砂漠気候でも果樹・野菜を生産、キュウリは自給率9割超(UAE)

2022年5月25日

アラブ首長国連邦(UAE)では、夏の最高気温は40度を超え、日によっては50度を超える。降水量は年間を通じて少なく、国土のほぼ全域に砂漠が広がっている。しかし冬は、最高気温は25度以下で、水の確保さえできれば農業生産に適した環境になる。

冬にはスーパーマーケットの店頭にさまざまな自国産の農産物が並ぶなど、農業が意外に盛んであることに気が付く。UAE気候変動・環境省の統計によると、キュウリの約9割、トマトの約4割を自国産で賄っているという。本レポートでは、UAEの果樹・野菜生産の状況について紹介する。

ドバイ市内大手スーパー店内の野菜売り場の様子(ジェトロ撮影)

国は研究・指導や補助金制度で農業を支援

UAE連邦競争力・統計局によると、UAEの人口は977万人(2019年)、GDPは4,172億1,600万ドル(2019年)。主な産業は鉱業で、GDP全体の23%を占める。次に卸売・小売業が13%、建設業が9%と続く。農林水産業は31億1,700万ドルで、全体の0.7%程度となっている。0.7%の内訳は公表されていないが、農業が大きな割合を占めていると思われる。

ドバイやアブダビの都市部から少し離れると、同国の主要農産物であるデーツの栽培農場やラクダの肥育施設が目に入り、農業が地方都市経済を支える基盤産業であることがうかがえる。

国は地域の農作物を安定的に生産するため、国営の農業試験場を設置し、病害虫防除技術の指導や、近年深刻化している塩害などについて研究・普及指導を行っている。また、農薬の購入、農業機械の購入などに対しても補助金制度が設けられている。


ドバイ郊外のラクダ肥育施設(ジェトロ撮影)

アブダビ郊外のデーツ畑(ジェトロ撮影)

UAE政府は2020年6月に、食料自給率の向上、農業従事者の収入の向上を目指す持続的な農業のための施策「持続可能な農業のための国家システム(National system for sustainable agriculture)」を承認し、農業分野の発展を積極的に支援する姿勢を打ち出している。

果樹生産額の9割がデーツ、生産量は世界第9位

UAE気候変動・環境省の統計によると、2020年のUAEの果樹生産額は25億ディルハム(約750億円 、AED 、1AED=約30円 )だった。デーツの生産額は23億AED(約690億円)、生産量は35万トン、果樹の生産額の9割以上をデーツが占め、国の基幹農作物となっている(表1参照)。国連食糧農業機関(FAO)の 統計によると、2020年の同国のデーツの生産量は世界第9位だった(表2参照)。

表1:UAEの果樹生産(2020年) (単位:1,000AED、トン)
項目 生産額 生産量
デーツ 2,316,640 351,462
マンゴー 52,177 9,317
柑橘類 45,331 15,110
その他 87,315 18,696
合計 2,501,463 394,585
表2:デーツの主要生産国(2020年) (単位:トン)
順位 国名 生産量
1位 エジプト 1,690,959
2位 サウジアラビア 1,541,769
3位 イラン 1,283,499
4位 アルジェリア 1,151,909
5位 イラク 735,353
6位 パキスタン 543,269
7位 オマーン 368,577
8位 チュニジア 332,901
9位 UAE 328,669
10位 リビア 177,638

出所:国連食糧農業機関(FAO)

デーツはそのまま食べるだけでなく、ジャム、ペースト、粉末、調味料、漬物など、加工して付加価値を高めた食品が開発されている。また、乾燥・粉末化などにより、他の食品の原料にも利用されている。生産者・加工業者・流通業者が結びつき、新しい食品を開発する6次産業化の動きも見られる。


ハッタ地区のデーツ畑(ジェトロ撮影)

リワ地区のデーツ加工会社の商品(ジェトロ撮影)

デーツの次に多く生産されるのはマンゴーで、生産額5,200万AED(約16億円)、生産量9,000トンとなっている。続いて、柑橘(かんきつ)類が4,500万AED(約14億円)、1万5,000トンとなっている。

キュウリの自給率は9割超、主に施設栽培

UAEでは、冬季を中心にさまざまな野菜が生産されているが、その中で自給率(2020年)の高い作物として、キュウリ(93%)、カボチャ(76%)、ナス(64%)、トマト(39%)が挙げられる。果菜類の自給率が高いことが分かる(表3参照)。この他にも、キャベツ、カリフラワー、トウモロコシ、メロン、イチゴなどが生産されている。

表3:UAEの自給率(2020年) (単位:%)
項目 自給率
きゅうり 93.3
かぼちゃ 75.5
なす 63.8
トマト 39.2
メロン 30.7
オクラ 18.1
ピーマン 15.2

注:「かぼちゃ」は「Squash」を対象としており、「Pumpkin」は除いている。
出所:UAE気候変動・環境省統計


UAE産イチゴ
(ジェトロ撮影)

UAE産スイートコーン
(ジェトロ撮影)

UAE産キャベツ
(ジェトロ撮影)

生産額(2020年)では、キュウリ2億8,000万 AED(約84億円)、トマト2億4,000万AED(約73億円)、ナス6,000万AED(約17億円)、カボチャ5,000万AED(約16億円)、カリフラワー5,000万AED(約14億円)、ピーマン2,000万AED(約7億円)となっている(表4参照)。

表4:UAEの野菜生産(2020年) (単位:1,000AED、トン)
項目 生産額 生産量
きゅうり 278,473 105,765
トマト 243,011 80,086
なす 57,242 20,571
かぼちゃ 51,897 21,345
カリフラワー 47,507 16,257
ピーマン 24,367 6,377
合計 895,683 336,580

出所:UAE気候変動・環境省

野菜生産における露地栽培と施設栽培の状況を、主要生産地であるアブダビ首長国の農業統計(2018年)で見ると、キュウリとピーマンは施設栽培での生産が100%、トマトは61%が施設栽培によるものだった(表5参照)。同統計では、キュウリは100%が施設栽培となっているが、実際には露地栽培も見かける。筆者も夏の高温期に栽培されているのを見たことがあり、品種選抜と高温化での栽培技術が確立されていると考えられる。

表5:アブダビ首長国の施設栽培割合(2018年) (単位:トン、%)
項目 全生産量 施設栽培量 施設割合
きゅうり 42,393 42,393 100
ピーマン 1,127 1,127 100
トマト 23,672 14,446 61

出所:アブダビ首長国農業統計

水の供給と高温対策が課題、日本の技術支援を望む声も

UAEの果実・野菜生産にとって避けられない課題は、水の供給と高温対策である。果樹・野菜の主な生産地はオアシス地域に位置しており、地下水を水源として点滴灌漑(注)で生産されている。ただし近年では、地下水の塩分濃度が高くなっており、生産を断念する農場も出てきている。

高温対策も重要な課題であり、試験場でさまざまな対策が研究されている。その他に、市場が高品質な商品を求める動きもあり、選果技術などの課題も聞かれる。

UAEの農業関係者の間では、日本の生産技術は優れているとの認識があり、日本からの農業技術支援を望む声も聞かれている。


注:
配水管、チューブやエミッタ、弁などからなる施設を用い、土壌表面や根群域に直接ゆっくり灌漑水を与えることにより、水や肥料の消費量を最小限にする灌漑方式。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
反町 俊哉(そりまち としや)
1987年、農林水産省入省。2019年6月からジェトロに出向、ジェトロ・ドバイ事務所勤務。