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フィンテックで免税手続きを簡便に(デンマーク、米国)
パイシステムズが乗り出すVAT還付のデジタルソリューション

2021年3月12日

米国の若手起業家2人が始めたパイシステムズ(Pie Systems)。簡単・便利に免税手続きするためのアプリの開発を行うIT企業だ。現在、世界の免税手続き支援サービスは、Global BlueとPlanetの大手2社が市場を二分する。しかし、免税手続き方法は旧態依然としたアナログな紙の書類手続きになっているところが多く、払い戻しまで数カ月かかることも珍しくない。パイシステムズが提供するPie VAT(パイVAT)は北欧をテスト市場とし、全ての付加価値税(VAT、日本の消費税に相当する間接税)還付請求プロセスを電子化した。旅行者と店舗の利便性を格段に向上させるアプリとして認知を高めるなど、確実に成果をあげている。

このように急速な展開を見せるパイシステムズ・デンマーク法人最高経営責任者(CEO)のマルテ・ビデベック氏に2021年2月1日、インタビューを実施。免税手続きの電子化に寄せる思いから、コペンハーゲンでサービスを開始したパイVATの経緯と現状、そして今後の日本展開について聞いた。同社のビジネスが、日本でも消費免税・還付手続きに変革をもたらすか、今後が注目される。


CEOマルテ・ビデベック氏(パイシステムズ提供)

煩雑で不透明な手続きの改善に挑む

パイシステムズは、米国サンフランシスコのフィンテック企業だ。サニー・ロングCEOらによって設立された。サニー・ロングCEOは、経済学とコンピューターサイエンスの学位をマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピュータサイエンスとエンジニアリンングの2つの修士号を取得後、さまざまなIT企業での勤務を経て、パイシステムズを共同起業。2018年にテストマーケットとしてデンマークを選びサービス開発を開始した。パイシステムズが開発するのは、VATの還付手続きを行うシステムだ。旅行者が諸外国で支払ったVATの払い戻しサービスをデジタルで、簡単・便利に提供する。

現在のVATの還付手続きは、電子化が進んでいない分野の1つだ。また、利便性の向上が求められるにもかかわらず、旅行者にとって不透明で、複雑かつ時間がかかるものになっている。VAT還付を受けるには、旅行先のタックスフリー加盟店で免税書類を入手する必要がある。次に、旅行先から出発する際、税関専用カウンターで手続きを受けることになる。その際に、旅行客は、購入品を国外で利用することを示すために購入品を提示し、確認を受けることが求められる。その後、免税書類を投函し、払い戻し申請をする。還付は、クレジットカードへの払い戻し、または銀行振込み。多くの場合、約1〜2カ月待たなくてはならない。還付申請者は、銀行口座やカードへ入金されるまでの間、その手続きの進捗を確認することはできない。手続きプロセスの透明性が担保されているとは言い難い。こうした課題に取り組むのがパイシステムズだ。

手続きを一元アプリでデジタル化、見える化

パイシステムズのサービス「パイVAT」は、旅行者に対して、VAT還付手続きを全て1つのアプリで提供する。紙の書類手続きが不要で、プロセスの進行状況は可視化され、手続きを済ませてから24時間以内に還付が行われる。旅行者にとっては、透明性が高く還付までが迅速に進むため、魅力的だ。旅行者は、店舗で製品を購入する際、店舗が提示するQRコードを使い、店舗での購入時または事後に購入情報を登録する。搭乗券の情報もアプリに登録し、帰国後に、地理情報が記録されるジオタグが付与された製品の写真を送信するだけだ。これで還付手続きが始まり、その進捗もアプリで確認できる。

新型コロナウイルス禍を経て自由な旅行が可能になったあとも、人々の衛生概念の変化は継続すると思われる。そのような状況下、全ての手続きを他者とのコンタクトなしで行える点でも注目されている。

優れたデザインと技術を利用

一方、店舗側にもメリットが大きい。パイVATのサービスは無料で利用可能で、リアルタイムに還付プロセスの状況や可視化されたユーザデータを見ることができるため、顧客データ分析も可能になる。

興味深いのが、とても優れたユーザーエクスペリエンス(UX、ユーザーにとっての使いやすさや満足度)がデザインされている点だ。旅行先で、すでにアプリを持っている場合には、街中を観光している際に、アプリを立ち上げ、現在地近くの加盟店や製品情報を検索することもできる。

優れたUXデザイン・ユーザビリティが確保されているのは、パイシステムズが新進気鋭のテクノロジー企業であるからにほかならない。全ての開発はインハウスで行われている。メンバーには、ユニコーン企業と目される米国ITスタートアップ「サード・ラブ」の元エンジニアや、元グーグル社員もいる。


パイVATアプリ画面(パイシステムズ提供)

パイVATの透明性は、利用者や利用店舗だけでなく、税関にもメリットをもたらす。免税プロセスを経ていることを適切に確認し、旅行客が購入したものが確実に国外に持ち出され利用されているのかといった最終的なチェックまで確認できるからだ。パイVATは、100%の取引確認を目指している。一方、セキュリティにも細心の注意を払っており、サービスの利用にはアプリ上での本人登録が必要となっている。

セキュリティに配慮した仕組み

フィンテックアプリとして、パイVATはセキュリティにも細心の注意を払っている。まず、サービスの利用にはアプリ上での本人登録が必要だ。これは通常、VAT還付を得るための書類への記載事項とほぼ同じ内容にしている。登録内容は、パスポート番号、パスポートの有効期限、生年月日、国籍、住所だ。さらに、パイVATオリジナルのセキュリティ機能として、セルフィー(自撮り)の撮影が求められ、本人確認のためパスポート写真との整合性確認が行われる。状況によっては、追加情報が求められることもあるが、おおむねこれらのデータ入力で登録は終了だ。

アプリ・サービス開発の地に選ばれたデンマーク

2018年にパイシステムズがサンフランシスコで立ち上げられた後、サービス提供開始の場として選ばれたのがデンマークだった。デンマークが選ばれた理由はいくつかある。1つは、デンマークでは社会の電子化が隅々にまで行き届いている国であること、VAT税率が高額なこと(25%)、そしてツーリズムが適度に小規模なこと、などだ。つまり、プロダクトを試してみるには、最適なサイズと条件がそろっていた。

2018年半ばにアプリ開発が開始された際、コペンハーゲンの開発チームは、周辺の店舗に飛び込みで試験的な参加を呼びかけた。サービスに関心を持つ店舗は多く、翌週には10店舗ほどが集まったという。その後も、小規模なテストを繰り返し、2年後の現在、加盟店舗はデンマーク国内外合わせて700店舗超まで増加した。「デビット・アンデルセン」などデンマーク国内で知名度の高い数々のジュエリーブランド、「フィリッパコー(Filippa K)」や「ガント(GANT)」などのラグジュアリーファッションブランド、北欧家具、そして、ノルウェー傘下のデパートも参加がほぼ確定している。加盟店数は、コロナ禍にもかかわらず、2020年夏以降も増加傾向にある。実験的プロジェクトは、デンマークとノルウェーの2カ国から始まったが、将来的に、スウェーデン、フィンランド、アイスランドまで拡大を目指す。市場が大きい複数のEU諸国での展開についても準備中だ。

日本市場にも進出へ

パイシステムズは、日本市場への参入も間近に控えている。日本は、旅行者による免税ショッピングの市場が大きく、日本の免税・消費税還付利用者は増加傾向にあると聞く。直近の消費税免税・還付手続き市場の拡大は、日本政府の観光支援政策によるところも大きい。今後、オリンピック・パラリンピックや大阪万博など大型の国際イベントも予定されており、さらなる訪日客の拡大が予想される。日本の大手ベンチャーキャピタル(VC)のデジタルガレージからの投資も得て、今後の日本でのサービス提供開始の準備を進めている。

課題は、欧州と異なる日本の法制度への対応と言える。しかし、基本的なビジネスモデルは変えない方針だ。

執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
安岡 美佳(やすおか みか)(在デンマーク)
京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学でコンピュータサイエンス博士取得。2006年よりジェトロ・コペンハーゲン事務所で調査業務に従事、現在コレスポンデント。

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