ベトナムのチン首相、投資環境改善の取り組みと日本への期待を語る
日越投資カンファレンスでのスピーチ

2022年1月6日

ジェトロとベトナム計画投資省は2021年11月25日、東京で「日越投資カンファレンス」を開催した。オンラインも含めて日本人約700人とベトナム人約300人が参加。来日したファム・ミン・チン首相と、萩生田光一経済産業相の立ち会いの下で、45件、総額120億ドル相当の協力覚書(MOU)の交換式などが披露された(2021年12月6日付ビジネス短信参照)。その経済的なインパクトに加えて印象深かったのは、チン首相のスピーチだ。就任以来、チン首相が大勢の日本企業関係者を前に語り掛けたのは、今回が最初だろう。そのスピーチ骨子を紹介する。

チン首相は、原稿も見ずにまっすぐ聴衆に語り掛けた。日本企業には「安心して投資してほしい」と訴え、今後取り組むさまざまな改革を列挙した。人権や環境保護、イノベーションといった新たな視点も盛り込み、そのための日本からの支援を求めた。両国民に共通する誠実さや勤勉さが両国の協力関係の基盤との情感あふれるメッセージともなっている。

日越投資カンファレンスでのチン首相のスピーチ骨子

(以下は同時通訳による日本語訳を編集したもので、正規訳ではない。)

昨日(11月24日)、岸田文雄首相と首脳会談を持ち、共同声明を発出した(外務省ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。そこには両国関係の深さが表れている。(両国関係にとっての)新しいページであり、両国関係の格上げである。投資を拡大する環境がさらに整うだろう。まず数点申し上げる。第1に、両国関係は非常に良好だ。世界情勢は複雑であり、戦略的競争が厳しさを増している。両国は力を合わせてビジネス環境の整備を行っていく。第2に、(両国には相通じる)温かさ、誠実さ、信頼がある。カンファレンスは2年ぶりの開催だった。新型コロナ(ウイルス禍)で寸断された。投資家のみなさんは安心してほしい。ベトナム人は創造性があり、勤勉で謙虚、知的、柔軟だ。困難な時こそ強くなり、困難をチャンスに変える力がある。進出日系企業は現場でそれを実感できるだろう。第3は、新しい課題、人権だ。われわれは人権をさらに守れるよう取り組む。第13回(ベトナム共産)党大会では、人間の安全保障を議論した。外国の投資家も安全に投資ができることを確約したい。

国内では3つの側面を強化・改革していく。1つ目は法制度の整備、行政手続きの簡略化、コスト削減。国際社会と統合するための整備だ。2つ目は高度人材育成。3つ目はソフト面・ハード面でのインフラ整備。この3つは非常に重要だが、達成可能なものと挑戦が必要な課題があり、支援をお願いしたい。

さらに大きな課題は、グローバルな課題だ。第1に新型コロナ対策。第2に気候変動、地球温暖化、第3に天然資源の保護、第4に環境汚染、第5に高齢化。グローバルな課題はベトナムにも影響が及ぶ。

ベトナムには発展途上国ならではの課題があり、日本のような先進国の友人に支援をお願いしたい。第1に法制度の整備。広範で深い国際統合を実現したい。第2にベトナム人の高度人材育成だ。これはイノベーションを起こす。第3にファイナンスの活用。例えば、グリーンファイナンスの活用によって持続可能な成長を起こす。第4に革新的な技術の導入とその発展。第5にマネジメント。企業経営だけでなく、国家の円滑な経営が必要だ。支援をお願いしたい。外国投資家のために行政改革、腐敗・不正撲滅を徹底していく。

日本企業にはその強みを生かした投資に期待したい。デジタルトランスフォーメーション(DX)や、高度人材の訓練、戦略的なインフラ整備、農業開発、グリーン経済、循環型経済、気候変動への対応などだ。

ともに困難を乗り越えよう。目の前の困難は一時的なものだ。日本とは長期的、戦略的に歩んでゆく。互い発展しよう。昨日、岸田首相と「われわれには共通基盤がある」と話した。その基盤は両国民の誠実さだ。これは一緒に仕事をする中で培われた。日越関係は50年間にわたって外交関係を樹立し、信頼関係はますます深まっている。ともに協力し、ともに勝利しよう。ご清聴、ありがとうございました。


日越投資カンファレンスでスピーチするチン首相(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所長
中島 丈雄(なかじま たけお)
1992年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ・サンフランシスコ事務所、海外調査部北米課長、サービス産業部サービス産業課長、対日投資部外資系企業支援課長、対日投資部次長などを経て、2019年9月から現職。