遼寧省の経済概況と日系企業のビジネス状況(中国)
遼寧省の最新ビジネス情報セミナーを開催(2)

2018年5月31日

ジェトロは2018年5月9日、東京で「遼寧省の最新ビジネス情報セミナー」を開催し、遼寧省の概況やビジネス投資環境などについて紹介した。2回目は、ジェトロ海外調査部中国北アジア課の箱﨑大課長の講演内容。

東北地域におけるビジネスチャンス

遼寧省の面積は日本の約4割で、人口は日本全体の約3分の1ほど、省都の瀋陽市の人口は700万人を超える。2017年の遼寧省の域内総生産(GRP)は東北3省全体の約4割を占め、また全31省・直轄市、自治区の中では第14位となる。古くから重化学工業拠点として栄え、現在も設備関連の製造業、冶金(やきん)、石油化学などが主要な産業といえる。

東北三省各省のGRP成長率は2014年以降、全国平均を下回るまでに減速したが、2016年には遼寧省大連市(前年比6.5%)、吉林省(6.9%)、黒龍江省(6.1%)などで、回復基調に転じた。遼寧省全体としては2016年に2.5%のマイナス成長となったが、2017年はプラス成長に転じた(図)。

図:東北3省の域内総生産(GRP)成長率
東北三省のGRP成長率は、2012年、2013年は中国の全国平均を上回ったが、2014年、2015年は下回った。2016年は吉林省が6.9%増、黒龍江省が6.1%増のプラス成長だったが、遼寧省は2.5%減のマイナス成長だった。2017年は吉林省が5.3%増、黒龍江省が6.4%増、遼寧省も4.2%増となり東北三省でプラス成長となった。
出所:
国家統計局、各省統計年鑑、省政府ウェブサイト

遼寧省の経済減速は第二次産業中心の産業構造、その他製造業やサービス業の牽引力の弱さ、国有企業への依存度の高さ、人口流出・少子高齢化など東北地域の経済構造の問題が指摘できる。このため東北地域は、製造業の高度化、新たな中核産業の育成、国有企業改革、高齢化対策、インフラ投資、消費の拡大などの対策を講じ、経済の立て直しを進めている。

中央政府は2016年8月、「東北地区等旧工業地区の振興推進3カ年継続実施方案」を公布し、東北地域で実施する主要プロジェクト(127件)について制定した。「北東アジア各国との連携強化」「工業ロボット、バイオ医薬、電子商取引など新興産業の育成」「サービス業の発展」「現代農業の発展」「インフラの整備」などの分野は、日系企業にとってビジネスチャンスといえるのではないか。

セミナーに登壇したジェトロ中国北アジア課箱﨑大課長(ジェトロ撮影)

日本は遼寧省と貿易が盛ん

遼寧省の貿易額(2016年)、対内直接投資額(2017年、実行ベース)を相手国・地域別にみると、日本の順位は貿易額では第1位、対内直接投資額では第2位となった。対内直接投資額の第1位は香港だが、ここには他地域からの投資が香港を経由し中国に入るケースや、中国本土からの投資が香港を経由する場合などが多く含まれているとみられ、その香港を除けば実質的には日本が第1位となる(表1)。

表1:遼寧省の対内直接投資相手国・地域(2017年)(単位:100万ドル、実行ベース)
順位 国・地域 金額 構成比(%) 前年比(%)
1 香港 2,250 42.2 70.0
2 日本 290 5.4 16.7
3 英領バージン諸島 200 3.7 112.8
4 シンガポール 170 3.1 34.6
5 ドイツ 130 2.5 650.4
注:
上位5位のため、実行ベースの総額(53億4,000万ドル)と一致しない。
出所:
遼寧省政府へのヒアリング

2017年4月、中国(遼寧)自由貿易試験区が設立し、総面積120平方キロ、大連、瀋陽、営口の3つのエリアで操業を開始した。大連エリアは北東アジア国際航運センターと国際物流センターを整備し、北東アジアに向けた開放、連携を進めている。瀋陽エリアは国際競争力のあるハイエンド製造基地を目指している。営口エリアはサービス業、情報技術、ハイエンド製造業の発展とともに、海運と鉄道の共同輸送のハブも目指している。また、大連エリアは自貿区大連エリア管理弁法が2018年1月に施行となり、瀋陽エリアでは2017年9月、重点発展産業目録が公布され、ハイエンド製造業、金融サービス、ファイナンスリースの3分野が重点に指定された。営口エリアは2017年末に国務院から総合保税区の設置が許可され、2018年6月には竣工(しゅんこう)予定となっている。

また、大連市は2016年、越境EC総合試験区に認定された。越境EC総合試験区としての大連市の特色は、日本・韓国や「一帯一路」沿線国家をターゲット市場とし東北アジアを連結する、グローバルな物流体制の構築を目指している。また「2直2輸出」モデル、つまり海運と店舗における直接購入モデルの推進(2直)と、ソフトウエアアウトソーシング・設備製造業のB2B輸出(2輸出)を推進している。そのほか、鄭州総合試験区との協力による共同発展も推進している。

日系企業の進出は大連市に集中

遼寧省に進出している日系企業数は2016年10月1日時点で1,903社。うち瀋陽市には212社、大連市には1,667社が進出しており、遼寧省への日系企業の進出は大連市に集中している。大連市は遼寧省の中でも日本との結びつきが特に強く、東京や大阪をはじめ、日本の7都市に定期便が就航し、7つの自治体が事務所を設置しているほか、日本の地方銀行7行が拠点を設置している。また、大連市は日本語人材の層の厚みも特徴の一つだ。2017年の日本語能力試験の最高グレードN1の受験者数は広州、上海に次いで全国で第3位の6,175人だった。これを人口100万人当たりの受験者数でみると、全国第一位の都市となる。

ジェトロ「2017年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査―中国編―」によると、在中国進出日系企業が抱える経営上の問題点は「従業員の賃金上昇」が最も多く、中国全体で75.3%、遼寧省は72.1%だった。大連市の平均賃金(月額)の推移をみると、2008年(2,859元)から2016年(6,147元)にかけ、2倍以上になった。しかし、中国の賃金水準には地域差がある。大連市の最低賃金は上昇しているとはいえ、上海市の3分の2程度の水準にとどまっている(表2)。

表2:大連市と上海市の最低賃金(月額)の推移(単位:元、%)(―は値なし)
大連 上海
金額 伸び率 金額 伸び率
2009 未調整 未調整
2010 900 28.6 1,120 16.7
2011 1,100 22.2 1,280 14.3
2012 未調整 1,450 13.3
2013 1,300 18.2 1,620 11.7
2014 未調整 1,820 12.3
2015 未調整 2,020 11
2016 1,530 17.7 2,190 8.4
2017 未調整 2,300 5
2018 1,620 5.9 2,420 5.2
出所:
遼寧省人力資源社会保障庁

遼寧省の日系企業の特徴として、沿海地域の中でも比較的輸出比率が高いことが挙げられ、売り上げの42%が輸出だった。輸出先としては日本の比率が高く7割を超える。進出日系企業の今後の事業展開については、「拡大」「現状維持」「縮小」「移転撤退」の4つから選択式で質問をしたところ、「拡大」という回答の比率は、中国全体で48.3%、遼寧省は47.1%とほぼ全国平均並みだった。

また遼寧省の特徴として、高齢化比率(65歳以上)が13.2%と全国平均10.8%と比較しても高い地域であることが指摘できる。日系介護サービス関連企業も進出し事業を展開している。大連市では、政府が設立し企業が運営する「公設民営」形式で、社区デイサービス施設に参入している日本企業がある。特徴としては、介護・リハビリサービス、食事や入浴のサポートが必要な高齢者を主な対象としているところで、これは自立者がマージャンやダンスなどを楽しむ中国の既存施設との大きな違いといえる。

最後に

日本の対中投資は2013年まで、円高や震災に伴うサプライチェーンの再構築もあり急拡大したが、その後は新常態に入った中国のビジネス環境を見極めようとする企業が多く、大きく落ち込んだ。対中投資は体力のある大企業の投資か中国での事業経験豊富な企業の増資が中心という状況になっている。もはや他社が中国にいくからうちも、という決定ができる状況ではない。

対中投資は停滞しているが、中国で日系企業に話を聞いてみると、これだけの大きな市場なので売り上げは伸ばしていきたい、という声はよく耳にする。ジェトロの調査をみても、事業拡大意欲の改善が始まっている。現地勢の声に耳を傾け、現地を視察し、リアルな中国を確認していただきたい。中国の変化は非常に速い。的確な経営判断をするためには現地に足を運ぶこと、これに尽きると考える。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
清水 絵里子(しみず えりこ)
2016年4月、ジェトロ入構。海外調査部海外調査計画課を経て、2017年6月より現職。