拡大するメキシコEC市場、さらなる成長のカギは
メキシコ版「LOFT」を目指すドッコイ・ジャパン

2020年4月15日

メキシコインターネット協会(AIMX)によると、メキシコのインターネット利用人口は2008年に2,760万人だったが、2018年には8,270万人と10年間で3倍になった。利用者の74%は18歳以上の成人で、26%が17歳以下だ。全人口に占める利用者の割合は、同期間に25.0%から66.0%となり、メキシコ人の3人に2人がネットを利用するまでに成長した(図1参照)。利用人口の年間増加率は4.3%~18.1%で、年によってばらつきはあるものの上昇を続けている。

図1:メキシコのインターネット利用人口と全人口に対する利用率の推移
 インターネット利用人口は、2008年に760万人。2009年は3060万人。2010年は3490万人。2011年は4060万人。2012年は4510万人。2013年は5120万人。2014年は5390万人。2015年は6580万人。2016年は7000万人。2017年は7910万人。2018年は8270万人。 全人口に対するインターネット利用率は、2008年に25%。2009年は27.3%。2010年は30.7%。2011年は35.2%。2012年は38.6%。2013年は43.2%。2014年は44.9%。2015年は54.2%。2016年は57%。2017年は63.8%。2018年は66%。

出所:メキシコインターネット協会(AIMX)、メキシコ国家人口評議会(CONAPO)

AIMXの調査(2019年7月公開)によると、ネットを利用する目的として、82%が「SNSの閲覧・投稿」と回答した。続いて「チャットなどのメッセージ送受信」(78%)、「Eメールの送受信」(77%)が上位だった。電子商取引(Eコマース、EC)の観点では、「イベントチケットの購入」(46%)が11位、「ネット上での売買」(21%)が17位と比較的下位だった(表1参照)。

表1:インターネットを利用する目的(単位:%)
順位 目的 割合
1 SNSの閲覧・投稿 82
2 チャットなどメッセージの送受信 78
3 Eメールの送受信 77
4 情報収集 76
5 地図の利用 68
6 映画やドラマのストリーミング 65
7 音楽やラジオのストリーミング 63
8 オンラインコンテンツの検索 59
9 ネットバンキング 58
10 ビデオ会議 51
11 イベントチケットの購入 46
12 オンライン講座の受講 42
13 配車サービスなどの利用 41
14 行政手続き 31
15 オンラインゲーム 28
16 職探し 26
17 ネット上での売買 21

注:複数回答可。回答者数は2,438人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

ネットを利用する際の端末としては、スマートフォン(スマホ)が92%と圧倒的に多く、ノートPCも76%と比較的多い。3位以下は50%を下回った(表2参照)。メキシコのスマホ契約数の増加率はネット利用者数のそれよりも高い。2011年のネット利用者数は4,060万人だったのに対し、スマホ契約数は1,440万件と約3分の1だった。しかし、2014年にはネット利用者とスマホ契約数がほぼ同じになり、2018年にはネット利用者1人当たりにつき、スマホを1.3台保有している状況となった(図2参照)。2019年におけるネットを利用する際の主な使用端末は、利用回数が「月1回」であっても、「1日に複数回」と同様に、スマホとなっている(表3参照)。なお、The Competitive Intelligence Unit(The CIU)の調査によると、2019年のメキシコでのスマホのメーカー別シェアでは、サムスン(Samsung)とモトローラ(Motorola)で市場の約半分を占めた。前者は全所得階層から、後者は中所得階層から支持されている(図3参照)。

表2:インターネットを利用する際の端末(単位:%)
順位 端末の種類 割合
1 スマートフォン 92
2 ノートPC 76
3 デスクトップPC 48
4 インターネット機能のあるビデオゲーム 47
5 タブレット端末 42
6 スマートTV 38
7 ウェアラブル端末 29
8 その他の機器 13

注:複数回答可。回答者数は2,438人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

図2:メキシコのインターネット利用人口とスマートフォン利用者数の推移の推移
インターネット利用人口は、2011年に4060万人。2012年は4510万人。2013年は5120万人。2014年は5390万人。2015年は6580万人。2016年は7000万人。2017年は7910万人。2018年は8270万人。 スマートフォン利用者数は、2011年に1440万人。2014年は5390万人。2018年は1億670万人。

出所:The Competitive Intelligence Unit、メキシコインターネット協会

表3:インターネット上のサービスの利用頻度と行動パターン(単位:%)
頻度 割合 行動 主な利用端末
1日に複数回 80
73
56
53
43
37
チャット、ネット通話
SNSの閲覧・投稿
情報収集
Eメールの送受信
音楽やラジオのストリーミング
オンラインコンテンツの検索
スマートフォン
週に複数回 35
31
30
21
17
地図の利用
ネットバンキング
映画やドラマのストリーミング
ビデオ会議
配車サービスなどの利用
スマートフォン
スマートフォン
スマートTV
PC
スマートフォン
週1回 26 職探し スマートフォン
月1回 26 ネット上での売買 スマートフォン

注:複数回答可。回答者数は2,438人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

図3:メキシコにおけるメーカー別スマホのシェア
サムスンが35%。モトローラが15.6%。ファーウェイが13.7%。アップルが11.3%。LGが8.2%。アルカテルが4%。ノキアが2.4%。ソニーが2.2%。その他が7.6%。

出所:The Competitive Intelligence Unit

EC取引額は拡大傾向も、根強い実店舗での買い物

メキシコのEC取引額は、ネットやスマホの普及に伴って拡大を続けている。特に、ネット利用者数とスマホ契約者数がほぼ同数になった2014年以降は、増加額が拡大している。2014年に85億ドルだった取引額は、2018年に3倍の259億ドルとなった。2019年第1四半期(1~3月)も前年同期比22%増で、同年通年の取引額は約316億ドルと予想されている(図4参照)。EC利用者のプロフィールを見ると、性別では男女ほぼ同数だった。所得別社会階層では、中所得層が利用者の約7割を占めている。年齢層はスマホネーティブ世代の25~34歳が最も多く、所在地域では、1人当たりの所得が高いメキシコ市周辺の首都圏が25%を占めた(表4参照)。

図4:メキシコにおけるEC取引額の推移
EC取引額は、2010年に19億ドル。2011年は29億ドル。2012年は45億ドル。2013年は64億ドル。2014年は85億ドル。2015年は135億ドル。2016年は174億ドル。2017年は208億ドル。2018年は259億ドル。2019年第1四半期は158億ドル。 EC取引額の前年比の伸び率は、2010年に49%。2011年は49.3%。2012年は57.2%。2013年は41.9%。2014年は33.3%。2015年は58.6%。2016年は28.3%。2017年は20.1%。2018年は24%。2019年第1四半期は22%。

注:四半期ごとのデータは発表されていないため、2019年Q1の伸び率はインターネット協会の発表の数値。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

表4:EC利用者のプロフィール(単位:%)

性別
女性 51
男性 49
所得別社会階層
高所得 14
上位中所得 32
下位中所得 36
低所得 18
年齢
18~24歳 24
25~34歳 30
35~44歳 19
45~54歳 16
55歳以上 11
所在地域
首都周辺(メキシコ市、メキシコ州、モレリア) 25
北西部(バハカリフォルニア、バハカリフォルニアスル、チワワ、ドゥランゴ、シナロア、ソノラ) 15
東部(イダルゴ、トラスカラ、ベラクルス、プエブラ) 13
西部(コリマ、ハリスコ、ミチョアカン、ナヤリ) 12
北東部(コアウイラ、ヌエボレオン、タマウリパス) 11
中央部(アグアスカリエンテス、グアナファト、ケレタロ、サカテカス) 11
南西部(チアパス、ゲレロ、オアハカ) 7
南東部(カンペチェ、キンタナロー、タバスコ、ユカタン) 6

注:アンケート回答者数は1,759人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

メキシコ人がECで商品を購入する行為に至る要因や頻度、購入1回当たりの支出金額をブレークダウンしてみる。商品購入に至るきっかけとして、「個人へのダイレクトメール」が57%と有効な手段と分かる(表5参照)。ネットを利用する目的の82%が「SNSの閲覧・投稿」であり(表1参照)、73%がSNSのために1日に複数回ネットを利用している(表3参照)割には、購入のきっかけが「Facebookを通じた広告」の割合は23%にとどまっている。また、ネット広告経由で購入した経験を持つ利用者は全体の14%で、購入に至らなかった86%の利用者のうち、38%がネット販売を「安心できない」ものと捉えている(表6参照)。ネットスーパーに関しても同様の傾向がみられ、購入経験があるのはアンケート回答者の18%にとどまる。購入経験がない回答者の7割は「実店舗で商品を見て購入したい」とのことだ(表7参照)。これは、メキシコでもネット販売などが急速に拡大したものの、いまだネット経由で購入することに不安を抱く利用者が一定程度いることを物語っている。それを裏付けるように、メキシコオンライン販売協会(AMVO)によると、最近1年以内のECにおける詐欺について、「かなり増えた」が最も多く33%だった。「少し増えた」(25%)と合わせると、約6割が詐欺の増加を指摘した(表8参照)。メキシコにおけるさらなるEC市場の拡大のためには、マーケットプレース側が安全性を確保し、利用者の不安感をいかに少なくできるかがカギとなるだろう。

表5:ECで商品を購入するきっかけ(単位:%)
順位 要因・きっかけ 割合
1 個人へのダイレクトメール 57
2 ショートメッセージ(SMS) 27
3 アプリのアップデート版を購入 26
4 Facebookを通じた広告 23
5 Whatappを通じた広告 10
6 Instagramを通じた広告 10
7 Facebookメッセンジャーを通じた広告 8
8 Twitterを通じた広告 8
9 その他のSNSを通じた広告 4
その他 1

注:複数回答可。アンケート回答者数は1,759人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

表6:ネット広告の効果(単位:%)

ネット広告経由で商品を購入した経験
なし 86
あり 14
購入しない理由
得だと思えなかった 43
安心できない 38
商品に関心がなかった 38
予算がなかった 33
実店舗で商品を見てから買いたい 29
ネット上で買い物をしない主義 24

注:複数回答可。回答者数は803人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

表7:ネットスーパーの利用について(単位:%)

ネットスーパーでの購入経験
あり 18
なし 82
購入経験ありの主な理由
実店舗での購入より便利 80
割引やプロモーションがあるため 47
支払い方法の多様さ 23
ネットでの買い物の方が安心 20
ネットの方が自分に最適なオファーをしてくれるため 7
緊急時の対応が早い 3
購入経験なしの主な理由
実店舗で商品を見て購入したい 69
ネット上だとすべての商品を見るのに時間がかかる 54
ネット上で買うより安全 25
実店舗の方が自分に最適なオファーをしてくれるため 16
ネット上の買い物は信用できない 12

注:複数回答可。回答者数は823人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

表8:1年以内のECにおける詐欺の数(単位:%)
詐欺の状況 割合
かなり増えた 33
少し増えた 25
変化なし 29
少し減った 9
かなり減った 4

注:回答者数は1,001人。
出所:メキシコオンライン販売協会(AMVO)

ネット利用者の半数が週1回以上シェアモビリティーを利用

次に、オンラインで決済をする頻度と金額をアイテム別に見てみると、「電子書籍」「CDやDVDなどのメディア媒体」「ストリーミング(音楽、ビデオ)」といったコンテンツ関連の多くは毎月1回、50~500ペソ(約215~2,150円、1ペソ=約4.3円)の範囲の支出だ。「シェアモビリティー(Uberなど)」については、約50%が週1回以上利用しており、そのほぼ同数が50~300ペソを支出している。渋滞のない場合のメキシコ市であれば、3~20キロほどの移動に相当する。観光分野では「ホテルなどの宿泊先」と「航空券など」で半年に1回の購入が約半数となっている。(図5、6参照)。

図5:アイテム別の購入毎平均支出額
電子書籍では50-100ペソが29%、101-300ペソが32%、301-500ペソが21%、501-1000ペソが14%、1001-3000ペソが4%。3001-5000ペソが0%。5001ペソ以上が0%。 CDやDVDなどのメディア媒体では50-100ペソが22%、101-300ペソが34%、301-500ペソが20%、501-1000ペソが17%、1001-3000ペソが5%。3001-5000ペソが2%。5001ペソ以上が0%。 シェアモリビリティ(Uberなど)では50-100ペソが14%、101-300ペソが43%、301-500ペソが13%、501-1000ペソが13%、1001-3000ペソが12%。3001-5000ペソが5%。5001ペソ以上が0%。 日用品/雑貨では50-100ペソが3%、101-300ペソが0%、301-500ペソが11%、501-1000ペソが29%、1001-3000ペソが45%。3001-5000ペソが11%。5001ペソ以上が3%。 入場チケットでは50-100ペソが3%、101-300ペソが14%、301-500ペソが11%、501-1000ペソが11%、1001-3000ペソが46%。3001-5000ペソが6%。5001ペソ以上が9%。 ファーストフードでは50-100ペソが8%、101-300ペソが22%、301-500ペソが29%、501-1000ペソが16%、1001-3000ペソが22%。3001-5000ペソが4%。5001ペソ以上が0%。 ストリーミング(音楽、ビデオ)では50-100ペソが11%、101-300ペソが35%、301-500ペソが28%、501-1000ペソが18%、1001-3000ペソが7%。3001-5000ペソが2%。5001ペソ以上が0%。 ホテルなどの宿泊先では50-100ペソが0%、101-300ペソが0%、301-500ペソが1%、501-1000ペソが4%、1001-3000ペソが35%。3001-5000ペソが25%。5001ペソ以上が35%。 航空券などでは50-100ペソが0%、101-300ペソが2%、301-500ペソが2%、501-1000ペソが6%、1001-3000ペソが8%。3001-5000ペソが12%。5001ペソ以上が71%。 服、アクセサリーでは50-100ペソが0%、101-300ペソが7%、301-500ペソが9%、501-1000ペソが40%、1001-3000ペソが35%。3001-5000ペソが9%。5001ペソ以上が0%。

注:アンケート回答数は1,759人。各設問は小数点以下を四捨五入しているため、必ずしも100%とならない場合がある。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

図6:アイテム別のオンラインでの購入頻度
電子書籍では毎日が5%、毎週が7%、月2回が13%、月1回が46%、半年に1回が16%。1年に1回が0%。これまで1度きりが13%。 CDやDVDなどのメディア媒体では毎日が2%、毎週が15%、月2回が15%、月1回が27%、半年に1回が22%。1年に1回が0%。これまで1度きりが13%。 シェアモリビリティ(Uberなど)では毎日が11%、毎週が37%、月2回が21%、月1回が14%、半年に1回が13%。1年に1回が1%。これまで1度きりが4%。 日用品/雑貨では毎日が3%、毎週が26%、月2回が124%、月1回が32%、半年に1回が8%。1年に1回が0%。これまで1度きりが8%。 入場チケットでは毎日が0%、毎週が6%、月2回が6%、月1回が28%、半年に1回が37%。1年に1回が12%。これまで1度きりが11%。 ファーストフードでは毎日が3%、毎週が44%、月2回が19%、月1回が23%、半年に1回が6%。1年に1回が0%。これまで1度きりが5%。 ストリーミング(音楽、ビデオ)では毎日が9%、毎週が12%、月2回が4%、月1回が67%、半年に1回が5%。1年に1回が0%。これまで1度きりが4%。 ホテルなどの宿泊先では毎日が0%、毎週が0%、月2回が7%、月1回が15%、半年に1回が55%。1年に1回が15%。これまで1度きりが8%。 航空券などでは毎日が0%、毎週が3%、月2回が8%、月1回が17%、半年に1回が15%。1年に1回が24%。これまで1度きりが3%。 服、アクセサリーでは毎日が0%、毎週が2%、月2回が7%、月1回が35%、半年に1回が39%。1年に1回が2%。これまで1度きりが15%。

注:アンケート回答数は1,759人。各設問は小数点以下を四捨五入しているため、必ずしも100%とならない場合がある。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

越境ECで、国内で購入しにくい商品を入手

メキシコ国外のマーケットプレースの利用状況に関して、回答者の約半数が「最近1年以内に外国からECで購入した経験がある」と答えている。購入元国・地域では、米国が64%と最も多く、次いでアジアが29%、欧州が21%だった(表9参照)。メキシコ人はアマゾン(Amazon)やメルカド・リブレ(Mercado Libre)などのECプラットフォームを経由して米国から商品を購入することが多い。アジアは特に中国からの購入が多い。越境ECで商品を購入する理由として、4割以上が目当ての商品がメキシコ国内で販売されていないことを理由に挙げた。また、主に中国からの購入の場合には、「外国から購入した方が安価なため」という回答が45%だった(表10参照)。

表9:1年以内の越境ECの利用経験(単位:%)

越境ECの利用経験の有無
あり 47
なし 44
覚えていない 9
購入元国・地域
米国 64
アジア 29
欧州 21
メキシコ以外の中南米 11
その他 7
不明 10

注1:購入元国・地域は複数回答可。
注2:アンケート回答者数は1,759人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

表10:越境ECで商品を購入する理由(単位:%)
順位 理由 割合
1 メキシコの店舗で探したが見つけられなかったため 48
2 海外から購入した方が安価なため 45
3 好きなブランドの商品がメキシコで手に入らないため 41
4 目当ての商品を見つけられる可能性が高いため 13
5 海外の商品の方が品質が良いため 11
6 海外サイトの方がサービスが良いため 11
7 過去に海外サイトで良い買い物ができたため 11
8 海外旅行中に見つけた商品をメキシコで購入したかったため 10
9 海外サイトで購入する方が郵送時間が短いため 8
10 メキシコのサイトより信用できるため 7
11 支払い方法の選択肢が多いため 1
その他 8

注:複数回答可。アンケート回答者数は1,759人。
出所:メキシコインターネット協会(AIMX)

高付加価値の日本製品のラインアップを充実させ、メキシコ版「LOFT」を目指す

ドッコイ・ジャパン(Dokkoi Japan)は100円ショップの形態で実店舗とECでビジネスを拡大しているメキシコ企業の代表例だ。同社はメキシコの日系人により創業されたマエ・グループ(MAE Group)を母体としており、2016年に進出日系企業の駐在員と家族が多く居住しているグアナファト州レオン市のショッピングモール内に1号店をオープンした。現在はメキシコ国内に10カ所の自社販売店と2カ所の共同販売店を有し、同社ウェブサイトでもオンラインショップを展開している。約3,500種類の商品を取り扱い、主に日本の100円ショップ企業のワッツ(Watts)の商品を47.90ペソで販売している。また、ドッコイ・プラス(Dokkoi Plus)という高価格帯の商品カテゴリーも作り、89.90ペソ以上で販売している。


ドッコイ・ジャパンの店舗(同社提供)

ドッコイの企画営業戦略を取り仕切るのは、日系2世のジュン・ハヤセ氏だ。同氏はマエ・グループに所属しつつ、ドッコイ・ジャパンのプロジェクトを立ち上げたメンバーで、「プロジェクト開始当初から、実店舗に加えてECサイトでの高価格帯商品群の販売を考えていた」と語る。店舗での100円ショップ形態は薄利多売となることから、メキシコで小売り販売シェアの高い大手スーパーマーケットのウォルマート(Walmart)やソリアーナ(Soriana)、チェドラウイ(Chedraui)と価格競争することになってしまう。そのため、実店舗と並行して、オンラインならではのサービスを提供できるEC事業を開始した。「ならでは」の1つ目は、ECサイトで購入した商品を実店舗で受け取れば配送料が無料となるクリック・アンド・コレクト(Click and Collect)。2つ目は、ビジュアルによる利用方法の説明。製品の性能やデザインがいくら秀でていても、利用方法が分からなければ顧客は購入には至らない。実店舗での販売員による商品説明には限界があるが、ネット上では利用方法に関する画像や動画の掲載が容易で、マスを対象に顧客の興味・関心を引くことができるというのが、ハヤセ氏の主張だ。


ドッコイ・ジャパンのECサイト(同社提供)

他方、ドッコイと同じく2016年にメキシコへ進出したミニソー(MINISO名創優品)は、国内の大手商業施設デベロッパーと組み、3月現在で約200店舗を展開している。ハヤセ氏によると、「ミニソーのメキシコ進出は競合相手の拡大というよりも、むしろ『ありがたい』という気持ちが大きい」という。その理由として、「メキシコ人にとって『日本製品』や『日本のデザイン』というと、高度な技術のロボットや自動車、オートバイ、オタク文化といったものが主流だった。しかし、ミニソーが『日本のデザインや日本風の商品はとても便利で、欧米のアイテムよりも優れているものが多い』というイメージを短期間にメキシコ人に持たせてくれた」と語る。「ドッコイ・プラスのラインアップを拡大し、今がまさにドッコイ・ジャパンが『100円ショップの店』からリープアウトするチャンス」と意気込む。


ドッコイ・ジャパンの責任者のジュン・ハヤセ氏(ジェトロ撮影)

しかし、EC事業を拡大する上で非常に重要な商品ラインアップの多様化には課題がある。サプライヤーとのチャネルが少ないためだ。これまで基本的にはワッツの商品だけを扱ってきたため、日本側のサプライヤーやメーカーとのコネクションが少なく、ラインアップの拡大に至っていないのが現状だ。そこで今後は、ジェトロの「海外におけるEC販売プロジェクト(JAPAN MALL事業)」へ参加し、日本の中小・中堅メーカーの優れた商品を取り扱うことで、価格帯を5~50ドルに押し上げていく計画だ。ハヤセ氏のこれからの目標は、ドッコイが「メキシコ版のロフト(LOFT)」と言われること。「ECを通じて、より多くの日本製品をメキシコ人に伝え、大きなビジネスに育てたい」と志は高い。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。