新車登録・生産は、2021年も記録的低水準
英国の自動車産業(前編)

2022年5月16日

英国では2021年、自動車販売台数と生産台数が伸び悩んだ。前年に続いて、新型コロナ禍の影響を受けた結果と言える。一方で、電気自動車(EV)のシェアは2020年に引き続き拡大した。

2021年の新車登録台数は伸び悩むも、EVが大幅増

英国の2021年の新車登録台数は、前年比1%増の164万7,181台だった。1992年以来で最低になった2020年に次ぐ低水準だった。また、新型コロナ感染拡大前の2019年を28.7%下回った(表1参照)。この要因として、英国自動車製造販売者協会(SMMT)は新型コロナ感染流行の継続的な影響のほか、自動車業界の半導体不足を挙げた。用途別には、自家用が前年比7.4%増の80万2,504台、商用は同4.7%減の3万2,648台だった。

表1:燃料車種別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
燃料種別 2019年 2020年 2021年
台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 前年比
(台数)
ガソリン車 1,482,409 64.1% 903,961 55.4% 762,103 46.3% △ 15.7
マイルドハイブリッド車(MHEV、注1)ガソリン 41,955 1.8% 119,179 7.3% 198,025 12.0% 66.2
バッテリー電気自動車(BEV) 37,850 1.6% 108,205 6.6% 190,727 11.6% 76.3
ハイブリッド車(HEV、注2) 98,237 4.3% 109,860 6.7% 147,246 8.9% 34.0
ディーゼル車 581,774 25.2% 261,772 16.0% 135,773 8.2% △ 48.1
プラグインハイブリッド車(PHEV) 34,984 1.5% 67,134 4.1% 114,554 7.0% 70.6
マイルドハイブリッド車(MHEV、注1)ディーゼル 33,931 1.5% 60,953 3.7% 98,753 6.0% 62.0
合計 2,311,140 100.0% 1,631,064 100.0% 1,647,181 100.0% 1.0

注1:電力によるアシストにより燃費や二酸化炭素(CO2)排出量を効率化した自動車。電力単体での駆動はできない。
注2:PHEVよりも電力で駆動する距離が短く、回生ブレーキにより発生する電気を使用する自動車。
出所:英国自動車製造者販売者協会(SMMT)

燃料車種別に見ると、ディーゼル車が前年比48.1%減の13万5,773台と大幅減。このほか、ガソリン車も同15.7%減の76万2,103台だった。一方、バッテリーEV(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HEV)はそれぞれ同76.3%増、同70.6%増、同34.0%増。いずれも大きく登録台数を伸ばし、これらのシェアの合計は27.5%となった。特にBEVは新車登録台数が19万727台と、2016年から2020年までの同登録台数の合計を超えた。

登録上位車種を見ると、英国のボクソール「コルサ」に続き、米国テスラのBEV「モデル3」が3万4,783台で2位にランクインした(表2参照)。日本車の新車登録台数は、前年比2.7%増の26万4,255台。シェアは前年の15.8%から0.2ポイント増加して16.0%になった。2021年のBEV、PHEVの登録上位車種については、1位はそれぞれテスラ「モデル3」、BMW「3シリーズ」だった(表3、表4参照)。

表2:新車登録上位10車種
(2021年)(単位:台)
順位 車種名 台数
1 ボクソール「コルサ」 40,914
2 テスラ「モデル3」 34,783
3 ミニ 31,792
4 メルセデス・ベンツ「Aクラス」 30,710
5 VW「ポロ」 30,634
6 VW「ゴルフ」 30,240
7 日産「キャシュカイ」 29,922
8 フォード「プーマ」 28,697
9 起亜「スポテージ」 27,611
10 トヨタ「ヤリス」 27,415

出所:SMMT

表3:BEV新車登録上位10車種
(2021年)(単位:台)
順位 車種名 台数
1 テスラ「モデル3」 34,783
2 起亜「eニロ」 12,271
3 VW「ID.3」 11,032
4 日産「リーフ」 9,052
5 アウディ「eトロン」 7,396
6 現代「コナ」 7,199
7 ミニ 6,615
8 ルノー「ゾエ」 5,778
9 ボクソール「コルサe」 5,605
10 MG「ZS」 5,380

出所:SMMT

表4:PHEV新車登録上位10車種
(2021年)(単位:台)
順位 車種名 台数
1 BMW「3シリーズ」 10,979
2 メルセデス・ベンツ「Aクラス」 6,495
3 ボルボ「XC40」 6,362
4 フォード「クーガ」 6,137
5 アウディ「A3」 5,755
6 ランドローバー「イボーク」 4,537
7 BMW「X5」 3,703
8 ボルボ「XC60」 3,538
9 ランドローバー「スポーツ」 2,919
10 セアト「レオン」 2,726

出所:SMMT

一方で、英国政府は2021年12月、BEVとPHEVの新車購入補助金(注)の切り下げを発表した。支給額上限について1,500ポンド(約24万4,500円、1ポンド=約163円)に減額した。この上限額は同年3月、2,500ポンドに引き上げられていたところ、再び減額したかたちだ。さらに、対象になる車両の価格を3万5,000ポンド未満から3万2,000ポンド未満に引き下げた。この措置の背景には、BEVの新車登録台数が伸びる中、販売価格が低下し、対象モデルや需要が増えたことなどがある。補助金をめぐる政府の動きに対しSMMTのマイク・ホーズ会長は、「英国のドライバーはゼロエミッションへの移行に取り残される恐れがある」と発言。BEV需要や道路輸送の脱炭素化への影響を懸念した。

EVは記録的増産、総生産台数のシェア26.1%に

2021年の国内自動車生産台数は、前年比6.7%減の85万9,575台。1956年以来の最低を記録したことになる。新型コロナ感染拡大前の2019年比では34.0%減になった(表5参照)。海外輸出向け生産は前年比5.8%減、国内向けは同10.6%減だった。なお、英国で生産される台数の82.1%が輸出用だ。

表5:自動車生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
対象市場 2019年 2020年 2021年
台数 台数 台数 前年比
国内向け 247,138 171,890 153,749 △ 10.6
輸出向け 1,055,997 749,038 705,826 △ 5.8
合計 1,303,135 920,928 859,575 △ 6.7

出所:SMMT

2021年の生産台数の低迷について、SMMTは「世界的な新型コロナ感染拡大の直接的な影響を受けた結果」とした。部品供給が大幅に制限される中で工場が減産や一時稼働停止を余儀なくされたことや、ロックダウン(都市封鎖)に伴う数カ月間のショールーム閉鎖による需要減、自主隔離による人手不足などの影響があったという。

一方で、電気自動車(BEV、PHEV、HEV)は22万4,011台。総生産台数の26.1%を占めた。2019年を超え、記録的な生産実績と評価できる。中でもBEVは前年比72.0%増と大きく伸長した。

メーカー別の生産台数では、日産が前年の1位から順位を1つ落として2位、トヨタが4位、ホンダが5位になった(表6参照)。SMMTは2021年の総生産台数の落ち込みの主因の1つとして、7月にホンダの自動車工場が閉鎖されたことを示唆した。SMMTによると、ホンダの自動車工場閉鎖に伴う生産台数の落ち込みは、年間の減少割合の24.3%に相当する。

表6:各メーカーの生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2019年 2020年 2021年
台数 台数 台数 前年比
ジャガー・ランドローバー 385,197 243,908 220,554 △ 9.6
日産 346,535 245,649 204,522 △ 16.7
ミニ(BMW) 221,928 175,736 186,762 6.3
トヨタ 148,106 116,261 124,918 7.4
ホンダ 108,876 69,366 54,465 △ 21.5
ボクソール 61,737 32,234 27,426 △ 14.9
その他(注) 30,756 37,774 40,928 8.3
合計 1,303,135 920,928 859,575 △ 6.7

注:合計値よりジェトロにて計算。
出所:SMMT

英国の自動車生産は、2021年も引き続き輸出が牽引している。最大の輸出先はEUで、シェア55.0%だ。英EU通商・協力協定(TCA)から生じるコストなどにもかかわらず、前年比で1.5ポイント伸ばした。

EU向けも生産台数では38万8,249台と前年比で3.0%減だった。もっとも、EU以外も、多くの主要輸出先で減少している。例えば、米国が同10.5%減、日本が同36.1%減。その他、カナダ、オーストラリア、韓国はそれぞれ同5.3%減、同31.1%減、同29.7%減になった。一方、中国は好調な市場と、英国産高級車などに対する需要が影響し、同0.6%増と健闘した。

後編「EVの普及拡大に、充電インフラ整備が急務」では、英国での自動車メーカー各社のEV化の動きに加え、さらなるEVの普及に向けて充電設備の整備が急務になっていることを解説する。


注:
英国では、BEVとPHEVの新車を購入する際、補助金を受けることができる。支給額は納税額に応じて変動し、上限額が設定されている。また、対象車両の価格についても、上限設定がある。

英国の自動車産業

  1. 新車登録・生産は、2021年も記録的低水準
  2. EVの普及拡大に、充電インフラ整備が急務
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
宮口 祐貴(みやぐち ゆうき)
2012年東北電力入社。2019年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2020年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
オステンドルフ・七海・ありさ(おすてんどるふ・ななみ・ありさ)
2021年8月、ジェトロ・ロンドン事務所入所。