海外直接投資は回復傾向も、先進国と途上国とで明暗(世界)
2021年11月25日
2020年には、世界の海外直接投資(FDI)額(フロー)が落ち込んだ。もっとも、2021年に入ると回復傾向にある。OECDが10月に発表した1~6月期のFDI額は、2020年同期、さらには2019年同期と比べても拡大した。とくにクロスボーダー(越境)M&A(以下、M&A)については、2021年1~9月期、金額、件数ともに2020年同期、2019年同期水準を上回った。
M&Aの拡大は、先進域(注1)に所在する企業に牽引された結果だ。対照的に、新興・途上域(注1)では、むしろ低迷している。対外グリーンフィールド投資(新規・拡張含む)でも、同様に先進域と新興・途上域で異なる傾向がみられる。FDIの本格的な回復には、とりわけ新興・途上域で新型コロナウイルスのワクチン接種などがどう進展するかがカギを握っている。
FDI回復も、国・地域に差
OECDが10月29日に発表した世界のFDI(対内FDIと対外FDIの平均)額(OECDウェブサイト参照)によると、2021年1~6月期は前年同期比89.0%増。8,697億ドルに達した(図1参照)。2019年同期と比較しても、42.9%増となった。

注:対外直接投資額および対内直接投資額の平均。
資料:「Foreign direct investment in figures」(OECD、2021年10月)から作成
クロスボーダーM&A(以下、M&A)と対外グリーンフィールド投資別に、FDIをみるとどうか。リフィニティブ社が発表した2021年1~9月のデータから、M&Aの動きが活発だったことがわかる。世界のM&A(注2)は当期、件数が前年同期比38.6%増の9,932件。取引金額で同74.4%増の1兆440億ドル。いずれの指標でも、前年同期から拡大したことになる。2019年同期水準と比較しても、件数が9.5%増、取引金額が33.4%増だ。
この結果を買収側最終親会社の所在地でグループ分けすると、先進域と新興・途上域で様相が異なる(図2参照)。前年同期との比較で2021年1~9月の累計案件数・取引額が超えるのは、両域とも変わりはない。しかし、2019年同期との比較では、先進域が上回る一方で、新興・途上域は2019年同期を下回った。

注1:日付は完了日、金額は取引額。自社株買いを除く。
注2:2021年11月13日時点のデータ。
注3:先進国または同地域については「先進域」、新興・途上国または同地域については「新興・途上域」とした。グループ分類はIMFによる。分類不能は除く。
出所:「Workspace」(Refinitiv)および「世界経済見通し(WEO)」(IMF、2021年10月)からジェトロ作成
同様の違いは、対外グリーンフィールド投資でも確認できる。フィナンシャル・タイムズ社のデータベース「fDi Markets」から対外グリーンフィールド投資(注3)の動向をみると、2021年1~9月の案件数は前年同期比31.1%減の9,097件。金額は同29.4%減の4,010億ドル。いずれも、2020年同期水準を下回った。投資企業の所在地に注目して先進域、新興・途上域に分けると、2021年1~9月期の件数・金額が2020年同期と2019年同期それぞれを下回ること自体は、両域で変わらない。しかし、先進域による投資件数・額は、新興・途上域企業より減少幅が小さかった(図3参照)。

注1:フィナンシャル・タイムズ社が独自に投資金額を推計した案件も含まれる。
注2:2021年11月13日時点のデータ。
注3:先進国または同地域については「先進域」、新興・途上国または同地域については「新興・途上域」とした。グループ分類はIMFによる。分類不能は除く。
出所:「fDi Markets」(Financial Times)および「世界経済見通し(WEO)」(IMF、2021年10月)からジェトロ作成
パンデミック前の水準超える見通しも、下振れリスク
2021年1~6月期の世界の対内FDI額については、国連貿易開発会議(UNCTAD)も10月に推計を発表していた(UNCTADウェブサイト参照)。その額は、8,520億ドルに達するという。わずか6カ月だけで2020年通年(9,570億ドル)、さらには2019年通年(1兆4,810億ドル)に迫る勢いだ。UNCTADは「世界の(2021年)通年のFDI見通しは、以前の予測から改善した」と言及。この勢いと国際的なプロジェクトファイナンスの伸びにより、FDIのフローが新型コロナウイルス感染パンデミック前の水準を超える可能性にも触れた。
一方で、2021年に入ってからのクロスボーダーM&Aや対外グリーンフィールド投資で、先進域と新興・途上域それぞれの水準に違いがみられたのはすでに見たとおりだ。UNCTADは「開発途上国における健康危機の期間とワクチン接種のペース、さらにはインフラ投資刺激策の実施のスピードは、依然として不確実性の重要な要因」と指摘した(注4)。すなわち、FDIの本格的な回復は、新興・途上域での新型コロナウイルス感染症対応が重要な要素の1つとなっていると言えそうだ。
- 注1:
- 当記事上、先進国または同地域については「先進域」、新興・途上国または同地域については「新興・途上域」とした。
- 注2:
- 日付は完了日、金額は取引額。自社株買いを除く。2021年11月13日時点のデータ。
- 注3:
- フィナンシャル・タイムズ社が独自に投資金額を推計した案件も含まれる。2021年11月13日時点のデータ。
- 注4 :
- UNCTADが2021年1~6月の対内FDI額推計値を発表した際に、あわせて指摘された。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
朝倉 啓介(あさくら けいすけ) - 2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2005~2009年)、国際経済研究課(2009 ~2010年)、公益社団法人日本経済研究センター出向(2010~2011年)、ジェトロ農林水産・食品調査課(2011~2013年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2013~2018年)を経て海外調査部国際経済課勤務。