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2020年米国大統領選挙の争点に気候変動対策が急浮上
米エネルギー業界は化石燃料産業の終結を目指す民主党候補者に警戒

2019年11月27日

2020年11月3日の米国大統領選挙まで1年を切ったが、争点の1つに気候変動問題が急浮上している。民主党の候補者は気候変動対策を重視しており、前回2016年の大統領選挙戦以上に、化石燃料(石油・ガス・石炭)終結の考えを一層明確にしている。一方、再選を目指すトランプ大統領は、パリ協定からの離脱、化石燃料の開発推進と規制緩和を次々と打ち出している。大統領選挙の行方は、米国企業のみならず、日本をはじめ外国企業にも大きな影響を与える可能性があり、エネルギー業界は民主党候補者の発言に警戒を強めている。

民主党、化石燃料業界への補助金廃止など主張

民主党候補者が共通して主張しているのは、(1)化石燃料業界への政府補助金の廃止、(2)規制の再強化、(3)キーストーン XLをはじめとする承認済みのパイプライン建設計画の取りやめ、(4)再生可能エネルギー社会構築のための巨額の財政支出だ。

まず、化石燃料業界への政府補助金の廃止を最も強く求めているのが、カマラ・ハリス候補(連邦上院議員、カリフォルニア州選出)、バーニー・サンダース候補(連邦上院議員、バーモント州選出)、ピート・ブッティジェッジ候補(インディアナ州サウスベンド市長)だ。

環境保護団体のオイル・チェンジ・インターナショナルPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2MB)によると、石油・ガス産業への政府の補助は、無形掘削費の税控除、後入先出法(Last In First Out:LIFO)会計、マスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)企業への税控除など、税制上の優遇措置が中心で、政府による直接補助金ではない(注)。しかも、この優遇措置はオバマ前政権時代も取られていたものである。

ハリス候補は、かつてカリフォルニア州司法長官時代に同州リッチモンドでのシェブロン製油所の拡張に反対していた。また、州内天然ガス価格が他州と比べて高止まりしている点に関して、大手企業による価格操作を疑い、エクソン・モービルをはじめとする企業に召喚状を送るなど、反化石燃料派の急先鋒だ。ちなみに、カリフォルニア州内の天然ガス価格高止まりの指摘に対しては、エネルギー企業は、同州では天然ガスの生産量が少なく州外から調達するため、価格が割高になると反論した。

フラッキング禁止、化石燃料の輸出禁止、連邦公有地での石油・天然ガス生産停止、原発の廃止

エリザベス・ウォレン候補(連邦上院議員、マサチューセッツ州選出)やサンダース候補は、石油・天然ガス生産におけるフラッキング(シェール・オイルやシェール・ガスを生産するための水圧破砕による坑井掘削)の禁止を主張している。フラッキングは、米国にシェール革命をもたらした画期的な採掘技術で、中東や中南米産のエネルギーに依存してきた米国がこれにより、エネルギーの独立と安全保障を実現できた。

環境規制が厳しいカリフォルニア州では、フラッキングの規制強化により州内の石油・天然ガスの生産が減少するに伴い、外国産の石油・天然ガスへの依存が上昇し、石油・天然ガスそのものの需要自体はほとんど変わっていない。

エクソン・モービル副社長のネイル・ハンセン氏は「フラッキングが禁止されても、石油・天然ガスの需要は変わらない。国内の供給減は外国からの輸入増につながり、米国の利益が他の産油国や産ガス国へと流出することになる」と懸念している。(OIL PRICE.COM 11月13日)

さらに、サンダース候補は石油、天然ガス、石炭の輸出を禁止すると主張している。米国では、日本企業が巨額の投資を行い、米国内で調達する天然ガスを液化して液化天然ガス(LNG)として、日本やアジア各国に輸出している。天然ガスの輸出が禁止されると、巨額の資金を投じて米国内で輸出加工基地を建設し、20年の長期契約でLNGを引き受けている日本企業は、天然ガスの重要な調達先を失うことになる。

2015年にオバマ政権で施行された連邦公有地や先住民居住区における石油・天然ガス採掘に対する規制は、その実施をめぐって法廷論争に一時発展していたが、トランプ政権では、内務省土地管理局(BLM)が2017年12月にこの規制を廃止している。高い失業率が続くアラスカ州では、州北東部に広がる国立北極圏野生生物保護区(ANWR)での石油・天然ガス開発がトランプ政権で解禁となった。その折に、同州選出のリサ・マコウスキー上院議員(共和党)は「ANWRでは推定で120億バレルの石油資源が存在する。環境評価などを経て実際の生産開始までさらに時間を要するが、これまで40年間続いてきた規制からアラスカ州はようやく解き放たれ、雇用拡大が見込める」と期待感を示した。

しかし、ウォレン候補やサンダース候補は、トランプ政権が進めている連邦公有地やオフショアでの石油・天然ガス掘削のためのリースを停止することを目指す。とりわけ、ウォレン候補は「大統領就任初日に大統領令で全ての連邦公有地、オフショアでの石油・天然ガスの採掘を禁止する」としている。連邦公有地やオフショアでの原油生産は日量300万バレルと米国の石油生産全体のほぼ4分の1に相当する。

サンダース候補やウォレン候補はさらに、温室効果ガス排出ゼロの原発にも反対している。サンダース候補はバーモント州選出だが、かつて同州議会は州内電力の4分の3を供給しているヤンキー原子力発電所の稼働に懸念を表明し、電力会社エンタジーは2013年に州内唯一の原発の廃止を決めた。代替の電力供給を州内の水力発電とカナダからの電力輸入に切り替えているが、州内最大の雇用を誇っていたIBMは必要な電力を確保できないとして、半導体事業をグローバルファクトリーズに売却し同州から撤退している。

承認済みパイプライン建設の取りやめ

民主党の主要な候補者は、トランプ政権で承認済みの石油パイプラインであるキーストーンXLやダコタ・アクセスのライン3、ライン4などの建設許可を取り消すと表明している。このうち、キーストーン XLパイプライン計画はカナダ・アルバータ州の重質油を米国ネブラスカ州に送油する基幹パイプラインで、ネブラスカ州で既存のパイプラインにつなぐ大規模プロジェクトだ。完成すれば、アルバータ州で生産される重質油を、米国の石油精製能力の5割以上が集中するメキシコ湾岸地域の製油所群まで輸送する能力が大幅に増強される。しかし、パイプライン建設を取りやめると、カナダ産の重質油は米国市場へのアクセスを絶たれ、カナダ経済に深刻な影響をもたらす。

米国石油協会PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3MB)によると、石油・天然ガス業界で直接・間接に雇用される労働者は1,030万人で米国の雇用全体の5.6%、付加価値額では1兆3.179億ドルと米国全体の7.6%を占める。雇用者数や付加価値額を州別にみると、テキサス、オクラホマ、ルイジアナ、コロラド、カンザス州が上位5つを占めているが、共和党と民主党の支持が拮抗(きっこう)する「スイングステート」のコロラド州以外はいずれも、前回の大統領選挙でトランプ氏が勝利した共和党優位の「レッドステート」だ。民主党候補者の反化石燃料キャンペーンは、「レッドステート」の産業や雇用に影響を及ぼしていく。

気候変動対策へ巨額の財政支出

民主党候補が提案する気候変動対策に必要な連邦予算は、ジョー・バイデン候補(前副大統領)の総額1兆7,000億ドル(10年間)からサンダース候補の16兆3,000億ドル(15年間)と大きな隔たりがある。しかし、その財源については、キャピタルゲインや限界所得税率の引き上げ、年収100万ドル以上の富裕層への課税など、社会主義的な手段に頼ろうとしている。

他方、100%クリーンエネルギー社会への移行時期については、バイデン、サンダース両候補が2050年、ハリス候補が2045年を目指している。先進国の中でクリーンエネルギー社会への移行に向けて先進的な取り組みを進めているデンマークでは、2030年までにエネルギー消費の半分を、さらに2050年には100%を再生可能エネルギーで賄う計画だ。デンマークでこれが可能となるのは、米国と比べて(1)国土が狭小なため系統インフラ構築にさほどの投資が必要とされないこと、(2)人口が少なく輸送部門のエネルギー消費が少ないことに加えて、(3)1992年からエネルギーの最終消費に対して炭素税が導入され、脱炭素社会移行へのコストを国民があまねく負担しているためだ。ちなみに、デンマークの電力料金は他の先進国と比べて、産業用、家庭用ともに群を抜いて割高になっている。

ポンペオ国務長官はパリ協定からの離脱を国連に正式通告した11月4日に声明で、2005~2017年に米国が19%を超える経済成長を遂げる一方で、温室効果ガスを13%削減したと述べるとともに、「米国は化石燃料や原子力エネルギー、再生可能エネルギーを含む全てのエネルギー源と技術をクリーンかつ効率的に使用する。イノベーションと開かれた市場がより大きな繁栄、より少ない温室効果ガス、より安全なエネルギー源につながる」と強調した。

英紙「ガーディアン」(10月25日付)は「民主党候補者の提案は厳密な経済分析よりも、感情やイデオロギーに基づいている」と指摘している。自国資源の賦存状況に基づくエネルギーミックスと市場経済原理に根差した冷静な政策議論が政権奪還を目指す民主党候補者に求められているといえよう。


注:
無形採掘費は、労務費、燃料費、設備リース費など。後入先出法は、棚卸し資産の取得原価を払い出し原価と期末原価に配分する会計方法。MLPは共同投資事業の形態の1つLP(リミテッド・パートナーシップ)のうち、総所得の90%以上を連邦歳入法で定めたエネルギー・天然資源関連の事業から得ている事業体を指し、法人税が免除される。

変更履歴 (2019年12月10日)
第10段落
(誤)リサ・マコウスキー下院議員(共和党)
(正)リサ・マコウスキー上院議員(共和党)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 アドバイザー
木村 誠(きむら まこと)
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所産業協力部長、ジェトロ・ロンドン事務所次長(調査・広報担当)、ジェトロ・ヒューストン事務所長などを経て2013年4月より現職。

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