新型コロナに伴う不調から急回復(中国)
消費のオンラインシフトがますます進展

2020年9月4日

中国では、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、国内経済の回復傾向が顕著になりつつある。2020年の第2四半期(4~6月)GDPは、前年同期比3.2%増とプラスに転じた。第1四半期(1~3月)の6.8%減から立ち直ったことになる。

操業停止の影響を大きく受けていたのが第二次産業だ。しかし4月から、操業が全面的に再開された。これに伴い、第2四半期に前年同期比でプラス成長に転じた。

第三次産業は、第2四半期において、卸売・小売業が1.2%増、金融業7.2%増、情報通信・ソフト・IT技術サービス業15.7%増だった。ただし、宿泊・飲食業(18.0%減)、リース・商務サービス業(8.0%減)は、依然として落込みが顕著だ。新型コロナ拡大期間中の移動制限や、商業活動の制限によるマイナスの影響がなおも響いた(表1参照)。

表1:中国の省別のGDP成長率(2020年1~6月) (単位:億元、%)(△はマイナス値)
項目 値(億元) 前年同期比(%)
Q1 Q2 上半期 Q1 Q2 上半期
GDP 206,504 250,110 456,614 △6.8 3.2 △1.6
階層レベル2の項目第一産業 10,186 15,867 26,053 △3.2 3.3 0.9
階層レベル2の項目第二産業 73,638 99,121 172,759 △9.6 4.7 △1.9
階層レベル2の項目第三産業 122,680 135,122 257,802 △5.2 1.9 △1.6
農林・牧畜・漁業 10,708 16,596 27,305 △2.8 3.4 1.1
工業 64,642 80,402 145,044 △8.5 4.1 △1.8
階層レベル2の項目製造業 53,852 69,259 123,111 △10.2 4.4 △2.5
階層レベル2の項目建築業 9,378 19,157 28,535 △17.5 7.8 △1.9
卸売・小売業 18,750 23,696 42,446 △17.8 1.2 △8.1
交通運送・倉庫物流・郵政業 7,865 10,650 18,515 △14 1.7 △5.6
宿泊・飲食業 2,821 3,481 6,302 △35.3 △18.0 △26.8
金融業 21,347 20,955 42,302 6.0 7.2 6.6
不動産業 15,268 18,594 33,862 △6.1 4.1 △0.9
情報通信・ソフト・IT技術サービス業 8,928 9,573 18,501 13.2 15.7 14.5
リース・商務サービス業 7,138 7,174 14,312 △9.4 △8.0 △8.7
その他のサービス業 39,660 39,831 79,491 △1.8 △0.9 △1.4

出所:中国国家統計局、各省統計局の統計公報の発表を基にジェトロ作成

小売りが順調に回復、消費にオンラインシフト

中国政府は、いち早く経済が正常軌道に戻るよう、新型コロナ発生の直後から一連の支援策を打ち出した。3月からは、国内需要を喚起させるために、自動車のナンバープレートの発給緩和策や自動車購入補助金の支給を実施するなど販売促進策を実施。また、地方政府は、4月18日の時点で総額57億元(約855億円、1元=約15円)を超える消費クーポンを市民に交付した。

5月に開催された2020年度政府工作会議で、中国政府は2兆元の特別財政資金を投下し、経済を下支えする方針を定めた。この方針に沿って、中国各地方政府は、オンラインとオフラインを融合した大型消費キャンペーンを実施した。

消費刺激策により、小売業の業績に回復の兆しがみられる。商品別にみると、自動車は5月にプラス成長に転じた。生活関連の商品は、アパレルを除いて小売額が増加。例えば、食品、日用品、飲料、医薬品が順調に伸びている(表2参照)。3月まで外出の自粛を余儀なくされた消費者による「リベンジ消費」が起こったとみられる。6月には、化粧品や通信機材などの消費額が3月の1.5倍になった。前年同月比では約20%の増加だ。

一方、外食業などでは、マイナス成長が続く。もっとも、映画館などの文化施設は7月から全面的に開放されるようになった。このため、減少幅が縮小している(表2参照)。

表2:中国の社会消費財小売総額(2020年1月~7月)(単位:億元、%)(△はマイナス値)
項目 2020年1‐2月 2020年3月 2020年4月 2020年5月 2020年6月 2020年7月
金額
(億元)
前年同月比(%) 金額
(億元)
前年同月比(%) 金額
(億元)
前年同月比(%) 金額
(億元)
前年同月比(%) 金額
(億元)
前年同月比(%) 金額
(億元)
前年同月比(%)
社会消費財小売総額 52,130 △20.5 26,450 △15.8 28,178 △7.5 31,973 △2.8 33,526 △1.8 32,203 △1.1
階層レベル2の項目小売り 47,936 △17.6 24,618 △12 25,871 △4.6 28,959 △0.8 30,263 △0.2 28,920 0.0
階層レベル3の項目自動車 3,654 △37 2,609 △18.1 3,083 0.0 3,376 3.5 3,612 △8.2 3,308 12.3
階層レベル3の項目食品 2,591 9.7 1,239 19.2 1,154 13.8 1,160 11.4 1,252 10.5 1,130 6.9
階層レベル3の項目アパレル 1,534 △30.9 689 △34.8 799 △18.5 1,018 △0.6 1,059 △0.1 889 △ 2.5
階層レベル3の項目日用品 837 △6.6 467 0.3 471 8.3 525 17.3 615 16.9 494 6.9
階層レベル3の項目医薬品 781 0.2 448 8 433 8.6 431 7.3 461 9.7 417 5.3
階層レベル3の項目化粧品 387 △14.1 250 △11.6 224 3.5 270 12.9 326 20.5 230 9.2
階層レベル3の項目飲料 308 3.1 468 6.3 635 12.9 183 16.7 210 19.2 189 10.7
階層レベル3の項目オフィス用品 393 △8.9 264 △3.4 262 △0.8 238 1.9 349 8.1 264 0.5
階層レベル3の項目通信機材 665 △8.8 393 6.5 386 12.2 380 11.4 576 18.8 388 11.3
階層レベル2の項目外食 4,194 △43.1 1,832 △47 2,307 △31.1 3,013 △18.9 3,262 △15.2 3,282 △11.0

出所:中国国家統計局、各省統計局の発表を基にジェトロ作成

また、消費のオンラインシフトが、ますます強まる傾向にある。7月のネット小売額は9,284億元に達した。また、社会消費財小売総額に占める割合は、2020年7月時点で29%にまで上昇した〔新型コロナの感染が拡大していた2020年1~2月(注1)は、22%だった〕。1~7月のカテゴリー別ネット通販販売額の伸びが最も大きいのは、食品類だ(前年同期比38.2%増)。日用品類がこれに次ぎ、18.6%増だった。生活必需品の消費は、新型コロナの影響が極めて少なかったと言えるだろう(図参照)。

図:カテゴリー別ネット通販販売額の成長率(2019年1月~2020年7月)
食品類は2020年1月~2月の販売額の前年同期比は26.4%、1月~3月は32.7%、1月~4月は36.7%、1月~5月は37.0%、1月~6月は38.8%、1月~7月は38.2%。 日用品類は2020年1月~2月の販売額の前年同期比は7.5%、1月~3月は10.0%、1月~4月は12.4%、1月~5月は14.9%、1月~6月は17.3%、1月~7月は18.6%。 実物商品の2020年1月~2月の販売額の前年同期比は3.0%、1月~3月は5.9%、1月~4月は8.6%、1月~5月は11.5%、1月~6月は14.3%、1月~7月は15.7%。 服飾類は2020年1月~2月の販売額の前年同期比はマイナス18.1%、1月~3月はマイナス15.1%、1月~4月はマイナス12.0%、1月~5月はマイナス6.8%、1月~6月はマイナス2.9%、1月~7月はマイナス0.9%。

注:「実物商品」はサービスを含まないこと。
出所:中国国家統計局、各省統計局の発表を基にジェトロ作成

コロナ禍をきっかけに、健康関連消費が伸びる

網易定位(ネットイース傘下の調査研究機構)とCTR(央視市場研究社)は2020年3月、「2020新型コロナ禍が消費者行動に与える影響とトレンド報告」(以下、トレンド報告)を発表した(注2)。その結果によると、「コロナ禍中に支出を増やした商品」と「コロナ禍後にも支出を増やしていきたい商品」として挙げられたものは、健康関連の商品やサービスが目立った。具体的には、衛生・防疫用品、医療・人身損害保険、医薬品、健康食品・サプリメントなどが挙げられる(表3参照)。

表3:コロナ禍中に「支出を増やした商品」、コロナ禍後にも「支出を増やしたい商品」
項目 支出を増やした(%) 今後も支出を増やしたい(%)
衛生・防疫商品 88.9 39.7
殻物・食用油 72.7 31.4
清掃用品 68.1 29.6
野菜・果物 61.0 34.5
医療・人身損害保険 54.6 31.4
医薬品 49.8 24.3
健康食品・サプリメント 46.1 18.2
資産運用関連 42.2 20.5
キッチン用品 40.4 12.1
肉類・海産物 37.4 19.4
スナック・飲料 27.3 17.5
家庭用トレーニング器材 23.5 16.3

出所:「2020新型コロナ禍が消費者行動に与える影響とトレンド報告」(網易定位、CTR)を基にジェトロ作成

また、トレンド報告では、「コロナ禍中に初めて体験したこと」「コロナ後も継続したいこと」についても問われた。「初めて体験したこと」の上位には、「オンライン研修・学習」「テレワークアプリ」「ライブ配信」などが挙がった(表4参照)。

表4:コロナ禍中に「初めて体験したこと」「今後も継続したいこと」
項目 初体験したこと(%) 今後も継続したいこと(%)
オンライン研修・学習 21.1 69.2
テレワークアプリ 17.6 68.5
ライブ中継 13.6 72
ショート動画(VOD) 13.3 67.2
有料会員サービス(エンタメ) 12.3 74.8
オンライン問診 12 65.7
生鮮ECアプリ 10.4 76.6
病院のオンライン受付 9.3 78.9
オンラインゲーム 8.2 73.6
ソーシャルEC共同購入サービス 5.1 69.1
通信プロバイダー手続き 4.8 82.1
フィットネス関連のイントラアクティブゲーム 3.6 82.4
家庭用フィットネス器材の購入 3.5 72.1
資産運用関連商品の購入 2.8 70.1
セルフレジなどの無人設備 2.2 79.2
ライドシェア 1.4 75.6

出所:「2020新型コロナ禍が消費者行動に与える影響とトレンド報告」(網易定位、CTR)を基にジェトロ作成

以下が、新型コロナを受けて成長する各種オンラインサービスの現況だ。

  • オンライン教育:中国国務院教育部は2020年1月29日、2020年春学期始業の延期を発表。あわせて、「小学校から大学までオンライン授業方式を採用する」 ことを求めた。
    これに結果、約2億人の生徒がオンラインで授業を受講し、23万以上のオフライン教育施設がオンラインサービスを提供することになった。中国系ITリサーチ会社の易観千帆によると、2月にMAU(注3)が1,000万人を超えたアプリの中で、成長率トップ10は全て教育関連だった。また、1位のテンセント傘下の「騰訊課堂」のユーザー数は、1月の4.4倍になった。
  • オンライン診療: モバイル関連情報サービスの提供するMobTechによると、2020年4月時点の中国オンライン診療ユーザー数は推計で5,900万人。また、業界普及率は7.9%になった。中国平安集団が運営するオンライン問診アプリ「平安好医生」の新規登録ユーザー数は、新型コロナ感染ピーク時に前年同期比10倍となった。また、新規登録ユーザーの1日当たりの平均アクセス量は通常期の9倍程度、累計アクセス回数は11億回に達したという(注4)。
    第5世代移動通信システム(5G)など、オンライン診断を実現させるインフラが整備されるとともに、オンライン予約・問診が一層普及するとみられる。
  • ライブ配信:「ライブ配信」とは、テレビショッピングのように実況中継をすることことを言う。スマートフォンからミニ動画の形で配信されるものが多い。中国系ITリサーチ会社の易観国際によると、ネットライブ中継の視聴者は2020年3月時点で5億6,000万人だった。ネット利用者総数のほぼ6割を占めることになる。
  • 生鮮品電子商取引(EC):生鮮品ECアプリのDAU(注5)は、2020年第1四半期に685万人に達した。前年同期比では2.13倍の伸びだ。
    新型コロナ拡大期間中には、各生鮮EC運営会社が大衆性の高い野菜商品を農家から直接調達。従業員シェアリング(注6)で配送員を確保した。また、「無接触配送」の宅配サービスを提供したことが、利用の拡大につながった。
    新型コロナ拡大期間中に試験運用を開始した無接触レジサービス、無人運転配送車や無人操作機を使った配送サービスなどについても、順次本格的な導入の期待が高まっている。

注1:
社会商品小売総額についての国家統計局のデータは、1~2月分がまとめて発表された。
注2:
対象者約1万人。コロナ禍中の消費行動について調査した。
注3:
マンスリー・アクティブ・ユーザーの略。月当たり既存ユーザー数のこと。ソーシャルメディアやソーシャルアプリなどで、利用者数を示す指標として使われる。
注4:
中国平安集団第1四半期の財務報告書による。中国平安集団は、銀行業、保険業など金融サービス、健康関連商品・サービスを提供する大手グループ企業。
注5:
デイリー・アクティブ・ユーザーの略。1日当たりの既存ユーザー数のこと。ソーシャルメディアやソーシャルアプリなどで、適切な利用者数を示す指標として使われる。
注6:
コロナの影響で休業となったサービス業の従業員に呼びかけ、宅配需要増などで人手不足が生じる業界に従業員を派遣するシェアリングサービス。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
王 艶(おう えん)
日系コンサルティング会社で16年にわたり勤務し、日系企業中国法人向けに様々な支援サービスを提供。2019年から現職(海外投資アドバイザー)。