EVシフトがさらに進むも、充電インフラ整備が課題(スイス)
乗用車新規登録台数は減少続く

2023年10月6日

2022年の新規登録台数は前年比5.3%減、22万5,934台

スイスの自動車業界団体オートスイス(Auto-Schweiz)の発表(2023年1月3日)(フランス語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(217KB)によると、2022年のスイスとリヒテンシュタインの乗用車新規登録台数は前年比5.3%減の22万5,934台となった(表1参照)。

ウクライナでの戦争、半導体不足や原料部品などの供給不足、国際輸送の混乱など多くの制約を受けた前年に続く多難な1年となり、3年連続して新型コロナ危機前の2019年の30万台前後の水準を大幅に下回った。

代替燃料車の市場シェアは50.8%と過去最高、BEVとPHEVは25.9%に拡大

メーカー・ブランド別にみると、首位から5位までドイツ勢が並び、全体の44%のシェアを占めた。首位は前年に続きフォルクスワーゲン(VW)、次いでBMW、メルセデス・ベンツ、アウディ、シュコダの順となり、前年と比べるとBMWとメルセデス・ベンツ、アウディとシュコダの順位が入れ替わった。続いて6位のトヨタは前年比14.6%増と躍進、次いでセアト/クプラ、フォード、テスラ、現代が上位10位となった。

表1:スイスの乗用車新規登録台数(メーカー・ブランド別)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 2022年
台数 シェア(%) 前年比(%)
1 フォルクスワーゲン(VW) 25,420 11.3 △ 1.5
2 BMW 19,685 8.7 △ 6.0
3 メルセデス・ベンツ 19,306 8.5 △ 10.6
4 アウディ 18,051 8.0 6.0
5 シュコダ 17,405 7.7 △ 6.9
6 トヨタ 12,157 5.4 14.6
7 セアト/クプラ 10,638 4.7 △ 16.8
8 フォード 8,878 3.9 5.7
9 テスラ 8,725 3.9 34.4
10 現代 7,578 3.4 △ 7.2
11 ルノー 7,512 3.3 △ 14.2
12 ダチア 7,304 3.2 23.3
13 プジョー 6,429 2.8 1.0
14 起亜 5,782 2.6 25.6
15 ボルボ 5,731 2.5 △ 27.2
16 オペル 4,454 2.0 △ 9.2
17 ポルシェ 4,334 1.9 5.9
18 マツダ 4,255 1.9 △ 5.2
19 フィアット 3,993 1.8 △ 30.2
20 ミニ 3,813 1.7 △ 15.2
全体(その他含む) 225,934 100 △ 5.3

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

車両カテゴリー別にみると、代替燃料車[ガソリンやディーゼル以外の燃料で走行可能な車。ハイブリッド車(HEV、注1)、バッテリー式電気自動車(BEV、注2)、プラグインハイブリッド車(PHEV、注3)、天然ガス車(CNV)、水素自動車(FCEV)から構成される]の新規登録台数が伸びた。前年比8.2%増の11万4,833台となり、市場シェアは50.8%まで拡大した(表2、図1参照)。

BEVは過去最高の4万173台を記録し、前年から26.2%伸びた。これに1万8,355台のPHEVを加えたBEV・PHEV合計のシェアは、新規登録台数の25.9%を占めた。連邦環境・運輸・エネルギー・通信省の「Eモビリティ・ロードマップ2022」に掲げられた、BEV・PHEVの比率を2022年までに10%とする目標は、2020年に14.3%(BEV8.2%、PHEV6.1%)と達成され、2021年には22.4%(BEV13.3%、PHEV9.1%)、2022年には25.9%(BEV17.8%、PHEV8.1%)まで拡大した。新車登録の4台に1台の計算だ。「Eモビリティ・ロードマップ2025」では2025年までに50%とする目標が掲げられており、実現すれば、新車登録の2台に1台がBEVまたはPHEVになる。

表2:スイスの乗用車新規登録台数(カテゴリー別) (△はマイナス値)
カテゴリー 2022年
台数 シェア(%) 前年比(%)
ガソリン車 84,815 37.5 △ 15.1
ディーゼル車 26,286 11.6 △ 18.9
代替燃料車 114,833 50.8 8.2
階層レベル2の項目ハイブリッド車(HEV) 56,107 24.8 7.5
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 40,173 17.8 26.2
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV) 18,355 8.1 △ 15.8
階層レベル2の項目天然ガス車(CNG) 122 0.1 △ 56.7
階層レベル2の項目水素自動車(FCEV) 72 0.1 9.1
階層レベル2の項目その他 4 0.0 △ 42.9

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

図1:代替燃料車の市場シェア推移
電気自動車は2015年1.2%、2016年1.1%、2017年1.6%、2018年、2019年4.2%、2020年8.2%、2021年13.3%、2022年17.8%。プラグイン・ハイブリッド車は2015年0.7%、2016年0.9%、2017年1.1%、2018年1.5%、2019年1.4%、2020年6.1%、2021年9.1%、2022年8.1%。ハイブリッド車は2015年1.9%、2016年2.4%、2017年2.7%、2018年3.8%、2019年7.1%、2020年13.6%、2021年21.9%、2022年24.8%。天然ガス車は2015年0.3%、2016年0.3%、2017年0.2%、2018年0.3%、2019年0.4%、2020年0.2%、2021年0.1%、2022年0.1%と推移。

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

モデル別の乗用車新規登録台数の上位10位をみると、首位はテスラのモデルY(4,928台)だった。前年の1,392台から伸び、前年首位だったモデル3を抜いた。これら上位モデル10位のうち、テスラのモデルYとモデル3、シュコダのエンヤックはBEVだ(図2参照)。

図2:乗用車の新規登録台数の上位10位(モデル別、2022年)

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

BEVの上位10位をみると、テスラのモデルYとモデル3が1位、2位に並ぶ。これら2つのモデルの合計で8,445台であり、他のメーカー・ブランドを引き離している(図3参照、注4)。

図3:バッテリー式電気自動車(BEV)の新規登録台数の上位10位(モデル別、2022年)
首位のテスラ モデルYがバッテリー式電気自動車4,920台。2位のテスラ モデル3がバッテリー式電気自動車3,525台。次いで、シュコダ エンヤックがバッテリー式電気自動車3,238台。アウディQ4がバッテリー式電気自動車1,853台。フォルクスワーゲン ID.3がバッテリー式電気自動車1,631台。セアト/クプラ ボーンがバッテリー式電気自動車1,598台。フォルクスワーゲン ID.4がバッテリー式電気自動車1,525台。フィアット 500がバッテリー式電気自動車1,458台。現代 アイオニック5がバッテリー式電気自動車1,390台。ルノー メガンがバッテリー式電気自動車1,145台。

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

充電インフラ規模の拡充はEV普及に欠かせない喫緊の課題

「Eモビリティ・ロードマップ2025」には、行政(連邦、州、都市、自治体)と民間企業(自動車、リース、電力、不動産)など59の企業と団体が参加しており、 (1) 2025年までにBEV・PHEVのシェアを50%にすること、(2)公共の充電器を2万基に拡充すること、(3)住宅や職場、道路など、全ての場所で使いやすく供給網に適合した充電インフラを整備することが目標として掲げられている。(2)については、連邦エネルギー局のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに、スイスの地図から公共の充電設備の詳細や使用状況が検索できる充電インフラマップ(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますがある。2023年6月時点で、公共の充電器の数は1万1,311基まで増えた(図4参照)。

図4:公共の充電器数と充電スタンド数の推移(2020年11月~2023年6月)
充電スタンドは2020年11月2,484カ所、2021年2 月2,744カ所、2021年5月2,887カ所、2021年8月3,044カ所、2021年11月3,139カ所、2022年2月3,358カ所、2022年5月3,783カ所、2022年8月4,094カ所、2022年11月4,260カ所、2023年2月4,446カ所、2023年5月5,172カ所、2023年6月5,330カ所。 充電器は2020年11月5,095基、2021年2月5,713基、2021年5月5,979基、2021年8月6,256基、2021年11月6,480基、2022年2月7,204基、2022年5月7,896基、2022年8月8,588基、2022年11月8,897基、2023年2月9,243基、2023年5月10,963基、2023年6月11,311基。

出所:連邦エネルギー局の発表データを基にジェトロ作成

充電能力別にみると、21~42キロワット(kW)未満の急速充電が可能な充電器は2022年に入ってから大幅に増加し、2023年6月時点で全体の52%を占めた(図5参照)。10kW未満の普通充電器は19%だが、伸びは横ばいである。10~21kW未満は2年間で約3倍の15%となった。42~100kW未満および100kW以上の急速充電器は、それぞれ7%と少なく、伸びは横ばいだ。

図5:充電能力別の公共の充電器数の推移
10キロワット未満は、2020年11月2,175基、2021年2月2,382基、2021年5月2,443基、2021年8月2,463基、2021年11月2,528基、2022年2月2,548基、2022年5月2,683基、2022年8月2,701基、2022年11月2,802基、2023年2月2,872基、2023年5月2,961基、2023年6月2,987基。10キロワットから21キロワット未満は、2020年11月498基、2021年2月538基、2021年5月692基、2021年8月693基、2021年11月725基、2022年2月884基、2022年5月1,462基、2022年8月1,679基、2022年11月1,825基、2023年2月1,971基、2023年5月2,176基、2023年6月2,251基。21キロワットから42キロワット未満は、2020年11月3,210基、2021年2月3,558基、2021年5月3,316基、2021年8月3,505基、2021年11月3,693基、2022年2月4,077基、2022年5月5,210基、2022年8月5,707基、2022年11月5,975基、2023年2月6,319基、2023年5月7,597基、2023年6月7,830基。42キロワットから100キロワット未満は、2020年11月661基、2021年2月746基、2021年5月823基、2021年8月858基、2021年11月896基、2022年2月935基、2022年5月1,025基、2022年8月974基、2022年11月940基、2023年2月917基、2023年5月1,081基、2023年6月1,099基。100キロワット以上は、2020年11月563基、2021年2月609基、2021年5月579基、2021年8月582基、2021年11月596基、2022年2月822基、2022年5月900基、2022年8月993基、2022年11月987基、2023年2月999基、2023年5月970基、2023年6月1,012基。

出所:連邦エネルギー局の発表データを基にジェトロ作成

EVの充電インフラについての特集を組んだPME誌によると、3,115基以上の公共の充電器を持つEvpassが、スイスの市場の34%を占める。Evpassは2016年に、スイス初の充電器を連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に設置した充電インフラのパイオニアであるグリーン・モーションにより設立された。続いて、TCSが展開するSwisschargeが市場の19%を占める。アルピック、Ewb、グループE、プリメオエネルギーが設立したMoveが16%である。前述3社のネットワークがスイス市場の7割を占めており、残り3割は15社ほどにより構成される。ジュネーブ周辺の駅やショッピングセンター、スポーツセンター、ホテルなどの駐車場に設置された充電器を確認することができる(写真参照)。100kW以上の充電能力のものは少ないが、ホテルの駐車場では100kWの充電器が設置されていた(写真、一番右)。


ジュネーブの街中の地下駐車場(左)、屋外駐車場に設置された充電器(右)(ジェトロ撮影)

充電器はスタンド型と壁に設置されたもの、ソケット型やケーブルがあるものなどがあり、充電能力や充電口は多様だ。連邦エネルギー局の2023年6月時点のデータによると、充電口別の割合は22kWまでの普通充電ができる欧州規格Type 2(ソケット)が41%、Type 2(ケーブル)が26%、Type 1(ケーブル)が14%、50kW以上の急速充電が可能な欧州規格CCS(Combined Charging System、コンボ)Type 2は9%、日本規格CHAdeMOは5%だ(図6参照)。テスラは2013年以来、欧州の急速充電の先駆者であり、スイスには最大出力150kWのスーパーチャージャーが21カ所に設置されている。

図6:充電口の種類(2023年6月時点)
タイプ2ソケットが41%、タイプ2ケーブルが26パーセント、タイプ1ケーブルが14%、CCSコンボ2が9%、CHAdeMOが5%、自宅コンセントが3%、テスラが2%。

出所:連邦エネルギー局の発表データを基にジェトロ作成

PME誌によると、私用の充電器は現在10万基以上あるが、集合賃貸住宅などへの設置はまだ少ない。乗用車の電動化が予想以上のペースで進んでいる一方で、スイスツーリングクラブ(TCS)の調査では、EVを購入しない理由として、回答者の約3分の1が利用可能な充電設備がないことを挙げている。今後、さらにEVが普及していくためには充電インフラ規模の拡充が欠かせず、喫緊の課題だ。

充電インフラ構築への取り組み、マイルストーンは2035年

連邦エネルギー局は、2035年までに乗用車の半分以上の280万台以上がBEV・PHEVになるシナリオを想定している。そのため、十分な充電インフラを今後十数年で構築する必要があり、複数の充電ソリューション(自宅、職場、近所、目的地での充電、急速充電)を整えるためには関係者の団結した取り組みが欠かせないとした。こうした観点から連邦エネルギー局は、自動車、不動産、エネルギー、充電器プロバイダなど51の機関の関係者と、1年以上にわたって対話や調査を行ってきた。調査結果は 2023年5月、Eモビリティ・ロードマップの一環として公表された。

具体的には、(1)充電はできる限り自宅の既存駐車場で行うことが望ましいため、2035年までに最大200万の私用充電器を設置すべきこと、(2)集合住宅建物の私用充電インフラ設置は自発的には進まず、インセンティブの導入や設置計画と投資の安全性の確保が重要であること、(3)2035年には自宅や職場で充電ができない充電式車両が40万~100万台になると見込まれ、居住地付近の公共充電ソリューションが必要となるため、2035年には公共充電器を最大 8万4,000基まで増やすこと、(4)電動化が予想以上の速さで進んでいるため、2035年の電力需要が7.3テラワット時(TWh)まで増加すると推定されること(「スイス交通見通し2050」の予測では4.1TWhであった)、などだ。

住居の充電インフラ設置が重要視されてきた中、スイスeモビリティ協会による賃貸物件の充電設備に関するガイドも公表され、賃貸物件への充電器設置に際する確認事項や法的枠組みなどが示された。私用充電器設置に係る補助金の導入も検討され、連邦政府は改正CO2法の中で、年額3,000万スイス・フラン(約49億8,000万円、CHF、1CHF=約166円)の補助金予算を見込んでいる。州により異なるが、ジュネーブ州では充電器の購入・設置費用の50%について(私用の場合の上限は1,000CHF、共同利用の場合は2,000CHF)、補助金を活用できる。

将来的には、EVを「蓄電池」として電力網に接続するV2G(Vehicle-to-Grid)に大きな可能性があることなども認識されており、エネルギーの貯蔵や最適化を考慮した建物とモビリティのエネルギーシステム構築も視野に入ってきている。EV成長のカギを握る次世代電池についても世界中で研究開発が進む中、スイスでも研究開発が活発化している。スイスの電子・ナノテクに関する官民研究開発機関、スイス電子・マイクロテクノロジーセンター(CSEM) は2023年2月、バッテリーイノベーションハブ(BIH) をヌシャテルに発足させ、化学・物理学・工学分野のアカデミアと地元企業がバッテリー開発に取り組んでいる。次世代電池の本命とされる全固体電池(注5)のギガファクトリーの設立を、2022年4月に発表したスイス・クリーン・バッテリー(SCB)も注目だ。バッテリー生産ライセンスを新興企業ハイパーフォーマンス・バッテリー(HPB)から購入し、早ければ2024年から量産を開始するとしている。


注1:
HEVは外部電源からの充電は不可。統計にはマイルドハイブリッド車(MHEV)を含む。
注2:
BEVはバッテリー式電気自動車とも呼ばれる。電動車(EV)は電気でモーターを駆動して走行する車両の総称で、大きく分けて、HEV、BEV、 PHEV、 FCEVの4種類がある。
注3:
PHEVは外部電源からの充電が可能。統計にはレンジエクステンダー (REX)が含まれる。
注4:
図3は個人輸入車の数を含まない。
注5:
現在のEV用電池の主流は、電気を通す電解質が液体のリチウムイオン電池だが、全固体電池はこの電解質を固体にし、エネルギー密度を高めたもの。航続距離が延び、充電時間も短縮できるが、コストがリチウムイオン電池の数倍となる試算もあり、早期実用化の課題となっている。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2023年11月2日)
第7段落
(誤)これら2つのモデルの合計で8,453台であり、
(正)これら2つのモデルの合計で8,445台であり、
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
竹原 ベナルディス 真紀子(タケハラ ベナルディス マキコ)
金融機関、監査法人、自動車メーカーでの勤務を経て、2018年7月から現職。