欧州で自動運転の研究、コスト削減に取り組むジェイテクト(ルーマニア)
日EU・EPAをコスト削減とサプライチェーンの選択肢拡大に生かす

2019年9月25日

2006年に光洋精工と豊田工機が合併し誕生したジェイテクトは、名古屋と大阪に本社を置く、自動車や一般産業(鉄鋼、風力発電、農業・建設機械、鉄道、航空機・宇宙など)向けの部品および工作機械の製造メーカーだ。主力の自動車部品分野では、自動車のステアリングシステム(注1)や駆動部品、軸受(ベアリング)(注2)などの製造・販売を行う。

ジェイテクト・ヨーロッパのヤニック・ラクール氏(人事・経営企画・広報担当重役)、ジェイテクト・ヨーロッパ・ベアリングの田中幸彦氏(シニア・エグゼクティブ・コーディネーター)、光洋ルーマニアの友近康人社長らに、同社の欧州における取り組み、同社の日EU経済連携協定(EPA)の活用について聞いた(2019年2月25日、3月1日)。

同社の2018年の地域別売上高をみると、欧州市場は日本、北米に次いで約15%を占める。トヨタ、日産、ルノー、プジョー、BMW、ダイムラーなど自動車の完成車メーカーが多数、生産拠点を置く欧州では、自動車関連がメインだ。主力のステアリング・駆動事業とベアリング事業などを含め、欧州全体の従業員数は約8,400人に及ぶ。

R&Dセンターを開設し自動運転の研究に注力

同社の欧州での売り上げの4分の3をステアリング事業が占める。世界シェアナンバーワンを誇る電動パワーステアリングが、欧州市場でも主力製品だ。工場を英国、フランス、ベルギー、チェコに持つほか、ステアリング事業の地域統括拠点を置くフランスには研究開発(R&D)センターやテストコースを所有している。欧州だけでなく、アジアや米国の多くの完成車メーカーが拠点を置く欧州市場は、自動車関連サプライヤーの競争も激しい。ジェイテクト・ヨーロッパのラクール 氏によると、このような競争市場の中で、同社が取り組む課題は「自動運転・コネクテッドカー(注3)」と「コスト削減」だという。

ジェイテクト・ヨーロッパは2018年7月に、デジタルソリューションプロバイダーのアシステム・テクノロジーとの戦略的パートナーシップを強化し、自動運転研究などを行うR&Dセンターをフランスのリヨン近郊に設置した。複数年度のパートナーシップ契約期間中、商品開発、技術デザイン、ソフトウエア開発などが行われている。また、同社は2016年、フランスにステアリングシステムを評価・解析するテストコース「IRYジェイテクト・ヨーロピアン・プルービング・グラウンド」を開設している。欧州市場におけるハイレベルな顧客ニーズに応えるため、自社製品を評価・解析できる同施設により、安全性の維持と技術力の強化に取り組んでいる。ラクール 氏は、R&Dセンターやテストコースの開設の背景について、「自動運転やコネクテッドカーには精密な技術が要求される。加えて、自動車操縦と走行の安定性に直結するステアリングには、高い安全性の維持が不可欠だ」と説明した。


自動車部品のステアリング(ジェイテクト提供)

製造ラインの自動化や日EU・EPAの活用によるコスト削減の取り組み

コスト削減は、より条件の良い調達のために、あらゆる調達先の可能性を探している。また、工場では自動化を進めており、ロボットやコボット(collaborative robot)は既に100台ほど導入されているほか、チェコとフランスの工場では、倉庫から製造ラインへ自動で部品を運ぶ装置を試験導入しているとのことだ。

同社では、多くの部品や材料をEU内から現地調達しているが、現地調達できない特定の部品は日本から輸入しているため、同社にとっては2019年2月に発効した日EU・EPAの活用は重要であるという。ステアリング工場のうち、日本からの直接輸入があるフランスやチェコの拠点では、EPA活用に向けた対応を進めており、チェコの工場では原産地証明が比較的容易な部品を輸入するために、すでに特恵関税の適用を始めたという。EPA活用のメリットについて、同社は年間約1億ユーロの部品などを日本から輸入しているが、特恵関税の適用によって年間200万~300万ユーロのコストを削減できると見込んでいる。

ジェイテクトの欧州市場を担うもう1つの事業は、ベアリング事業である。ベアリングとは回転する軸を支える部品のことで、車輪や歯車などの摩擦を減らし回転を滑らかにする必須部品だ。ジェイテクト・ヨーロッパ・ベアリングの田中氏は「欧州の自動車市場はEUによる燃費規制がとりわけ厳しいこともあり、燃費を良くするためにコンパクトで長寿命な製品が求められる」と説明する。単純に軽量化を図ると、荷重に対して負荷の許容量が不足して壊れやすくなることから、回転抵抗による回転ロスを減らし寿命を落とさない工夫を施した同社製品は、欧州市場でも好評だという。欧州ではエスケーエフ(スウェーデン)やシェフラー(ドイツ)など、西欧の大手ベアリングメーカーが存在感を持ち、極めて競争の激しい市場ではあるが、ジェイテクトは、燃費向上や二酸化炭素(CO2)排出量削減に大きく貢献する世界最高品質の「円すいころ軸受」(注4)などの主力製品を筆頭に、高い訴求力を発揮している。

EPAの活用を追い風にサプライチェーンの選択肢を拡大

ジェイテクトの欧州ベアリング事業は、地域統括拠点がオランダ・アムステルダム近郊にあり、そのほか英国、フランス、ドイツ、チェコ、ルーマニアに工場を持つ。基本方針としては、EU内から現地調達を進める一方、コア技術を織り込んだ部品などの特殊な設備がないと製造できない部材は、これまでも日本から輸入してきた。オランダの統括拠点と5カ国にある工場のうち、ベアリングの完成品を仕入れるオランダ拠点では仕入れ製品の半分程度を、また英国とルーマニアの工場では一部の部品を、日本から直接輸入している。田中氏はEPAの利用について、「従来、日本から部材を輸入して欧州で生産することは価格競争力を弱めることだと思っていたが、特恵関税が適用できれば、関税面におけるデメリットはなくなる。EPAを追い風としてサプライチェーンの選択肢の幅が広がった」と説明する。これまで、ベアリングの日本からEUへの輸入には、製品によって7.7~8%の関税がかかっていた。テーパーと呼ばれる「円すいころ軸受」のころは、8%の関税が即時撤廃されたが、主な製品の多くはEPA発効後6年目もしくは8年目までに段階的に撤廃される。EPA発効後1年目のベアリングにかかる税率引き下げは1~1.3%とわずかではあるが、今後、徐々に減免効果が表れてくるとした。

一方、日本から完成品を仕入れるオランダでは、1つの完成品にさまざまな部材が利用されているため、それぞれの部材の型番が品目別原産地規則を満たすことを証明する必要があり、負担となっている。品目別原産地規則を満たすには、関税分類変更基準や付加価値基準などのうち、事業者が各産品で証明しやすい基準を選択することができるが、「取り扱い品目が多く、約1万200種類の型番の全製造工程を調査し、それらが基準を満たすかどうかを一つ一つ確認していく作業は時間を要する。EPAの利用に向けて、日本側と連携しながら対応を進めている」と、日本からの仕入れを担当する掛水謙治氏は説明する。また、原産地証明以外にも、同じ部品であっても日本側税関とEU側税関で採用しているHSコードが異なる場合の対応も求められるという。HSコードでは、輸入国側税関の判断が優先されるため、日本からオランダへの輸入の場合、オランダ税関の担当者に同一製品であることを説明するため、追加で製品や使用箇所の写真の提示を求められることもあるそうだ。


自動車のベアリングが使われている箇所。
1. 動力装置、2.操縦装置、3.動力伝達装置、4.走行装置(ジェイテクト提供)

ルーマニア工場では「円すいころ軸受」などを製造しており、必要な部品の約15%は日本から輸入しているという。同工場では、2019年2月のEPA発効後ほどなくして、特恵関税の適用に成功した。光洋ルーマニアの友近社長は「EPAが発効してすぐに日本側で作成した原産地に関する申告文をもとに、ルーマニア側の地元税関に申請した。しかし、初めは税関担当者の理解が不足していて、話がかみ合わなかった。地元税関とは普段から良好な関係構築に努めており、税関側の指示に従って、インボイスの中に原産地を証明する記載を含めて提出したところ、適用が認められた」と話した。


注1:
自動車などの進行方向を変えるためのかじ取り装置のこと。
注2:
回転する軸を支える部品のことで、自動車だけでなく、鉄鋼、鉄道、風力発電など、回転する部分を含むあらゆる機械装置に使われている。
注3:
ICT端末としての機能を有する自動車のこと。
注4:
内輪・外輪の軌道面と、ころの円すい面の頂点が、軸受の中心線上の一点で交わるように設計されたベアリング。
執筆者紹介
ジェトロ栃木
山本 千菜美(やまもと ちなみ)
2015年、ジェトロ入構。知的財産課(~2018年8月)、ジェトロ・ブカレスト事務所(~2019年8月)を経て、2019年9月より現職。