インドのテストマーケティング地・商都ムンバイ
ショッピングモールにみる日系企業動向

2023年6月7日

人口約1,840万人(注1)を擁し、インド最大の都市規模を誇るムンバイ。古くから港町として栄え、中央銀行や国立証券取引所(NSE)、証券取引委員会、各銀行の本店、各国の商工会議所が立地するなど、金融・商業の中心地だ。近年では大型ショッピングモールの開業が目立っている。ムンバイでは2000年代前半からショッピングモール開業が続いていたが、そのころ開業したショッピングモールが老朽化し、2020年以降にリノベーションされるケースも散見される。本稿では、そのようなムンバイについて、経済状況とショッピングモールにおける日系企業のブランドの入居状況をみながら、考察を行いたい。

経済都市ムンバイ

表1は主な州の人口、名目GDP、1人当たりGDPを比較したものだ。ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州(MH州)は、州ごとの名目GDPでトップに位置しており、人口が1億人を超える州の中では1人当たりGDPも高い。州都ムンバイの人口は約1,840万人、同州が抱えるもう1つのTear1都市プネ(注2)が約500万人であることから、同州の人口は都市部に一極集中はしておらず、一般に収入の高くない都市部以外(農村部)にも分布している状況である。それにもかかわらず1人当たりGDPが高いということは、収入の高い層がそれだけムンバイに集中していると考えられる。

表1:主な州別の人口とGDPの比較
州名 人口
(万人)
名目GDP
(100万ドル)
1人当たりGDP
(ドル)
主な都市
(観光名所)
マハーラーシュトラ州 11,237 286,319 2,548 ムンバイ、プネ
ウッタル・プラデシュ州 19,981 181,427 908 アーグラー
(タージ・マハル)
ビハール州 10,410 67,977 653 パトナ
(ブッダガヤ)
西ベンガル州 9,128 146,048 1,600 コルカタ
タミル・ナドゥ州 7,215 229,509 3,181 チェンナイ
カルナータカ州 6,110 224,726 3,678 ベンガルール
グジャラート州 6,044 169,655 2,807 アーメダバード
ゴア州 146 8,307 5,690 ゴア
デリー準州 1,679 89,037 5,303 デリー

出所:インド国勢調査(2011)、インド準備銀行(2020、2021)資料からジェトロ作成

表2は、ボンベイ証券取引所(BSE)の30銘柄構成企業(SENSEX企業)の内訳を本拠地別に見たものだ。30社のうち19社が本拠地をMH州に構えており、これら大企業の関係企業やグループ企業などもMH州に立地していることが考えられる。MH州のGDPが他州に比して相応に高く、大企業の従業員も多くがムンバイ在住であろうことを考慮すると、収入の高い層がムンバイに居住していることがうかがえる。

表2:SENSEX企業本拠地(太字がMH州本拠地)
企業名 業種 本拠地
アクシス・バンク 金融 ムンバイ
HDFCバンク 金融 ムンバイ
HDFC(住宅金融開発公社) 金融 ムンバイ
ICICIバンク 金融 ムンバイ
コタック・マヒンドラ・バンク 金融 ムンバイ
ステート・バンク・オブ・インディア 金融 ムンバイ
バジャジ・ファイナンス 金融 プネ
バジャジ・フィンサーブ 金融 プネ
インダスインド・バンク 金融 プネ
リライアンス・インダストリーズ 化学・石油化学 ムンバイ
アジアン・ペインツ 化学・石油化学 ムンバイ
タタ・コンサルタンシー・サービス(TSC) 情報技術 ムンバイ
テック・マヒンドラ 情報技術 ムンバイ
マヒンドラ・アンド・マヒンドラ 輸送機器 ムンバイ
バジャジ・オート 輸送機器 プネ
ラーセン・アンド・トゥブロ(L&T) 建設・エンジニアリング ムンバイ
ウルトラテック・セメント セメント ムンバイ
サンファーマ 製薬 ムンバイ
ヒンドゥスタン・ユニリーバ 日用消費財(FMCG) ムンバイ
ONGC(石油・天然ガス公社) 石油・ガス デリー
NTPC(火力発電公社) 電力 デリー/グルガオン
PGCIL(国営送電公社) 電力 デリー
バルティ・エアテル 通信 デリー
マルチ・スズキ・インディア 輸送機器 デリー
ネスレ・インド 食品 グルガオン
HCLテクノロジー 情報技術 ノイダ
ITC 日用消費財(FMCG) コルカタ
ドクター・レッディーズ・ラボラトリーズ 製薬 ハイデラバード
インフォシス 情報技術 ベンガルール
タイタン 時計・宝飾 ベンガルール

出所:ボンベイ証券取引所(BSE)、各社ウェブサイトからジェトロ作成

また、インドの主な財閥のうち、リライアンス・インダストリーズ、タタ・グループ、マヒンドラ・グループ、バジャジ・グループ、ラーセン&トゥブロ(L&T)グループ、ヒンドゥージャ・グループ、ゴドレージ・グループなどがムンバイを本拠地としており、これらの財閥系グループ企業は毎年のように高収益企業の上位に入るなど、税収など資金の動きからも、ムンバイが商業の中心地となっていることが分かる。

古くから、ショッピングモール開業

商都ムンバイには、いち早くショッピングモールが開業していた。最も古いと言われているのが、1999年9月に開業したクロスロード・モールで、開業当時はインド国内でも最初期のショッピングモールの1つだった。現在はディスカウントストアとして生まれ変わっているが、ガラス張りの2棟を連絡橋で結ぶつくりは、当時としては画期的なデザインだった。

その後、2000年代前半には、ムンバイ北部を中心に、イノービット・モール、インフィニティ・モールなど、現存するショッピングモールが多く開業した。特に、ビッグ・バーザールという当時はまだ珍しい大規模スーパーマーケットを併設したフェニックス・ミル・モールは、現在では最高級ホテルのセントレジスを併設したフェニックス・パラディアム・モール(ハイストリート・フェニックス)と名称を変えてリニューアルされたほか、同じフェニックスグループのフェニックス・マーケットシティー・モールとともに、日系企業も入居するショッピングモールとなっている。

フェニックス・パラディアム・モール(ジェトロ撮影)

2010年前後になると、ショッピングモールの大型化が進んだ。それまでは広くとも5万平方メートル程度だった売り場面積は倍増し、10万平方メートル以上を誇るモールが多く開業するようになった。その中でもアールシティー・モール、ビビアナ・モール、シーウッズ・モール、前述のフェニックス・マーケットシティー・モールなどは、インド国内のみならず、アジアでも最大級のショッピングモールとなっている。

日系企業が出店するショッピングモール

今回、日系企業が出店するショッピングモールを訪問し、視察などを行った(2023年3月22日実施)。

フェニックス・パラディアム・モール

チョコレートのロイズ、無印良品、女性向け衣料品のワコールが出店している。

ロイズは2013年にムンバイに初出店、現在ではインド全土で10店舗を展開している。20個入りの生チョコレートを1箱1,000ルピー(約1,700円、1ルピー=約1.7円)からの価格設定で販売。商品は日本から冷凍で輸入しており、現在のところ、現地での製造は行っていない。

ロイズの興味深い点としては、店内につまようじが用意してあり、店員に試食用かと尋ねたところ、「購入した商品をその場で食べるお客さまがいる」との回答だった。同モールのウェブサイトでも、ロイズの店舗は「レストラン」として扱われ、ダイン・イン(DINE-IN)のコーナーに掲載されている。この点から、インドのショッピングモールで食品を扱う場合は、販売店ではなくレストラン(飲食店)として扱われるようだ。

ロイズの店舗外観と商品(ジェトロ撮影)

無印良品は2016年にムンバイに初出店した。その後、ベンガルール、デリー、ノイダに出店したが、現在、ベンガルールとデリーの店舗は閉鎖し、今後はムンバイに2号店を出店する計画と報じられている。商品ラインナップは、日本の店舗から食品と家電を除いたイメージで、プラスチック製品(収納用品)、文具、布製品、寝具、衣料品など多岐にわたっている。

価格については、写真のタオルが日本円で790円の値札が付いているところ、990ルピーと、日本円の2倍程度の価格設定だった。インドでは、輸入時の綿製タオル製品の関税が10%程度ということと、物流費などを加味した結果と考えられる。

無印良品の店舗外観と商品(ジェトロ撮影)

フェニックス・マーケットシティー・モール

100円ショップの大創産業がダイソージャパン・ブランドの店舗を出店している。ダイソーは2022年9月、インド北部のチャンディガル(連邦直轄領)に初出店した後、10月にラクノウ(ウッタル・プラデシュ州)、11月にバサイ(MH州)に出店したのに続いて、12月に4店舗目としてムンバイのフェニックス・マーケットシティー・モールに出店した。

商品価格は79ルピーから299ルピーなど、複数の価格帯で展開している。店員に聞いたところ、売れ筋はプラスチック製の小物入れや、電子レンジで使用可能な食品保存容器などキッチンツール全般で、度数が0.5刻みの老眼鏡も人気とのこと。価格が安く品質が良いことがその理由で、食器についてはデザイン性が高く、バリエーション豊富な点が人気という。

インドであまりなじみのない商品としては、日本酒を飲むためのとっくりと杯が多く陳列されていた。基本的に酒を飲まないインドで売れるのか聞いたところ、「とっくりは一輪挿しとして、杯は酒以外の飲料を普通に飲むために使うなど、本来の用途以外で使うために購入するお客さまもいる」という説明だった。また、インドでは電気洗濯機の普及率は日本ほど高くないが、洗濯ネットが棚の一面を取って陳列されていたため、客は使い方を分かって購入するのか聞いたところ、インドでは不明なことはすぐに店員に聞いてくるということで、訪問中もちょうどその使い方を客が質問する場面を見ることができた。

ダイソーの店舗外観と店内(ジェトロ撮影)

大手コンビニエンスストアのセブン-イレブンも入居している。2021年10月にムンバイに1号店をオープンしてから、路面店を中心に出店攻勢をかけていて、ムンバイ都市圏内で30店近くまで増やしている。インド国内で製造されている飲食品や日用品を中心に、スーパーマーケットではあまり見かけない小型サイズの商品を販売している。大きくて明るい看板とガラス張りの外観はもとより、24時間営業、イートインコーナー、衛生的なトイレ、電子マネー決済などは日本とさほど変わらないが、インドの特徴的な点は、店内調理のスナックカウンターがベジタリアン用とノンベジタリアン用と別々に設置されていることと、小規模の店舗で冷凍食品を取り扱っていることだ。保守的な食文化としてレディーメードの加工食品があまり消費されない傾向がある中、共働き夫婦や学生などの都市型ライフスタイルに順応しているコンビニエンスストアは、ますます求められるだろう。フランチャイズ契約先のリアイアンス・グループは、今後はムンバイ各店で就業経験を積んだスタッフの一部を登用し、全国各都市の店舗オープンに合わせて店長や指導員として派遣して、店舗数を拡大させたい考えだ。


セブン-イレブンの路面店(ジェトロ撮影)

セブン-イレブン店内。フードコーナーが
ベジ、ノンベジに分かれている(ジェトロ撮影)

MH州進出日系企業の動向

ここまでムンバイのショッピングモールに進出した日系企業の動向などを中心に見てきたが、それ以外の業種、ムンバイ以外のMH州内の日系企業動向はどうか。図は、ここ5年間のインド進出日系企業数の総数と、MH州に進出した日系企業数(総数に含まれる)の推移を示している。

図:インド進出日系企業数とMH州進出日系企業数の推移
2017年はインド全体で1369社の日系企業があり、その内220社がマハーラーシュトラ州に立地。2018年はインド全体が1441社、うちマハーラーシュトラ州が243社。2019年はインド全体が1454社、うちマハーラーシュトラ州が1454社。2020年はコロナ禍のため微増となり、インド全体が1455社で1社増加したのみで、うちマハーラーシュトラ州が250社と3社増加。2021年は調査開始以来初めての減少となり、インド全体が1439社と16社減少、うちマハーラーシュトラ州が238社と12社減少となった。

出所:ジェトロ/在インド日本大使館資料からジェトロ作成

2019年までは右肩上がりで推移していたが、2020年は新型コロナウイルス禍の影響でほぼ横ばい、2021年は初めて減少した。2020年から2021年にかけてインド全体で進出日系企業数が16社減少しているが、MH州企業は12社減少しており、減少数の大部分を占めるかたちとなった。

MH州進出日系企業は、ムンバイに進出している商業、金融業、サービス業等と、プネを中心とする工業団地に進出している製造業に大別される。コロナ禍による撤退は、主にムンバイに進出した金融業等のサービス業で発生しており、製造業の撤退はごく少数という状況である。

テストマーケティングの地、ムンバイ

ここまで見てきたように、商都ムンバイには、金融機関の集積があり、インドの大手企業の本拠地となっていることから、ムンバイ都市圏の1人当たりGDP、世帯収入は相応に高いと考えられる。また、ムンバイの旧称「ボンベイ」と「ハリウッド」を組み合わせた「ボリウッド」という造語があるように、ムンバイはインドの映画産業の集積地でもあり、俳優など関係者が多く居住する。このような点から、ムンバイはインドの流行の発信地、かつ、一定の購買力を持つ層がいる一大消費地と考えられることから、「テストマーケティングの地」という考え方が普及している。

上述したショッピングモールに入居する日系企業は、ムンバイからビジネスを開始し、インドでの自社商品の売れ行きを見定めているように思われる。無印良品はデリー、ベンガルールの店舗を閉鎖し、ムンバイに集約するという方向性を打ち出したことも、コロナ禍の事情を含めてマーケティングの結果ということになるだろう。コロナ禍での撤退はムンバイのサービス業で多く見られたが、多くの従業員を雇用する製造業でない場合は、事業の整理も行いやすい側面もあろう。現地生産を前提とする場合はまた違った手法もあると考えるが、商品を日本などから輸入し販売する前提ならば、巨大市場インドはまずムンバイからという考え方があることを強調したい。


注1:
2011年に実施されたインド国勢調査による数字。
注2:
人口に加え、空港、病院、教育施設などの設置状況や物価など総合的に判断して大都市をTier1に指定している。2023年現在、デリー、ムンバイ、コルカタ、ベンガルール、チェンナイ、ハイデラバード、アーメダバード、プネの8都市。
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所長
松永 宗徳(まつなが むねのり)
1996年、ジェトロ入構。輸入促進部、ジェトロ福岡、貿易投資相談課、ジェトロ・コロンボ事務所長、市場開拓課、機械環境産業課、海外事務所運営課、ジェトロ栃木所長などを経て2019年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部主幹(南西アジア)
河野 将史(こうの まさし)
1997年、ジェトロ入構。貿易開発部、ジェトロ新潟、対日投資ビジネスサポートセンター、ジェトロ・ムンバイ事務所長、上海万博日本館現地事務局、企画部国内事務所運営課長代理、ジェトロ・プノンペン事務所長、ジェトロ山梨所長などを経て2021年12月から現職。