中国の対米輸入、今後の貿易交渉に注目
データで見る米中貿易摩擦

2019年7月9日

米中の貿易摩擦問題は、6月29日に大阪で開催された米中首脳会談で、米国による追加関税賦課(第4弾、約3,000億ドル相当)の当面の延期が表明された。しかし、双方による第1~第3弾までの追加関税措置は現在も続いたままの状態で、米国側の第4弾の延期期限についても、具体的なスケジュールは示されていない。

中国の対米貿易においては、輸出入ともに前年比で大きく落ち込んでいる状況が続く。中国側の対米輸入の2019年第1四半期(1~3月)の状況について解説する。

米国からの輸入、約3割減

図は、中国による第1~第3弾の追加関税引き上げ措置を時系列で示したものだ。関税率の引き上げは第1弾が2018年7月6日、第2弾が8月23日、第3弾が9月24日と、同年下半期から徐々に開始された。7月現在、第1~第3弾の合計で6,000以上の品目(HSコードの8桁ベース)に追加関税が課せられた状態となっている。第1弾については、25%の追加関税賦課から既に1年以上が経過している。

図:中国による第1~第3弾の追加関税引き上げ措置(2018年~2019年)
第1弾は2018年7月6日から開始され、現在に至るまで、545品目に対し25%の追加関税が課せられています。 第2弾は2018年8月23日から開始され、現在に至るまで、333品目に対し25%の追加関税が課せられています。 第3弾は2018年9月24日から開始され、現在に至るまで、2,493品目(リスト1)に対しては25%、1,078品目(リスト2)に対しては20%、974品目(リスト3)に対しては10%、595品目(リスト4)に対しては5%の追加関税がそれぞれ課せられています。 第3弾については、2019年5月31日までは、2,493品目(リスト1)と1,078品目(リスト2)は10%、974品目(リスト3)と595品目(リスト4)は5%でした。

出所:国務院関税税則委員会資料を基にジェトロ作成

表1によると、中国の2019年第1四半期の輸入総額は、前年同期比マイナス1.1%だった。上位4カ国・地域についてみると、韓国(13.1%減)、日本(5.6%減)、台湾(5.4%減)、米国(29.3%減)と、米国の減少幅が大きい。表中には示さないが、上位20カ国・地域でみても、米国の減少幅は最大となっている。米中貿易摩擦による追加関税の応酬が大きく影響している。 2019年第1四半期の輸入は、上位4カ国・地域平均で前年同期比13.3%減と大きく減少したものの、全体では1.1%の減少にとどまったのは、上位20カ国・地域の中で、スイス(2.6倍)、カナダ(43.8%増)、南アフリカ共和国(31.9%増)などの輸入が大きく増加したことによる。

表1:中国の主要国・地域別輸入(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国名 2018年1Q 2019年1Q
金額 構成比 金額 構成比 伸び率
韓国 47,141 9.8 40,967 8.6 △ 13.1
日本 41,240 8.6 38,921 8.2 △ 5.6
台湾 40,142 8.4 37,976 8.0 △ 5.4
米国 40,296 8.4 28,505 6.0 △ 29.3
輸入総計 480,574 100.0 475,514 100.0 △ 1.1

出所:グル―バルトレードアトラスからジェトロ作成

第3弾が決め手、2018年第4四半期を境に輸入が大幅減

米国からの中国の輸入増減を四半期ごとに見ると、2018年第3四半期(7~9月)までは前年同期比で増加基調となっていた(表2参照)。特に、2018年第2四半期(4~6月)は17.3%増と増加幅が大きかったが、これは第1弾(2018年7月6日)の追加関税措置前の駆け込み需要による影響だったと思われる。一方で、2018年第4四半期(10~12月)は21.5%減、2019年第1四半期は29.3%減とマイナス幅が一気に拡大した。中国による追加関税引き上げ措置は、第1弾545品目、第2弾333品目だったものが、2018年9月24日に実施された第3弾は5,000品目以上にわたり、米国からの大幅な輸入減を招いたといえよう。

また、表中には示さないが、4月は前年同月比25.8%減、5月は26.6%減と、2019年第1四半期の29.3%減からは減少幅はやや縮小したものの、依然として米国からの輸入は前年比で大きく減少している。

表2:中国の四半期ごとの米国からの輸入増減(単位:%)(△はマイナス値)
四半期 前年同期比
2018年第1四半期(1~3月) 11.6
2018年第2四半期(4~6月) 17.3
2018年第3四半期(7~9月) 6.2
2018年第4四半期(10~12月) △ 21.5
2019年第1四半期(1~3月) △ 29.3

出所:グローバル・トレード・アトラスからジェトロ作成

表3は中国の米国からの輸入(2019年第1四半期)について、上位10品目(HSコード6桁ベース)を示したものだ。第1~第3弾の追加関税品目の中では、大豆(HSコード8桁ベースで2品目該当)が80.0%減と、減少幅が最も大きい。

1500~3000ccの乗用車(HSコード:870323)も43.0%減となったが、当該品目は2018年12月31日まで第1弾と第2弾で、HSコード8桁ベースで12品目が追加関税の対象品目となっていた。1月からはこれら12品目は適用除外品となったが、4月は前年同月比51.7%減、5月31.0%減と、1月以降の適用除外による輸入増には今のところつながっていない。

一方、電気自動車(870380)は、同じく1月からHSコード8桁ベースで1品目が追加関税の適用除外品目となったが、2019年第1四半期は前年同期比2.1倍と大幅に増加した。第1弾の関税賦課措置により米国からの輸入は大幅に減少していたが、1月からの適用除外措置を受け、2~3月にかけて米国からの輸入が急増した。米国にとって中国は重要な自動車販売市場であることから、乗用車(部品含む)に対する適用除外措置の継続は、中国にとっても米国との重要な交渉材料となっている可能性もある。

なお、追加関税措置の対象外である集積回路(854231)、ターボジェット(841112)、免疫産品(300215)などは前年同期比で増加している。

表3:中国の米国からの輸入上位10品目(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、—は値なし)
HSコード 品目名 2018年
第1Q
2019年第1Q 追加関税措置の8桁での品目数
金額 構成比 伸び率
854231 集積回路(プロセッサーおよびコントローラー) 2,402 2,848 10.0 18.6 非該当
880240 飛行機その他の航空機(15トン以上) 2,717 2,527 8.9 △ 7.0 非該当
870323 乗用車(1500cc~3000cc) 2,200 1,253 4.4 △ 43.0 非該当
(注1)
120190 大豆 5,169 1,034 3.6 △ 80.0 2品目
(第1弾)
870380 電気自動車 392 832 2.9 112.4 非該当
(注2)
841112 ターボジェット、ターボプロペラその他のガスタービン(推力25キロニュートン以上) 378 530 1.9 40.4 非該当
300215 免疫産品(投与量、小売用の形状、包装したもの) 216 445 1.6 106.3 非該当
848620 半導体デバイスまたは集積回路製造用の機器 661 400 1.4 △ 39.5 非該当
841191 ターボジェットまたはターボプロペラ部品 379 399 1.4 5.3 非該当
854239 集積回路(その他のもの) 176 300 1.1 70.1 非該当
輸入合計 40,296 28,505 100.0 △ 29.3

注1:第1弾および第2弾で12品目(HSコード8桁)が該当したが、2019年1月以降、適用除外品目となった。
注2:第1弾で1品目(HSコード8桁)が該当したが、2019年1月以降、適用除外品目となった。
出所:グローバル・トレード・アトラスからジェトロ作成

中国による適用除外手続き

中国は、5月29日に米国による追加関税の適用除外措置の手続きの詳細や申請対象品目リストを発表した。第1~第2弾のうち、734品目に対する申請が6月3日に開始され、7月5日に締め切られた。大豆などの農水産品、液化プロパンガスなどのエネルギー、オートバイなどが含まれている。既述の自動車関連製品は中国政府が自ら適用除外品目に指定したが、今回は、企業や業界団体が自ら申請するものだ。申請者は、申請品目に関する過去3年間(2017~2019年)の輸入額の実績や、追加関税が生産・経営に与える影響に加え、除外すべき理由なども当局に示す必要がある。今後、具体的な審査が進んでいくものと思われるが、適用除外品目が拡大していけば、中国の対米輸入の減少に歯止めがかかる可能性もある。

今後の行方に注目

米国が第4弾の追加関税措置を当面延期したことで、中国によるさらなる関税報復措置はいったん休止状態となった。ただし、既存の第1~第3弾の追加関税は引き続き課せられたままとなっている。さらに、5月に米国が華為技術(ファーウェイ)や関連企業68社を「エンティティー・リスト」に追加し、中国も同月に「信頼できないエンティティー・リスト(不可靠実体清単)」を策定すると発表するなど、追加関税以外の応酬リスクも存在する。

米中両国による貿易摩擦は、世界経済に与える影響が甚大だが、その行方は再開予定の米中による貿易交渉次第となろう。日本企業によるサプライチェーン網の再構築の流れが徐々に広がる中、今後の動きを注視する必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
水谷 俊博(みずたに としひろ)
2000年、ブラザー工業入社。2006年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(2011~2014年)。ジェトロ海外調査部アジア大洋州課(2014~2018年)を経て現職。