような大型イベントに合わせて、プロモーションを実施する。本稿では、ディパバリに限定したものの、実際に過去の例をみても、旧正月や、イスラム教行事の断食月(ラマダン)明けの祭事ハリラヤに合わせたタイミングにおいても、同様の動きがみて取れた。マレーシアは多民族国家であることから、それぞれの民族・宗教に沿った行事が実施され、祝祭日もそれぞれ設けられている。こうした行事・祝祭日を機会と捉え、大手ECサイトが積極的な販売促進活動を展開している。

多民族国家のマレーシアでは、言語などでターゲットを分けてプロモーションを展開する戦略も重要になる。例えば、ラザダは、旧正月の広告は英語で投稿して、ラマダンはマレー語での投稿に注力している。他方、マレー系のECサイトのmudah.my(ムダ)は、基本的にマレー語の広告メッセージを掲載し、ムスリム(イスラム教徒)の女性モデルを起用した。なお、ムダはマレー系消費者の取り込みに力点を置いているため、中国系の一大イベントである旧正月のプロモーションにはそれほど力を入れていない。同じプラットフォームでも、時期によって言語を変更してターゲットを調整する様子や、特定の民族をメインターゲットとしていることが見受けられるプラットフォームが存在することは、マレーシアEC市場の特徴の1つと言える。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所次長
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済研究課を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課、調査部アジア大洋州課を経て2023年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
西井 健(にしい たけし)
2011年4月、株式会社南都銀行入行。
2022年4月、ジェトロ大阪本部事業推進課。
2023年4月、ジェトロ・クアラルンプール事務所にてマレーシアの食品関連事業・調査に従事。