拡大するインドの工作機械市場
インド最大級の見本市で聞いた今後の展望

2020年4月6日

製造業を支える工作機械は、インド政府が掲げる「メイク・イン・インディア」の取り組みにも後押しされ、インドでも需要が高まっている。最近では「自動化」や「スマートファクトリー」などの新たな流れも出ている。ジェトロは、1月に開催されたインド最大級のプレス・鍛造機械の国際見本市「IMTEX Forming 2020」でジャパン・パビリオンを設置、伸びるインドの工作機械市場に向け、日系企業のプレゼンス向上を図った。

足元は受注低迷も、成長が期待されるインドの工作機械市場

インド自動車工業会(SIAM)の発表によると、2019年の新車販売台数は前年比12.7%減の296万台と、5年ぶりの前年割れになった。インド工作機械製造者協会(IMTMA)によれば、自動車販売の低迷により2019年度の自動車産業からの工作機械の受注は40%程度減少しているといい、経済減速への懸念が拭えない。

しかし、政府は種々の景気刺激策を打つとともに、製造業の振興にも引き続き注力している。政府が掲げる製造業振興策の「メイク・イン・インディア」では、従来の輸入依存からインド国内での製造を奨励しており、工作機械への新規投資が期待できる素地がある。インドでは自動車をはじめ、医療や電子産業などの市場拡大に伴い、プレス・鍛造機械をはじめとする工作機械の需要が高まっており、足元では機械関連の受注が低迷するものの、今後の市場の成長は間違いない。

積層造形やインダストリー4.0にフォーカス

南部カルナータカ州の州都ベンガルールでは1月21~28日、インド最大級のプレス・鍛造機械の国際見本市「IMTEX Forming 2020」が開催された。ジェトロは、インド工作機械市場での日系企業のプレゼンス向上と商談機会の提供を目的として、ジャパン・パビリオンを設置、日本企業11社が参加した。

IMTMAが主催するIMTEX(国際工作機械・技術展)は、奇数年に切削機械や工具などを中心に展示する「IMTEX」と、偶数年に鍛圧機械や成型機械などを展示する「IMTEX Forming」が交互に開催される。2020年で6年目を迎える今回の見本市は、積層造形とインダストリー4.0などのテーマに焦点を当て、過去最大規模となる日本を含む26ヵ国・地域から605社の企業・団体が参加した。日本以外にも、中国、台湾、韓国、ドイツがカントリーパビリオンを設置、中でも中国パビリオンは最大級の展示スペースを確保し、来場者の目を引いていた。来場者は前回(3万6,000人)を上回る4万7,944人となった。日系企業の出展は、販売代理店や現地パートナーとの共同出展を含め約25社となった。


にぎわうIMTEX会場の展示ブース(ジェトロ撮影)

ニーズに注意、現地製造もカギか

ジャパン・パビリオンに出展した日系自動車部品メーカーは「最近、インドの経済減速が取り沙汰されているが、今回の展示会で多くの顧客・パートナー候補となりうるインド企業と会話ができ、ポジティブな感触を得ることができた」とし、市場の成長への期待がうかがえた。また、出展した工具を取り扱う企業は「今回は100社ほどと商談したが、その7割は質より値段重視なので、先につながらなかった。残りの3割は欧米企業のインド拠点と取引をしている地場企業で、質と精度が高い自社製品に興味を持ってもらえた。今後はその3割を中心にフォローする予定」と語った。

ただ、ジャパン・パビリオン以外で単独出展したインド進出済みの日系工作機械メーカーからは、「2019年の夏前から不況に入り、特に一般消費の落ち込みが著しく、それに伴い企業の設備投資なども低調だ。日本から来た人は展示会がにぎわっているように感じているようだが、駐在員としては楽観視できない。客層も例年より自動車関係が少なく、本当の顧客になるのは自社ブース来場者の1割にすぎない」とインド経済に対する懸念の声もあった。そんな中、今後の成長性を背景とした日本企業によるインドへの輸出のさらなる可能性については、「価格面では中国系・地場系が強く、高品質といえばドイツ製のイメージがインドにあるため、日本製の位置付けはやや中途半端だ。そこで、正面から輸出するより、インド企業とJVを結成し、『Made in India, Made by Japan』にしたほうがより効果的と考える」とコメントした。


会場内のジャパン・パビリオン(ジェトロ撮影)

IMTMA主催の次回の展示会は、切削機械や工具などを中心に展示する「IMTEX」が2021年1月21日~27日にベンガルールで開催される予定だ。

キーワードになりつつある「自動化」

さらに、近年の新たな流れとして、インドのプレスや鍛造機械にも自動化の波が来ており、「スマートファクトリー」によって効率化を進めるインド企業が増えている。「スマートファクトリー」とは、産業IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、仮想現実(VR)といった最新のデジタル技術を工場に導入するものだ。2019年11月のキャップジェミニの調査(「Smart factories@scalePDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.9MB)」)によると、インドの製造業における過去2年間のスマートファクトリー導入割合は30%だったが、今後5年間で40%に拡大することが見込まれている。これは、イタリアやスペイン、スウェーデンといった欧州の先進国と同程度の割合で、今後もインドで大きなトレンドになることは間違いない。インド政府は「メイク・イン・インディア」とともに、経済などのデジタル化を進める「デジタル・インディア」も掲げており、こうした製造業のデジタル化も後押ししていくだろう。日本は従来のロボット産業の強みをベースにして、今後拡大が見込まれるインドのスマートファクトリービジネスへの参入が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
遠藤 壮一郎(えんどう そういちろう)
2014年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、ものづくり産業部、 日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)などの勤務を経て、2019年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ市場開拓・展示事業部海外市場開拓課
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所を経て2019年8月から現職。