都市機能や海事仲裁も充実(インド)
GIFTシティーにビジネス集積(後編)

2022年7月20日

インド初の国際金融経済特区、GIFTシティー(Gujarat International Finance Tec-City)」の現況を伝える連載。前編では、金融や関連企業参入の動きを中心にレポートした。

一方で、当該特区はなおも街づくり途上にある。後編では、通勤・居住する人々の日常的なニーズに応えるための動きを追う。都市機能の向上やインフラ環境の充実に向けた様々な動きは、まさに加速し始めているところだ。


GIFT内で操業するビルと入居企業を示すエントランスボード(ジェトロ撮影)

都市機能の充実に向けて、様々な動き

以下では、都市機能の充実に向けた様々な取り組みを追っていく。

1.域内開発権獲得に関心

インドでも、新型コロナウイルス感染症に鎮静化が進む。それに伴い、GIFTシティーでの事業開発権の取得に向けた動きも活発化してきた。特に最近は、商業目的や住宅開発目的のグリーンフィールド型開発(注1)への関心が集まっている。既に約1,000万平方フィート(約93万平方メートル)相当分の開発権が割り当てられたという。GIFTシティーのタパン・レイCEOは「新型コロナ感染拡大の第3波(2021年12月下旬~)の鎮静化を受け、世界的企業や開発業者からの関心が急激に高まっている。短期間のうちに割り当てた約1,000万平方フィートは、新型コロナ前10年間にわたって割り当て開発権とほぼ同規模だ」と述べた。

2.従来以上に高度な医療機関が進出

また、都市として重要な機能の1つに医療がある。最近、医療機関の進出に動きがあった。ムンバイの私立病院「リラバティ病院」が、GIFTシティーでの病院設立に35億ルピー(約59億5,000万円、1ルピー=約1.7円)を投じる計画があるとされる。同病院は40万平方フィート規模となる予定。救急航空搬送設備、ロボティクス手術機器など、最新鋭の設備を備えると伝えられている。2022年中に着工し、3年以内の開業を目指すという(「タイムス・オブ・インディア」紙2022年5月18日)。

ガンディナガールやGIFTシティーには現状、同病院に匹敵するレベルの大規模病院がない。こうした国際水準の病院が進出すると、GIFTシティーにさらなるグローバル企業を呼び込むための大きな決定要因となると期待されている。

3.域内住宅拡充にも需要

GIFTシティーへの企業進出進展に伴い、住宅需要も高まる。そのため、居住エリア内外で、様々な開発業者が数々の住宅開発を計画していると報じられた(「インディアン・エクスプレス」紙2022年5月7日)。例えばアーメダバードに拠点を置く不動産開発業者シルプ・グループ(Shilp Group)は、GIFTシティー内の経済特区エリア(SEZ)に22階建ての住宅棟3棟を建設。585戸の住宅プロジェクトを立ち上げる計画を発表した。

4.大規模小売施設も進出

2022年2月には、アヴェニュー・スーパーマーケッツ社(Avenue Supermarkets Limited)が、GIFTシティー内に「ディー・マート(D Mart)」ブランドのスーパーマーケットを展開すると発表(「エコノミック・タイムス」紙2022年2月23日)。大規模小売業としては、初めての取り組みになる(注2)。

5.交通インフラ整備でも覚書

GIFTシティーへの通勤や都市域内の移動手段の利便性の整備の面でも、動きがあった。目下、スマートシティーとして、環境に配慮した電気自動車(EV)交通システムの導入や、ライドシェアを前提にしたコンセプトが進められている模様だ。

例えば、チャータード・スピード社(Chartered Speed Limited)とGIFTシティーは、覚書に調印。シティー内にEV都市交通エコシステムを構築する上で協力していく。なおこの提携は、GIFTシティーへの通勤・通学のために公共交通機関を強化することだけを目的にするわけではない。その狙いには、アーメダバード市とガンディナガール市のEVインフラを促進・強化することも含むのが特徴的だ。

チャータード・スピードは、モビリティ・サービス・プロバイダー大手として知られる。その知見を活かし、トータルな事業管理・運営を請け負うことになる(運転手の雇用管理、ルートや運賃の設定、料金徴収、バスのメンテナンス、充電インフラ設備の設置など)。その上で、都市内および各都市間の移動のためのEVバスの運行サービスを提供する。また、GIFTシティーで働く人々や居住者、訪問者に対してEV二輪車を貸し出すことも予定されている。 同社のサンヤム・ガンディーCEOは「この提携は、EVの成長と普及を加速させるだけではない。GIFTシティーの域を超え、より広い地域全体のEVインフラ施設を強化させることに道を開くと確信している」と述べた(「オートカー・プロフェッショナル」紙2022年5月10日)。

航空機・船舶リースや仲裁機能も強化される可能性

GIFTシティーはこれまで、「航空機リース事業」「船舶リース事業」などにも優遇措置を講じてきた。そのため、「国際仲裁センター」や「世界レベルの大学研究機関」の誘致などを表明。あわせて、「フィンテック・ハブ構想」を後押しする「IT/ITeS政策(2022-27)」を発表している。一方、インド政府も国家予算でこれらの構想を毎年、予算案に盛り込むことで後押ししてきた(2022年3月22日付地域・分析レポート参照)。

GIFTシティーが持つユニークな機能の1つに「海事クラスター構想」がある(2021年6月29日付ビジネス短信参照)。関連する動きとして、海事分野での紛争を解決するための国際仲裁機関が、間もなく開設される、と報じられた。「グジャラート国際海事仲裁センター」(GIMAC)には、ムンバイ高等裁判所の前首席判事をヘッドとするパネルが設置され、シンガポール、ドバイ、ロンドンなどの裁判官や海事・海運分野の専門家が参画する予定だ。

インドにはこれまで、海事・海運部門に特化した仲裁機関が存在しなかった。同センターの設置により、国際海事仲裁をインド国内で進めることが容易になる。それに伴って、解決コストが削減されることになりそうだ(「アーメダバード・ミラー」紙2022年5月5日)。

そのほかにも、「ニルマラ・シタラマン財務大臣が複数のアメリカの有名大学とオンラインでGIFTシティーへの進出につき意見交換」(4月23日)、「FedEXの代表団がGIFTシティーを訪問し、GIFTシティー内にFedEXの中核拠点(CoE)を設立する可能性についてブペンドラ・パテルGJ州首相と意見交換」(5月2日)、「ボーイング社チームがシタラマン財務大臣を表敬し、GIFTシティーでの航空機リース事業拡大へのサポートにつき協議」(5月7日)などの動きを読み取ることができる。このように、水面下での動きが相次いでいるようだ。

国際金融都市構想がもたらす商機の見極めを

ここまで見てきた通り、GIFTシティーは先進的なスマートシティー開発の取り組みだ。そのコンセプトはインド政府が描き、政策的に後押ししている。国際金融経済特区としての機能だけでなく、航空機リース、船舶リース、海事仲裁、フィンテック・ハブといった新たなコンセプト・機能が次々に打ち出されている。そうすることで求心力を高め、関連企業や諸機関の進出が加速。今、GIFTシティーの周辺では、様々なことが進んでいる。

具体的な企業進出案件の蓄積が順調に進み、次々にビジネスが立ち上がってく期待を持つことできる。仮にそうなっていくと、やがてGIFTシティーが持つ多様な機能の間で相乗効果を生む。さらには、インド初の国際金融特区が持つ諸機能を活用した上で、新たなビジネス展開の可能性などが明らかになっていくだろう。相互して、人が暮らし働く都市としてのインフラ整備に弾みがつく可能性がある。グリーンフィールドから立ち上がった都市は、やがて先進的なインフラを持つスマートシティーとしての全貌を示すことになるだろう。

インド政府や州政府は、今後もGIFTシティーを政策的に強力に後押ししていくとみられる。その結果として、インドだけでなく世界的な国際金融都市として、地位を築いていく可能性がある。このプロセスにおいて、どのようなビジネスチャンスが見いだすことができるのか。様々な側面から注意深く評価していく必要がありそうだ。


注1:
整備されていない未開発の土地で、都市機能やインフラ計画全体をゼロからデザインするタイプの開発プロジェクト。
注2:
アヴェニュー・スーパーマーケッツ社は、インド各州にスーパーマーケット・チェーンを擁する。一方で、GIFTシティーで、新たな店舗がどのように展開されるのかは今のところ不明。
ちなみに、同社がアーメダバード市内に展開する店舗は、大衆的な店構えが多い。格安な価格帯の商品が所狭しと並べられている。インド人が日常の買い物に訪れる格安スーパーという印象だ。シティーの特性を考えると、かなりイメージの異なる仕立てになる可能性も考えられる。

GIFTシティーにビジネス集積

  1. 金融機関などが続々参入(インド)
  2. 都市機能や海事仲裁も充実(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。