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ライフサイエンスの集積や税制優遇が魅力のプエルトリコ(米国)

2020年7月17日

カリブ海に位置する米領自治連邦区プエルトリコは、域内のGDPが1,011億ドルほどだ(2018年、世界銀行)。一般には、観光地としてのイメージが強いだろう。しかし、GDPのうち、製造業が5割近くを占める。ライフサイエンス産業の集積地でもある。新型コロナウイルス禍において、医薬品や医療機器の国内生産が課題に挙がる中、米国ではプエルトリコへの関心が高まっている。

ジェトロ・ニューヨーク事務所は、米国で新型コロナウイルスの感染が拡大する直前の2020年2月下旬、プエルトリコの首都サンフアンで開催された「プエルトリコ・カンファレンス2020」に参加。あわせて、税制やエネルギー産業に関し、関係者と意見交換し現地企業を視察した。本稿では、日本ではあまり知られていないビジネス展開先としてのプエルトリコの現状を、同カンファレンスの概要や訪問先での面談内容などを基に報告する。

世界の製薬・バイオテック企業トップ20のうち12社が進出

プエルトリコ商工会議所が2月26日に主催した「プエルトリコ・カンファレンス2020外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」には、海外や地元の企業関係者、投資家、自治連邦区政府代表者らが参加。プエルトリコの投資環境や経済の動向について、活発な意見交換が行われた。同会議の議長を務めるフランシスコ・ロドリゲス氏は、会議の冒頭で、「民間企業が中心となって、経済の復興に取り組もう」と出席者全員に呼び掛けた(注1)。あわせて、経済成長率など8つの目標から成る「プエルトリコ・ファーストゴール」を掲げた。

会議では、ライフサイエンスやヘルスケア産業の関係者が多数登壇した。ファーマ・バイオ・サーブのエリザベス・プラザ代表取締役は、プエルトリコが持つ50年以上のライフサイエンス分野の製造業の歴史と実績をアピールした(注2)。同氏によると、現在、プエルトリコには、70の医療機器製造工場と46のバイオ医薬品関連工場がある。また、世界の製薬・バイオテック企業上位20社中、12社が工場立地するという。また同氏は、プエルトリコが医薬品生産額で世界5位に当たること、米国本土への医薬品輸出額が世界1位であることにも言及。製薬産業の重要性を強調した。ハリケーンなど度重なる自然被害にもかかわらず、ほとんどの企業が事業を継続・強化しているという。プラザ氏は、英国グラクソ・スミスクラインの生産工場のプエルトリコへの再移転計画を例に挙げた。同社は、生産能力の強化とコスト効率の最大化を図るため、現在、米国ペンシルベニア州にある生産工場を2021年までにプエルトリコへ移転する方針を明らかにしている。

新型コロナウイルスが、世界的なサプライチェーンを脅かしている。そうした中、プエルトリコが持つライフサイエンス産業の集積は、医薬品や医療機器の国内生産強化を目指す米国企業や米国議員の関心を集める。新型コロナウイルスが中国でまん延して、サプライチェーンがまひしたことで、米国では医薬品原料輸入のアジア諸国への依存が浮き彫りとなった。既に医薬品・医療機器製造の実績が豊富で、インフラ、労働力が確立されているプエルトリコからの供給を強化することができれば、朗報だ。外国の貿易政策の変化や感染症の世界的拡大による海外サプライヤーからの調達減の影響を和らげることができる。一方、プエルトリコにとっては、さらなる雇用拡大が期待できる。それだけでなく、米国の中で重要な製造ハブの地位を確立する絶好の機会になる。プエルトリコ政府は引き続き、医薬品・医療機器メーカーの誘致に力を入れる構えだ。投資振興機関インベスト・プエルトリコもライフサイエンス企業の雇用拡大支援に積極的である。

登壇者の1人、コンサルティング会社エストゥディオス・テクニコス会長で元プエルトリコ商工会議所会頭のホセ・ビラミル氏によると、プエルトリコ経済は1960年代には平均7%の高成長を遂げた。しかし、その後、成長率が徐々に下がり、直近(2010年代)では2%近いマイナス成長に落ち込んだ(注3)。そんな中、ライフサイエンス産業は、新型コロナウイルス禍を契機に頼みの綱になる。投資を呼び込み、プエルトリコ経済を再び成長軌道に乗せる役割が期待されている。

起業家の育成に注力するプエルトリコ大学

会議では、起業家養成や大学との協力による人材の育成、災害からの復興などにも焦点を当てられた。いずれも、プエルトリコ経済復興のカギを握る。同連邦区で最大規模の大学であるプエルトリコ大学のジョージ・ハドック理事長は、イノベーション創出に向けて優秀な人材の育成・輩出を狙う取り組みを説明した(注4)。例えば、大学院の起業家育成コースをはじめ、さまざまな学部で44の専門講座を開講し、100人以上の教授を配置することなどに力を入れている。また同大学は、学生と投資家とのマッチングの際に、法律サービスの提供や知的財産保護の支援、そのほか個別指導などで、学生が安心して起業できるようサポートしているという。同大学のウバルド・フィゲロア副理事長は、企業と大学がパートナーシップを結ぶ際に資金支援にアクセスしやすい体制を整えるなど、持続可能なエコシステムづくりが必要とした。その後の議論では、プエルトリコの企業・大学と日本の企業・大学との連携にも強い関心が示された。


「プエルトリコ・カンファレンス2020」の様子(ジェトロ撮影)

2050年までに再生可能エネルギーによる発電100%が目標

プエルトリコは、ハリケーンや地震からの復興途上にある。この問題に関して、プエルトリコ政府のエルマー・ロマン自治連邦区務長官やルイス・トリンチェット住宅開発長官が登壇。2017年9月に発生したハリケーン「マリア」で、約7万棟もの家屋が被害を受け、修復・建て直しを余儀なくされたことに触れた。その上で、建築基準の見直しの必要性を指摘した。また、企業を代表して、米国ミヤモトインターナショナルの宮本英樹社長兼最高経営責任者(CEO)が登壇した。同社は、世界各地の被災地を回り、倒壊した建物の再建を手掛けてきたストラクチャル・エンジニアだ。日本やニュージーランドの例に倣い建築物の基礎構造の補強をするなど、プエルトリコでも災害に備えてビルや家屋の耐久性を強化することの重要性を説明した。

再生可能エネルギー産業も有望産業の1つだ。ジェトロは、プエルトリコにおけるマイクログリッド(地域単位で構築される小規模な電力供給システム)や再生可能エネルギーの動向について、アコナー(Aconer)と意見交換する機会を設けた。アコナーは、プエルトリコの再生可能エネルギー事業の発展を目的に、2007年に設立された非営利団体だ。現在、約200の個人・団体が加盟している。

アコナーによると、プエルトリコの発電能力は約6,400メガワットだ。発電源別にみると、石油が65%と最も大きな割合を占める。次いで天然ガス24%、石炭7%。再生可能エネルギーは4%にとどまる。プエルトリコ政府は、2019年に再生可能エネルギーの導入目標を掲げる。2025年までに40%、2040年までに60%、2050年までに100%にすることを目指すという。再生可能エネルギーは、燃料費を必要としないことから長期的にみるとより費用対効果が高い。災害援助金が尽きたとしても、大規模災害後の地域社会の復興を早めることができる利点がある。実際に近年、再生可能エネルギーへの転換が積極的に行われてきた。アコナーの前代表で、電力エンジニアリング会社AZエンジニアリングのエンゲル・ザヤス社長によると、既に稼働している南部の風力発電所や、北東部の島内最大規模の太陽光発電所に加え、今後、島内に発電所が新たに設置される見通しという。この結果、再生可能エネルギーによる電力供給が段階的に引き上げられることになるだろう。

またザヤス氏は、プエルトリコでは現在、災害時に安定して電力供給が行えるよう電力供給体制の見直しが行われていることを説明した。これは、2017年のハリケーン「マリア」の被害で数カ月間電力が全く供給されない地域が発生した教訓に基づいた動きだ。PREPA(注5)のような大規模発電所からの電力供給に頼るのではなく、民間のエネルギー会社による予備電力の生産やマイクログリッドの導入が推進されているという。具体例として、米国ファイザーが工場にマイクログリッドを導入していることや、米国ジョンソン・エンド・ジョンソンがソーラーパネルを使用した自社発電により予備電力の生産を開始したことを挙げた。

アコナーは、こうしたエネルギー産業の動向に民間企業が積極的に参入できるよう、セミナーなどを通して企業同士の情報交換の場を設ける。あわせて、企業に対するアドバイスも提供している。


アコナーとの会合で電力事情を説明するエンゲル・ザヤス氏(ジェトロ撮影)

自動車関連など製造業で経験ある技術者の確保が容易

自動車や建物のラジエーターなどを製造するクーリング・システム・カリブのボビー・デュラン最高経営責任者(CEO)によると、同社はハリケーンで電力が途絶した際に、製薬工場や病院などに発電機のバックアップを提供。災害時の電力供給に貢献したという。プエルトリコの電力事情から発電機の需要は大きく、同社の製品は災害対策に重要な役割を果たしているとも付言した。

同社の工場が立地するアイボニート自治区は、首都サンフアンの南に位置する。デュラン氏は同地域のビジネス上の優位性について、自動車関連製造業の経験者が多く、優れた技術者が比較的低い賃金で確保しやすいことを挙げた。企業が労働環境をきちんと整備すれば、従業員の定着率も高いとのこと。また、現地で事業を行う際は、地元の税制や立地選定などに精通したアドバイザーを見つけることが大切だとした。

多くの産業で優遇法人税率4%が適用

税制も、プエルトリコの事業環境の魅力の1つだ。ケバン・グラント・ソントン税理士事務所の税理士フランシスコ・ルイス氏も、プエルトリコが持つ3つの優位性の1つとして「税制面での優遇措置」を挙げた。現在、ACT 60と呼ばれる新税制が2020年1月から適用されている(注6)。ACT 60は従来、産業ごとに分かれて設定されていた税制を一本化したものだ。新税制による優遇措置の対象は、製造業、輸出業(サービスを含む)、インフラ事業、金融および保険サービス、農業、クリエイティブ産業など、ほぼ全ての産業にわたる。個人投資家や起業家も対象となる。プエルトリコ政府により認可された対象事業者の法人税率は4%、配当の海外送金への課税は0%だ。また、固定資産税などの一定割合が15年間免除され、当局との交渉によりさらに15年延長することも可能となっている。

ルイス氏が挙げた他の2つの優位性は、「カリブ海の中心に位置し、南米、欧州、米国本土へのアクセスが良いこと」「スペイン語と英語のバイリンガル人材が豊富であること」だ。これらに加え、そのほかの利点として、(1)米国領であるため同地域で生産した製品は米国本土への輸出に関税がかからない点や、(2)プエルトリコ内のほぼ全域が「オポチュニティーゾーン(低所得地域)」の対象のため、同ゾーンへの投資を行った投資家は連邦所得税の優遇措置を受けられる点などを指摘した(注7)。

なお、同事務所は、プエルトリコで2013年に初めて設立されたシェアオフィス「Piloto 151」に入居している。Piloto 151はスタートアップを育成するためプエルトリコ政府によって設立され、現在、同連邦自治区内に4カ所の拠点を持つ。イベントの企画などを通して、企業が地域とのネットワークを構築する機会を提供している点が特徴だ。


注1:
フランシスコ・ロドリゲス氏の配付資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.51MB)を参照。
注2:
エリザベス・プラザ氏の配付資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.54MB)参照。
注3:
ホセ・ビラミル氏の配付資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.58MB)を参照。
注4:
プエルトリコ大学の起業家育成に関する取り組みについては、ジョージ・ハドック氏の配付資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.89MB)を参照。
注5:
PREPAは、プエルトリコ政府が所有する電力事業者。目下、民営化の取り組みが進められている。
注6:
ACT60については、ケバン・グラント・ソントンの資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(574.69KB)を参照。
注7:
オポチュニティーゾーンは、新市場税額控除制度と同様に、米国の低所得地域社会への投資奨励のために設けられた。2017年税制改革法(減税雇用法)で創設された。投資家は、キャピタルゲインへの課税の繰り延べや一定割合の税控除などの優遇を受けることができる。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
湯浅 麻里絵(ゆあさ まりえ)
民間企業勤務を経て、2019年からジェトロ・ニューヨーク勤務。連邦・州・自治体との協力事業、日本企業の対米投資やメディア報道関連情報の収集を行う。

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