ALPS処理水放出後も変わらぬ水産物や日本酒の人気(フィリピン)

2023年10月4日

フィリピンのマニラ首都圏で、居酒屋スタイルの日本料理店「サカグラ」が2023年8月にオープンした。サカグラは、フィリピンで7店舗の日本料理店を展開するニッケイグループが、日本酒をメインとした新たなコンセプトでオープンしたレストランだ。50種類以上の日本酒とともに、日本産の水産物を刺し身や寿司(すし)、炉端焼きなどの形で提供している。オープンしたばかりではあるが、おいしい本格的な日本食を求めるフィリピン人でにぎわっている。

また、フィリピンでは2022年11月、日系初の百貨店として三越がオープンしており、スーパーマーケット「ミツコシフレッシュ」店内では、日本産の水産物や日本酒が販売されている。店内のイートインスペースでは、購入した寿司や刺し身、日本酒をその場で楽しむフィリピン人がよく見られる。日本に行かなくても日常的に日本食を味わうことができるため、フィリピン人に人気となっている。

本稿では、このように日本食を気軽に楽しめる場所が増えてきたフィリピンにおいて、日本酒や日本産水産物に対する直近の消費者ニーズを、統計データや事業者へのインタビューを通じて見ていく。

日本からの酒・水産物の輸出が増加

日本からフィリピンへの日本酒の輸出額は、2019年は6万8,000ドルだったが、2022年には29万9,000ドルと約4.4倍に増加している。輸出量は、2019年は4万2,000キログラム(kg)だったが、2022年には14万kgと約3.3倍に増加している。特に2021年から2022年にかけて、輸出額が約2.8倍、輸出量が2倍と急増していることが分かる(図1参照)。

図1:日本からフィリピンへの日本酒輸出額・輸出量
2019年の輸出額は6万8,000ドル、輸出量は4万2,000キログラム。2020年の輸出額は6万7,000ドル、輸出量は3万8,000キログラム。2021年の輸出額は10万7,000ドル、輸出量は7万キログラム。2022年の輸出額は29万9,000ドル、輸出量は14万キログラム。

出所:グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))を基にジェトロ作成

日本からフィリピンへの水産物の輸出額は、2019年は1,426万ドルだったが、2022年には2,049万ドルと約1.4倍に増加している。また輸出量は、2019年は1,543万kg、2022年は1,658万kgと7%増加している。日本酒のように急増しているわけではないが、金額ベースでは2019年から2022年までの年平均成長率が13%であるなど、増加傾向にあることが分かる。

図2:日本からフィリピンへの水産物輸出額・輸出量
2019年の輸出額は1,426万ドル、輸出量は1,543万キログラム。2020年の輸出額は1,900万ドル、輸出量は1,800万キログラム。2021年の輸出額は1,833万ドル、輸出量は3,260万キログラム。2022年の輸出額は2,049万ドル、輸出量は1,658万キログラム。

出所:グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))を基にジェトロ作成

フィリピンで日本料理店が増加していることや気軽に日本食材を購入できるスーパーマーケットが増えているため、より多くのフィリピン人が日本食を選択するようになってきていることが、こうした統計に反映されているものと推測される。

ALPS処理水の放出後も日本産水産物に対するニーズは強い

今回、新たにオープンした日本料理店「サカグラ」のカルロ・ゴードン・ロレンザナ氏(オーナー)にインタビューを実施し、フィリピン人消費者の日本酒や日本産水産物へのニーズについて聞いた(取材日:2023年9月6日)。


サカグラ店舗にてロレンザナ氏(前列左から4人目)(サカグラ提供)
質問:
店をオープンしてから、顧客の反応はどうか。
答え:
フィリピンの富裕層の消費者は、日本の食品や酒にとても魅力を感じている。実際、お店をオープンしてから多くのフィリピン人が来店しており、水産物や日本酒を味わっている。
質問:
どのような商品が人気か。
答え:
新鮮な寿司や和牛、日本酒が特に人気のある料理となっている。寿司ネタについては、中トロやサーモンの人気が高い。日本酒はフルーティーなものからドライなものまで、広く好まれている。
質問:
ALPS処理水放出による影響は感じているか。
答え:
全く感じていない。ご来店いただくお客様も、そのニュースを知ってはいるが、気にせず日本食をお召し上がりいただいている。

サカグラで提供される日本産ホタテ(ジェトロ撮影)

また、日本酒や日本の水産物の輸入・卸事業者であり、「サカグラ」にも多数の日本産食品を供給しているハイタワーフーズのレイ・コー氏(マネージング・ディレクター)、およびヒロキ・ホセ氏(日本食担当ディレクター)に現地の日本食品の需要とALPS処理水放出の影響について聞いた(取材日:2023年9月1日)。

質問:
フィリピン人にはどういった商品が人気か。
答え:
日本酒と日本の水産物は、フィリピンでとても人気がある。日本酒は吟醸と大吟醸が日本料理店や小売店で人気があり、柚子(ゆず)やイチゴなどのフレーバー付きの日本酒も好評を得ている。水産物は、ハマチ、牡蠣(かき)、ホタテ、サーモンの人気が高く、刺し身や寿司、焼き物として、多く食べられている。
質問:
日本酒や日本の水産物のフィリピンでのマーケット拡大の可能性についてどう考えているか。
答え:
これまでフィリピンでは、ナショナルブランドの日本酒が長年親しまれてきた。我々は手頃な値段の新しい日本酒を取り扱い始めており、今後売り上げが伸びることを確信している。日本の水産物についても、現地スーパーマーケットが新規取り扱いに関心を示している。既に販売を開始したところや、販売開始に向けて交渉を進めているところがいくつかある。より多くの消費者にリーチができるように販売場所を広げるだけで、特段の販促活動をしなくても売り上げが拡大してきている。
質問:
ALPS処理水放出による影響は何か感じているか。
答え:
輸入規制に関しては、フィリピンと日本両国の関係が良好なことなどから、ALPS処理水の放出後も、フィリピン政府の対応には、何も変化がないと認識している。消費者については、基本的にはALPS処理水放出後も、日本の水産物や日本食を求めるニーズは強いと感じている。他方で、日本産の水産物を取り扱う予定だったが、日本産の全ての水産物の安全性に懸念を持ったために、他国産の水産物に切り替えた顧客も一部にいた。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
須藤 真(すどう まこと)
2012年、経済産業省入省。内閣府原子力被災者生活支援チーム、経済産業政策局調査課などを経て、2021年6月から現職。