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文政権発足1年、雇用問題は課題山積(韓国)
公共部門の拡大を軸に改善目指す

2018年5月30日

発足から1年を迎えた文在寅政権に対する国民の支持率は高い。しかし、雇用問題に対しては国民は厳しい目を向けている。政府は公共部門の雇用拡大、最低賃金の大幅引き上げ、週当たり労働時間の上限の引き下げを軸に、雇用政策を進めている。いずれも効果が期待される半面で副作用が懸念されている。雇用問題は根の深い問題であり、早期の解決は容易でないだろう。

高い支持率も、雇用政策は低い評価

文在寅政権は2018年5月10日に発足1年を迎えた。国民の文大統領支持率は非常に高く、公共放送KBSが5月上旬に行った世論調査では83%に達した。ちなみに、世論調査会社の韓国ギャラップによる5月第1週の大統領支持率も83%で、民主化以降の政権発足1年の支持率として、過去最高を大幅に更新した。

特に北朝鮮政策・外交面で国民の評価が高い。KBSの世論調査によると、最も実績を上げた政策として、回答者の64.5%が「南北関係・外交政策」を挙げ、2位の「積弊(政経癒着などの今まで積み重なってきた弊害)の清算・政治改革」(12.8%)を大きく引き離した。半面、評価が低かったのが雇用政策だ。回答者の55.3%は「この1年間の雇用政策は成果がなかった」とした。さらに、今後、重点的に取り組むべき分野として、「雇用創出」が「過去の弊害の清算・政治改革」などを押さえ、最も多く挙げられた。

実際、雇用統計は芳しくない。2017年の失業者数は102万人で、統計が現在のスタイルになった2000年以降、最も多かった(図参照)。特に、若年層の失業が深刻だ。同年の15~29歳の失業者数は42万6,000人と、失業者全体の4割強を占め、15~29歳の失業率は9.8%と、2016年に続き、2000年以降、最悪を記録した。統計に表れない事実上の失業者の存在を加味すると、失業問題はさらに深刻度を増す。このような状況は2018年に入ってからも改善は見られない。国民が雇用政策の成果が感じられないとするのもやむを得ないだろう。

図:韓国の失業者数の推移
失業者数は2000年以降、70万人台から90万人台で推移してきました。ところが、2013年に80万8,000人を記録した後は毎年、増加が続いており、2016年に100万9,000人と、100万台の大台を突破、2017年にはさらに102万3,000人に増加しました。
出所:
統計庁「経済活動人口調査」

公共部門の雇用拡大を図る

もちろん、文大統領は雇用問題に対する国民の期待を理解しており、雇用政策に重点的に取り組んできた。実際、大統領選挙時の「10大選挙公約」のトップに「雇用の創出」を挙げており、大統領就任後には早速、「雇用委員会」を立ち上げている。

文政権の雇用政策の特徴はどのようなものであろうか。文政権は大きく3つの狙いを雇用政策に込めている。1つ目は、雇用増→所得増→消費増のプロセスにより、所得主導の経済成長を実現する狙いだ。2つ目は、雇用増により所得不平等の改善を図る狙いだ。3つ目は、雇用増と雇用の安定により、国民の生活の質を高める狙いだ。

次いで、文政権が行っている具体的な雇用政策として、公共部門の雇用拡大、最低賃金の引き上げ、週当たり労働時間の上限の引き下げの3つが挙げられる。これら3政策の概要などは以下のとおりだ。

まず、公共部門の雇用拡大は、国家公務員・地方公務員の増員、保育・介護などの社会サービス部門の雇用増、非正規職の正規職転換により、2022年までの大統領任期内に公共部門で81万人分の雇用を創出しようとするものだ。

なぜ公共部門なのか。「雇用委員会」では「雇用創出の主役は民間部門だが、若年層の4人に1人が事実上、失業状態という危機的状況の中で、民間の雇用のみに依存していては現在の雇用危機を解決できない」「民間部門の雇用創出能力が十分でない時は、公共部門が雇用創出の呼び水の役割をする」と説明している。さらに、韓国の就業者全体に占める公共部門の割合がOECD諸国平均に比べ低く、公共部門の雇用拡大の余地が大きい点や、公共部門の雇用拡大が国民サービスの向上につながる点にも言及している。公共部門の雇用拡大を前面に掲げている点は、李明博・朴槿恵と続いた保守政権には見られなかった特徴だ。

公共部門の雇用拡大政策は成果が出ているのだろうか。今までのところ、政策はおおむね順調に進められ、それなりに成果を上げているようだ。韓国メディアによると、2018年3月末までに公務員が3万5000人増加、社会サービス部門が1万8,000人増加した。さらに、公共部門の非正規職10万7,000人が正規職に転換した。その結果、81万人の目標に対して、既に16万人の雇用創出を達成している。また、民間大企業の中には、非正規職を正規職への転換を図る動きが少しずつ広がっている。しかし、他方では、政府の財政負担が増加し、将来の財政悪化につながるのではといった懸念や、民間部門の本格的な雇用増の呼び水になり得るのか不透明といった批判もある。

最低賃金の大幅引き上げが続く可能性も

次いで、2018年1月から最低賃金が前年比16.4%増の時給7,530ウォン(約753円、1ウォン=約0.1円)に引き上げられた。文政権は2020年に1万ウォンにまで引き上げることを目標としているため、2019年、2020年も2桁の上昇となる可能性がある。

政府によると、2018年の最低賃金引き上げの恩恵を受けたのは、賃金労働者全体の4分の1弱に当たる463万人という。韓国の物価が日本とさほど変わりないことを考えると、最低賃金レベルで働く労働者は生活の余裕が必ずしも十分でないことは容易に想像できる。統計上はまだ捕捉できないものの、最低賃金引き上げにより、低所得層の所得が増加し、消費も拡大しているとの報道もみられる。

半面、一部の中小・零細企業が最低賃金の引き上げによる人件費負担増に耐えきれず、従業員を削減することが懸念されてきた。雇用統計をみると、文政権発足後の2017年下半期から就業者数の伸び悩みが顕著になり、2018年第1四半期は18万人増と低い水準にとどまった(表)。特に、最低賃金レベルでの従業員が多い卸売・小売業と宿泊飲食店業では、2017年下半期から前年同期比減に陥り、2018年第1四半期は10万人近くも減少した。これは最低賃金引き上げの影響を受けた結果ではないかとの観測も一部で出ている。

表:就業者数の前年同期比増減数の推移(四半期別)

2014年~2015年(単位:1,000人)(△はマイナス値)
項目 2014年 2015年
卸売・小売業、宿泊飲食店業 319 234 296 246 139 114 33 △ 49
その他の産業 479 319 298 202 194 135 206 349
合計 798 553 594 448 333 249 239 300
2016年~2018年(単位:1,000人)(△はマイナス値)
項目 2016年 2017年 2018年
卸売・小売業、宿泊飲食店業 △ 68 27 96 79 126 50 △ 11 △ 12 △ 98
その他の産業 272 184 158 177 227 317 290 277 281
合計 204 211 254 256 353 367 279 265 183
出所:
統計庁「経済活動人口調査」

7月から労働時間の上限が引き下げ

さらに、今後、1週当たりの労働時間の上限が引き下げられる。政府ではそれにより、ワーク・ライフ・バランスの向上、労働者の健康増進、労働災害の削減、ワークシェアリングによる雇用増を図る考えだ。ちなみに、韓国の労働時間は減少してきたとはいえ、依然として長い。OECDによると、2016年の韓国の1人当たり年間実労働時間は2,069時間で、統計のあるOECD加盟32カ国中、メキシコに次いで2番目に長い。

具体的には、日本の労働基準法に相当する「勤労基準法」が改正され、労働時間の上限が週68時間から52時間に短縮される。改正法は、常時雇用労働者数が300人以上の事業所は2018年7月1日から適用され、50~299人の事業所は2020年1月1日から、5~49人の事業所は2021年7月1日からそれぞれ適用される。

長時間労働を是正すべきというのは韓国では総意だろう。実際、韓国メディアによると、改正法によるワーク・ライフ・バランス向上に期待する就業者も多いようだ。ただし、副作用も予想されている。労働者側は残業代削減による収入減を、企業側は残業時間の制限で納期対応が難しくなる、従業員増でカバーすると人件費負担が増加する、といった点をそれぞれ危惧している。さらに、特に中小・零細企業の場合、残業減で賃金が減少するため、求人活動でさらに苦戦することを危惧している。ちなみに、経済紙で発行部数トップの「毎日経済新聞」(2018年5月2日電子版)は、「半導体や家電製品のコア部品開発は数カ月間集中して研究開発が必要なため、週52時間勤務順守は困難」「(改正法施行に対応すべく、エアコン生産開始時期を前倒ししたため)在庫管理費増加が不可避だが、夏季にエアコンの供給不足になるのが火を見るより明らかな状況で、どうしようもない選択だった」といった電機業界の声を伝えている。

雇用は産業の構造的な問題

以上みてきたように、文政権の雇用政策についてはプラス面とマイナス面があるが、いずれにせよ、政権発足1年間で雇用政策の成果を評価するのは時期尚早だろう。残りの4年間の任期でどれだけ成果を出せるのか、見守っていく必要があろう。

雇用政策は朴槿恵前政権でも重要政策課題だったが、これといった成果を上げられなかった。その大きな原因の1つは、雇用問題が構造的であり、いかなる手段を用いても早急な問題解決は容易でないことにある。韓国の産業構造は製造業比率の高さが特徴だが、製造業は自動化の進展などで雇用創出力が低下していると考えられている。その意味で、雇用創出力のあるサービス産業の育成が重要だが、一朝一夕に実現できるわけではない。また、雇用ミスマッチの問題もある。韓国では全体としては就職難が社会問題だが、中小・零細企業に限れば求人難の傾向にある。しかし、賃金水準一つとっても大企業と中小・零細企業との格差が大きいため、大企業で職を得られないといって進んで中小・零細企業で就業する人は必ずしも多くない。企業間格差もまた構造的であり、容易に解決できるものではない。


変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2018年7月3日)
第15段落
(誤)50~299人の事業所は2020年7月1日から、5~49人の事業所は2021年7月1日からそれぞれ適用される。
(正)50~299人の事業所は2020年1月1日から、5~49人の事業所は2021年7月1日からそれぞれ適用される。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。

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