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新型コロナ感染爆発は回避も、厳しい経済・社会情勢続く(デンマーク)
政府は幅広い経済支援策を実施中

2020年5月21日

デンマークでは現状、新型コロナウイルス感染者数が爆発的に増加するようなことにはなっていない。入院患者数も減少傾向にある。この状況の下、政府は経済活動制限措置と同時に、各種救済措置や給付・貸付制度を発表しているほか、経済再開に向けた緩和策も示している。しかし、有名レストランの破産申告や大企業の大量解雇の可能性が報道され、経済への影響が深刻だ。

デンマークの国立血清学研究所によると、5月20日現在のデンマーク本土(人口約582万人、フェロー諸島やグリーンランドを除く)の新型コロナウイルス感染者数は11,117人、死者数は554人となっている。懸念されていた大規模な爆発的感染拡大は発生しておらず、コントロールが行き届いていると言われるのがデンマークの現状だ。これは、早い段階でロックダウンを始めた政府の対策や、国民の理解と協力などが効果を見せている結果とも考えられる。

感染拡大は3月末がピークか、各種制限措置は4月から緩和

2月27日に初めての感染者が確認されてから、3月に入ると感染者数が2桁に増加した。政府による感染防止政策が発表されたのは3月6日で、この時点で既に感染者は23人確認されていた。政府は1,000人以上が参加する大規模イベントの開催中止や延期をするよう勧告を出した。3月11日には入国管理の厳格化と教育機関の一時閉鎖、一部を除く公務員の出勤停止も発表した。翌週17日の首相発表では、10人以上の集まりの禁止や、大規模ショッピングモール、アーケード、室内スポーツ施設、フィットネスクラブ、日焼けサロン、美容院、タトゥー店、マッサージ店、ディスコクラブ、バー、水たばこカフェ、レストラン、カフェなどの飲食店の閉鎖(テークアウトは利用可能)など、さらに厳格な規定も追加した。その後、懸念されていた爆発的感染は起こっておらず、3月30日前後をピークに集中治療室(ICU)に運ばれる患者数に減少傾向が見られた。このことから、4月6日の発表で、それまで一時閉鎖としていた保育園、幼稚園、小学校5年生までの初等教育機関について、イースター終了後の4月15日から再開することを決定した(高学年は、5月18日より再開)。徐々に段階的解除に移行する計画を発表しつつ、公務員や民間企業の社員には引き続きできる限りの在宅勤務を要請した。5月7日には緩和策の「フェーズ2」を発表し、必要な感染拡大防止策などを定めたガイドラインに沿った対応をすることを条件に、5月11日からショッピングセンターを含む小売業の再開、18日以降にはレストランやカフェ、小学校高学年の教育機関や出席が必要な授業や試験、図書館、教会などの宗教施設の再開を可能とした。5月8日には緩和策の「フェーズ3」「フェーズ4」を発表した。6月8日から開始予定の「フェーズ3」では、これまで禁止していた10人以上の集まりの人数制限を30~50人までに引き上げるほか、博物館や劇場などの文化的な施設や野外遊園地などの施設、大学などの教育機関、屋内スポーツも解禁する見込みだ。なお、8月初旬に開始が見込まれる「フェーズ4」までは、ディスコやクラブ、屋内のスポーツ施設・レジャー施設(ジム、ウオーターパーク、遊園地、スイミングプールなど)の開業は引き続き禁止される。500人を超える規模のイベントの開催も、少なくとも8月31日までは禁止としている。

図:新型コロナウイルス感染症入院者数および死者数推移(人)
新規入院者数、3月4日、0人、3月6日、4人、3月8日、3人、3月10日、15人、3月12日、18人、3月14日、24人、3月16日、45人、3月18日、46人、3月20日、63人、3月22日、40人、3月24日、76人、3月26日、83人、3月28日、84人、3月30日、71人、4月1日、58人、4月3日、56人、4月5日、32人、4月7日、41人、4月9日、32人、4月11日、26人、4月13日、26人、4月15日、26人、4月17日、22人、4月19日、31人、4月21日、33人、4月23日、26人、4月25日、25人、4月27日、19人、4月29日、14人、5月1日、14人、5月3日、13人、5月5日、10人。 新規死者数、3月12日、0人、3月14日、1人、3月16日、1人、3月18日、4人、3月20日、4人、3月22日、3人、3月24日、6人、3月26日、12人、3月28日、9人、3月30日、11人、4月1日、22人、4月3日、20人、4月5日、12人、4月7日、12人、4月9日、13人、4月11日、11人、4月13日、16人、4月15日、10人、4月17日、9人、4月19日、6人、4月21日、12人、4月23日、11人、4月25日、5人、4月27日、9人、4月29日、10人、5月1日、11人、5月3日、11人、5月5日、4人。

注:データは過去にさかのぼって修正される可能性がある。本グラフは5月8日発表データに基づき作成。
出所:デンマーク国立血清学研究所データよりジェトロ作成

大企業からスタートアップまで幅広く支援

感染者の爆発的増加は発生していないものの、2020年第2四半期(4~6月)に入って、経済には歴史的な経済後退が見られる。デンマーク財務省は4月9日に2020年通年でGDP成長率がマイナス3~6%となるとの見通しを発表した。既に著名なレストラン・カドーの破産申告やスカンジナビア航空の大量解雇などのニュースがメディアをにぎわせており、影響は深刻だ。

このため、現在も新しい政策が次々と打ち出されている。4月21日までに出された主な政策としては、企業向け給付(大企業、中小企業、スタートアップ)、一時貸付金、納税の延期がある。このほか、文化機関の維持に一時貸付金が提供されることになっているなど、幅広い対象への支援が見られる(表参照)。

表:デンマーク政府による主な経済対策(2020年4月21日現在)

給付金
給与を対象とした一時給付 新型コロナウイルス感染拡大の影響で従業員の雇用の維持が困難となり、従業員の30%以上または50人名以上を一時帰休させざるを得なくなっている企業を対象に、1人当あたり月額最高3万デンマーク・クローネ(以、クローネ、約46万8,000円、1クローネ=約15.6円)を上限として、給与所得者の給与の75%相当を政府が給付する(残りの25%は企業が負担し、被雇用者の給与は総額で100%保証されなければならない)。契約労働者の場合は給与の90%相当を政府が給付する。これにより企業は、政府の支援を受けながら解雇を避けることができる。この措置は7月8日までの3カか月間適用される。
予算規模:総額62億クローネ(GDPの0.3%に相当)
企業向け固定費一時給付 0−100%の減収となった企業に対し固定費の80%相当、60~80%の減収となった企業には50%相当、35~60%の減収となった企業には25%相当の給付を行う。営業停止を余儀なくされた場合は、100%相当が給付される。7月8日まで適用される。
予算規模:総額653億クローネ(GDPの2.8%)
自営業者向け一時給付 個人事業主やフリーランサーで30%以上の収入減となった者に対し、減収の90%相当額を給付(最大月額2万3,000クローネ)。失業した場合は、100%相当額を給付(最大月額2万3,000クローネ)。7月8日まで適用される。
予算規模:総額141億クローネ(GDPの0.6%)
病欠補償の迅速給付 新型コロナウイルスの感染者が発生した企業に対する政府の病欠給付は、通常は、30日後に支払われるが、1日目から即時給付を行う。感染した従業員と隔離措置となった従業員が対象。
予算規模:総額17億クローネ
旅行会社への給付 旅行保障基金を、政府が保証し設立。同基金は、旅行キャンセルによる払い戻しなどの対応を迫られた旅行会社に給付。
基金の規模:15億クローネ(GDPの0.1%)
イベント主催者向け給付 350人以上の参加者が見込まれていたイベントをキャンセルまたは延期により損害を受けた主催者に対して給付
予算規模:総額24億クローネ(GDPの0.1%)
芸術家への給付 30%以上の減収があった芸術家に対し、減収分の75%相当額を給付(最大月額2万3,000千クローネ)。
予算規模:総額1億クローネ
文化機関への緊急給付 他の支援プログラムの対象に当てはまらない文化機関の経済救済措置として緊急給付がされる予定。2020年5月7日から2021年4月1日に適用。
貸付制度、政府保証
企業向けの資金の貸付 大企業と中小企業向双方を対象に、デンマークの成長ファンドから拠出。売上高が30%以上減少した大企業および営業利益が30%以上減少した中小企業を対象に、新規貸付の70%を保証する。大企業向けの上限は合計357億クローネ、中小企業向けの上限は合計250億クローネとなっている。
総額607億クローネ(GDPの2.6%)
輸出業に関わる中小企業や大企業への貸付保証 輸出を行う中小企業を対象に、デンマーク輸出信用機構による貸し付けの80%を政府が保証。輸出を行う大企業には、同様に貸し付けの70%を保証。また同機構は、新規輸出関連活動に対して保険を提供する保険会社に90%相当の信用保証を付与する。
総額84億クローネ(GDPの0.4%)
スタートアップや高成長が期待される企業への一時貸付 デンマーク成長ファンドは2種類の一時貸し付けプログラムを計画中(制度に関する承認待ち)。成長ファンドの一時給付により投資家やVCなどの民間資金の呼び寄せにつながると期待されている。
総額34億クローネ(GDPの0.1%)
納税期限猶予
大企業・中小企業向け 企業は4~6月期の源泉所得税、労働市場貢献金の納税期限が4カ月間猶予される(総額で900億クローネの流動性支援に相当)。大企業・中小企業の付加価値税納税期限も猶予される(大企業・中小企業それぞれで、総額各350億クローネに及ぶとみられている)。消費税の納税猶予期間は大企業の場合1カ月、中規模企業は3~6カ月、小規模企業は6~12カ月。いずれの政策も企業の資金流動性を高める効果を狙う。
自営業向け 個人事業主の税金関係支払いの2~7カ月の延期(総額50億クローネの支援に相当)
その他
失業者対策 大規模な失業者の増加を避けるための措置として、新型コロナウイルス感染拡大に影響を受けた大量解雇者に対する職業斡旋や職業訓練対策を行う
予算規模:総額1,000万クローネ(GDPの0.0004%)
スカンジナビア航空救済措置 スウェーデン政府と合同で、スカンジナビア航空に20億クローネの融資保証を実施。各国の保証額は総額の50%ずつ。
予算規模:総額10億クローネ (GDPの0.4%)

出所:デンマーク外務省公表資料からジェトロ作成

厳しい経済・社会情勢が続く

感染者数や死亡者数の増加こそ見られていないものの、大規模な集会やイベントの中止は継続中で、ビジネス活動の低迷は今後も継続するとみられる。デンマーク国鉄(DSB)の鉄道利用者が3月半ばに80%減少(95%減少した路線もあった)と発表したことや、ノルディア銀行が見通しが立つまで全ての支店を閉鎖することを発表したことなどが、メディアで報じられている。一方、3月17日付の主要日刊紙「POLITIKEN」オンライン版によると、配送も請け負うオンラインスーパーマーケットネムリ(Nemlig.com)は、ネット注文の増大を受けて200人の追加採用を実施したという。オンラインショップの利用の増加がさまざまな分野で見られる一方で、フェイクショップの出現や配送が履行されないなど、詐欺事件も多く発生している。政府の政策で解雇は免れたとしても、自宅待機を余儀なくされ心理的に不安を抱える人も多い。保健庁によるカウンセリングの重要性の周知などもあって、大人から子供までオンラインカウンセリングなどの活用が広がっていると言われる。


公園前に設置された「他者との距離を置くよう」にと指示する注意喚起のポスター。
説明書きには、10人を超える集まりの禁止と警察の介入の可能性、
順守されなかった場合には1,500クローネの罰金の可能性を示唆している(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
安岡 美佳(やすおか みか)(在デンマーク)
京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学でコンピュータサイエンス博士取得。2006年よりジェトロ・コペンハーゲン事務所で調査業務に従事、現在コレスポンデント。

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