2022年の自動車販売台数、過去最高の72万台(マレーシア)
売上税減免措置が大きく寄与
2023年9月13日
2022年のマレーシア自動車市場は、新型コロナウイルス感染症の沈静化に伴う経済活動再開と、人の移動活発化により、新車への需要も約3年ぶりに盛り返し、記録的な販売台数となった。販売台数、生産台数のいずれも前年比で4割以上増加した。主要メーカーによる販売台数も軒並み2桁増となり、マレーシアの自動車市場としては歴史的な一年となった。
新車販売台数は過去最高
マレーシアの2022年の新車販売台数は、前年比41.6%増の72万658台だった。2年連続の前年割れから一転し、新型コロナウイルス以前の水準を超えただけでなく、前年にマレーシア自動車協会(MAA)が予測した60万台をも大きく上回り、過去最高を記録した(2023年3月2日付ビジネス短信参照)。MAAはこの要因として、売上税の免税措置による販売促進効果を挙げた。この措置は、新型コロナウイルス感染拡大に対応した景気刺激策の一環として、2020年6月に導入された。新車購入時の売上税(10%)について、現地組み立て車(CKD)を対象に無税、完成車(CBU)を対象に5%に減免するものだった。2022年6月30日まで繰り返し延長され、同日までに購入予約を行い、2023年3月31日までに道路交通局(JPJ)に車両登録を行うことを条件に減免措置の対象とした。
新車販売台数の内訳をみると、全体の9割弱を占める乗用車は前年比41.8%増の64万1,773台、商用車は39.9%増の7万8,885台といずれも約4割増だった(表1参照)。さらに、乗用車の種類をみると、普通乗用車が41.8%増の39万7,294台、窓付きバンが4.3%減の862台、多目的車(MPV、注1)が37.9%増の4万9,579台、スポーツ用多目的車(SUV、注2)が43.2%増の19万4,038台だった。商用車の種類別では、パネルバンが47.2%増の4,859台、ピックアップトラックが41.7%増の5万7,710台、トラックが30.9%増の1万4,704台、プライムムーバ(牽引車)が53.0%増の1,490台、バスが22.3%減の122台だった。
項目 | 2021年 | 2022年 | |||
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通年 (台) |
シェア (%) |
通年 (台) |
シェア (%) |
前年比 (%) |
|
乗用車 | 452,486 | 88.9 | 641,773 | 89.1 | 41.8 |
普通乗用車 | 280,089 | 55.0 | 397,294 | 55.1 | 41.8 |
窓付きバン | 901 | 0.2 | 862 | 0.1 | △ 4.3 |
多目的車(MPV) | 35,952 | 7.1 | 49,579 | 6.9 | 37.9 |
スポーツ用多目的車(SUV) | 135,544 | 26.6 | 194,038 | 26.9 | 43.2 |
商用車 | 56,397 | 11.1 | 78,885 | 10.9 | 39.9 |
パネルバン | 3,301 | 0.6 | 4,859 | 0.7 | 47.2 |
ピックアップトラック | 40,736 | 8.0 | 57,710 | 8.0 | 41.7 |
トラック | 11,229 | 2.2 | 14,704 | 2.0 | 30.9 |
プライムムーバ | 974 | 0.2 | 1,490 | 0.2 | 53.0 |
バス | 157 | 0.0 | 122 | 0.0 | △ 22.3 |
新車販売台数合計 | 508,883 | 100.0 | 720,658 | 100.0 | 41.6 |
注:シェアの母数は、新車販売台数合計。
出所:マレーシア自動車連盟(MAA)
月別の新車販売台数推移(図1参照)について順を追ってみると、まず2022年では1月の販売が最も振るわなかった。これは、2021年12月中旬にマレー半島で発生した大規模水害の影響を受け、自動車メーカーは一時的に稼働を停止したほか、サプライヤーからの部品供給も混乱に陥ったことが影響した。2022年上半期は、半導体不足によるサプライチェーン混乱や原材料費高騰の影響で新車納入に遅れが生じた。その後、12月(決算月)の受注残を解消するために自動車メーカー各社が納入を増やしたことにより、2022年8月以降の販売台数は高止まりした。
なお、3月、6月、9月、12月の販売台数が比較的多い背景には、BMWやメルセデスベンツなど一部の自動車メーカーが、MAAへの新車販売台数の報告を、従来の毎月から四半期ごとに変更したことがある。同じ理由で、通年では売れ行きは良かったものの、4月と10月の販売台数がそれぞれ前年同月割れとなった。
なお、2021年6月以降の新車販売台数が急減した理由は、マレーシア全土で新型コロナ対策としての厳格化した移動制限と操業制限を導入したためだった。
上位5メーカーの順位は前年並み
2022年の新車販売台数をメーカー別にみると、国民車メーカー2社(プロトン、プロドゥア)が市場シェアの58.0%を占めた(表2参照)。ダイハツ工業と三井物産が一部出資するプロドゥアの販売台数は、28万2,019台(前年比48.2%増)に増加した。同社はモデル別の販売台数内訳を公開していないものの、市場シェアは39.1%となり、引き続き首位に立った。
2017年に中国の吉利汽車が49.9%を出資したプロトンは、13万6,026台(前年比21.8%増)に増加し、シェアは18.9%となった。同社によると、代表的なモデルである小型セダン「サガ」が引き続き好調で、前年比3割増の5万5,878台を販売した。また、2020年10月に発売されたSUVの「X50」が年間4万681台と、国内で最も売れたSUVとなった。
日系を含む外資系メーカーの販売台数では、トヨタが前年比39.8%増の10万41台だった。全体の13.9%を占め、外資系メーカーでは前年に続き最大シェアを維持した。乗用車では、SUVの「カローラ・クロス」が1万7,208台、商用車では、ピックアップトラックの「ハイラックス」が2万7,198台と好調な販売台数だった。
また、ホンダが前年比51.4%増の8万290台で4位に続いた。セダンの「シティ」が同社の売上高の36%を占め、最も売れたモデルだった。なお、商用車を含まない乗用車のみの販売台数でみると、ホンダがトヨタを抜き、外資系メーカーとしては首位を維持している。
三菱自動車は2万4,017台(前年比37.3%増)で、前年に続き5位を維持した。同社によると、最も販売台数の増加に寄与した車両モデルは2020年11月に販売されたクロスオーバー多目的車「エクスパンダー」で、前年比93.5%増の1万4,316台と、同社による年間販売台数の6割弱を占めた。これら上位5メーカーが市場シェアの86.4%を占めた。
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |||||
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通年 (台) |
シェア (%) |
通年 (台) |
シェア (%) |
前年比 (%) |
1~6月 (台) |
シェア (%) |
前年 同期比 (%) |
|
乗用車 | 452,486 | 88.9 | 641,773 | 89.1 | 41.8 | 326,661 | 89.2 | 11.2 |
商用車 | 56,397 | 11.1 | 78,885 | 10.9 | 39.9 | 39,376 | 10.8 | 3.6 |
国民車(乗用車+商用車) | 301,986 | 59.3 | 418,045 | 58.0 | 38.4 | 220,702 | 60.3 | 19.5 |
プロドゥア | 190,291 | 37.4 | 282,019 | 39.1 | 48.2 | 144,690 | 39.5 | 13.6 |
プロトン | 111,695 | 21.9 | 136,026 | 18.9 | 21.8 | 76,012 | 20.8 | 32.4 |
国民車以外(乗用車+商用車) | 206,897 | 40.7 | 302,613 | 42.0 | 46.3 | 145,335 | 39.7 | △ 1.1 |
トヨタ | 71,585 | 14.1 | 100,041 | 13.9 | 39.8 | 48,145 | 13.2 | 5.9 |
ホンダ | 53,031 | 10.4 | 80,290 | 11.1 | 51.4 | 33,727 | 9.2 | △ 15.0 |
三菱自動車 | 17,489 | 3.4 | 24,017 | 3.3 | 37.3 | 11,811 | 3.2 | △ 6.4 |
新車販売台数合計 | 508,883 | 100.0 | 720,658 | 100.0 | 41.6 | 366,037 | 100.0 | 10.3 |
注1:プロトン、プロドゥア、ホンダは乗用車のみ。トヨタ(レクサスを含まず)と三菱自動車(三菱ふそうを含まず)は、乗用車と商用車の合算。
注2:シェアの母数は、新車販売台数合計。
出所:表1に同じ
一方、2022年の生産台数は、前年比45.8%増の70万2,275台だった。乗用車が前年比45.6%増の65万190台、商用車が47.9%増の5万2,085台、といずれも4割以上拡大した。月別では、販売台数と同様の傾向がみられた(図2参照)。
メーカー別の生産台数をみると、国民車では、プロドゥアが前年比48.0%増の28万2,884台、プロトンが34.1%増の14万4,259台とそれぞれ2桁増だった(表3参照)。一方、国民車以外の生産が約5割増加した。うち、トヨタが55.8%増の9万881台、ホンダが45.2%増の7万8,299台、三菱自動車が66.7%増の1万4,300台といずれも大幅な伸びを示した。
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |||||
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通年 (台) |
シェア (%) |
通年 (台) |
シェア (%) |
前年比 (%) |
1~6月 (台) |
シェア (%) |
前年 同期比 (%) |
|
乗用車 | 446,431 | 92.7 | 650,190 | 92.6 | 45.6 | 339,846 | 93.7 | 15.5 |
商用車 | 35,220 | 7.3 | 52,085 | 7.4 | 47.9 | 22,689 | 6.3 | △ 4.7 |
国民車(乗用車+商用車) | 298,670 | 62.0 | 427,143 | 60.8 | 43.0 | 228,642 | 63.1 | 22.0 |
プロドゥア | 191,126 | 39.7 | 282,884 | 40.3 | 48.0 | 148,893 | 41.1 | 14.6 |
プロトン | 107,544 | 22.3 | 144,259 | 20.5 | 34.1 | 79,749 | 22.0 | 38.8 |
国民車以外(乗用車+商用車) | 182,981 | 38.0 | 275,132 | 39.2 | 50.4 | 133,893 | 36.9 | 2.5 |
トヨタ | 58,325 | 12.1 | 90,881 | 12.9 | 55.8 | 45,257 | 12.5 | 8.1 |
ホンダ | 53,913 | 11.2 | 78,299 | 11.1 | 45.2 | 36,549 | 10.1 | △ 8.0 |
三菱自動車 | 8,577 | 1.8 | 14,300 | 2.0 | 66.7 | 6,139 | 1.7 | △ 22.1 |
新車生産台数合計 | 481,651 | 100.0 | 702,275 | 100.0 | 45.8 | 362,535 | 100.0 | 14.0 |
注1:プロトン、プロドゥア、ホンダ、三菱自動車は乗用車のみ。トヨタ(レクサスを含まず)は、乗用車と商用車の合算。
注2:シェアの母数は、生産台数合計。
出所:表1に同じ
2023年上半期も売上税減免効果などで特に国民車が好調
2023年上半期(1~6月)の新車販売台数は36万6,037台と、前年同期比10.3%増に増加した。月別では、4月を除くすべての月で前年同月を上回った。前述した売上税減免措置が、2023年3月末までに登録される車両を対象としていたため、1~3月の販売台数を大きく押し上げたとみられる。このため4月に入ると、前年同月比17.1%減の4万7,765台と、落ち込みが顕著に表れた。しかし、5月は24.6%増の6万3,103台に好転した。MAAは、5月の増加要因として、未納入車両の手配と新モデル発売の予約増を挙げ、特に国民車メーカー2社が大きく寄与したとしている。6月の販売台数が前年同月比1.6%減と微減したが、6万台水準を維持し、好調を続けた。
メーカー別にみると、プロドゥアは2023年上半期、前年同期比13.6%増の14万4,690台に増加した。同社のザイナル・アビディン最高経営責任者によると、タクトタイム(車両1台の生産にかかる時間)が、従来の1.35分から1.25分に短縮されたという。こうした生産効率向上により、2023年下半期には生産・販売がさらに伸長し、年間31万4,000万台の販売台数目標を達成できる、と見通す。また、これに先立つ2023年2月にプロドゥアは、2014年9月に発売を開始した小型車「アジア」をフルモデルチェンジし、新発売したことを発表。さらに6月には、2017年の「アジア」モデルをベースにした廉価なマニュアル車「アジアE」を発売し、主に低所得層を対象に販売を伸ばしつつある。
プロトンも、上半期の新車販売台数が前年同期比32.4%増加し、特に4月に前年同月の実績を超えたのは同社だけだった。販売が好調な「X50」「X70」に続き、2023年5月にはSUV「X90」を発売。この新車モデルで、同社は初めて新エネルギー車(NEV、注3)市場に参入することとなった。
日系メーカーでは、トヨタが前年同期比5.9%増だったのに対し、ホンダが15.0%減、三菱自動車が6.4%減と明暗が分かれた。それぞれのメーカーが新型モデルを投入しているが、特にホンダは、4つの新モデルを2023年内に投入することで巻き返しを図る考えだ。
2023年上半期の販売好調を受け、通年予測を上方修正
2023年通年の新車販売台数について、MAAは当初1月17日に示していた予測では、65万台(前年比9.8%減)と、例年並みの水準を見込んでいた。世界的な経済減速や、マレーシア中央銀行による政策金利の引き上げによる消費の落ち込みなどを、当初予測の要因として挙げていた。
他方で7月20日には、通年の販売台数予測を72万5,000台へと大幅に上方修正した。減税効果が3月まで持続したことのほか、内需主導による安定した経済見通しが示されていること、新車モデルおよび国民車メーカーによる手頃な価格のモデルが好評であることなどが、上方修正の理由として挙げられた。
民間調査会社ケナンガ・リサーチは3月時点で、2023年通年予測を2022年並みの72万台と、MAAの当初予測を大きく上回る楽観的な見通しを示していた。(1)中銀による政策金利の据え置き(注4)、(2)CKD車両に対する物品税の新たな算定方法導入の再延期による車両価格の安定、(3)2023年1月末時点で未納入車が35万台あったことがその理由だ。
なお、電気自動車(BEV)については、2021年のわずか274台に対し、2022年には2,631台を販売した。2023年の詳細な予測値をMAAは発表していないが、2022年の実績を上回ると見込まれている。MAAはEV普及促進に向け、EVの輸入関税、物品税、付加価値税の全面的免除を2030年まで(注5)実施するよう政府に求めている。また、米国のEV大手テスラが7月20日に正式進出したことで、マレーシアのEV市場は活性化すると、サンウェイ大学のヤー・キム・レン経済学部教授は期待を示した。このほか2022年以降、韓国のサムスンSDIや中国のEVEエナジーなどが、EV電池関連の投資案件を相次ぎ発表している。
- 注1:
- 日本で「ミニバン」と呼ばれるMulti-Purpose Vehicleの略。
- 注2:
- Sports Utility Vehicleの略。
- 注3:
- New Energy Vehicleの略。中国政府が公的補助金の対象となるプラグイン電気自動車を指定するために創出した用語。バッテリー電気自動車 (BEV)、プラグインハイブリッド電気自動車 (PHEV)、および燃料電池電気自動車 (FCEV) のみが含まれる。
- 注4:
- ケナンガの発表時点(2023年3月)では、中銀は政策金利を2022年11月以降据え置いていたが、その後2023年5月3日に0.25ポイント引き上げ、3.0%とした。
- 注5:
- 2023年2月に発表され、同4月に可決された2023年修正予算で、EVの完成車(CBU)に対する輸入関税、物品税の全額免除措置実施期間を2023年末から2025年12月31日までに延長した。また、すべての部品を輸入し現地で組み立て・溶接・塗装・仕上げなどを行うEV(CKD)に対する売上税、物品税の全額免除措置も、実施期間を2025年末から2027年12月31日まで延長した。現地組み立てEV用部品の輸入関税の全額免除措置も同2027年末まで延長した。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
エスター頼敏寧 - 2009年、ジェトロ入構。ジェトロ・クアラルンプール事務所にて2年間調査アシスタントを務め、2016年に再入構し現職。