米国から見た米中貿易の動向(2019年1~4月)

2019年6月28日

米国の1974年通商法301条に基づく対中追加関税措置の発動や、中国による報復関税により、GDP世界第1位の米国と第2位の中国間の貿易額は減少が続いている。米国国際貿易委員会(ITC)が発表した2019年4月までの貿易統計に基づき、米国の2019年1~4月の国別貿易額や対中貿易の動向を分析する。

2019年1~4月の米中貿易額は前年同期比14.2%減少

米国国際貿易委員会(ITC)が発表した2019年1~4月の貿易統計(通関ベース)によると、対中貿易額は1,747億ドルとなり、2018年1~4月の2,036億ドルより14.2%減少した(表1参照)。米国の対世界貿易総額に占める中国の割合は12.9%で、前年同期(15.1%)から2.2ポイント減少した。一方、メキシコの割合は前年同期より0.4ポイント増の15.0%、ベトナムは0.5ポイント増の1.8%と増加した。米中双方による制裁報復合戦により、両国間の貿易額が減少している一方、メキシコやベトナム、欧州各国との貿易額は増加しており、対世界貿易総額も前年同期比0.5%増とプラスを維持している。

貿易額の内訳をみると、米国の2019年1~4月の輸出額は5,433億ドルで、前年同期比で0.6%増加した。対中輸出額は339億ドルで19.9%減少し、香港向けも宝飾品(HTS7113項)の減少などにより21.2%減の105億ドルにとどまった。一方、インド向けは石油および歴青油(HTS2709項)の増加などにより22.0%増、フランス向けは民間航空機、エンジン、部品(HTS8800項)の増加などにより16.8%増、ベルギー向けは乗用車(HTS8703項)の増加などにより15.4%増と、それぞれ2桁の伸びを示した。

表1:米国の主要国・地域との貿易額(1~4月)(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
順位 国・地域 輸出 輸入 総額
2018年 2019年 前年同期比 2018年 2019年 前年同期比 2018年 2019年 構成比 前年同期比 寄与度
1 メキシコ 86,367 86,169 △ 0.2 110,271 117,011 6.1 196,638 203,179 15.0 3.3 0.49
2 カナダ 98,972 97,311 △ 1.7 103,472 101,100 △ 2.3 202,444 198,411 14.7 △ 2.0 △ 0.30
3 中国 42,291 33,891 △ 19.9 161,342 140,773 △ 12.7 203,634 174,664 12.9 △ 14.2 △ 2.15
4 日本 23,280 23,984 3.0 47,106 48,967 4.0 70,386 72,951 5.4 3.6 0.19
5 ドイツ 19,489 20,468 5.0 41,390 41,704 0.8 60,879 62,173 4.6 2.1 0.10
6 韓国 17,360 18,381 5.9 22,709 26,578 17.0 40,069 44,959 3.3 12.2 0.36
7 英国 22,839 23,391 2.4 19,596 20,856 6.4 42,434 44,247 3.3 4.3 0.13
8 フランス 11,210 13,092 16.8 16,908 19,779 17.0 28,119 32,871 2.4 16.9 0.35
9 インド 9,848 12,013 22.0 17,559 19,708 12.2 27,406 31,721 2.3 15.7 0.32
10 台湾 8,819 9,828 11.4 13,972 17,054 22.1 22,791 26,882 2.0 17.9 0.30
11 オランダ 15,954 17,645 10.6 7,211 8,588 19.1 23,165 26,233 1.9 13.2 0.23
12 イタリア 7,503 7,640 1.8 17,323 18,515 6.9 24,826 26,156 1.9 5.4 0.10
13 ベトナム 2,872 3,363 17.1 14,958 20,695 38.4 17,830 24,058 1.8 34.9 0.46
14 ブラジル 12,370 13,294 7.5 9,608 9,828 2.3 21,978 23,123 1.7 5.2 0.09
15 アイルランド 3,738 2,976 △ 20.4 18,898 19,093 1.0 22,636 22,069 1.6 △ 2.5 △ 0.04
16 スイス 7,457 5,800 △ 22.2 13,180 14,064 6.7 20,638 19,863 1.5 △ 3.8 △ 0.06
17 シンガポール 10,733 10,194 △ 5.0 8,183 8,579 4.8 18,916 18,773 1.4 △ 0.8 △ 0.01
18 マレーシア 4,281 4,085 △ 4.6 12,672 12,012 △ 5.2 16,952 16,096 1.2 △ 5.0 △ 0.06
19 タイ 4,021 4,528 12.6 10,215 10,560 3.4 14,236 15,087 1.1 6.0 0.06
20 イスラエル 4,497 4,338 △ 3.5 6,912 6,827 △ 1.2 11,409 11,165 0.8 △ 2.1 △ 0.02
世界計 540,220 543,339 0.6 804,505 807,477 0.4 1,344,724 1,350,816 100.0 0.5 0.45

出所:米国際貿易委員会(ITC)からジェトロ作成

米国の輸入額は8,075億ドルと、前年同期比で0.4%増加した。対中輸入額は1,408億ドルで、12.7%減少となった。カナダからの輸入も、乗用車の減少などにより2.3%減少した。一方、米国の輸入が増加した国・地域をみると、メキシコからが乗用車や貨物自動車(HTS8704項)の増加などにより6.1%増、ベトナムからは電話機(HTS8517項)の増加などにより38.4%増、韓国からはコンピュータ部品の増加などにより17.0%増加した。

対中輸出の不振は鉱物性燃料や植物性食料品が要因

米国の対中貿易額をHTSコード上位4桁でみると、対中輸出は、石油、歴青油が前年同期比79.1%減、天然ガス、プロパンガス(HTS2711項)が88.1%減の9,556万ドル、大豆(HTS1201項)が26.4%減、グレインソルガム(HTS1007項)が2018年1~4月の5億1,989万ドルから25万ドルへと100.0%減少するなど、鉱物性燃料や植物性食料品の減少が目立った(表2参照)。石油、歴青油は中国の対米追加関税品目に入っていないが、天然ガスは第3弾の対象品目で10%の追加関税が賦課され、2019年6月1日からは25%に引き上げられている。また、プロパンガスは第2弾の対象品目で25%の追加関税、大豆やグレインソルガムは第1弾で25%の追加関税がそれぞれ賦課されている。

一方、対中輸出が増加した品目は、集積回路(HTS8542項)が前年同期比57.5%増加し、免疫血清・産品(HTS3002項)は3.5倍、医療・獣医用機器(HTS9018項)は17.5%増だった。集積回路と免疫血清・産品は追加関税の制裁対象品目には含まれていないが、医療・獣医用機器は第3弾の対象品目で、5~10%の追加関税が賦課されている。

表2:米国の対中輸出(1~4月)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 HTS番号 品目 2018年 2019年 前年同期比
金額 構成比 金額 構成比
1 8800 民間航空機、エンジン、部品 4,255 10.1 3,997 11.8 △ 6.1
2 8542 集積回路 1,833 4.3 2,887 8.5 57.5
3 8703 自動車 2,903 6.9 2,327 6.9 △ 19.9
4 1201 大豆 2,558 6.0 1,883 5.6 △ 26.4
5 3002 免疫血清・産品 286 0.7 998 2.9 248.7
6 8486 半導体ボール・ウエハー・デバイス 1,152 2.7 995 2.9 △ 13.6
7 9018 医療・獣医用機器 844 2.0 992 2.9 17.5
8 2709 石油、歴青油 2,458 5.8 513 1.5 △ 79.1
9 9027 物理・化学分析用機器 508 1.2 495 1.5 △ 2.6
10 8708 自動車部品 791 1.9 478 1.4 △ 39.5
合計 42,291 100.0 33,891 100.0 △ 19.9

出所:米国際貿易委員会(ITC)からジェトロ作成

対中輸入は電気機器や一般機械の落ち込みが目立つ

対中輸入は電話機(HTS8517項)が前年同期比27.0%減、計算機等部品(HTS8473項)が68.1%減、コンピュータ(HTS8471項)が12.7%減と、電気機器や一般機械の落ち込みが目立った(表3参照)。計算機等部品の多くは第3弾の対象品目になっているが、電話機やコンピュータは第4弾の対象品目に挙がっている。

一方、対中輸入が増加した品目では、テレビ・モニター(HTS8528)が前年同期比21.6%増加し、乗用車(HTS8703)は88.8%増の5億8,112万ドル、その他プラスチック製品(HTS3926)は12.3%増となった。乗用車は第1弾の対象品目で25%の追加関税が賦課されているため、輸入増加は一時的な現象とみられる。他方、テレビ・モニターやその他プラスチック製品の多くは第4弾候補の対象品目に入っている。

G20大阪サミット(6月28~29日)に合わせて、米中首脳会談が7カ月ぶりに実施されるが、同会談が不調に終わると、米国の第4弾発動は不可避となり、米国の対中輸入額のさらなる減少や、中国に電気機器や一般機械部品を提供している日本企業への影響が懸念される。

表3:米国の対中輸入(1~4月)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 HTS番号 品目 2018年 2019年 前年同期比
金額 構成比 金額 構成比
1 8517 電話機 21,539 13.3 15,714 11.2 △ 27.0
2 8471 コンピュータ 14,625 9.1 12,775 9.1 △ 12.7
3 8528 テレビ・モニター 3,311 2.1 4,024 2.9 21.6
4 9401 腰掛け 3,599 2.2 3,261 2.3 △ 9.4
5 8708 自動車部品 3,486 2.2 3,167 2.2 △ 9.1
6 9403 家具・家具の部品 3,791 2.3 3,064 2.2 △ 19.2
7 9503 三輪車、スクーター 2,649 1.6 2,725 1.9 2.9
8 8473 計算機等部品 6,327 3.9 2,016 1.4 △ 68.1
9 9405 照明器具 2,128 1.3 1,891 1.3 △ 11.2
10 3926 その他プラスチック製品 1,538 1.0 1,727 1.2 12.3
合計 161,342 100.0 140,773 100.0 △ 12.7

出所:米国際貿易委員会(ITC)からジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 課長代理
中溝 丘(なかみぞ たかし)
1997年、ジェトロ入構。海外調査部、国際交流部、経済産業省通商政策局(出向)、ジェトロ・ヒューストン事務所、産業技術部、企画部、経済産業省貿易経済協力局(出向)、ジェトロ・ヒューストン事務所長、サービス産業部などを経て、2016年4月より現職。