中国やシンガポールを結ぶインドシナ半島での越境陸上貿易が増加(タイ)
タイの2020年の国境貿易

2021年4月27日

タイは、大メコン圏(GMS)の中心部に位置し、インドシナ半島の物流ハブとして期待が集まっている。2020年後半からのコンテナ不足により海上輸送料が急激に上昇したため、陸上輸送との価格差が縮小し、代替輸送ルートとしてリードタイムが短いクロスボーダー・トラック輸送の魅力が相対的に高まっているためだ。日系物流業によると、日系企業においても中国~ベトナム~タイ~マレーシア~シンガポールを結ぶ陸上輸送の利用が増えているという。タイ外国貿易局(DFT)の発表では、タイの2020年の貿易総額は縮小し、隣国4カ国との貿易も減少したが、隣国を経由した中国やシンガポールとの貿易は増加した。 本稿では、どういった陸上輸送ルートを利用すべきか、どの国境の税関に物流拠点を置くべきかの検討材料となることを目指し、タイの2020年の国境貿易統計を紹介しながら、インドシナ半島の陸上輸送の状況を確認したい。

貿易全体の約1割を占める国境貿易

タイ外国貿易局(DFT)によれば、2020年のタイの国境貿易の総額は前年比1.7%減の1兆3,193億バーツ(約4兆6,176億円、1バーツ=約3.5円)と横ばいであった。商務省によると、同年のタイの貿易総額は13兆6,809億バーツであり、国境貿易はタイの貿易全体の9.6%を占めている。国境を通じたタイからの輸出は2.2%減の7,663億バーツ、輸入は1.1%減の5,530億バーツとなっている(表1参照)。

表1:タイの国境貿易(100万バーツ)
項目 総額 輸出 輸入
隣国貿易 2018 855,807 502,842 352,965
2019 826,412 484,170 342,332
2020 760,241 448,026 312,215
トランジット貿易 2018 522,063 297,701 224,362
2019 515,724 299,151 216,573
2020 559,084 318,288 240,796
合計 2018 1,377,870 800,543 577,327
2019 1,342,136 783,321 558,905
2020 1,319,325 766,314 553,011

出所:タイ商務省外国貿易局(DFT)

タイの国境貿易は、タイと直接国境を接するマレーシア、ラオス、ミャンマー、カンボジアの4カ国との国境貿易(以下、隣国貿易)と、隣国を経由した第三国との貿易(以下、トランジット貿易)に大別される。2020年の隣国貿易の総額は8.0%減の7,602億バーツで、輸出は7.5%減の4,480億バーツ、輸入は8.8%減の3,122億バーツと、輸出入とも縮小した。一方、トランジット貿易の総額は8.4%増の5,591億バーツ、輸出は6.4%増の3,183億バーツ、輸入は11.2%増の2,408億バーツと、新型コロナウイルス流行下においても輸出入とも好調だった。

CLMとの貿易は国境経由が7~10割弱

隣国貿易を国別にみると、マレーシアが2,495億バーツ、ラオスが1,898億バーツ、ミャンマーが1,648億バーツ、カンボジアが1,561億バーツとなっている(表2参照)。商務省が発表している各国との貿易総額(2020年)と比較すると、隣国貿易が貿易全体に占める比率はそれぞれ、マレーシアが42%(貿易総額:5,911億バーツ)、ラオスが96%(1,974億バーツ)、ミャンマーが80%(2,056億バーツ)、カンボジアが70%(2,242億バーツ)であった。ラオス、ミャンマー、カンボジアのCLMについては、隣国貿易が全体の7割~10割弱を占めている。

表2:隣国との国境貿易(国別)(100万バーツ)
項目 総額 輸出 輸入
マレーシア 2018 308,248 150,938 157,310
2019 274,491 126,763 147,728
2020 249,499 124,193 125,306
ラオス 2018 213,568 128,808 84,760
2019 197,447 117,981 79,555
2020 189,836 103,622 86,214
ミャンマー 2018 188,635 100,520 88,115
2019 193,263 99,392 93,871
2020 164,779 87,090 77,689
カンボジア 2018 145,356 122,576 22,780
2019 161,211 140,034 21,178
2020 156,127 133,121 23,006

出所:タイ商務省外国貿易局(DFT)

マレーシア:西海岸につながるルートが大部分を占める

2020年の隣国貿易を国別にみると、マレーシアとの隣国貿易は前年比9.1%減の2,495億バーツだった。主な国境(図1参照)としては、サダオ税関(マレーシア側:ブキットカユイタム)が83.6%のシェアを占め、続いてパダンベサール税関(パダンベサール)が13.6%、スンガイ・コーロク税関(ランタウパンジャン)が1.1%、ベトン税関(ペンカラフル)が0.9%の順である。マレーシア側にて産業集積があるペルリス州、ケダ州、ペナン州など西海岸ルートとの貿易が97%を占める状況だ。

図1:タイ=マレーシア国境
タイとマレーシアの主な国境の地図。国境の東から、パダンベサール、サダオ=ブキットユイタム、国境内陸の中央部にベトン=ペンカラフル。西側には、タクバイ=プンカランクボール、スンガイ・コーロク=ランタウパンジャン(西から順)が所在。

出所:OpenStreetMapよりジェトロ作成

国境を通じたタイからマレーシアへの輸出は2.0%減の1,242億バーツで、主な輸出品目はゴム(構成比:16.4%)、コンピュータ・同付属品(14.5%)、自動車・同部品(5.6%)、電気回路(3.8%)、その他の農産品(2.7%)など。タイのマレーシア側からの輸入は15.2%減の1,253億バーツで、主な品目はコンピュータ用の磁気テープ・ディスク(20.1%)、コンピュータ部品(8.2%)、ダイオード・トランジスター(4.8%)、アルミニウム(4.3%)、その他の電気機器(4.3%)などだった。

ラオス:輸入の約6割が電力

ラオスとの隣国貿易は前年比3.9%減の1,898億バーツだった。貿易額の大きい主な国境(図2参照)としてはノンカイ税関(ラオス側:ビエンチャン)が最大で、32.0%を占める。続いて、ムクダハン税関(サワンナケート)が21.3%、トゥンチャン税関(ムアングン)が13.8%、チョンメック税関(パクセー)が11.2%、ターリー税関(ケンタオ)が8.6%の順である。

図2:タイ=ラオス国境
タイとラオスの主な国境の地図。東側から順に、チェンコン=ファイサイ、トュンチャン=ムアングン、ターリー=ケンタオ、ノンカイ=ビエンチャン、ブンカン=パークサン、ナコンパノム=タケーク、ムクダハン=サワンナケート、チョンメック=パクセーが所在。

出所:OpenStreetMapよりジェトロ作成

国境を通じたタイからラオスへの輸出は12.1%減の1,036億バーツだった。輸出額が大きい品目としては、軽油(構成比:9.3%)、その他の畜産物(6.3%)、その他の完成油(5.1%)、乗用車(4.1%)、その他の工業製品(3.6%)などだった。タイのラオスからの輸入は8.4%増の862億バーツで、主な輸入品目はその他燃料(主に電力、64.3%)、野菜・同調製品(6.0%)、銅・同製品(5.6%)、信号トランシーバー・同機器(5.3%)だった。

ミャンマー:国境輸入の4分の3が天然ガス

ミャンマーとの隣国貿易の総額は前年比14.7%減の1,648億バーツだった。貿易額の大きい国境(図3参照)では、メーソット税関(ミャンマー側:ミャワディ―)が45.2%を占めて最大。続いてサンクラブリー税関(パヤトンズ)が35.9%を占めるが、これはミャンマーからのパイプラインを通じた天然ガス輸入が大部分とみられる。ほかにミャンマーの南端であるラノーン税関(コータウン)が10.3%、タイの最北部を通るメーサイ=タチレクが7.6%、シンコン国境があるプラチャップキリカーン税関(モータウン)が0.7%の順となっている。

図3:タイ=ミャンマー国境
タイとミャンマーの主な国境の地図。北側にはメーサイ=タチレク、以後も北から順に、ソーソット=ミャワディー、サンクラブリーパヤトンズ(中央部)、シンコン=モータウン、ラノーン=コータウン(南部)。

出所:OpenStreetMapよりジェトロ作成

タイからミャンマーへの国境を通じた輸出は12.4%減の871億バーツだった。主な輸出品目としては、ノンアルコール飲料(8.0%)、ディーゼル油(4.7%)、繊維・糸(4.0%)、セメント(3.5%)、自動二輪・同部品(3.4%)など。他方、タイのミャンマーからの輸入額は17.2%減の777億バーツで、主な品目としては天然ガスが74.2%を占める。それ以外には穀類(8.7%)などだった。

カンボジア:混雑するアランヤプラテート=ポイペト国境

カンボジアとの隣国貿易の総額は前年比3.2%減の1,561億バーツだった。主な国境(図4参照)はアランヤプラテート税関(カンボジア側:ポイペト)が55.8%と過半数を占める。続いて、クロンヤイ税関(コッコン)が19.8%、バンレム国境とバンパカード国境の2つがあるチャンタブリー税関(パイリン)が12.7%、チョンジョム税関(オスマッチ)が10.6%、チョンサガム税関(チョアム)が1.1%の順であった。

図4:タイ=カンボジア国境
タイとカンボジアの主な国境の地図。最南端の海岸部にクロンヤイ=コッコン、南から順にチャンタブリーパイリン、アランヤプラテート=ポイペト、チョンジョム=オスマッチ、チョンサガム=チョアムが所在。

出所:OpenStreetMapよりジェトロ作成

タイからカンボジアへの国境輸出は4.9%減の1,331億バーツであった。主な輸出品目はノンアルコール飲料(10.7%)、その他の畜産物(7.8%)、乗用車(6.4%)など。タイのカンボジアからの輸入は8.6%増の230億バーツであった。主な輸入品目としては、野菜・同調整品(36.5%)、アルミニウム・同製品(16.9%)、ワイヤー・ケーブル(11.8%)、アパレル(5.4%)などだった。

近年、アランヤプラテート=ポイペト国境では混雑が指摘されており、国境付近では通関待ちのトラックが連なっている。これを解消するため、第2ルート(タイ側バンノンイアン=カンボジア側ストゥンボット)の開発が進んでおり、カンボジア進出日系企業からも早期開通が要望されている(図5参照)。

図5:アランヤプラテート=ポイペト第2ルート
アランヤプラテート=ポイペト間の第2ルートの地図。アランヤプラテート=ポイペト間をつないで北西から南東に国境を越えて伸びるのが既存ルート。その南東側の端から南北→西に伸びるのが第2ルート。

出所:OpenStreetMapよりジェトロ作成


アランヤプラテート=ポイペト国境では通関待ちのトラックが数キロに連なる
(2021年3月12日ジェトロ撮影)

バンノンイアン=ストゥンボット国境(左側)、タイ側では第2ルートの工事が進む(右側)
(2021年3月12日ジェトロがタイ側から撮影)

中国とのトランジット取引は、ラオスとベトナムを通過するルートが大半

2020年のトランジット貿易については、貿易総額は5,991億バーツだった。相手国としては中国が最大で2,388億バーツ。次いでシンガポールが887億バーツ、ベトナムが593億バーツの順であった(表3参照)。貿易全体に占めるトランジット貿易の割合は、中国が9.6%(貿易全体:2兆4,941億バーツ)、シンガポールが16.7%(5,316億バーツ)、ベトナムが11.5%(5,174億バーツ)であった。

表3:トランジット貿易(国別)(100万バーツ)
項目 総額 輸出 輸入
中国 2018 183,697 100,932 82,765
2019 198,977 112,243 86,734
2020 238,790 121,984 116,805
シンガポール 2018 85,142 33,459 51,683
2019 75,735 31,469 44,266
2020 88,729 35,548 53,181
ベトナム 2018 80,910 59,175 21,735
2019 66,469 53,533 12,936
2020 59,300 44,024 15,276
その他 2018 172,314 104,135 68,179
2019 174,543 101,906 72,637
2020 172,265 116,732 55,534

出所:タイ商務省外国貿易局(DFT)

中国とのトランジット貿易は、前年比20.0%増の2,388億バーツと大きく増えた。貿易額の大きい主な国境としては、ムクダハン税関が52.0%と過半を占めた。同税関は東西回廊ルート上にあり、ラオス側のサワンナケートからベトナムのダナンへとつながる。同税関の北部にあるナコンパノム税関(ラオス側:タケーク)も12.5%を占めており、これもラオスとベトナムを通過して中国につながる。また、中国の昆明とつながる南北回廊上に位置するチェンコン税関(ラオス側:ファイサイ)は10.3%を占めており、中国とのトランジット貿易の75%はラオス経由である。ラオス以外では、マレーシア国境のパダンベサール税関が17.1%、サダオ税関が7.0%となっている。24%が、タイ南部国境からマレーシア北部の港湾などを通じて中国と貿易される。

中国とのトランジット貿易では、タイからの輸出は8.7%増の1,220億バーツだった。輸出品目としては、生鮮・冷蔵・冷凍果物(26.5%)、コンピュータ・同付属品(22.8%)、ゴム(16.3%)、ゴム製品(15.3%)、加工木材(8.4%)など。輸入は34.7%増の1,168億バーツと大幅に増えており、主な品目としては、コンピュータ・付属品(18.6%)、無線トランシーバーおよび機器(13.9%)、磁気テープおよびディスク(12.0%)、コンピュータ部品(7.2%)、ラジオ受信機(5.3%)などだった。

発展途上のタイ~ベトナムの陸上貿易、ラオス経由が9割以上

シンガポールとのトランジット貿易は17.2%増の887億バーツだった。貿易額の大きい国境は、マレーシア国境のサダオ税関(58.8%)、パダンベサール税関(35.3%)、タクバイ税関(0.3%)などで9割以上を占める。一部、ムクダハン税関(4.0%)、ラノーン税関(1.2%)などを経由する取引もある。

タイからシンガポールへの輸出は13.0%増の355億バーツで、主な品目はコンピュータ・同付属品(33.6%)、内燃機関(18.4%)、電気回路(10.6%)などであった。シンガポールからの輸入は20.1%増の532億バーツで、主な品目は磁気テープ・ディスク(73.1%)などであった。

ベトナムとのトランジット貿易額は10.8%減の593億バーツだった。貿易額の大きい国境は、ムクダハン税関が48.1%、ナコンパノム税関が41.9%、ブンカン税関(ラオス側:パクサーン)が1.2%と、ラオスを経由するルートが9割以上だ。一方、カンボジアを通過するルートではアランヤプラテート税関が4.5%を占めるが、多くはない。

タイからベトナムへの輸出は17.8%減の440億バーツだった。主な品目は生鮮・冷蔵・冷凍果物(24.8%)、ノンアルコール飲料(24.5%)、半導体・トランジスター(19.5%)、その他の畜産物(11.0%)など。タイのベトナムからの輸入は18.1%増の153億バーツと、少額ながら増えた。主な品目としてはラジオ・電話受信機(42.3%)、化学品(12.4%)、ダイオード・トランジスター(7.4%)、コンタクトレンズ(6.9%)、その他植物・同製品(5.1%)だった。

2020年においてタイの隣国貿易は減少する一方、中国やシンガポールとのトランジット貿易は増加がみられた。最新の発表によると、2021年1~2月の国境貿易の総額は18.6%増、隣国貿易は4.1%増、トランジット貿易は46.9%増となっており、中国やベトナム、シンガポールとのクロスボーダー・トラック輸送が急増している。航空輸送や海上輸送の不確実性が高まる環境の下では、インドシナ半島のクロスボーダー・トラック輸送を効果的に使うことで、調達・出荷物流にかかるリスクを下げ、強靭(きょうじん)性を高めることができるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
シリンポーン・パックピンペット
通商政策や貿易制度などの調査を担当。