2020年度のインド自動車市場は回復基調にあるも、先行きの見通しは不透明

2021年5月17日

2020年度(2020年4月~2021年3月)のインドの乗用車販売は、前年度比2.2%の減少となった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け実施した全土ロックダウンにより、自動車のサプライチェーンが大きな打撃を受けた結果、生産・販売は大きく減少した。その後、ロックダウン解除に伴って、市場は回復を見せた。多目的自動車(SUV)の人気などの新たな動きも出てきている。一方、足元では新型コロナの感染再拡大が広がっており、今後の動向が注目される。2020年度のインドの自動車販売動向を解説する。

乗用車販売ではSUVが好調

インド自動車工業会(SIAM)によると、2020年度の乗用車(SUV、バンを含む)の国内販売台数は271万1,457台と前年度比2.2%の減少となった(表1参照)。2019年度実績は前年度比17.9%減の277万3,519台だったことから、新型コロナ禍にありながらも、減少幅は大きく改善した。しかし、増加に転じるまでには至らなかった。SIAMは今後の自動車販売について、「新型コロナ以前の自動車市場を取り巻く[不良債権問題を背景とした金融機関の貸し渋りによる資金不足、自賠責保険料の値上げ、2020年4月から始まった新排ガス規制「バーラト・ステージ6(BS6)」の設定に伴う買い控えなどの]構造的な課題に加えて、パンデミックの影響が大きく、完全な販売回復にはさらなる時間と業界関係者の努力が必要だ。また、昨今の半導体やコンテナの不足など、バリューチェーンの課題も懸念事項だ」とコメントした。

表1:2020年度の部門別自動車の生産・販売・輸出台数(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
部門 生産 国内販売 輸出
台数 前年度比 台数 前年度比 台数 前年度比
乗用車 3,062,221 △ 10.6 2,711,457 △ 2.2 404,400 △ 38.9
階層レベル2の項目一般乗用車 1,772,972 △ 17.8 1,541,866 △ 9.1 264,927 △ 44.3
階層レベル2の項目多目的自動車(SUV) 1,182,085 4.0 1,060,750 12.1 137,825 △ 24.9
階層レベル2の項目バン 107,164 △ 18.5 108,841 △ 17.6 1,648 △ 42.2
二輪車 18,349,941 △ 12.8 15,119,387 △ 13.2 3,277,724 △ 6.9
階層レベル2の項目スクーター 4,556,398 △ 24.4 4,479,848 △ 19.5 231,972 △ 37.3
階層レベル2の項目オートバイ 13,154,501 △ 8.4 10,019,836 △ 10.7 3,037,439 △ 3.1
階層レベル2の項目モペッド 636,218 △ 2.1 617,247 △ 3.1 8,313 △ 40.0
階層レベル2の項目電動二輪 2,824 517.9 2,456 796.4 0 -
三輪車 611,171 △ 46.1 216,197 △ 66.1 392,941 △ 21.7
商用車 624,939 △ 17.4 568,559 △ 20.8 50,334 △ 16.6
合計(その他を含む) 22,652,108 △ 14.4 18,615,588 △ 13.6 4,128,928 △ 13.1

出所:インド自動車工業会(SIAM)データを基に作成

セグメント別では、SUVの国内販売台数が106万750台で、前年度比12.1%増と唯一2桁の伸びを見せた。特にこれまでも人気を集めていた小型SUVが販売台数を牽引しており、マヒンドラ&マヒンドラの「KUV100」、マルチ・スズキの「ビターラ・ブレッツア」、現代自動車の「べニュー」、タタモーターズの「ネクソン」、起亜自動車の「ソネット」などが人気車種で、各社の競争が激化するセグメントになっている。一方で、市場シェアの高い小型乗用車を含む一般乗用車およびバンについては、それぞれ154万1,866台(前年度比9.1%減)および10万8,841台( 17.6%減)と落ち込んだ。

乗用車シェアトップのマルチ・スズキは8.5%減

メーカー別では、市場シェア首位のマルチ・スズキと2位の現代が、それぞれ前年度比8.5%減、2.8%減となった(表2、図1参照)。トップ10社のうち、7社が減少になった。ニューモデルを積極的に投入したタタモーターズは前年度比62.1%増、2019年から多目的自動車にターゲットを絞った生産・販売を開始した起亜自動車は83.4%増、そのほかMGモータースが62.1%増と、それぞれ大きく伸びた。なお、日系4社の市場シェアは54.9%となり、2019年度の59.4%から低下した。

表2:2020年度の主要メーカー別乗用車国内販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2019年度 2020年度 増減率
マルチ・スズキ 1,414,346 1,293,840 △ 8.5
現代 485,309 471,535 △ 2.8
タタ・モーターズ 138,238 224,109 62.1
マヒンドラ&マヒンドラ 186,942 157,215 △ 15.9
トヨタ・キルロスカ 114,081 93,124 △ 18.4
ホンダ 101,955 82,074 △ 19.5
ルノー 89,534 92,268 3.1
起亜自動車 84,904 155,686 83.4
フォード 66,429 48,042 △ 27.7
フォルクスワーゲン 25,736 20,440 △ 20.6
MGモータース 21,954 35,597 62.1
日産 18,040 18,884 4.7
シュコダ・オート 14,438 11,319 △ 21.6
合計(その他を含む) 2,773,519 2,711,457 △ 2.2

注1:SUVとバン、その他メーカー実績を含む。BMW、メルセデス、ボルボは統計未発表。
注2:起亜自動車とMGモータースは2019年9月から販売開始。
出所:インド自動車工業会(SIAM)

図1:2020年度の主要乗用車メーカーの市場シェア
マルチ・スズキが47.7%、現代が17.4%、タタ・モーターズが8.3%、マヒンドラ&マヒンドラが6.7%、トヨタ・キルロスカが 3.4%、ホンダが3.0%、その他が13.5%となっている。

出所:インド自動車工業会(SIAM)

二輪車販売は期待ほどの回復にならず

2020年度の二輪車販売台数は、前年度比13.2%減の1,511万9,387台となった(表1参照)。2020年3月25日から同年5月末まで続いた全土ロックダウンの期間を底に、2020年8月以降は前年同月比プラスに転換、その後も好調な農村経済を追い風に、農村需要が拡大し、順調に販売台数を戻してきたが、乗用車分野の回復幅には及ばなかった。

セグメント別では、都市部で売り上げを伸ばしてきたスクーターの販売台数が447万9,848台(前年度比19.5%減)、オートバイは1,001万9,836台(10.7%減)といずれも2桁の落ち込みになった。モペッド(原動機付き自転車)は、3.1%減の61万7,247台となった。

メーカー別では、市場シェア首位のヒーローと2位のホンダがそれぞれ前年度比10.1%減、17.8%減となり、他の主要メーカーもほぼ軒並み2桁の減少になった(表3、図2参照)。日系4社を合わせた市場シェアは32.5%となり、2019年度の34.3%から低下した。

表3:2020年度の主要メーカー別二輪車国内販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2019年度 2020年度 増減率
ヒーロー 6,231,458 5,599,859 △ 10.1
ホンダ 4,706,589 3,867,817 △ 17.8
TVSモーター 2,410,550 2,164,228 △ 10.2
バジャジオート 2,078,348 1,809,375 △ 12.9
ロイヤルエンフィールド 656,651 573,438 △ 12.7
スズキ 685,219 521,474 △ 23.9
ヤマハ 578,226 524,186 △ 9.3
ピアジオ 62,638 56,069 △ 10.5
合計(その他を含む) 17,416,432 15,119,387 △ 13.2

注:スクーターとバイクを含む。
出所:インド自動車工業会(SIAM)

図2:2020年度の主要二輪車メーカーの市場シェア
ヒーローが37.0%、ホンダが25.6%、TVSモーターが14.3%、バジャジオートが12.0%、ロイヤルエンフィールドが3.8%、その他が7.3%となっている。

出所:インド自動車工業会(SIAM)

新型コロナの感染拡大に伴うロックダウンなど、様々な経済活動制限が続いた影響を受け、すべてのセグメントの中で最も大きな落ち込みを見せたのが、商用車と三輪車だった。販売台数は、それぞれ56万8,559台(前年度比20.8%減)と21万6,197台(66.1%減)となった(表1参照)。

インドからの輸出も低迷

輸出についても、新型コロナの影響を受けた世界需要の減退、サプライチェーン・物流関連の問題により、全てのセグメントで減少した(表1参照)。中でも乗用車の減少幅が最も大きく、輸出台数は前年度比38.9%減の40万4,400台だった。三輪車と商用車もそれぞれ39万2,941台(21.7%減)、5万334台(16.6%減)と2桁の減少になった。一方、二輪車は主要輸出車種のオートバイの減少幅が3.1%と小さく抑えられたことから、全体で327万7,724台(6.9%減)となった。

懸念される今後の新型コロナ感染再拡大の影響

基本的には回復基調の自動車市場だが、2021年3月から新型コロナがインド全土で急速に再拡大している。生産・販売活動への影響、自動車に対する購買意欲の低迷にとどまらず、自動車不振を発端に他業界や消費者心理へのネガティブな波及効果を懸念する声が高まっている。モディ首相は4月20日に行った演説で、「ロックダウンは最後の手段(ラスト・オプション)」としたが、既に4月25日時点で、デリー準州、ムンバイを州都とするマハーラーシュトラ州、ベンガルールを州都とするカルナータカ州、チェンナイを州都とするタミル・ナドゥ州など、日系企業の拠点が多く立地する主要都市で外出禁止などの行動規制が実施されている。二輪トップシェアのヒーローは4月22日~5月1日の間、全土の工場とパーツセンターにおいて、それぞれ4日間の操業停止を行っている。2020年の新型コロナ感染第1波が収まって以降に続いてきたインドの自動車市場回復だが、今後の状勢には暗雲が垂れ込めている。

執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所長
鈴木 隆史(すずき たかし)
1994年、ジェトロ入構。ナイジェリア、ベルギー、バングラデシュでの駐在経験などを経て、2018年7月から現職。