インドの名門大学、産学連携とスタートアップ育成を推進
IITマドラス・リサーチパークの運営責任者に聞く

2019年11月13日

インドは2000年以降、多国籍企業の研究開発拠点として世界中から注目されている。インド市場攻略のみならず、質の高い人材が安価で確保できることなどがその背景にある。インドは、ITなどの分野で世界中に優秀なエンジニアリング人材を輩出しており、その最高峰といえるインド工科大学(IIT)の人材は、名だたる多国籍企業が高額な報酬を提示し獲得に躍起になっている。IITマドラス校はその中でも名門とされ、ビッグデータや人工知能(AI)など、最先端分野の研究を多く手掛けている。このほど、同校の研究開発施設「IITマドラス・リサーチパーク(IITMRP)」のラジェンドラ・モータ最高執行責任者(COO)に、同施設の特徴や取り組みなどについて話を聞いた(10月25日)。

質問:
IITマドラス・リサーチパーク(IITMRP)が設立された背景は。
答え:
IITMRPはインド初の大学ベースのリサーチパークとして、2010年にIITマドラス校(IITM)のアショク・ジュンジュンワラ教授のリーダーシップの下で設立された。IITMRPは、会社法第8条に規定される非営利団体で、研究を行う企業がIITMRP内に拠点を設立するのを支援し、入居企業とIITMの学生および教授陣の交流を促すことを主な目的としている。

最先端分野の研究を行う企業が多数入居するIITマドラス・リサーチパーク(ジェトロ撮影)
質問:
IITMRPは具体的にどのような機能を担っているか。また、IITMRPに拠点を設けるメリットは。
答え:
IITMRPは産業界の研究開発センターであり、IITMの中核的研究拠点(CoE)としての機能を担っている。さらに、最先端研究分野のスタートアップのために、人的ネットワークなどに強みがあるエコシステムを提供している。IITMRPに入居する最大のメリットは、IITMの16学部との産学連携が可能になることだ。入居企業は、IITMの優秀な学生や教授陣とともに研究開発を行えるようになる。
質問:
どのような企業が入居しているか。
答え:
現在、75社の企業が入居して研究開発をしている。その分野はビッグデータ&アナリティクスやプロダクトエンジニアリング・デザイン、通信などを筆頭に多岐にわたっている(図参照)。IITM発のスタートアップに加え、仏ガラス・建材大手サンゴバン、米建機大手キャタピラー、ルノー日産などの多国籍企業、商用車大手アショク・レイランドなどの国内大手企業が研究開発拠点を設けている。日本企業では、板金加工機械大手アマダホールディングスと、ソフトウエアの開発・販売を手掛けるアルファTKGが入居している。
図:IITMRP入居企業の分野別構成比(入居企業75社)
IITMRPに入居する企業の分野はビッグデータ&アナリティクスやプロダクトエンジニアリング・デザイン、通信などを筆頭に多岐にわたっている

出所:IITMRP提供資料を基にジェトロ作成

質問:
産業界とどのような分野で協働しているか。また、日本企業との協働可能性は。
答え:
現在、ビッグデータ・アナリティクス、インダストリー4.0、ヘルスケアおよび農業などの分野で、多くの協働がみられる。日本には、インドにテクノロジーをもたらすことができる優良企業が多いと考える。IITMRPに入居することで、製品固有の研究、教授陣との協働、長期研究が可能になる。また、インドに進出した日系企業は、IITMRPのインキュベーターに寄付または資金を提供することによって、インド会社法に基づくCSR(企業の社会的責任)支出の義務を履行するとともに、自らのビジネス開発に新たなテクノロジーを活用することもできる。
質問:
IITMRPがスタートアップ育成に果たす役割とは。
答え:
IITMRPはスタートアップが求める各種インフラを提供しており、入居することで企業は、IITMRPの人的ネットワークを含むエコシステムを利用することが可能になる。われわれのエコシステムは、学生、教授陣、卒業生、インキュベーター、中核的研究拠点(CoE)、産業界および政府機関などで構成されており、それぞれが有機的に連携している。IITMRPには、バッテリーエンジニアリング、バイオテクノロジーなどの特定分野における支援を行うインキュベーターと、その他の最先端研究分野における支援を行うインキュベーターが存在している。IITMRPでは、これまで200社以上の企業が誕生している。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
ヴィラバブ・ヴィーラ
2011年、ジェトロ入構。現在に至る。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所 海外投資アドバイザー
奥野 幸彦(おくの ゆきひこ)
2017年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
坂根 良平(さかね りょうへい)
2010年、財務省入省。近畿財務局、財務省、証券取引等監視委員会事務局、金融庁を経て、2017年6月からジェトロ・チェンナイ事務所勤務。