オーストラリア政府、リサイクルごみの輸出禁止へ

2019年9月18日

世界的に広がっているプラスチックごみ削減の動きは、オーストラリアにおいてもみられる。オーストラリアでは、健康と環境への影響に対する懸念から、1970年代以降、ごみの焼却処理を減らしてきた。また、プラスチックなど一部の廃棄物は、埋め立て処理と海外での処理に依存してきた。そうしたなか、中国を皮切りにアジア諸国で次々とプラスチックごみの輸入禁止措置が取られ、人口が増え続ける都市部を中心に埋め立て地の制約も顕著となり、行き場をなくしたごみへの早急な対応が求められている。

リサイクルされるプラスチックはわずか12%

オーストラリアにおける2016/2017年度(2016年7月~2017年6月)のごみ排出量は6,678万トンであり、主な排出物は石材(1,714万トン)、有機物(1,417万トン)、灰(1,230万トン)、危険物(631万トン)、紙(559万トン)、金属(552万トン)、プラスチック(252万トン)、ガラス(108万トン)、布・皮革(78万トン)となっている(表1参照)。

表1:オーストラリアのごみの種類別排出量および処理方法(2016/17年度)(単位:千トン)
種類 排出量 リサイクル率(%)
排出量
合計
リサイクル
(全体)
リサイクル
(輸出)
埋め立て その他
廃棄
無害化 エネルギー化
石材 17,137 12,266 0 4,871 0 0 0 71.6
有機物 14,171 7,299 0 6,710 0 0 162 51.5
12,297 5,314 0 0 6,983 0 0 43.2
危険物 6,305 1,729 94 3,731 24 822 0 27.4
5,591 3,361 1,453 2,230 0 0 0 60.1
金属 5,520 4,982 2,141 538 0 0 0 90.3
プラスチック 2,516 306 215 2,182 0 0 28 12.2
ガラス 1,079 612 0 467 0 0 0 56.7
布・皮革 776 88 0 679 0 0 9 11.3
その他 1,391 1,072 290 319 0 0 0 77.1
66,784 37,030 4,194 21,726 7,006 822 200 55.4

注:端数処理上、合計は必ずしも一致しない。
出所:オーストラリア環境・エネルギー省

ごみの処理方法は、金属(90.3%)、石材(71.6%)、紙(60.1%)、有機物(51.5%)については、排出量の半分以上がリサイクルされている。一方、プラスチックごみについては、リサイクルされるのはわずか12.2%(31万トン)で、一部がエネルギー化されているものの、ほとんどが埋め立てられている。また、リサイクルは大半がオーストラリア国内で処理されているが、金属、紙、プラスチックなどの一部は海外で処理されており、プラスチックは特にその割合が高い。

アジア諸国はごみの輸入規制を強化

2016/2017年度におけるオーストラリアからのリサイクルごみの輸出量は約419万トンであり、輸出先は9割以上がアジアだった(表2参照)。輸出量は中国向けが126万トンと最も多く、全体の約3割を占めた。次いで、インドネシア(47万トン)、ベトナム(42万トン)、インド(37万トン)、マレーシア(29万トン)、タイ(23万トン)となった。一方、2017/2018年度におけるリサイクルごみの輸出先は中国がトップを占めたものの、前期比40.9%減の75万トンとなった。

表2:オーストラリアから輸出されるリサイクルごみの仕向け地(単位:千トン、%)(△はマイナス値)
国名 2016/17年度 2017/18年度 増減率(前年比)
輸出量
合計
うち
プラスチック
輸出量
合計
うち
プラスチック
輸出量
合計
うち
プラスチック
中国 1,262 125 746 27 △ 40.9 △ 78.3
インドネシア 465 13 727 30 56.1 142.3
ベトナム 415 13 603 14 45.2 6.0
インド 370 23 509 1 37.5 △ 96.6
マレーシア 288 15 375 50 29.9 232.5
タイ 231 12 308 27 33.4 125.4
その他 1,161 15 1,076 10 △ 7.4 △ 31.4
4,194 215 4,343 159 3.6 △ 26.1

注:中国は香港、マカオを含む。
出所:オーストラリア環境・エネルギー省

中国向けのリサイクルごみの輸出が減少したのは、中国政府が2017年7月に「外国ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」において、ごみの輸入規制を強化する方針を発表したことが影響している。同計画に基いて輸入制限・禁止リストが発表され、2017年12月から2019年12月にかけて、ごみの輸入が段階的に禁止・制限されている(2018年4月23日付ビジネス短信参照)。

その結果、これまでオーストラリアから中国へ輸出されていたリサイクルごみはその他のアジア諸国へ向かうこととなり、2017/2018年度のインドネシア、ベトナム、インド、マレーシア、タイへの輸出量はいずれも増加した。特に、プラスチックごみの輸出についてはその動向が顕著に表れており、マレーシア向けが前年度の3.3倍に増えたほか、インドネシア、タイ向けも2倍以上に増加した。

ただし、これらアジア諸国も、プラスチックごみなどの輸入規制強化に乗り出している。2018年以降、タイ、ベトナム、マレーシアが輸入禁止や輸入許可基準の厳格化を決定し、インドネシアでも輸入規制・禁止が検討されているほか、インドでは2019年8月31日から全面輸入禁止となった(2019年6月18日付地域・分析レポート参照)。

政府はリサイクルを加速するための政策を展開

中国政府によるごみ輸入規制強化によって、プラスチックごみだけでなく、金属や紙など、オーストラリアが輸出するリサイクルごみの多くが影響を受けたことから、政府はリサイクル政策の見直しを迫られることになった。連邦政府および州・準州政府は2018年4月、全ての包装材を2025年までにリサイクル可能、堆肥化可能、あるいは再利用可能にする目標を掲げ、国内リサイクル産業の発展やリサイクル製品の需要拡大に向けて協力することに合意した。

州・準州政府は、廃棄物管理やリサイクル政策の推進に向けて、具体的な戦略や数値目標を掲げ、地方自治体やリサイクル事業者への資金援助、イノベーションや市場開拓を支援するプログラムなどを展開している。

南東部に位置するニューサウスウェールズ(NSW)州では、NSW州環境保護庁(NSW EPA)が「Waste Less, Recycle More (WLRM)」と題して、2012年に国内最大規模となる約8億オーストラリア・ドル(約592億円、豪ドル、1豪ドル=約74円)のリサイクル支援ファンドを立ち上げ、ごみの排出量削減やリサイクル拡大に資する事業、インフラに投資している。例えば、州内の小規模事業者が排出するプラスチックや紙、食品ごみなどのリサイクル割合を最大化するため、個別に廃棄、リサイクルの状況を無料で診断し、アクションプランを策定するサービスなどを展開している。なお、本ファンドから、中国のごみ輸入規制強化に対する地方自治体や産業界への支援策として、4,700万豪ドルが支出されている。

NSW州の南に位置するビクトリア州においても、州政府が2017年にリサイクルに関するインフラ投資を促進するためのファンドを設立し、1,910万豪ドルの資金で60件のインフラプロジェクトを支援している。具体的には、農業で利用されたプラスチックごみから線路の枕木を作るプロジェクトや、食品廃棄物を堆肥化する装置をレストランや病院へ設置するプロジェクトなどがある。2019年6月にはオーストラリア最大かつ最先端のプラスチックリサイクル工場が、本ファンドの支援によって設立された。この工場では、未選別のプラスチックをリサイクルすることが可能で、ビクトリア州で回収されるプラスチックの47%を処理することができる。

また、多くの州で導入されているのが、デポジットシステムと使い捨てビニール袋の禁止政策だ。デポジットシステムとは、小売価格に容器代を上乗せして容器回収を促す制度で、1977年に南オーストラリア州で初めて導入された。その後、北部準州(2012年)、NSW州(2017年)、オーストラリア首都特別地域およびクイーンズランド州(2018年)で次々と導入され、2020年には西オーストラリア州でも導入が開始される予定だ。使い捨てビニール袋の禁止については、NSW州以外の全ての州が政策に取り入れており、大手小売事業者も段階的に取り組んでいるほか、プラスチックストローの利用を廃止する事業者も出始めている。

リサイクルごみの海外輸出禁止を決定

2019年8月に、連邦政府および州・準州政府からなるオーストラリア政府間評議会(COAG)は、プラスチック、紙、ガラス、タイヤなどのリサイクルごみの輸出禁止と、国内のリサイクル産業の高付加価値化へ取り組むことに合意した。また、産業界やその他利害関係者との協議を踏まえ、輸出禁止に向けたタイムテーブルとそれに対応する戦略を策定することになった。

これを受け、連邦政府は、リサイクル産業の成長に資するイノベーティブなプロジェクトに対して、新たに2,000万豪ドルを拠出することを発表した。カレン・アンドリュース産業・科学・技術相は、この資金によって、リサイクル産業が強化され、プラスチックごみを輸出する場合の3倍を超える雇用創出が見込まれ、リサイクル率の向上とともに、持続可能で豊かな未来の実現につながる、と述べている。

自然増や移民の受け入れによって、引き続き人口の増加が見込まれるオーストラリアにとって、リサイクルごみの輸出禁止は大きな決断といえるだろう。インフラ投資とともに、より効果的で効率的なリサイクル技術の導入も望まれており、日本を始め、各国の先進的なノウハウを取り入れて、資源循環型社会の形成が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。