公共交通用自動運転バス実用化への動き(米国)
米連邦交通局の各種施策を中心に

2023年9月19日

米国運輸省連邦交通局 (FTA) は、新たな交通システムを構築する取り組みの一環として、自動運転バスによる移動サービスの実現を支援している。本稿では、FTAが推進する各種実証や、事業者による自動運転バスの共同調達に向けた動き、FTAが実施する市場調査などについて紹介する。

FTA主導の公共交通用バス自動化プロジェクト

FTAは公共交通分野で自動運転バスを普及させることを目的に、関連の実証やパイロット事業に補助金を提供している。2023年7月時点で、FTAが補助金提供を完了または決定した行政機関や学術機関は図1のとおりで、自動運転バスの実用化に取り組む公共交通事業者、研究者、産業界による学習機会(注1)も、補助金の対象に含まれている。

図1:FTAから補助金を供与された行政機関や学術機関
FTAが補助金を提供する自動運転バスのデモとパイロットの実施場所は2023年7月現在で、終了済みが4ケ所、進行中・計画中が10ケ所ある。

出所:FTA公開資料を基にジェトロ作成

これらの補助金は、米国運輸省が所管する各種プロジェクト予算から捻出されている。以下では、自動運転レベル3以上(注2)、かつ継続中(進行中と計画段階を含む)の補助金対象プロジェクトについて紹介する。

進行中の補助金対象プロジェクトは、2023年7月時点で5件存在する。このうちカリフォルニア州では、同州コントラコスタ郡運輸局が公道で3種類の実証を行っている(図2)。高齢者が多く居住するコントラコスタ郡ルースモア地域では、最寄り駅から自宅までの移動手段として、自動運転バスのサービス提供が計画されている。同郡は、最寄り駅から医療機関までのサービス提供も検討しており、車いす利用者も乗車可能な設計で実証が進められている。また、同郡は州間高速道路と並走する2マイル(約3.2キロ)区間の一般道で、インフラ協調機能(注3)を使った自動運転バスの走行実証の検討も進めている。

図2:カリフォルニア州コントラコスタ郡運輸局が行う自動運転バスの実証の地域
カリフォルニア州コントラコスト郡運輸局が行う自動運転バスの実証の地域は3ケ所ある。それらは、ルースモアの高齢者地域、コントラコスタ郡医療地域、州間高速道路680号に並走したインフラ協調実証地域、です。

出所:FTA公開資料を基にジェトロ作成

コネチカット州運輸局は、11の停留所と5つの交差点が存在する全長9.4マイル(約15.1キロ)のバス専用道で、隊列走行(注4)やバス停への正着制御(注5)を含む自動運転バスの実証を行っている(図3)。ここでは、カナダのニュー・フライヤー製の電気自動車(EV)バス「エクセルシオチャージ」が使用されており、ロボティック・リサーチ、コネチカット州立大学などがプロジェクトに参加している。2019年の当初計画によると、自動運転バスは2023年中に運行開始予定となっているが、7月時点で詳しい情報は公開されていない。

図3:コネチカット州運輸局によるバス専用道での実証
コネチカット州運輸局によるバス専用道での実証はコネチカット州運輸局が主導し、交通環境センターがプロジェクト管理、コネチカット州立大学がデータ収集とデータ解析、コネチカット州バス部門が公共交通バス運営、ロボティック・リサーとの自動運転機能を組み込んだニューフライヤーがEVバスを提供する。そして、11の停留所と5つの交差点がある全長約15.1キロメートルのバス専用道で実証が行われる。

出所:コネチカット州運輸局の公開資料を基にジェトロ作成

そのほか、カリフォルニア州パロアルト市の医療施設で、米ローカル・モーターズ製の自動運転EVバス「オリ 2.0」を使った実証が行われている。アイオワ州アイオワ市郊外では、米フォード「トランジット350HD」の改造車、オハイオ州マホニングバレー市ではカナダのグリーンパワー・モーター製の自動運転EVバスを使った実証が行われている。

2023年7月時点で計画段階にある補助金対象プロジェクトも5件存在する。フロリダ州ジャクソンビル市では、3段階に分けて自動運転バスの実証が計画されている。同市運輸局は、湾岸道路での自動運転バスの運行を皮切りに、サービス路線の拡大を図る計画を立てている。使用される予定の15台の車両は2023年7月時点で未定だが、フランスのナビヤ「アルマ」、グリーンパワー「EVスター」の改造車「AVスター」、ローカル・モーターズ「オリ2.0」が候補になると推察される(注6)。

図4:ジャクソンビル市運輸局による自動運転バスの実装計画
ジャクソンビル市の自動運転実装は3段階に分けて計画されている。第1段階は東回廊の地域、第2段階はダウンタウン、西回廊の地域に延長、第3段階は北回廊、南西回廊に延長、南岸・サンマルコ回廊の地域に延長、の予定である。

出所:ジャクソンビル市運輸局の公開資料を基にジェトロ作成

残る4件に関しては、カリフォルニア州サンタクララ郡、同州ロサンゼルス郡、ネバダ州クラーク郡、テキサス州ハリス郡で、自動運転バスを使用した各種実証が計画されている。

自動運転の公共交通バスの保守や構内作業のデモンストレーション

自動運転バスによる移動サービスの実現には、運行路線や地域の設定だけでなく、整備場から移動サービス出発点までの移動、終着点から整備場までの移動、整備場内での効率化など、事業全体として検討すべき課題がある。

FTAはこれらに対して、2018年1月に5ヵ年計画として策定した戦略的公共交通自動化研究(STAR)計画(注7)に基づき、補助金を給付している。2023年6月には、自動運転バスの保守(4件)と整備場での作業(2件)に関して、6件の実証プロジェクトが採択された(2023年6月9日付ビジネス短信参照)。整備場での作業に関連して、フロリダ州ピネラス郡サンコースト交通公社は、車庫や整備場で定常的に実施されるバスの保守作業の効率化を計画している。さらに、自動運転バスに自動駐車機能や自動呼び戻し機能(注8)を組み込むことで、運転手の整備場内での作業時間を短縮し、空いた時間を別業務に振り分けることを検討している。テキサス州オースティン市キャピタル・メトロポリタン運輸局は、整備場での保守作業の自動化システムが現行の作業に与える影響や、これによって創出される職種や業務などを分析する計画だ。

自動運転バス調達に向けた動き

官民連携の取り組みとして、米国の公共交通機関と運輸局によって構成する自動運転バスコンソーシアム(ABC)は2020年9月、国内で初めて自動運転バスの要求仕様書(注9)を作成した。また、ABCを主導するミシガン州運輸局は2022年1月、自動運転バスの製造業者に対して、70台分の提案依頼書(注10)を提示した。提案期限は同年5月に設定されていたが、製造業者からの提案結果は公開されていない。

ABCは2023年8月に要求仕様書を更新した上で、2024年初めにあらためて提案依頼書を提示する予定だ。自動運転バスの共同調達に向けた動きは道半ばだが、事業者はこの取り組みを継続している。

自動運転バスの市場調査

自動車は単価の高い商品で、高級車から新しい技術を導入し、大量生産により生産コストを下げることで大衆車に展開していく業界だ。自動運転バスもその例にもれず、公共バスへの導入には低価格化が必要となる。

FTAは、自動運転バスの受容可能性について定期的に分析し、報告書を公表している。報告書の第1弾は2019年10月、第2弾が2020年7月、第3弾が2021年9月に公開されてきた。FTAによると、2022~2023年版となる第4弾も間もなく公表される見込みだ。第3弾では、自動運転バス開発がパイロット試験段階にあり、価格を算出できる状況にないこと、また、販売台数が少なければ特注となって販売価格が高くなることなども指摘された。

米国運輸省は2023年7月、カリフォルニア州サンフランシスコ市で「自動道路交通シンポジウム」を開催した。この概略によると、産業界は公共バスについて、自動運転よりも高度運転支援システム(ADAS)の導入が優先されるべきとの考えで一致したもようだ。

まとめ

FTAは、公共交通分野での自動運転バスの普及に向け、移動サービスとしての実証、整備場での実証、共同調達の促進、受容可能性に関する市場調査などを実施してきた。また、2022年に終了したSTAR計画に関連して、新たな計画が2023~2028年に実施される予定となっている。FTAはこれからも、中・長期的な視点で自動運転バスを推進していく構えだ。


注1:
障害者や高齢者を対象とした移動サービスの運用方法、自動運転バスに関する仕様の共通化、自動運転バスとそのほかの交通機関との連携などを含む。
注2:
自動車技術者協会(SAE)が定義する自動運転のレベル。レベル3では、限定された領域内でシステムが原則全ての運転タスクを実施するが、作動継続が困難な場合に、運転者が適切な対応をする必要がある。レベル4では、限定された領域内で加速・操舵(そうだ)・制動を全てシステムが行い、ドライバーが全く関与しなくても走行可能となる。レベル5では、領域を限定せず常時、システムによる走行が可能となる。
注3:
路車間、車車間で無線通信を使用した情報のやり取りを行い、車両の走行を円滑にし、安全を確保する機能。
注4:
複数の車両が連なり、隊列を組んで走行すること。
注5:
バス停でバスの乗降口を隙間なく幅寄せして停車させる制御。
注6:
フロリダ州ジャクソンビル市運輸局の公開資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、ナビア「アルマ」、グリーンパワー「EVスター」、ローカル・モーターズ「オリ2.0」が写真付きで紹介されている。グリーンパワーのWebには、「EVスター」に自動運転機能を装備した車両を「AVスター」と呼び、ジャクソンビル市向けに開発したと記載がある。
注7:
FTA資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(10.03MB)を参照。
注8:
駐車場内の駐車場所から車両を指定の場所まで(再)移動させること。
注9:
システムなどの開発時にシステムが満たすべき機能や要件をまとめた書類のこと。
注10:
システムなどの開発時に発注者側が開発者側に提出する書類のこと。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
見並 一明(みなみ かずあき)
1980年から自動車部品業界、2016年から高度道路交通システムの業界連携活動に従事し、2023年4月に常勤嘱託としてジェトロ入構、自動車関連の北米動向調査を担当。