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【コラム】ルーマニア進出日系企業の歩み
労働集約型から知識集約型へ

2021年4月21日

ルーマニアでは、2000年代に入って、製造業やITをはじめとする日本企業の進出が続いている。新型コロナウイルス感染拡大前の実質GDP成長率は、7.1%(2017年、EU内3位、IMF)、4.4%(2018年、同5位)、4.1%(2019年、同4位)と3年間、EU27カ国の中でもトップクラスの成長率を維持していた。本稿では、ルーマニアに所在する日系企業の進出動向について、日本企業の進出が始まった1960年代半ばから2007年のEU加盟を経て、現在に至るまでを、ルーマニアのビジネス環境の変化とともに振り返る。

経済概況:中・東欧の中でコスト競争力が高く、市場としてのポテンシャルも

2019年のルーマニアの1人当たりGDPは1万2,920ドルであり、近年急速な賃金上昇がみられるものの、中・東欧におけるコスト競争力はいまだ高い。ルーマニアの人口(2,217万人)はポーランド(3,838万人)に次いで中・東欧では2番目に大きく、市場としてのポテンシャルもある。ルーマニアの在留邦人数は337人と非常に少ないが、企業進出という観点では、既に日本人駐在員が帰国して現地化した企業や、他国企業の大型買収により日本企業傘下になった企業(元々日本人がいない企業)が多数存在することも影響している(表1参照)。

表1:中・東欧4カ国の進出日系企業数、直接投資額(フロー)、1人あたりGDP、人口、在留邦人数
項目 ルーマニア ポーランド チェコ ハンガリー
進出日系企業数
(2019年10月1日)
117社 345社 273社 162社
直接投資額
(2019年、フロー)
3億円 89億円 156億円 297億円
1人あたりGDP
(2019年)
12,920米ドル 15,595米ドル 23,102米ドル 16,476米ドル
人口
(2019年)
2,217万人 3,838万人 1,069万人 977万人
在留邦人
(2019年10月1日)
337人 1,761 人 2,248人 1,691 人

出所:外務省「海外在留邦人数調査統計、海外進出日系企業拠点数調査(令和元年版)」、国際収支統計(財務省・日本銀行)、世界銀行、各国統計局

現在の進出日系企業の活動状況:113社のうち、製造業は29社46拠点

ルーマニアの進出日系企業は、2021年4月現在で113社確認されている(「ルーマニア進出日系企業(日本に本社がある企業)」参照)。これは日本に本社があり、日本からの資本が10%以上入っている企業と定義してカウントしたものだ。この中で、ルーマニア国内に工場を持つ製造業だけに限定した場合、29社46拠点(54工場)となる(図参照、ルーマニアとモルドバにおける日系製造業の工場分布図および詳細リスト(2021年4月現在)PDFファイル(918KB))。一方、現地で日本人が興した企業や日本からの資本が10%未満の企業を含めると256社存在することが分かっている。

図:ルーマニアとモルドバにおける日系製造業の工場分布(2021年4月時点)
ルーマニアとモルドバの地図。県ごとに分かれている地図に、2021年4月時点での日系製造業の 工場分布が示されている。ルーマニア国内では 日系企業29社の工場が46拠点で稼働している。特に南部に位置する首都ブカレスト近隣の県では10拠点、北部のクルジュ県は5拠点、西部のティミシュ県は7拠点、フネドアラ県は5拠点と、これらの県に多くの日系製造業の工場が存在している。

出所:ジェトロ・ブカレスト調べ

1960年代から2007年のEU加盟まで:労働集約型企業と販社の増加

ルーマニアへの日本企業の進出は、1965年にチャウシェスク政権が発足して、共産主義政策を推進しはじめた時期に重なる。日系大手商社としてルーマニアに初めて進出したのが三井物産だ。1965年、同社はブカレストに事務所を開設し、主に化学品や鉄鋼などのトレーディングに注力した。また、1970年には、ルーマニアへの石油化学プラント輸出(三井石油化学の低圧法ポリエチレンプラント)を成功させるなど、この時期に中・東欧へのプラント輸出を加速させた。例えば1970~1973年の3年間で、同社はルーマニアのほか、ポーランド(3件)、旧東ドイツ(1件)、旧チェコスロバキア(1件)などで事業展開し、この地域で計6件の石油化学プラント輸出を成功させた。三井物産とほぼ同時期の1965年10月には三菱商事も進出し、続いて伊藤忠商事や丸紅など他の日系大手商社が出そろったのもこの頃である。

日系製造業として先鞭(せんべん)をつけたのは、自動車のベアリング製造の光洋ルーマニア(ジェイテクト)だった。同社レポートによると、1971年、光洋精工(当時)がルーマニア工業省とプラント輸出契約を締結した後、1974年にベアリング生産を開始した。当時の6つの工場のうち3つはプラント輸出、2つは既存工場の拡張、そして現有のアレクサンドリア工場(ブカレストから南西に約100キロメートル)はグリーンフィールド投資によるものだ。これは、当時のチャウシェスク政権がルーマニアの工業力向上のため、技術指導を含めた進出を強く望み実現した。これら6つの工場は1991年に独立分社化したが、アレクサンドリア工場のみ、光洋ルーマニアが1998年にルーマニア国家基金と買収契約を締結してKOYO ROMANIA S.A.を設立し、今日に至っている。

その後、主立った製造業企業の進出はしばらく見られなかったが、1989年の革命後、ルーマニア経済の近代化の過程において、1994年、たばこ製造のJTIルーマニアはブカレスト市内で工場の操業を開始した。1993年2月にはルーマニアとEUとの間で欧州協定に署名、同時に欧州協定のもと貿易及び貿易関連の暫定協定にも署名した。同暫定協定は1993年5月に適用が開始され、関税が段階的に引き下げられ、2002年1月に工業製品の関税が撤廃された。こうして、EUと欧州協定を締結する他の中・東欧諸国と同様に、ルーマニアのEU市場向けの製造拠点としての可能性が拡大した。1995年には、ルーマニアはEU加盟の申請も行った。2000年代に入ると、ルーマニアのEU加盟を見越した先行投資が複数みられるようになった。その後2004年に、隣国ハンガリーを含む10カ国が一気にEUに加盟すると、外資企業によるルーマニア投資の波は一気に過熱した。これには、例えば、タカタ(ステアリングのレザーラッピング、ステアリング成型、ダイキャスティング、シートベルト、エアバッグ)、住友電装(ワイヤーハーネス)、富士マグネティクス(現・富士フイルムメディアクレスト、使い捨てカメラの組み立て)、矢崎ルーマニア(ワイヤーハーネス)、YKK(スライドファスナー)、矢崎コンポーネント・テクノロジー(計器類、ジャンクションボックス)、ソルプラス(精密プラスティック成型部品、金型製作)、マキタEU(電動工具)、カルソニックカンセイ(現・マレリ、熱交換器)などが挙げられる(表2参照)。

表2:2000年から2007年までの進出日系製造業
No. 企業名 立地 操業開始年 品目 備考
1 タカタ アラド 2000 ステアリング、シートベルト 2000年10月:ステアリングのレザーラッピング部門、2002年3月:ステアリング成型部門、2003年1月:ダイキャスティング部門、2003年10月:シートベルト部門。現在は中国資本傘下。
2 住友電装 デーバ、オラシュティエ、
アルバユリア
2001 自動車のワイヤーハーネス デーバ:2001年開始、2004年工場拡張。オラシュティエ:2003年開始。アルバユリア2004年開始。
3 富士マグネティックス
(現・富士フイルムメディアクレスト)
クルージュ・ナポカ 2002 使い捨てカメラの組立て 現在は撤退
4 フジクラ クルージュ・ナポカ、デジ等 2002 自動車のワイヤーハーネス クルージュ・ナポカ:2002年開始、デジ:2007年開始
5 矢崎ルーマニア プロイエシュティ 2003 自動車のワイヤーハーネス
6 YKK ブカレスト 2005 スライドファスナー 現在は販社のみ
7 タカタ シビウ 2005 エアバッグ
8 矢崎コンポーネント・テクノロジー アラド 2005 計器類、ジャンクションボックス等
9 ソルプラス ティミショアラ 2005 精密プラスティック射出成型部品、
金型製造
現在は撤退。その後、同業のプラセス社が入居。
10 TROCELLEN ティミショアラ 2005 発泡ポリオレフィン 古河電気工業と大塚化学がTROCELLEN(独)を買収
11 VOGT ELECTRONIC ジンボリア 2006 民生機器・自動車向け電子部品 スミダコーポレーションがVOGT Electronic AG(独)をTOB
12 SNR RULMENTI シビウ 2006 自動車のベアリング NTNが仏ルノーの100%子会社SNRに資本参加
13 Flexitech アリチェシュティ・ラバティニ 2007 自動車のブレーキホース 三菱商事・メイジフローシステムの持株会社フレキシテック・ホールディングが買収
14 マキタEU ブラネシュティ 2007 電動工具
15 カルソニックカンセイ
(現・マレリ)
プロイエシュティ 2007 自動車の熱交換器など

出所:ジェトロ・ブカレスト調べ

2000年代初期、ルーマニアに進出した日系製造業にある程度共通するのは、低廉な人件費を活用した労働集約産業であることだ。また、ルーマニアは、もともと繊維・縫製産業が盛んで手先が器用な人材も多かったことから、ステアリングのレザーラッピングやシートベルトの製造、ワイヤーハーネスの組み立て工場などにおける人材調達が容易であった。特に農村部では、自給自足に近い形で農業を営む家庭も多く、工場勤務との兼業で副収入を得たり、冬場の農閑期だけ工場で働いたりというスタイルも一般的に見られた。その後、2000年代後半になると、マキタEUやカルソニックカンセイ(現マレリ)など、製品に占める人件費の比重が比較的小さい企業が進出しはじめている点が特徴的である。

この頃の工場立地の特徴としては、西のハンガリー国境付近もしくはブカレスト周辺のパターンが多かったことが挙げられる。前者は、ハンガリー以西で整備済みの高速道路網を活用して欧州各国にダイレクトに陸送でき、後者は、国土東側の黒海に面するコンスタンツァ港から船で輸出入が可能というメリットがあった。また、この時期は、国としてのインセンティブよりもむしろ、誘致に熱心な地元自治体(県、市町村、地元商工会議所など)からの企業へのバックアップもあり、それが工場立地決定の一要因になることも少なくなかった。

なお、ルーマニアは古くから、イタリアをはじめとするアパレルブランドによるOEM生産が盛んである。この頃、これらの企業がルーマニアに拠点を移す動きを見せていたこともあり、例えばYKKは生産拠点だけでなく、早期からアパレルブランド向けの販売拠点として進出した。また、ルーマニアには欧州域内の水資源の33%があると言われるほど水資源に富んだ国であり、間接的にこの恩恵を受けた企業もあった。繊維製造や染色のために純度の高い水が必要な企業は、それらを満たす高品質の水が工場付近で採取できたことも、ルーマニア進出で得られるメリットであった。

実は、革命以前から2000年代にかけて、製造業は、製造拠点としてよりもむしろ、市場としての可能性を期待してルーマニアに進出した企業が数としては多かった。当時のルーマニアの人口は約2,300万人と中規模の市場を抱えており、大手製造業では、例えばJUKI、富士通シーメンス、キヤノン、ミノルタ(現・コニカミノルタ)、パナソニック、ソニー、マキタルーマニア、山之内製薬(現アステラス製薬)などが販売拠点を設置した。商社では、国際交易、トーメン(現・豊田通商)、日商岩井(現・双日)、スミアグロ(農薬、住友商事系)、三菱商事(2006年に再進出)、ホンダトレーディングなどが進出した。特にスミアグロは、農業資材販売最大手のアルチェドを2011年に買収し、主に国内外への農薬販売で大きなビジネス成果を上げている。また、共産主義時代末期に米国に亡命した研究者を雇用してR&D(研究開発)拠点を設立したというフェローテック(2002年)や、生産設備の制御・運用技術とソリューション大手の横河電機(2006年)がブカレストに拠点を構えたのもこの時期である。

さらに、この頃にはJICA(国際協力機構)を通じたODA案件がいくつか進行しており、例えばコンスタンツァ港の南港整備案件(2003年完工)を受注した五洋建設や、大手インフラ関連コンサルタント会社などが日本人駐在員を派遣していた時期もあった。2000年前後には個人事業主を含め、日本人による小規模なビジネス展開も目立つようになり、とりわけ人材派遣業(主にエンターテインメント関連)の増加が特徴的だった。他にもビジネスコンサルタント、不動産、卸・小売り(機械、繊維など)、観光、飲食なども比較的多く登記されている。

EU加盟後から現在まで:労働集約型から知識集約型への移行期

ルーマニアは2007年に、隣国ブルガリアと共に念願のEU加盟を果たした。翌2008年、リーマン・ショックによる影響を受けたものの、国産車ダチアや農産物などの輸出が好調だった2013年以降、経済成長率は順調に推移している。

EU加盟前後までに進出した日系製造業の多くは、その後2010年代半ばごろまではいずれも拡大・拡張の動きを見せている。例えば、日本企業としてルーマニア最大の従業員を雇用する矢崎ルーマニアは、東部ブレイラに国内最大となる第4工場を2015年に設置し、その後はルーマニア国内全体で1万人以上の雇用を抱えるまで人員を拡大した。このような日系製造業の追加投資の背景には、ルーマニア政府による「国家補助(State Aid)」という補助金制度がある。ルーマニアでは、外資誘致のためのインセンティブとして、2008年から主に製造業企業を対象とした国家補助金を与えており、現在は工場などの設備投資額の最大50%、もしくは新規雇用する従業員の2年間の給与の最大50%までが還付される制度になっている(立地エリアによって補助率は段階的に異なり、大都市圏から離れた場所への投資であるほど補助率は高い)。開始当初は、初期投資額3,000万ユーロ以上、かつ最低300人以上の新規雇用を前提とする大型投資に限定されており、採択されるためのハードルは非常に高かったが、その後数度の改定が加えられて、条件が緩和された。現在は初期投資額300万ユーロ以上、もしくは10人以上の新規雇用と、小規模投資でも申請可能である。また、以前は公示期間中のみ申請が可能だったが、2018年以降は補助予算枠が残っている限り、通年で受け付けている。併せて、既に進行中の投資案件や、申請書提出後の計画変更などもある程度認められるようになるなど、企業側にとって使い勝手の良い制度に改善された。

前述のようなインセンティブが企業に与えられるチャンスがある一方で、近年の急激な賃金上昇と失業率低下により、フジクラ、住友電装、住友電工などのワイヤーハーネス関連企業の新規投資はここ数年目立ったものはなく、人員も漸減傾向にある。現在ではそれらに代わり、NTTデータ(地場EBSルーマニアを買収。組み込みソフト開発など、2013年)やPTWインターナショナル(ゲームのカスタマーサポート、ローカライズなど、2016年)、日本電産(地場ANA IMEPを買収。主に家電用モーターの製造とR&D、2016年)、郵船ロジスティクス(地場チベット・ロジスティクスを買収。2017年)など、比較的付加価値の高い業種の進出が増加傾向にある。政府は、ITエンジニアの国外流出を防ぐため、個人所得税をゼロにするなど大胆なインセンティブを付与しているが、これにより、米国を中心とする大手IT企業(マイクロソフト、IBM、オラクル、アマゾン、アドビなど)の進出を後押しする結果となっている。

前述の進出企業の中には、ルーマニア人の言語力に注目して進出したところも多い。現在のルーマニア語は18世紀以降のナショナリズムの高まりの中、キリル文字からラテン文字に改められたもので、それと同時に、スラブ圏やトルコ圏由来の単語の多くはフランス語やイタリア語などの単語に置換されてきた。これにより、中・東欧の中で例外的にラテン系言語との類似性が高くなったことが、結果的にルーマニアの外資誘致の際の強みとなっている。また、ルーマニアの中央部に位置するシビウ、ブラショフ両県の近隣には、中世以来のドイツ語マイノリティーが存在する。例えば、NTTデータは地方都市クルージュ・ナポカ市の地場企業EBSルーマニアを2013年に買収しているが、EBS社は元々ドイツ語人材を雇用してドイツの自動車企業向けのビジネスを行っていた。買収により、その両者を一度に得られたことはNTTデータにとって大きなアドバンテージであった。このように、今日ではルーマニアへの日本企業の進出が、組み立て中心の労働集約型製造業から、ITなどの知識集約型産業に次第に移行しつつあり、ルーマニア国内におけるR&D拠点も増えている(表3参照)。

表3:ルーマニアでの日系企業のR&D拠点(判明分のみ)
No. 企業名 立地 設置年 活動内容 備考
1 デージーエス・コンピュータ ブカレスト 2006 医療システム開発、地理情報システム開発など 現在は活動なし
2 イー・アンド・エム ブラショフ、ブカレスト 2007 ソフトウエア開発、販売ソリューション、関連サービスおよびサポート
3 アーク クルージュ・ナポカ 2007 自動車部品の設計・開発など 三井化学グループのP+Z Engineering GmbH(独)が設置
4 バンダイナムコ
エンターテインメント
ブカレスト 2008 ソフトウエア開発、プラットフォーム移植他 設立当時は「ナムコ・バンダイ」
5 テラピア クルージュ・ナポカ 2008 ジェネリック薬品開発、販売 第一三共が当時の子会社ランバクシーを買収。現在は日系企業ではない。
6 矢崎コンポーネント・テクノロジー ティミショアラ 2009 ソフトウエア開発
7 アンリツ ブカレスト 2010 ソフトウエア開発 当地名は「アンリツ・ソリューションズ」
8 フジクラ シビウ 2012 ワイヤーハーネスの設計など
9 NTTデータ クルージュ・ナポカ、ブカレストなど 2013 組込みソフトウエア開発など 地場のEBSルーマニア社を買収
10 日本電産
(ニデック)
ピテシュティ、
オラデアなど
2016 モーター製品の設計・開発 地場のANA IMEP社を買収

出所:各社ウェブサイトなどを基にジェトロ・ブカレスト作成

インフラプロジェクトに日系企業も参画、現在も進行中

ルーマニアは従来、高速道路網などのインフラ整備が不十分であり、日系企業の進出面でもボトルネックになってきた。一方、今日ではEU基金を利用した大規模なインフラ開発のチャンスも増加している。例えば、日本の最後のODA案件でもある「ブカレスト国際空港アクセス鉄道建設計画(6号線)」については、さまざまな要因から長らくペンディングの状態が続いてきたが、2019年になって計画の一部にEU基金の拠出が決まったことから、ようやく国際入札が開始された。2019年に4フェーズの入札スケジュールが開示されており、日本企業による直接応札はこれまでないものの、パートナー企業を通じて間接的に参画した日本企業はいくつかあるようだ。

また、伊藤忠商事は近年、ルーマニア政府などとエネルギー関連を中心とする覚書を複数結んでいる。例えば2017年12月、同社はブカレスト市、エネルギー省と「ブカレスト地域熱電併給案件F/S」についての覚書に署名した。ブカレスト市の熱電併給システム(コジェネ)は、世界でも大規模を誇ると言われているが、老朽化したインフラの更新につき、伊藤忠商事のファイナンススキームとセットで提案されたプロジェクトである。また、同社は、2019年9月にトランスガズ(国営のガス輸送会社)と複数のプロジェクト協力に関する覚書にも署名した。これには、周辺国を含むLNG(液化天然ガス)ターミナルプロジェクトや、大規模なパイプラインプロジェクトが含まれる。

近年、最も大規模に進められているインフラプロジェクトの1つが、現在IHIインフラシステムにより進められているドナウ川架橋プロジェクト(ブレイラ・ブリッジ・プロジェクト)だ。これは、2000年にジェトロが経済産業省から受託したFS調査スキームが発端になっている。当時の日本プラント協会(JCI、2014年解散)が現地調査を行い実現可能性が示されていたものの、その後ルーマニア側の予算見通しが立たず、長らく放置されていた案件だった。2017年になって、当時のトゥドセ首相(ブレイラ出身)の肝いりで入札が開始され、その結果、アスタルディ(イタリア)とIHIインフラシステムのコンソーシアムが、中国・スペイン・ルーマニアのコンソーシアムに勝利した。2018年1月に正式調印された同プロジェクトは、約20億レイ(約520億円、レイは通貨単位レウの複数形、1レウ=約26円。)のプロジェクト予算を基に、2022年12月の完成を目指して鋭意進行中である。


建設中のブレイラブリッジ主塔(2020年10月)(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ対日投資部対日投資課 プロジェクト・マネージャー
水野 桂輔(みずの けいすけ)
2007年、ジェトロ入構。海外市場開拓部、ジェトロ仙台、ビジネス情報サービス部、ミラノ万博日本館事務局、ジェトロ・ブカレスト事務所を経て、2021年3月から現職。

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