持続可能な原産材料の利用などに関心高まる(ドイツ)
ドイツにおけるスイーツ市場のトレンド

2019年4月18日

第49回ISM国際菓子専門見本市が2019年1月27日~30日に、ドイツ西部ケルン市で開催され、日本航空およびJALUX(ジャルックス)が主催したジャパンパビリオンには、日本各地の和菓子、洋菓子メーカー23社が出展した。同見本市でも注目されたドイツのスイーツ業界のトレンドは、健康志向そして材料の原産地の持続可能性に関する関心の高まりだ。

世界最大のスイーツ見本市の1つ

第49回ISM国際菓子専門見本市(以下、ISM)がドイツ西部の大都市ケルンの見本市会場において開催された。世界76の国・地域から1,652社が出展し、うち約9割はドイツ国外からの出展で、1,441社を占めた。 ISMは業界関係者しか入場できないBtoBの見本市だが、2019年は3万8,000人以上が来場した。来場者の質も高く、ドイツ流通大手のメトロ、小売り大手のエデカ(Edeka)、レーベ(REWE)、大手百貨店のカウフホフ(Kaufhof)のほか、フランスのカルフール、英国のテスコ、米国のウォルマートなど世界各地の主要企業が来場した。

ISM出展者から読み取れるトレンドテーマの傾向をみると、ベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(絶対菜食主義者)、そしてフェアトレードが前回に比べて大きく増えていることが分かる(表参照)。

表:トレンドテーマ別ISM出展者 (単位:出展者数、複数回答)(△はマイナス値)
トレンドテーマ 2018年 2019年 増減率(%)
ベジタリアン 341 451 32.3
ビーガン 294 383 30.3
フェアトレード 201 254 26.4
機能食品 187 228 21.9
砂糖不使用 363 424 16.8
ハラル対応 359 408 13.6
有機 362 407 12.4
コーシャ対応 386 425 10.1
ノンアレルギー 205 225 9.8
全出展者数 1,655 1,652 △ 0.2

注:出展者が出展物に応じたトレンドテーマを選択する。
出所:ISM国際菓子見本市ウェブサイトより、ジェトロ作成

日本からは今回、日本航空と商社のJALUXが主催して23社が共同出展した。ジャパンパビリオンにはドイツを中心とする欧州各国から来場者が訪れた。例えば黄粉(きなこ)などは欧州の消費者になじみのない素材であるため、新規性に着目して関心を持ってくれる来場者もいる一方、何からできているか想像が付かず、説明に苦慮するとの声も出展者からは聞かれた。ただ、和菓子は原材料が植物由来のものが多く、ビーガンなどドイツおよび欧州の食のトレンドにはマッチしている。また、ドイツ市場では価格だけではなく、品質も高く評価されることを期待する出展者の声も上がった。


ジャパンパビリオンの様子(ジェトロ撮影)

ドイツ製菓業協会(BDSI)によると、全食品産業の売上高に占める製菓業の割合は7.8%に及び、アルコール飲料(7.2%)よりも大きい(図1参照)。2018年におけるドイツ国民1人当たりのスイーツ購入にかける支出額は年間97.05ユーロ(約1万2,616円、1ユーロ=130円換算)。このうち、42.03ユーロをチョコレート製品が占める。クッキーなどの焼き菓子が20.13ユーロ、砂糖菓子が14.37ユーロ、スナック菓子が11.88ユーロ、アイスクリームが8.02ユーロと続く。前年比でみると、スナック菓子への支出額が4.5%増と増えた一方、砂糖菓子は4.5%減、焼き菓子は3.0%減となっている。最大支出額のチョコレート菓子は0.5%減でほぼ横ばいだ。

図1:ドイツの食品産業売上高に占める品目別構成比(2017年、%)
出所:BDSI

出所:BDSI

また、同協会が発表したアンケート調査結果によると、ドイツ国民は年間9キログラムほどのチョコレート菓子を食す(2018年値)。好きな味(複数回答)では、ミルクチョコレートが47%で1位、ナッツチョコレート(29.6%)、ビター(28.5%)、ホワイト(28.1%)、ヘーゼルナッツ(25.5%)、マジパンチョコレート(24.2%)と続く。消費が伸びているスナック菓子で、消費者の好みをみると、その6割以上がポテトチップス(63.6%)を好み、ピーナツ(33.1%)、塩が付いたプレッツェル(31.3%)が続く。これら人気商品のデータをみても、以前から存在する典型的ともいえる商品に対する人気が高いことが分かる。実際の店舗でも、日本と比べて商品の多様性に乏しい。

ドイツ政府は糖分などの摂取削減戦略を策定

一方、ドイツ政府主導の新しい動きもみられる。ISM開催に先立ち、ドイツ食糧・農業省は2018年12月19日、「糖分、油脂分、塩分の抑制・イノベーションのための国家戦略」を国として初めて策定し、完成食料品に含まれる糖分、油脂分、塩分の含有量を抑制し、肥満、糖尿病、高血圧などの病気の原因を減らそうとする取り組みを始めた。同省によれば、ドイツでは、成人女性の47%、成人男性の62%が体重過多であり、子供や若者の体重過多も15%に及ぶ。政府は、砂糖や乳業などさまざまな業界団体との合意の下、2025年までに子供が朝食時に食べるシリアルに含まれる糖分量を20%、ヨーグルトやソフトドリンクなどの糖分量を10~15%削減することなどを目標に、産業界が任意で取り組み、その状況をモニタリングしていくことを本戦略の中で定めた。

しかしながら、本戦略には菓子類は対象になっておらず、BDSIは署名していない。また、この戦略で掲げた目標はあくまで任意であり拘束力を伴わない。こうしたことから、ドイツ肥満症の団体は今回の戦略の影響は限定的とみており、ドイツ市場にどのような影響が出るかは今後、注視する必要があるだろう。

原材料の調達先農家の持続可能性に関心高まる

表1に示したISMの出展者動向をみてもフェアトレードへの関心の高まりが分かり、ドイツにおいてもスイーツに関わる持続可能性への関心が高まっている。生産量でみると、ドイツは英国やフランスに比べても菓子類に占めるチョコレート菓子のシェアが大きく(図2参照)、また、上述のとおり国内消費量も大きい。チョコレートの原材料のカカオは主にアフリカから輸入されているが、調達するカカオ農家の児童労働防止など持続可能な農業づくりを支援し、一定の基準を満たす農家を持続可能なカカオ農業を営む生産者として認証し、そうした生産者からの調達を図ろうとする動きを、BDSIは加盟各社と共に進めている。BDSI加盟企業の認証を受けた生産者からの調達割合は2011年時点ではわずか3%であった。こうした生産者からの調達割合を引き上げるため、BDSIは2012年に加盟各社や関係機関とイニシアチブを立ち上げ、2020年に割合を60%、2025年には75%にまで引き上げることを目標にしている。店頭に並ぶチョコレート菓子のパッケージにも、例えばオランダ・アムステルダムに本部を置くレインフォース・アライアンスが設けた持続可能なカカオ農家などからの商品であることを認証するUTZマークを目立つ形で付けているケースもあり(注)、消費者がこうしたラベル表示に着目していることを裏付けている。スイーツをドイツ市場に販売しようとする日本のメーカーにとっては、義務化されているラベル表示だけでなく、こうした任意のラベル表示の動きにも目を配る必要がある。

図2:スイーツの商品分類別生産割合(2016年、%)
ドイツは、チョコレート菓子が45%、焼き菓子が31%、砂糖菓子が24%を占めます。 英国は、チョコレート菓子が23%、焼き菓子が54%、砂糖菓子が23%を占めます。 フランスは、チョコレート菓子が27%、焼き菓子が52%、砂糖菓子が21%を占めます。

出所:欧州チョコレート、ビスケット、製菓組合(CAOBI)


注:
UTZマークの認証についての詳細は、同機関が発行しているプロトコルPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.9MB) を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 次長
木場 亮(こば りょう)
1999年、ジェトロ入講。2005年~2010年ジェトロ・ウィーン事務所員、2017年7月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
矢舘 実典(やだて みつのり)
2013年福島県庁入庁。2017年4月よりジェトロへ出向。企画部地方創生推進課を経て2017年10月よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所にてドイツへの食品輸出支援等に従事。